2025年4月、日本の「農林中金」が米国債を大量に売却したという報道が大きな波紋を呼んでいます。そしてその結果、アメリカが関税の発動を一部猶予したのは日本のおかげなのでは?という見方がSNSや一部メディアで浮上してきました。
この記事では、その真相や背景を丁寧に解説していきます。噂や憶測が飛び交う中、「本当にあったこと」「怪しい話」「その意味」を1つずつ整理していきましょう。
結論:関税猶予は農林中金の米国債売却と“無関係”の可能性が高い
まず最初に結論を言うと、
- 農林中金が米国債を大量に売ったのは事実
- その理由は運用上の損失や規制回避が原因とされている
- しかしアメリカが関税を猶予したのは“農林中金の動きが理由”ではない可能性が高い
ということです。
この件はアメリカの「Foxニュース」などでも報じられており、「日本が売ったからアメリカが驚いて関税を猶予した」というような報道もありました。しかし、冷静に因果関係を見ていくと、必ずしもそうとは言えません。
農林中金とは?そして何が起きたのか?
農林中金とは?
農林中金(農林中央金庫)は、日本の農協や漁協などの金融部門の中心的な存在で、実質的には「農業のメガバンク」とも言える機関です。預金や運用資産は60兆円以上と非常に大きな規模を誇っています。
何が起きたのか?
農林中金がアメリカの国債(米国債)を大量に売却したという情報がSNSや報道を通じて広がりました。
そしてこの売却が、米国債の利回りや株価にも影響し、アメリカの金融市場にインパクトを与えたという分析が出ています。
なぜ米国債を売ったのか?3つの可能性
① 含み損とバーゼル規制の回避
農林中金は、利回りが低い時期(例:1〜2%)に米国債を買い込んでいました。しかし、FRBの利上げにより、現在の新発債の利回りは4〜5%以上となり、保有中の低利回り債券の価値が急落。
評価額が下がったことにより、国際的な銀行健全性ルールである「バーゼル規制」の自己資本比率に悪影響が出る恐れがあり、損失確定(=損切り)してでも売却を余儀なくされた、という説です。
② ハイレバレッジ取引による強制決済
SNS上では「60倍のレバレッジで米国債を運用していた」という噂も。これはさすがに極端な話かもしれませんが、何らかのマージンコールやリスク管理の都合で強制的にポジションを解消させられた可能性も取りざたされています。
③ 円高と為替リスクの影響
為替ヘッジをかけずに米国債を買っていたとすれば、2024年末からの**円高(例:ドル円160円→145円)**により、為替差損も膨らんだ可能性があります。これも売却を決断する大きな要因となったと考えられます。
そもそも「バーゼル規制」って何?
バーゼル規制とは、国際的な金融機関が破綻しないようにするための自己資本比率の基準を定めたルールです。特に、リーマンショック後に強化され、
- 銀行は「保有資産の価格」が大きく下がると、自己資本比率が低下
- それが基準以下になると、取引や業務に制限がかかる
という仕組みになっています。
つまり、米国債の評価額が急落すると、農林中金はその対応に迫られたというわけです。
関税猶予と日本の関連は本当にあったのか?
トランプ政権(再登場中)が、中国を除く他国への関税を90日間猶予したというニュースが出ました。
その理由について、
- 「日本が米国債を売ったからアメリカがビビった」
- 「アメリカが慌てて関税発動を見送った」
という説が流れています。
しかし、冷静に考えると次のような疑問が出てきます。
- 中国も大量の米国債を保有しているのに、なぜ中国は猶予の対象外?
- 日本が売ったことが問題なら、逆に中国を猶予対象にするはずでは?
- 農林中金の売却は、あくまで個別金融機関の運用失敗では?
つまり、「日本が売ったから関税を止めた」という因果関係はかなり薄いと考えるのが自然です。
運用失敗は今回が初めてではない
実は、農林中金は2023年にも約1兆4000億円の損切りを行ったばかりです。理由は当時も同じで、「低利回りの債券を高利回りに乗り換えるため」と説明されていました。
ですが、この時も為替や金利の読み違いが背景にあったとされ、今回も同じパターンでの損失拡大が繰り返されているようです。
政治的な陰謀説も…信憑性は?
SNSや一部メディアでは、「農林中金の売却は政府(石破政権)の指示だ」という陰謀説も出ています。
しかし、農林中金は自民党ともつながりの強い「農政族」の強力な団体で、政府が命令できるような立場ではありません。むしろ、政治にも大きな影響力を持つ独立した存在です。
まとめ:農林中金の米国債売却は日本経済の問題であり、関税猶予とは無関係
今回の一件をまとめると以下の通りです。
- 農林中金が米国債を大量売却したのは事実
- 売却理由は、含み損拡大・バーゼル規制・円高など複合的要因
- トランプ政権の関税猶予とは直接関係していない可能性が高い
- 運用失敗は今回が初めてではなく、過去にも1兆円超の損切りあり
- 政治的な指令説は信憑性が薄い
補足:個人投資家にとっての教訓
今回の件から学べることは、
- 為替リスクを軽視すると痛い目に遭う
- 長期債券は金利変動に非常に弱い
- レバレッジ取引には細心の注意が必要
という3点です。たとえ大手機関であっても、相場の流れを見誤れば数千億円規模の損失が発生するという事実は、私たち個人投資家にとっても大きな教訓となります。
以上、農林中金の米国債売却と関税猶予に関する真相を詳しく解説しました。今回のニュースは表面的には“政治的駆け引き”のように見えますが、実態は金融リスク管理の問題である可能性が高いようです。
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