本記事は、動画「レイ・ダリオ新刊『How Countries Go Broke』」の内容をもとに執筆しています。
世界的な投資家であり『プリンシプルズ』や『ザ・チェンジング・ワールド・オーダー』などのベストセラーで知られるレイ・ダリオが、またも注目すべき新刊を発表しました。タイトルは『How Countries Go Broke(ザ・ビッグ・サイクル)』。
今回はアメリカの破綻のメカニズムにフォーカスし、「大国がどのようにして崩壊に至るか」を歴史的視点と経済理論から解説しています。
結論:世界はすでに破綻の兆候を示している
ダリオによれば、アメリカをはじめとした先進国は破綻の兆しを既に見せており、今こそ対策を講じなければ手遅れになるとのこと。特に、以下の3点が破綻の兆候として強調されていました。
- 債務返済費用が他の政府支出を圧迫している
- 債務供給が需要を大きく上回り、金利上昇が止まらない
- 中央銀行が紙幣を刷り、政府債務を直接購入し始める
「信用市場システムは人体の循環器系と同じ」
ダリオは「信用(クレジット)市場」を人間の血流に例えます。
信用が健全に回れば経済は活性化する一方、過剰な債務や信用収縮が起これば循環不全に陥り、債務危機や通貨価値の低下に繋がります。
アメリカの財政赤字と債務の現状
動画で紹介されたアメリカの財政状況のデータは以下の通りです。
指標 | 数値 |
---|---|
2024年歳入 | 約5兆ドル |
2024年歳出 | 約7兆ドル |
予算赤字 | 約2兆ドル(歳入の40%超) |
政府債務残高 | 歳入の約6倍(約30兆ドル) |
債務の利子支払い | 約1兆ドル(歳入の20%) |
1世帯あたりの債務負担額 | 約23万ドル |
すでに「利払いだけで国防費と同等またはそれ以上」という、極めて危険な財政構造に陥っていることが分かります。
今後の3つのシナリオ
ダリオは以下の3つの経路のいずれかを通って破綻に至ると警告しています。
- 金利上昇による経済悪化(需給ギャップの拡大)
- 中央銀行による国債の大量購入 → インフレ加速と通貨安
- 需要不足に対応できず、経済の縮小と信用低下の連鎖
ドル安とインフレの現状
ドルインデックス(DXY)は、2022年のピーク「113」から2025年には「98」まで下落。モルガン・スタンレーの予測では2026年にはDXYが「91」まで下落し、それがS&P500の上昇(6500への到達)を後押しするとしています。
年 | ドルインデックス(DXY) |
---|---|
2022年9月 | 113 |
2025年現在 | 98 |
2026年予測 | 91 |
解決策としての「三本柱」
ダリオは破綻を避けるための現実的な処方箋を提示しています。
- 支出削減(対GDP比で約4%)
- 税収増加(約4%)
- 金利の低下(1〜1.5%)
この3つを同時に実現すれば、10年間で債務利払い費用をGDP比12%分削減でき、経済の健全化につながるとしています。
過去の成功例:1991〜1998年のアメリカ
この期間中、アメリカは財政赤字をGDP比5%→0%(黒字)に改善させた実績があります。今回も同様の努力をすれば、リスクを回避できる可能性があるとされています。
日本は破綻していないのでは?
一見、日本の債務(対GDP比215%)は高いが、それでも破綻していないという反論も存在します。
しかしダリオは、日本は日銀が国債を大量購入することで債務を乗り切っており、その代償として日本国債はゴールド建てで60%、ドル建てで45%のリターン減を記録。実質的には「静かなる破綻状態」であると指摘しています。
金とビットコインの重要性
ダリオは「政府発行ではない通貨」として金とビットコインを推奨しています。
- 資産の10〜15%を金に振り分けるのが理想
- ビットコインも少量でいいが、持っておくべきと主張
投資家へのアドバイス
以下のような分散が推奨されました:
- 健全な財政構造を持つ国の資産
- 地政学的リスクの少ない地域
- 債権をアンダーウェイト
- 金・ビットコインをオーバーウェイト
まとめ:私たちはどう備えるべきか?
本書で描かれている「破綻のメカニズム」は、決して絵空事ではありません。現実にすでに兆しが見え始めている今だからこそ、冷静にデータと向き合い、自分の資産の守り方を考えるべきです。
投資先を分散し、金やビットコインといった非政府通貨をポートフォリオに少しでも組み入れる――。このような対応が、今後の激動の経済環境における“リスクヘッジ”として有効なのかもしれません。
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