本記事は、YouTube動画「【ハイパーインフレ】上昇率累計1000万%に達したベネズエラ経済でステーブルコインの取引が急拡大している理由!」の内容を基に構成しています。
なぜ今、ベネズエラと暗号資産が注目されるのか
南米ベネズエラと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「ハイパーインフレ」という言葉ではないでしょうか。2010年代以降、累積のインフレ率が1000万%を超えたとされ、国の通貨が事実上機能しなくなった国家として世界的に知られています。
そのベネズエラで近年、ビットコインなどの暗号資産、特に米ドルに連動するステーブルコインの取引が急速に拡大していると報じられています。これは単なる投機ブームではなく、通貨崩壊と国際制裁という現実的な問題への「生活防衛手段」として広がっている動きです。
本記事では、ベネズエラ経済がどのようにして現在の状況に至ったのかを整理した上で、なぜステーブルコインが実需として受け入れられているのかを、動画内容をもとに丁寧に解説していきます。
背景説明:かつては南米有数の豊かな国だったベネズエラ
地理と基礎情報
ベネズエラは南米大陸の北側に位置する国で、人口は約2800万人、国土面積は日本の2倍以上あります。かつてはスペインの植民地であり、現在も公用語はスペイン語です。
石油大国としての繁栄
ベネズエラの経済構造を語る上で欠かせないのが石油です。1950年代には世界第3位の産油国となり、1970年代にかけて経済は大きく成長しました。一時期は南米で最も1人当たりGDPが高い国となり、「資源大国の成功例」として見られていた時代もあります。
現在でも原油の埋蔵量は世界1位とされています。
ただし、その多くは粘度が高く、採掘コストが非常に高い原油であることが問題です。さらに近年は経済危機によって技術者が国外へ流出し、資源があっても活用できない「宝の持ち腐れ」状態に陥っています。
動画内容の詳細解説:経済崩壊の引き金となった社会主義政策
チャベス政権の誕生と政策転換
ベネズエラ経済が大きく狂い始めた転換点は、1998年にウゴ・チャベス氏が大統領に就任したことでした。それまでの経済成長の裏で、富が一部に集中し、深刻な格差社会が形成されていたことが背景にあります。
チャベス政権は「21世紀の社会主義」を掲げ、以下のような政策を次々と実行しました。
・石油関連企業の国有化
・大地主の土地を農民に配分する農地改革
・医療の無償化
・メディア弾圧と言論統制
・反米姿勢を強める外交方針
これらの政策は一見すると弱者救済を目的としたものでしたが、市場原理を無視した統制経済へと急速に傾いていきました。
マドゥロ政権と経済の悪化
2013年にチャベス氏が死去した後、後継者としてニコラス・マドゥロ氏が大統領に就任します。マドゥロ政権も基本的にはチャベス路線を継承し、社会主義的政策を続けました。
その結果、生産調整が市場で機能しなくなり、採算を度外視した経済運営が常態化します。これにより、インフレが起こりやすい経済体質が固定化されていきました。
ハイパーインフレの現実:数字で見る通貨崩壊
原油価格下落とインフレ爆発
2015年、原油価格が大きく下落したことで、原油収入に依存していたベネズエラ経済は一気に行き詰まります。この年にはインフレ率が100%を超え、経済緊急事態が宣言されました。
その後も状況は改善せず、インフレ率はさらに加速します。
・2018年のインフレ率:約170万%
・2020年のインフレ率:約260万%
2018年には通貨単位を1000分の1に切り下げるデノミネーションも実施されましたが、焼け石に水でした。
米国制裁の影響
この経済崩壊には、米国との関係悪化も大きく影響しています。アメリカはベネズエラに対して厳しい経済制裁を課しており、国際金融システムへのアクセスが制限されました。
制裁と統制経済が重なった結果、ベネズエラの通貨は「価値を保存する機能」を完全に失っていきます。
暗号資産が生活インフラになった理由
自国通貨を持てない社会
ベネズエラでは、自国通貨で貯金をすることが事実上不可能な状況が続いています。給料をもらっても、すぐに価値が下がるため、受け取った瞬間に別の資産へ変える必要があります。
こうした環境の中で、2010年代後半からビットコインなどの暗号資産の利用が急増しました。国際送金が難しく、外貨を保有しづらい環境では、暗号資産が代替手段として機能したのです。
国営暗号資産「ペトロ」の失敗
ベネズエラ政府もこの流れに対応し、2017年に国営暗号資産「ペトロ」を発行しました。これは石油に裏付けられた暗号通貨とされていましたが、実際には多くの問題を抱えていました。
原油で裏付けられていると言っても、実際に原油で決済することは物理的に困難であり、信頼性に欠けていたのです。政府は公共料金の支払いをペトロで義務付けるなど普及を試みましたが、国民の支持を得られず、価格も下落し、最終的には廃止されました。
ステーブルコインが急拡大する決定的理由
テザーとは何か
現在、ベネズエラで特に利用が拡大しているのが、米ドルに連動するステーブルコイン「テザー」です。テザーは1テザー=1ドルとなるよう設計されており、発行元は米国短期国債などの資産を保有することで価値の安定を図っています。
生活・企業・国家レベルでの利用
ベネズエラでは、テザーを含む暗号資産が以下のような形で使われています。
・デジタルウォレットによる日常決済
・給与の暗号資産払い
・民間取引での決済手段
・制裁回避のための原油取引
現地調査会社エコアナリティカによると、2025年時点で民間取引の約53%が外貨または暗号資産によって行われていると推計されています。これは、暗号資産がもはや補助的な存在ではなく、実質的な通貨として機能していることを意味します。
追加解説:エルサルバドルとの決定的な違い
中南米における暗号資産の事例として、2021年にエルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用したこともよく知られています。しかし、エルサルバドルはその後、事実上この方針を転換しています。
エルサルバドルでは国民の約70%が銀行口座を持っていないという金融インフラの問題があり、ビットコインを通じて金融アクセスを拡大しようとしました。ただし、自国通貨がベネズエラほど崩壊していたわけではなく、西側の金融支援を受けられる立場でもありました。
IMFが否定的見解を示したこともあり、あえて西側金融システムから距離を取る合理性が乏しかったと考えられます。この点が、制裁下で選択肢が極端に限られているベネズエラとの決定的な違いです。
まとめ:制裁と通貨崩壊が生んだ「実需としての暗号資産」
ベネズエラでステーブルコインの取引が急拡大している背景には、単なる技術革新ではなく、国家経済の崩壊と国際制裁という現実があります。
自国通貨が機能せず、国際金融システムにもアクセスできない状況では、人々は生き残るための手段を選ばざるを得ません。その結果として、米ドル連動型のステーブルコインが「生活インフラ」として定着しつつあります。
今後、アメリカが圧力を強めれば強めるほど、こうした動きはさらに加速する可能性があります。ベネズエラの事例は、暗号資産が投資対象にとどまらず、極限状態の経済において実用通貨となり得ることを示す、極めて示唆に富んだケースだと言えるでしょう。


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