※この記事は、YouTube動画「【米国債】ムーディーズがAa1に格下げ。”世界で一番安全な資産”の行方(LIVE形式)」を基に執筆しています。
結論:米国債は“完全に最上級”ではなくなったが、今すぐ危機というわけではない
2025年5月16日、世界3大格付け会社の1つムーディーズ(Moody’s)が、米国債の格付けを最高評価の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げました。これにより、米国債はすべての格付け会社において最上級格付けを失ったことになります。
市場はこの決定をある程度織り込んでおり、短期的には大きな混乱は見られませんが、中長期的なアメリカの財政と金利の持続性には深刻な懸念が残ります。
第1章:格下げの背景と格付け機関の判断
米国債格付けの推移
格付け会社 | 現在の格付け | 最上級格下げの時期 |
---|---|---|
ムーディーズ | Aa1(安定的) | 2025年5月 |
S&P | AA+(2011年) | オバマ政権時代(債務上限問題) |
フィッチ | AA+(2023年) | 債務と歳出拡大を理由に格下げ |
ムーディーズは安定的な見通しを維持していますが、以下のような理由で格下げを決定しました:
- 財政赤字の拡大:2024年は対GDP比で6.3%、2035年には8.5%へ拡大と予測。
- 利払い費の急増:2021年は歳入の9%だった利払いが、2035年には30%に達する見通し。
- 構造的な財政悪化:支出削減の見込みがなく、赤字が恒常化。
このような状況が続けば、利払いだけで国家予算の3割が消えるという“雪だるま式の財政悪化”が懸念されています。
第2章:今回の格下げが市場に与えた影響
ムーディーズの格下げ発表後、市場の反応は以下の通りでした:
- 10年債利回り:4.44% → 4.49%(小幅な上昇)
- CDS(クレジット・デフォルト・スワップ):36 → 46bpsへ上昇(リスクプレミアム上昇)
- NY金価格:むしろ下落(-1.22%)
つまり、市場は“織り込み済み”の反応に留まり、金融ショックには至っていないということです。
これはムーディーズが2023年11月に見通しを「ネガティブ」に引き下げていたことが大きく、市場は十分に心構えができていたと考えられます。
第3章:米国の中長期的な財政リスクとインフレ懸念
財政赤字・利払い負担の構造的拡大
- 向こう10年で4兆ドル規模の減税が予定されており、財政赤字はさらに悪化。
- 金利の上昇で平均利子率も3.4%から将来は4%近くへ上昇。
- 借り換えや新規発行で10兆ドルの国債供給が必要に。
これらにより、利払いの負担増 → 更なる国債発行 → 金利上昇という“負のスパイラル”が進行中です。
インフレ率・タームプレミアムの上昇
- 市場の期待インフレ率も上昇中。
- 景気後退とインフレのスタグフレーション懸念。
- 長期国債の追加利回り(タームプレミアム)も久々にプラス圏に。
第4章:米ドル離れは本当に起きているのか?
米国債の最大の買い手である海外勢の動向に関しても、事実に基づく検証が行われました。
- 2025年3月の海外保有額:過去最高の9兆500億ドル(前年比12%増)
- 米ドル離れは起きていない
- 中国は国債の一部を短期債(トレジャリービル)にデュレーションを短縮して入れ替えただけ
- 最新の保有ランキング(2025年3月)では日本が1位、イギリスが2位、中国が3位
つまり、世界は今もなお米ドルと米国債を選び続けているというのが現状です。
第5章:今後の投資戦略と分散のすすめ
現時点では市場の混乱はないとはいえ、以下のような中長期的なリスク対策が推奨されます。
1. 米ドル・米国債の比率調整
- 投資ポートフォリオに占める米国資産比率が高すぎる人は注意。
- ユーロ、日本円、金などの通貨分散が有効。
2. 無国籍資産への分散
- 金(ゴールド)
- ビットコイン
- インフレに強い現物資産(不動産、アート、高級品)
3. 長期的視点を持ったインフレ対応
- フィアットマネー(法定通貨)の価値低下は長期的に避けられない。
- 「インフレ耐性資産」を保有することで実質的な購買力を維持。
総まとめ:米国債格下げは“終わりの始まり”なのか?
現時点では表面的な市場の動揺は見られませんが、「世界で一番安全な資産」という米国債の看板に“ヒビ”が入ったのは事実です。
将来的にこの2025年5月16日が「転換点」として振り返られる可能性もあります。
- 短期的には市場は織り込み済みで安定
- 中長期的にはアメリカの財政リスクが深刻化
- 金・ビットコイン・不動産などのインフレ対応資産への分散が有効
世界的な通貨システムの再編と“法定通貨の限界”を見据え、冷静な資産防衛を心がけましょう。
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