本記事は、YouTube動画『【ゴールド:BIS報告書からの懸念】金、伝統的な安全資産から投機的資産に変容(三井物産 山口英雄さん) [ウィークリーゴールド]』の内容を基に構成しています。
金価格は歴史的高値圏にありながら、このところ大きな値動きは一服しています。
一方で、銀やプラチナなど工業用メタルは強い動きを見せ、為替の円安も重なって円建ての貴金属価格は高止まりが続いています。
さらに、BIS(国際決済銀行)の最新報告書では、「金と株が同時に上がっている状況はバブル的であり、金は伝統的な安全資産というより投機的資産に変容しているのではないか」という、やや強いトーンの警告も出されました。
本記事では、番組で語られた
- 直近の金・銀・プラチナ相場の動き
- FOMC(米連邦公開市場委員会)を前にした金市場の構図
- BIS報告書が指摘する「金バブル」懸念の中身
- それに対するプロトレーダーの見方
を整理しながら、初心者にも分かりやすく解説していきます。
金相場の足元の状況:ドル建ては横ばい、円建てはじり高
ドル建ての金価格は高値圏で“静かな1週間”
番組ではまず、直近約1か月のドル建て金価格チャートが確認されました。
11月半ば頃に一度4000ドル近辺まで下落した局面があったものの、その後はじわじわと切り返し、直近の1週間〜10日ほどは4200ドル前後でのもみ合いが続いています。
市場ではすでに
- 今回FOMCでの0.25%の利下げ
がほぼ織り込まれており、その結果が出るまでは「材料待ち」で方向感に欠ける展開だった、というのが基本的な見立てです。
他のメタルは堅調、特にシルバーが突出
一方で、他の貴金属の動きは対照的です。
シルバー(銀)は、ドル建てで50ドルを超えた水準で長く滞留し、さらに番組収録時点では60ドル超〜61ドル台にまで上昇したと紹介されました。
金が高値圏で横ばいの中、銀だけが一段と強い値動きを示しているため、「なかなか見たことのない相場」と表現されています。
また、プラチナやパラジウムといった工業用メタルも総じて堅調であり、貴金属全体としては決して弱い相場ではないことがうかがえます。
円安が押し上げる“円建て”金・銀価格
円建てとドル建ての価格乖離
番組では、三菱マテリアルの店頭小売価格チャートをもとに、円建てとドル建ての価格が比較されました。
- ドル建て金価格:やや下向きの局面もある
- 円建て金価格:円安の影響でむしろ上向き
特にシルバーに関しては、
- ドル建て価格の上昇
- 円安進行
の「ダブル効果」によって、円建てシルバー価格は歴史的高値+為替要因の恩恵をフルに受ける形となっています。
日本の個人投資家から見ると、
「ドル建てでは少し調整していても、円建てではむしろ高く感じる」
というギャップが生まれているのが現状です。
円安と日銀の金融政策への注目
為替市場では、ドル高・円安の流れがなかなか止まらず、日本政府・日銀も警戒を強めていると指摘されました。特に今後の日銀会合(18日予定)では、
- このまま円安が続くのか
- 利上げを含む政策変更で一旦円安に歯止めがかかるのか
が焦点になります。
円安が続く限り、円建ての貴金属価格はドル建て以上に強い水準を維持しやすいという構図は変わらないと考えられます。
FOMCを前にした金市場:0.25%利下げは“ほぼ確実”だが…
市場コンセンサス:0.25%利下げ
今回のFOMCについて、市場はすでに以下のようなシナリオを8〜9割方織り込んでいると解説されました。
- 現行の政策金利レンジ:3.75〜4.00%
- ここから0.25%(25ベーシスポイント)利下げ
- 変更後レンジ:3.50〜3.75%
雇用や労働市場の弱まりが利下げの根拠とされる一方で、インフレ率はなお高止まりしており、FOMCメンバーの中には利下げに慎重な意見も残っています。そのため、
- 利下げ自体は実施
- ただし、決定は全会一致ではなく「賛成多数・反対少数」になる可能性もある
といった見方が示されました。
注目ポイント①:声明文の文言
市場が最も注目しているのは、「利下げそのもの」以上に声明文のトーンです。
例えば、
- 「バランスリスク」
- 「proceed carefully(慎重に進む)」
- 「インフレのさらなる鎮静が必要」
といった文言が残るのか、あるいは弱まるのかによって、
- 今後も利下げ余地があると受け止められるのか
- それとも「今回は一旦の区切り」とみなされるのか
が変わってきます。
もし声明が「今回でいったん利下げ停止を示唆するような内容」であれば、
- これまで利下げ期待で支えられてきた金価格には向かい風
となる可能性もあると指摘されました。
注目ポイント②:パウエル議長の会見とドットチャート
もう1つの焦点は、
- パウエル議長の会見内容
- FOMCメンバーの金利見通しを示す「ドットチャート」
です。
特に2026年末の金利見通しが、前回予想から
- さらに高い水準にシフトするのか
- 逆に利下げが進む方向へと下方修正されるのか
によって、金利市場・金市場の反応は大きく変わり得ます。
世界全体では、オーストラリアやECB高官のコメントから「次は利上げではないか」という見方も出始めており、
「世界的な利下げサイクルは終わりつつあるのではないか」
というムードも見え始めています。
その中で、アメリカだけがいつまでも利下げを続けるのかどうかは、金市場にとっても重要なテーマです。
さらに、
- トランプ前大統領の再登場可能性
- FRB議長人事への影響
- FRBの独立性を巡る懸念
といった政治要因も絡み、来年以降の米金融政策は一段と読みづらくなっている点も、動画では言及されました。
BIS報告書が指摘する「金バブル」懸念とは何か
BISとはどんな機関か
BIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)は、各国中央銀行の「銀行」とも呼ばれる国際機関で、四半期ごとに世界の金融・市場動向に関するレポートを発表しています。
今回のレポートでは、金に関する言及がいつになく強いトーンで行われたことが話題となりました。
指摘①:金と米国株が同時に大きく上昇する“異例”の状況
BISがまず問題視したのは、
- 金価格
- 米国株
が同時に大きく上昇しているという点です。
教科書的には、
- リスクオン局面:株高・金は相対的に弱い
- リスクオフ局面:株安・資金逃避で金高
という「逆相関」が期待されてきました。
しかし、ここ最近の動きを過去50年ほどのデータで比較しても、
- 上昇幅
- 上昇タイミング
の両面で、金と株がここまで似た動きをするのは「極めて異例」であり、バブル的な値動きではないかと警鐘を鳴らしているのです。
指摘②:金の上昇率が株を上回る“投機的”な側面
次に、BISは
- 本来、安全資産であるはずの金が
- 株式よりも高いパフォーマンスを示している
点にも注目しています。
リスクオン相場で株が上がる中、金がそれ以上の上昇率を記録していることは、
「安全資産」としてではなく「投機対象」として買われている可能性
があると分析されています。
指摘③:個人投資家マネーの流入とETFプレミアム
さらにBISは、
- 金・株ともに個人投資家の資金流入が急増していること
- 金ETFの純資産に対してプレミアム(割高)で取引される場面が目立つこと
を挙げ、これもバブルシグナルの1つではないかとしています。
ETFが現物価格を大きく上回る水準で買われるというのは、需給の偏りを示す典型的な現象です。BISはこれを「投機熱の高まり」と見ているわけです。
本当に“金バブル”なのか?中央銀行買いというもう1つの軸
山口氏の見解:バブル的要素はあるが、構造的な買いも無視できない
こうしたBISの懸念に対して、山口氏は
- 値上がり率だけを見れば、確かにバブル的に見える部分もある
- しかし、それだけで「投機バブル」と断じるのは一面的ではないか
と慎重な立場を示しています。
その根拠として挙げられたのが、
- 中央銀行による大規模な金購入
です。
ここ数年、各国の中央銀行は、
- ドル準備一辺倒からの脱却
- 通貨分散・リスク分散
を目的に、外貨準備の一部をドルから金へシフトさせてきました。これは短期売買ではなく、長期的な準備資産の組み替えです。
この「構造的な買い」が金相場の底堅さ・上昇を支えている面も大きく、
「単に個人投資家が先物市場で過剰なロングを積んだから上がっているだけ」
という状況とは性質が異なります。
先物主導の“過去のバブル”との違い
過去、金価格がバブル的に上昇した局面では、
- 先物市場にロングポジションが大量に積み上がる
- その後、一斉に利益確定・ロスカットが出て急落
というパターンが典型的でした。
しかし今回は、
- 現物金の購入
- ETFを通じた実物裏付けのある投資
- 中央銀行の長期保有目的の買い
が相場の柱になっている側面があり、
「先物主導の短期バブル」とは異なる構造になっています。
もちろん、
- 株など他のリスク資産が急落した際、損失補填のために金も“換金売り”される
可能性は常にありますが、山口氏は
他のリスク資産に比べれば、金の下落幅は相対的に小さくとどまるのではないか
という見方も示しています。
「安全資産としての金」は本当に変質したのか
相関の変化=性質の変化、とは限らない
BISは「株と一緒に上がる金はもはや安全資産ではないのではないか」と警鐘を鳴らしていますが、これはあくまで短期的な相関に基づく議論です。
長期的には、
- 通貨価値の希薄化(インフレ)
- 地政学リスク
- 各国財政の悪化
などを背景に、金という“通貨に依存しない価値保存資産”への需要はむしろ高まっているとも考えられます。
“完全なヘッジ”ではなくなっているが、受け皿の役割は残る可能性
一方で、BISが危惧するように、
- 株
- 不動産
- 暗号資産
といったリスク資産が同時に調整した局面では、金もある程度は巻き込まれて下落する可能性があります。
こうした意味では、
「金さえ持っていれば他の資産のショックを完全にヘッジできる」
というほど万能な存在ではなくなっている、という指摘も一理あります。
ただし山口氏は、
- 中央銀行の長期保有
- 現物・ETFなどの安定した保有層
を踏まえると、金の下落は他のリスク資産より限定的にとどまる可能性があるとし、
「安全資産の看板が完全に失われた」とまでは見ていません。
個人投資家が意識すべきポイントと今後の注意点
1.短期イベント(FOMC)でのボラティリティに注意
番組の最後でも繰り返し強調されていたのが、
- FOMC前後は金価格のボラティリティが急上昇しやすい
- 特にパウエル議長会見やドットチャートの内容次第で、大きく上下に振れる可能性がある
という点です。
短期売買を行う個人投資家にとっては、
- ポジションサイズの管理
- 損切りラインの明確化
など、リスク管理をいつも以上に慎重に行う必要があります。
2.「バブル」という言葉に振り回されすぎない
BISのような国際機関が「バブル的」と警鐘を鳴らすと、どうしても感情的に反応してしまいがちです。しかし、動画で示されたように、
- バブル的な値動きの一部は確かにある
- だが、中央銀行の長期買いという構造的な要因も存在する
という2面性を意識することが重要です。
「バブルだから全部売る」「安全資産だから全力で買う」といった極端な判断ではなく、
- ポートフォリオの一部として金をどう位置付けるか
- 自分の投資期間・リスク許容度に合わせて、比率を調整していく
といった冷静なスタンスが求められます。
まとめ:金は“投機資産”になったのか、それとも進化した安全資産か
本記事で整理してきたポイントを改めてまとめます。
- 足元のドル建て金価格は高値圏での横ばい、一方で銀やプラチナなど工業用メタルは強い動き
- 円安の進行により、円建ての金・銀価格はドル建て以上に割高感のある水準に見えやすい
- FOMCでは0.25%利下げがほぼ織り込み済みだが、重要なのはその後の声明文・パウエル議長の発言・ドットチャートの内容
- BIS報告書は、
- 金と株が同時に大きく上昇していること
- 金の上昇率が株を上回っていること
- 個人資金の流入とETFプレミアム
を根拠に、「金は安全資産から投機的資産に変容している可能性」を指摘
- しかし実務家の見立てでは、
- 中央銀行による構造的な買い
- 現物・ETF保有の増加
が金相場を支えており、「短期的な先物バブル」とは性質が異なる
- 大きなショック局面では金も一定程度売られる可能性はあるものの、他のリスク資産より下落幅が小さい“相対的な安全資産”の役割は残るという見方も示された
結局のところ、金は
- 「一切リスクのない完全な避難先」ではないが
- 「通貨や株式とは異なる軸を持つ価値保存手段」
としての性格を保ちつつ、その上に
- 個人投資家の投機マネー
- 中央銀行の構造的な買い
が折り重なった、多層的な資産になっていると言えます。
投資家としては、
- 短期のイベント(FOMC・金融政策・政治要因)で価格が大きくブレること
- 長期的には通貨価値・インフレ・地政学リスクなどに対するヘッジとして機能し得ること
の両面を理解したうえで、
自分のポートフォリオの中での金の位置付けを、じっくり設計していくことが重要だといえるでしょう。


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