本記事は、YouTube動画『【ステーブルコイン】時価総額の拡大が金融市場に与える影響について!』の内容を基に構成しています。
ステーブルコインという言葉は、暗号資産に関心のある方であれば一度は聞いたことがあると思います。ビットコインなどと違い、価格変動が小さい「安定したデジタル資産」というイメージが強く、安全な避難先のように語られることも少なくありません。
しかし、動画では「ステーブルコインの時価総額がこのまま拡大していくと、既存の金融システムにとって無視できないリスクになり得る」という視点から、金融市場への影響が丁寧に解説されています。
結論から言うと、ステーブルコインは暗号資産市場の成長とともに今後も拡大していく可能性が高く、それに伴って以下のようなリスクが大きくなっていきます。
- ステーブルコインの「取り付け騒ぎ」が起きた場合、裏付け資産の売却を通じて短期金融市場を揺さぶる可能性があること
- 預金の一部がステーブルコインに移ることで、特に地銀や脆弱な金融機関の資金調達力を弱める可能性があること
このように、単に暗号資産の世界だけで完結する話ではなく、「ドル短期国債市場」「銀行預金」「中央銀行の金融政策」といった、現実の金融システムと深く結びつき始めている点がポイントです。
以下では、動画の内容に沿いながら、ステーブルコインの仕組み、時価総額が急拡大した背景、金融市場にとっての具体的なリスク、そして今後の注目ポイントについて、初心者の方にもわかりやすい形で整理していきます。
ステーブルコインとは何か:法定通貨や金と連動する「価格の安定したデジタル資産」
まず前提として、ステーブルコインの基本的な仕組みから整理します。
ステーブルコインとは、米ドルや日本円といった法定通貨、あるいは金などの実物資産の価格に連動するように設計された、価格変動の少ないデジタル資産のことです。ブロックチェーン上で管理されるという点ではビットコインなどと同じですが、以下の点が大きく異なります。
ステーブルコイン発行企業は、投資家やユーザーから受け取った法定通貨を裏付け資産として保有し、その残高をもとに同額のコインを発行します。
たとえば「米ドル連動型」のステーブルコインの場合、発行企業はユーザーから受け取ったドルを現金として銀行預金に置いたり、アメリカの短期国債で運用したりすることで、「発行したコインの価値はいつでもドルに交換可能」と説明しています。
この「裏付け資産がある」という点が、値動きが純粋に需給によって決まり、裏付け資産を持たないビットコインなどの暗号資産との大きな違いです。
なぜわざわざステーブルコインを使うのか:銀行を介さない利便性と暗号資産の「退避先」
ここで自然に出てくる疑問が、「ドルと同じ動きをするのであれば、わざわざステーブルコインを使う必要はあるのか」という点です。ドルを持ちたいだけなら、普通預金やドル建て資産で良いのではないか、という発想です。
ステーブルコインが利用される理由としては、主に次のような点が挙げられます。
ひとつは、既存の銀行を使わずに送金や決済ができる点です。ブロックチェーン上の取引であれば、国境をまたいだ送金であっても比較的スムーズで、手数料や時間の面でメリットがあるケースがあります。
ただし、動画でも強調されているように、現時点でステーブルコインの時価総額が増えている主因は、決済・送金の利便性そのものというより、「価格変動の少ないデジタル資産」という位置づけです。
つまり、暗号資産投資の文脈の中で、「ボラティリティの高いビットコインなどから一時的に退避するための避難先」として使われてきた歴史が大きいのです。
時価総額が急拡大した背景:ビットコインのリスクを落とす「待機資金」として
ステーブルコインの時価総額が本格的に伸び始めたのは、2010年代後半以降です。この時期、ビットコインをはじめとする暗号資産の価格が急上昇し、投機的な取引が世界中で広がりました。
しかし、ビットコインのような暗号資産は値動きが激しく、短期間で数十%動くことも珍しくありません。そこで、「一時的にリスクを抑えたい」「暴落が怖いのでいったん現金相当で持っておきたい」という投資家が、ステーブルコインを利用するようになりました。
大きなポイントは、ビットコインなどの暗号資産が、当初は既存の銀行システムからほぼ切り離されていたという事実です。暗号資産取引所に置いているビットコインを売却して、すぐに銀行預金に移す、あるいは有価証券を買う、といったことが現実的には難しい環境が続いていました。
その中で、「同じ暗号資産の枠組みの中で、価格が安定しているステーブルコインに変えておく」という行動が広がり、暗号資産市場の中の「待機資金」や「退避先」としてステーブルコインの残高が増えていった、という歴史があります。
このためステーブルコインは、今でもビットコインなどの暗号資産との関係が極めて密接であり、「暗号資産市場の出入り口」という位置づけを持ち続けています。
ステーブルコインが金融システムにもたらすリスクとは何か
ここからが動画の本題です。ステーブルコインは、一見すると「裏付けもあるし価格も安定している安全な資産」に見えますが、その時価総額が大きくなるにつれて、既存の金融システムに対する影響やリスクも増大します。
動画では、その中でも特に重要なポイントとして、次の2点が挙げられています。
1つ目は「取り付け騒ぎ」による短期金融市場への波及リスク、2つ目は「預金流出」による銀行の資金調達力低下のリスクです。
取り付け騒ぎと短期国債市場への影響
まず「取り付け騒ぎ」のリスクです。過去には、ステーブルコインを発行している企業の財務内容に不安が生じたり、破綻懸念が高まったりしたケースもありました。
もし、「このステーブルコインは本当に裏付け資産を持っているのか」「発行企業が破綻するのではないか」といった懸念が市場に広がった場合、保有者は一斉に換金を求める可能性があります。これがいわゆる「取り付け騒ぎ」にあたります。
多くの人が短期間に換金を求めれば、発行企業は裏付け資産として保有している米ドルやアメリカの短期国債を売却して現金化しなければなりません。とりわけ、ドル連動型のステーブルコインの場合、その多くがアメリカの短期国債などで運用されているとされています。
ここで問題となるのは、その売却規模が大きくなった場合です。大量の短期国債が市場で売られれば、短期国債の利回りが急上昇し、短期金融市場全体が混乱する可能性があります。
動画の中では、代表的なドル連動型ステーブルコインであるテザーについて「時価総額が約30兆円程度」と説明されています。この規模であれば、短期金融市場全体と比べればまだ影響は限定的だと見られるものの、今後さらに時価総額が拡大していけば、その影響力は無視できなくなっていくと指摘されています。
つまり、ステーブルコインそのものの価格だけでなく、「裏側で何の資産をどの規模で持っているか」が、短期金融市場の安定性にとって重要な要素になりつつあるということです。
預金の流出と銀行・特に地銀への圧力
もう1つの重要なリスクが、ステーブルコインへの資金流入によって銀行預金が減少し、特に中小の銀行や地銀の資金調達力を弱めてしまう可能性です。
ステーブルコインの中には、銀行預金よりも高い利回りを提示しているものがあります。銀行の世界でも、ネット銀行や中小銀行が預金を集めるために高めの金利を設定することがありますが、それと似た構図がステーブルコインでも起こり得ます。
「どこに置いても結局ドルであることに変わりはないのであれば、より高い利回りを提示しているステーブルコインで保有していた方が有利だ」と考える投資家や企業が増えれば、その分だけ銀行預金から資金が流出していきます。
特に、元々経営基盤が脆弱な地方銀行や小規模な金融機関にとっては、預金流出は資金調達コストの上昇や収益悪化につながりかねません。この点を、既存の金融機関や金融当局は懸念しています。
ステーブルコインの時価総額がまだ小さい段階では影響も限定的ですが、今後規模が何倍にも膨らんでいくと、銀行業のビジネスモデルそのものに圧力をかける可能性がある、という視点です。
ECBレポートが示すステーブルコイン利用の実態
欧州中央銀行(ECB)は、ステーブルコインが金融市場に与える影響についてレポートをまとめ、その中で現時点での利用実態を分析しています。
その内容によると、ステーブルコインの取引のうち、純粋に「送金や決済のため」に使われている割合は約0.5%にとどまっています。その他として、「新興国での資産保全目的」といった利用も一部あるものの、多くを占めているのは、動画でも説明されている通り、ビットコインなど暗号資産の取引のために使われるケースです。
つまり、現在のステーブルコイン市場は、「暗号資産取引とセットで利用されるために成長してきた」と言える状況であり、その動きは暗号資産市場と密接に結びついています。
このことは裏を返せば、「ステーブルコインが金融市場に与える影響は、そのまま暗号資産が既存の金融システムに与える影響でもある」と解釈できます。ステーブルコインは単独で存在しているわけではなく、「暗号資産市場」と「既存金融システム」をつなぐ橋渡し的な役割を果たしているからです。
ビットコインとステーブルコイン残高の連動:2022〜2023年の動き
動画では、ステーブルコインの残高とビットコインなど暗号資産の時価総額が、どのような関係で動いてきたかにも言及されています。
ビットコイン価格が急落する局面では、「いったんリスクを落としたい」と考える投資家が増え、ビットコインなどを売ってステーブルコインに変える動きが強まります。その結果、ステーブルコインの残高が増加することがあります。
しかし、その後価格が下がりきって「そろそろ割安感が出てきた」と感じる投資家が増えると、今度はステーブルコインからビットコインなどの暗号資産に資金が戻り、ステーブルコイン残高が減少する、という動きが見られます。
このようなサイクルが、2022年から2023年頃にかけて実際に起こっており、ステーブルコインの時価総額は、暗号資産市場の循環に合わせて増減してきました。
この点からも、ステーブルコインはあくまで「暗号資産市場と表裏一体」であり、その規模や残高の変動が、暗号資産市場の動きと密接に連動していることがわかります。
今後の拡大と金融システムへの影響:ドル建てステーブルコインが最初に試される
動画では、今後の見通しとして「暗号資産市場が拡大すれば、ステーブルコインもさらに大きくなっていくだろう」としつつ、同時に「既存の金融システムへ与える影響も大きくなっていく」と指摘しています。
具体的な数字の例として、ECBのレポートではユーロを裏付けとしたステーブルコイン残高が約3億9500万ユーロ、円換算で約720億円程度とされています。これに対して、米ドルを裏付けとするステーブルコインは、合計で約2800億ドルが発行されていると紹介されています。
この規模の差から考えても、最初に本格的な問題に直面する可能性が高いのは、ドル建てステーブルコインであると見られます。ドルは世界の基軸通貨であり、短期金融市場も巨大です。そのため、ステーブルコインを通じた資金の動きが、ドル短期市場やアメリカの金融システム全体にどのような影響を与えるのかが、今後の大きなテーマになっていきます。
一方、日本でもステーブルコインの発行は始まっていますが、現時点では残高がごくわずかであり、直ちに金融システムを揺るがすような規模にはなっていません。しかし、世界的な潮流を踏まえると、日本としてもルール整備やリスク管理の設計が求められていく段階に入っていると言えます。
動画後半で触れられた関連テーマ:国債・地域問題・信用金庫など
動画の終盤では、ステーブルコインの話題から少し広げ、ニコニコチャンネルで配信している他の解説動画についても紹介がありました。これらはいずれも金融市場や日本の投資家にとって重要なテーマであり、ステーブルコインの話と同様に「金融システムとリスク」を考える上で参考になる内容です。
紹介されていた主なテーマとしては、次のようなものがあります。
- 日本の機関投資家による中国国債の保有と、日中関係悪化の中で今後どう取り扱うのかという問題
- カナダ・ケベック州の独立問題と、それが金融市場や日本の機関投資家に与える可能性のある影響
- ドイツのインフラ投資計画(2030年までに5000億ユーロ規模)と、それにもかかわらずドイツ経済がなかなか上向いてこない理由
- 信用金庫が抱える債券の含み損の問題(約2.5兆円規模)と、大手生命保険会社4社で10兆円超の含み損を抱えている状況
これらはいずれも、金融機関のバランスシートや国債市場、そして金利や為替といったマクロの動きに直接関わるテーマです。ステーブルコインと暗号資産という「新しい金融インフラ」を考える際にも、こうした既存の金融システムの問題を並行して理解しておくことが重要だという示唆が込められていると言えます。
まとめ:暗号資産と既存金融システムをつなぐ「橋」としてのステーブルコイン
最後に、動画の内容を踏まえた要点を整理します。
ステーブルコインは、法定通貨や金などの実物資産と連動するように設計された、価格変動の小さいデジタル資産です。発行企業が裏付け資産として米ドルや短期国債を保有することで、発行したコインの価値を安定させています。
2010年代後半以降、ビットコインなど暗号資産の急成長とともに、ステーブルコインは「暗号資産市場の退避先」「待機資金」としての役割を担い、その時価総額を急速に拡大させてきました。現在も、送金や決済よりも、暗号資産取引のための利用が大部分を占めています。
しかし、その規模が大きくなるにつれて、既存の金融システムに対するリスクも無視できなくなっています。代表的なものとして、次のような点が挙げられます。
取り付け騒ぎが起これば、裏付け資産として保有している短期国債などの大量売却を通じて、短期金融市場を混乱させる可能性があること。
また、銀行預金より高い利回りを提示するステーブルコインが広がれば、預金の一部がステーブルコインに流れ、特に地銀など脆弱な金融機関の資金調達力を弱める可能性があること。
欧州中央銀行のレポートによれば、ユーロ建てステーブルコインの残高はまだ数億ユーロ規模にとどまる一方、ドル建てステーブルコインは2800億ドル規模まで拡大しており、今後最初に本格的な問題に直面するのはドル建てステーブルコインになると見られています。
ステーブルコインは、暗号資産市場と既存の金融システムをつなぐ「橋」のような存在です。その橋が太くなればなるほど、両側の世界はより強く結びつきますが、同時に片側のショックがもう片側にも波及しやすくなるという側面もあります。
暗号資産に投資しているかどうかにかかわらず、ステーブルコインの時価総額拡大が「短期金融市場」「銀行預金」「国債市場」といった身近な金融インフラにどう影響しうるのかを知っておくことは、これからの時代の投資家や生活者にとって重要な視点と言えるでしょう。
今後もステーブルコインや暗号資産に関する規制、各国中央銀行のレポート、金融機関の対応などがニュースとして取り上げられていくはずです。その際には、「単なる新しいデジタルマネーの話」ではなく、「既存の金融システムとどう結びつき、どこにリスクがあるのか」という視点で見ていくことが大切だと感じられる内容でした。


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