本記事は、YouTube動画『【ドル急落】2022年以来の安値を付けたドル!キャリートレード、期待インフレ、為替市場で起こっていること!』の内容を基に構成しています。
ドル円では見えにくい「本当のドル安」
足元の為替市場ではドル円が大きく下落し、円高が進んでいますが、その背景では「円が買われている」という側面だけでなく、「ドルそのものが大きく売られている」という動きが同時に起きています。
ドル円だけを見ていると、そこまで強烈なドル安という印象は受けにくいかもしれません。しかし、ドルの実力を示す指標であるドルインデックスを見ると、事態はかなり深刻です。
ドルインデックスは2022年以来となる安値水準まで下落しており、為替市場全体でドル離れが進んでいる状況がはっきりと確認できます。本記事では、なぜここまでドルが売られているのか、その背景と今後の注目点について、動画の内容をもとに整理していきます。
ドルインデックスが示す異変
ドルインデックスが約4年ぶりの低水準へ
ドルインデックスは、ドルの主要通貨に対する総合的な強さを示す指数です。
2026年1月27日、このドルインデックスは96を下回り、一時95.55まで下落しました。この水準は2022年以来、およそ4年ぶりの低水準となります。
2024年末、トランプ政権発足直前の時点では、ドルインデックスは108前後で推移していました。そこから2025年4月にかけて98程度まで下落し、その後はレンジ相場が続いていましたが、1月20日以降、そのレンジを明確に下抜ける形で下落が加速しました。
この動きは単なるテクニカルな調整ではなく、明確なファンダメンタル要因が重なった結果と考えられます。
ドル安を引き起こした複数の要因
グリーンランド問題をきっかけとした米国資産離れ
ドル安の最初のきっかけとして挙げられるのが、グリーンランドを巡るトランプ大統領の発言です。
1月19日、トランプ大統領はグリーンランド購入に反対する欧州8カ国に対して関税を課す可能性に言及しました。
この発言を受け、市場では米国の政治リスクや外交姿勢に対する警戒感が高まり、「米国資産からの資金流出が進むのではないか」という見方が強まりました。その結果、ドルが売られる展開となります。
その後、トランプ大統領は関税措置を見送る姿勢を示しましたが、一度高まったドル不信は簡単には収まらず、ドル安の流れは継続しました。
日米協調レートチェックというサプライズ
続いて市場を大きく動かしたのが、1月23日に行われた日米金融当局による協調レートチェックです。
日本単独での為替介入はある程度想定されていましたが、アメリカと協調する形で実施されたことは、市場にとって大きなサプライズでした。
この協調行動をきっかけに円は急騰し、同時にドルはさらに下落する展開となりました。
日本で進行していた「トリプル安」への対応
アメリカがなぜ日本と協調する形でレートチェックを行ったのか、その背景には日本で進行していた「トリプル安」があります。
1月19日、高市首相が解散の意思を表明した後、日本では株式、債券、為替が同時に売られるトリプル安の状況に陥っていました。
この日本市場の混乱は欧米にも波及し、アメリカでも国債利回りが上昇する展開となりました。世界中で財政問題を抱える国が増える中、日本の国債市場が不安定化すれば、アメリカにとっても無視できない影響があります。
ベッセント財務長官が日本の金利上昇を警戒し、1月20日に片山財務大臣と協議したことも明らかになっています。アメリカは日本の国債市場に直接介入できないため、為替市場を安定させるという間接的な手段を選択したと考えられます。
ドル安と期待インフレ率の関係
ドル安は輸出に有利だがインフレ要因にもなる
ドル安が進むと、アメリカの輸出競争力は高まります。一方で、輸入物価が上昇し、インフレ圧力が強まるというデメリットもあります。
現在、アメリカ政府はドル安について「現時点では問題ない」という姿勢を示していますが、無制限に容認できるわけではありません。その鍵を握るのが期待インフレ率です。
期待インフレ率の仕組みと現状
期待インフレ率は、名目国債利回りから物価連動国債の利回りを差し引くことで求めることができます。
物価連動国債はインフレを織り込んだ設計になっているため、その利回りは実質金利を表しています。
12月末時点で、アメリカの10年期待インフレ率は約2.23%でしたが、足元では2.35%程度まで上昇し、約0.12%の上昇となっています。この上昇が、最近の長期金利上昇の一因となっています。
現時点では政権が許容できる範囲と考えられますが、ドル安がさらに進行すれば、期待インフレ率が一段と上昇し、政策スタンスの変更を迫られる可能性もあります。
インフレ率は下がっても「物価高」の実感は消えない
12月の消費者物価指数は前年同月比で2.6%と、2022年のピークである9.1%からは大きく低下しています。ただし、物価の上昇率が鈍化しただけで、物価水準そのものは上がり続けています。
国民の「物価が高い」という実感は依然として強く、この点は政権支持率にも直結する重要な問題です。そのため、緩やかに上昇する期待インフレ率については、今後も慎重に注視されることになります。
円キャリートレードは本当に危険な状況なのか
円高や日本の金利上昇を受けて、円キャリートレードの巻き戻しを懸念する声もあります。
円キャリートレードとは、金利の低い円で資金を借り、金利の高い海外資産で運用する戦略です。為替の急変や金利差の縮小が起きると成り立たなくなります。
シカゴの先物市場が公表している通貨先物ポジションを見ると、年末時点で投機筋の円ポジションは8815枚の買い越しに過ぎず、大きく偏った状態ではありませんでした。
1月20日時点では円は4万4829枚の売り越しとなっていますが、これも過去と比べれば決して大きな水準ではありません。2024年夏には18万枚を超える売り越しがあったことを考えると、現状は極端なキャリートレード環境とは言えない状況です。
日本の金利上昇と日米金利差の縮小により、そもそもキャリートレードが過熱しにくい環境が続いている点も重要です。現時点で危険水域にあるとは言えませんが、引き続き注視が必要です。
まとめ:ドル安の本質と今後の注目点
今回のドル急落は、単なる円高ではなく、ドルそのものに対する信認低下が背景にあります。
グリーンランド問題を発端とした米国資産離れ、日米協調レートチェック、日本のトリプル安への対応といった複数の要因が重なり、ドルインデックスは2022年以来の安値を更新しました。
現時点では、ドル安はアメリカ政府にとって許容範囲とされていますが、期待インフレ率の上昇が続けば状況は変わる可能性があります。また、円キャリートレードについても、現状は過度な懸念は不要と考えられるものの、今後の金利動向次第では注意が必要です。
為替市場では、表面的なドル円の動きだけでなく、ドルインデックスや金利、期待インフレ率といった複数の視点から全体像を捉えることが、これまで以上に重要になっています。


コメント