本記事は、YouTube動画『【キオクシア】なぜ株価10倍に?知られざる「NAND特需」のカラクリ』の内容を基に構成しています。
2024年12月に上場したキオクシアの株価が、1年あまりでおよそ10倍になったという話題は、足元の日本株の強さを象徴する出来事の1つです。もともとキオクシアは「東芝が切り離したメモリ会社」であり、AIブームがすでに進んでいた上場当初ですら、投資家から強い期待を集めていた銘柄ではありませんでした。
ところが、2025年後半から状況が一変します。市場では「NANDフラッシュの特需」とも言える需給のひっ迫が起き、価格上昇が業績を押し上げ、利益予想が跳ね上がり、結果的に株価も急騰しました。
この記事では、動画で語られていた内容を軸に、なぜNANDが急に注目され、なぜ利益が爆増し、なぜ株価が上がり続けて見えるのか、その一方でどこにリスクがあるのかを、できるだけ順を追って丁寧に説明します。
キオクシアは「なぜ今さら」急騰したのか
動画の主題はシンプルです。キオクシアの株価上昇は、単なる人気化ではなく、メモリ市況の急変、特にNANDの価格上昇が直接のエンジンになっている、という点です。
キオクシアはメモリの会社ですが、メモリには大きく分けて2種類あります。DRAMとNANDです。キオクシアは主にNANDを作っている会社で、DRAMは作っていません。この違いが、上場当初に評価されにくかった理由にも、足元で評価が急変した理由にもつながっていきます。
そもそもメモリ事業はなぜ難しいのか
メモリ、とくに半導体メモリの世界は、昔から価格の上下が激しいことで知られています。
動画ではこのアップダウンを「シリコンサイクル」と表現していました。需要が増えて価格が上がると企業は増産に走り、設備投資が進み、供給が増えすぎると今度は価格が崩れて利益が吹き飛ぶ、という循環です。
しかもメモリは、設備投資が重い産業です。工場や製造装置に巨額の資金が必要になり、借入が増え、利払いの負担も膨らみやすい。景気が良い局面では大きく稼げても、下り局面では赤字に転落しやすいという構造を抱えています。
動画では、こうした難しさがあるからこそ、東芝はこの事業を切り離した面がある、と説明されていました。実際、キオクシアは2024年3月期に赤字で、翌2025年3月期に黒字化してようやく上場にこぎつけた、という流れでした。
上場当初:AIブームがあっても評価されなかった理由
ここが今回のストーリーの重要な出発点です。キオクシアは2024年12月に上場しました。この時点でAIブームはすでに本格化していました。にもかかわらず、キオクシアは市場であまり評価されませんでした。
動画で象徴的だったのは、上場当初の予想PERが約4倍だったという話です。
一般的に、成長期待が高い銘柄はPERが高くなりやすく、逆にPERが極端に低い場合は「成長期待が薄い」「将来の利益が不安定」「いつ赤字になるか分からない」といった見方が強いことを意味します。
キオクシアの場合、まさに後者でした。
メモリはシリコンサイクルで利益がぶれやすい。翌年に赤字転落しても不思議ではない。しかも当時はAIの中心がGPUなどのロジック系半導体であり、NANDは「直接AIを動かす心臓部ではない」と見られていた。結果として「AIブームに乗れないメモリ会社」という扱いになり、買いが集まりにくかった、という流れです。
NAND特需が起きたメカニズム
ここからが逆転劇の本体です。動画では、NANDとDRAMを机に例えて説明していました。この比喩は初心者にとって非常に理解しやすいので、そのまま整理します。
DRAMとNANDの違いを「机と引き出し」で理解する
DRAMは、作業机の天板のようなものです。いま計算している途中の情報を一時的に置いておく場所に近いイメージです。PCのスペックで言えば、16GBや32GBといったメモリ容量のイメージがDRAMに近いです。
一方でNANDは、机の引き出しのようなものです。作業が終わった情報や、後から参照したいデータを蓄積しておく場所です。PCならSSDなどのフラッシュメモリがこの領域にあたり、スマホやサーバーのストレージにも深く関わります。
まず注目されたのはDRAM、特にHBMだった
AIブームの初期に市場が大きく注目したのは、DRAMの一種であるHBMです。AI向けGPUの近くに搭載され、高速にデータをやり取りするためのメモリです。
このHBMの恩恵を強く受けたのは、SKハイニクスやサムスンといった韓国勢でした。彼らはDRAMもNANDも両方やっている会社です。ところが、HBMを含むDRAM側にリソースを振り向ける必要が高まった結果、相対的にNANDの生産が後回しになっていきます。
NANDが不足する土台ができていた
ここが重要です。NANDが急騰した背景には、需要が増えたことだけではなく、供給が絞られていたという側面が大きい、というのが動画の説明でした。
需要が増えて、供給が足りない。経済の基本として、これは価格上昇を招きます。動画ではこの需給ひっ迫が「NAND特需」の正体だと整理していました。
AIが進化すると「引き出し」が急に重要になった
さらに、需要側の変化もありました。AIに質問した時、以前より時間がかかると感じることがある、という話が出ていました。これはAIが、単純にその場で計算して答えるだけでなく、大量の文脈や知識を参照して推論することが増えていることの一例だ、という説明です。
人間で言えば、どれだけ頭が良くても、資料や過去の知識を参照しなければ良い論文が書けないのと同じで、AIも参照すべきデータが必要です。そしてその参照先の高速化のために、ハードディスクより速いフラッシュメモリ、つまりNANDが重要になってきた。
この流れが、NANDの需要を押し上げました。
結果:ハイパースケーラーがNANDを「長期で確保」しに来た
需要の中心は、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタなどのハイパースケーラーです。彼らはAIデータセンター建設競争の中で、部材の確保に必死になります。
しかし、NANDを十分に供給できる側が追いつかない。そこでNANDを供給できるキオクシアに注目が集まり、価格交渉力も売り手側に移りました。
動画では「数量は急に増やせないが、価格は上げられる」ことが利益に直結する、と強調されていました。
価格上昇が利益を爆増させる理由:数量より価格が強い
ここは初心者が一番「なるほど」となりやすいポイントです。
売上が増える方法は2つあります。数量が増える、価格が上がる。
数量が2倍になる場合、原材料や製造コストも増えるので、利益は売上と同じように単純2倍になりやすいです。
一方で価格が2倍になる場合、製造コストが大きく変わらなければ、上がった分の売上が利益に近い形で積み上がります。動画では、営業利益率が仮に30%の会社で、売上が価格要因で倍になった場合、利益の伸び方が数量増のケースより大きくなる、というイメージが語られていました。
このため、NANDの価格上昇局面は、メモリ会社にとって利益爆発が起きやすい局面になります。
業績予想が跳ね上がった:2026年の「完売」がインパクト
動画では、純利益の推移として、直近で急激に跳ね上がっている点が紹介されていました。特に注目すべきは2026年の予想で、四半期の中間値として3400億円という非常に大きな数字が提示されている、という話です。
さらに重要なのは、数量面で2026年分がすでに完売している、という説明でした。つまり、少なくとも「売れるかどうか」という不確実性が小さい状態になっている。これが投資家心理を強く押し上げます。
そのうえで動画は、仮に四半期の利益水準が単純に続くと仮定すると、年間利益が約1.36兆円規模になり得る、という試算を示し、その場合、時価総額約11.5兆円に対してPERが約8.5倍程度に見える、という論点を提示していました。
ここで言いたいことは、表面上のPERよりも、足元の利益水準をどう見るかで、割安に見える可能性がある、という点です。そして「割安に見えるなら株価は下がりにくいし、むしろ上がりやすい」というストーリーが形成されます。
2027年以降が最大の論点:長期契約の兆しはあるが安心はできない
とはいえ、投資の世界にうまい話だけが続くとは限りません。動画でも「2026年はほぼ確定だが、問題はその後」と明確に線引きしていました。
2027年・2028年までの契約提案が出ているという材料
決算説明会の質疑応答では、一部のハイパースケーラーから2027年・2028年を視野に入れた契約提案があり、前向きに協議している、という趣旨が紹介されていました。
これは市場にとって、特需が一過性ではなく、ある程度長引く可能性を示す材料になります。
一方でシリコンサイクルは「供給増で崩れる」構造を持つ
価格が上がれば、他社も「儲かるなら作ろう」と増産に動きます。半導体の設備投資は時間差を伴いますが、設備が立ち上がると今度は止められません。工場を動かさない方が損失が大きくなるので、供給が過剰になりやすい。
供給が増えれば価格は下がります。価格が下がれば、さきほど説明した「価格上昇で利益が爆増する」現象の逆回転が起きます。利益が急減する可能性がある。これがメモリ事業の怖さです。
株価のリスクは「会社固有」だけでなく「相場全体」にもある
動画後半は、キオクシア単体の話から、より大きな視点に広がっていました。ここが非常に重要です。なぜなら、キオクシアの特需の根っこは、ハイパースケーラーのAI投資にあるからです。
大株主の売り出しという需給リスク
キオクシアにはファンドが株主として入っており、株価上昇局面で持分を売却する動きが出ている、という説明がありました。具体例として、持株比率が43%から36%に下がるなど、一定割合の売却が観測されているという話です。
こうした売りは需給を悪化させ、株価の上値を抑えたり、調整局面を作る要因になります。さらに心理面では「内部を知る人が売るのは天井示唆では」と疑心暗鬼を生むこともあります。
相場全体がAI投資に依存しているという怖さ
動画の核心の1つはここです。今の株式市場の強さは、かなりの部分がAIデータセンター投資に支えられている、という見立てでした。
投資額のイメージとして、2024年に40兆円、2025年に62兆円、2026年には100兆円に届きそうだ、というスケール感が語られていました。このレベルになると、もはや一部の産業ではなく、景気そのものを押し上げる力になります。
その一方で、もしこの投資が何らかの理由で鈍化したら、支えが外れた相場は不安定化しやすい、という警戒感が示されていました。
投資鈍化のきっかけになり得る3つの論点
動画内では、データセンター建設のスピードが永遠に続くとは限らない理由として、主に次の論点が語られていました。
1つ目は電力制約です。データセンターは電力を大量に消費します。発電所を作り、送電網を整備しなければ供給が追いつかない。しかし発電所や送電インフラは短期間では整いにくく、ここが建設スピードのボトルネックになり得るという話でした。
2つ目は技術進化による効率化です。今のAIはGPUを大量投入して動かしているが、電力効率やコスト効率が本当に最適なのかという問題があります。ソフトウェアの工夫や、GPU以外の方式、たとえば独自チップなどで、より少ない設備で同等の推論ができるようになれば、必要なデータセンター投資額が下がる可能性があります。
3つ目はマネタイズの問題です。投資は儲からなければ続きません。動画では、企業がついに債券発行までして投資を加速させているように見える点や、AIサービスの値上げ圧力が出ている点が触れられていました。ユーザーがどこまで料金を受け入れるのか、社会全体がどこまでAIにお金を払う気になれるのかが、投資継続の鍵になり得ます。
さらに、競争の構図がある程度見えてくると、過剰な投資競争が一巡してスピードが落ちる可能性もある、という見立ても語られていました。
まとめ:キオクシア急騰はNAND需給ひっ迫の「価格上昇」が本体、ただし2027年以降は要注意
キオクシアの株価が短期間で10倍近く上がった背景は、AIブームそのものというより、AIの進化が「高速ストレージ」を必要とし、NAND需要が増えたこと、そして同時にNAND供給がHBM優先の流れなどで絞られ、需給がひっ迫して価格が上がったことにあります。
価格上昇は、数量増よりも利益を押し上げやすく、結果として利益予想が急拡大し、株価の上昇を正当化しやすい環境を作りました。2026年分が完売しているという材料は、短期の見通しを強くし、株価が下がりにくい雰囲気を作る要因にもなっています。
一方で、メモリ産業はシリコンサイクルの影響を強く受けます。価格上昇は増産を呼び、供給増がいずれ価格下落を招く可能性は常にあります。また、ファンドの売却による需給悪化、そしてハイパースケーラーのAI投資が鈍化した場合の相場全体のリスクも無視できません。
動画の結論は、結局のところ投資にただ乗りはなく、儲かって見える局面ほど、どこにリスクが潜んでいるかを意識しておく必要がある、という点でした。キオクシアは今の相場の中心にいるからこそ、企業単体の材料だけでなく、AI投資の持続性という大きな前提が揺らいだ時の影響も含めて、冷静に見ておくことが重要になりそうです。


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