本記事では、現在進行中のインドと米国の関税戦争が、インド経済と株式市場にどのような短期・長期の影響を与えるのかを整理します。特に製薬(Pharma)やIT産業など主要輸出産業への影響と、今後の投資判断のヒントを解説します。
目次
1. 貿易戦争は「相互破壊」
関税戦争はどちらの国にも利益をもたらしません。しかし、米国の経済規模はインドよりはるかに大きく、影響の受け方は非対称です。
例えば、インドが米国への医薬品輸出を止めたとしても、米国は比較的早く供給網を多様化できます。実際、米国は既に製薬生産の一部をプエルトリコへ移す計画を進めています。
2. 短期の「一次効果」と長期の「二次効果」
- 一次効果(短期)
インド準備銀行(RBI)は「短期的なGDP成長への影響は限定的」と見ています。現在のGDP成長率は約6〜6.5%で、目標の8%以上には及びません。 - 二次効果(長期)
長期的には供給網再編によって、米国市場向けのインド製薬産業の優位性が低下。新規の投資計画が停滞し、インドの成長産業が減少する可能性があります。
3. 製薬産業への影響
インドは米国FDA認可の工場を持つことで優位に立っていましたが、関税強化や供給網移転によってその優位性が損なわれる恐れがあります。
結果として、
- 米国市場向け輸出減少
- 新規設備投資の停滞
- 国内経済成長の減速
といった悪影響が予想されます。
投資判断
短期的な株価下落で飛びつくのは危険。段階的に投資(例:総額の20%だけ投入し、下落時に買い増し)する方が安全。
4. IT産業は比較的有利
Nifty IT指数は4年ぶり安値圏にあり、200日移動平均を下回る水準まで下落。
IT製品は物理的な物流や認証プロセスが不要で、輸出先の切り替えが比較的容易です。そのため、欧州や南米など新市場開拓が製薬よりも早く進む可能性があります。
評価:バリュエーション的にも下落余地は限定的で、中長期での仕込み候補。
5. インド市場全体のバリュエーション
現在のインド市場のPERは23〜24倍と、通常の適正水準(21〜22倍)を上回っています。GDP成長加速が見込めない中での高バリュエーションは割高感が強く、投資妙味は限定的。
6. 他セクターの見通し
- 国内消費株(例:Asian Paints)
底値から15%上昇済みで、バリュエーションはまだ許容範囲。 - 高成長株(例:Bajaj Finance)
2022年以降70〜80%上昇。景気後退期には貸倒リスク増大の可能性があり、今は積極買いの時期ではない。 - ミッドキャップ・スモールキャップ
バリュエーションは依然割高で、関税戦争による投資減少の影響を最も受けやすい。大幅調整後の買いが無難。
7. 米国株との比較
筆者は資金の一部を米国市場に移しており、特にAI関連銘柄を長期で積み立てる戦略を推奨。国籍ではなく「事業の成長性と投資妙味」で投資先を選ぶべきという立場。
まとめ:現状の投資戦略
- Pharma:急落での一括買いは避け、分割投資でリスク管理。
- IT:新市場開拓の容易さから中長期の仕込み候補。
- Mid/Small Cap:バリュエーション割高、調整待ち。
- 米国株:AI関連など長期成長分野で積立投資。
- 市場全体:GDP加速とバリュエーション正常化を待つ姿勢。
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