このブログは、元動画「【世界秩序の変化】レイ・ダリオやブラックロックに先駆けて予想的中させたコンサル/中国の衰退/日本のチャンス/インドの台頭」の内容を基に作成しています。
まず最初に結論からお伝えします。
世界は今、約30〜40年ぶりの大きなパラダイム転換期に入っています。
小さな政府と市場万能を信じた新自由主義の時代が終わりつつあり、アメリカは再び「大きな政府」的な枠組みへとシフトしながら、中国を封じ込めるために日本とインドを重視する戦略に動いています。
この流れの中で
- 中国は「90年代の日本」のように長期停滞と構造問題に苦しむ可能性が高い
- インドは人口動態と外交上の特別扱いを背景に、「中国の代替」として育てられている
- 日本は冷戦期のように「ここに座れば勝てる」特等席に、再び座り直すチャンスを与えられつつある
というのが、著者がワシントンで見てきた現場の空気から導いた大きな結論です。
ここからは、歴史的なパラダイムの変化、中国の衰退シナリオ、インドの台頭、そして日本にめぐってくるチャンスを、できるだけ分かりやすく整理していきます。
世界秩序のパラダイムシフトとは何か
小さな政府から大きな政府へ:レッセフェールと大恐慌
ここ100〜150年の世界の価値観は、「小さな政府」と「大きな政府」の間を振り子のように行き来してきました。
第1段階は、自由放任主義・自由法人主義と呼ばれた「小さな政府」の時代です。
レッセフェールという言葉に象徴されるように、「政府はなるべく市場に口を出さない」「民間に任せる」という考え方が主流でした。
日本にもこの価値観は、江戸末期の黒船来航以降、西洋の近代思想として流れ込んできます。
明治政府は「脱亜入欧」と富国強兵を掲げ、欧米列強に追いつくために西洋の仕組みを積極的に取り入れました。
しかし、小さな政府の自由放任には大きな歪みもありました。
・少数の財閥・企業による市場の独占
・資本家と労働者の格差拡大
・貧困や劣悪な労働環境などの社会問題
アメリカでは1890年に独占禁止法が制定され、1911年には巨大財閥スタンダードオイルが解体されます。
それでも歪みは完全には解消されず、最終的には1930年代の世界大恐慌でこの体制は決定的な限界を迎えました。
ここで振り子は「小さな政府」から「大きな政府」へと大きく振れます。
ルーズベルト大統領のニューディール政策はその象徴で、政府が積極的に経済に関与し、雇用を作り、福祉を整える方向へと舵を切りました。
大きな政府から新自由主義へ:冷戦とグローバル化
大きな政府にも、3つのパターンがありました。
・アメリカ型(ルーズベルト型):資本主義を維持しつつ歪みを修正する大きな政府
・ソ連のスターリン型:計画経済と強権的な共産主義
・日本の軍国主義やファシズムを含むファシスト型
第二次世界大戦は、ファシスト型の大きな政府との対立の結果であり、戦後の冷戦はアメリカ型とソ連型の対立の時代でした。
この冷戦期、日本は「地政学的に重要な国」としてアメリカから厚遇されます。
アメリカの安全保障の傘の下で、防衛費を最小限に抑えつつ、経済成長だけに集中できる環境を与えられたのです。
アメリカが作った製品や技術を日本が真似て改善し、品質を高めて輸出する。
このサイクルで、日本は世界第2位の経済大国にまで上り詰めました。
著者はこれを「カジノオーナーであるアメリカに、ここに座れば勝てるという強い席に座らされた」と表現しています。
しかし、1980年代に入ると状況は変わります。
・半導体
・スーパーコンピュータ
・核燃料サイクル
・衛星ロケット
といった戦略的重要分野で、日本がアメリカを上回る場面が増え、頼もしいパートナーだった日本が、いつの間にか「脅威」に見られ始めたのです。
1989年の冷戦終結、91年のソ連崩壊を経て、アメリカは最大の敵を失い、「日本を特別扱いする理由」も消えていきます。
プラザ合意や日米半導体協議などの日本叩きが本格化し、日本のバブルは弾け、「失われた30年」が始まりました。
同時に、世界は新自由主義とグローバル化の時代へ移行します。
・規制緩和
・低金利
・IT革命
・WTOによる貿易自由化
これらによって、マネーは世界中を効率的に駆け巡り、物価は安定し、企業はコストダウンを進めることができました。
この時代は「グレート・モデレーション(大いなる安定)」と呼ばれました。
その最大の受益者が中国です。2001年にWTO加盟した中国は、「世界の工場」となり、爆発的な成長を遂げていきました。
新自由主義の光と影:トランプ現象の背景
新自由主義とグローバル化は世界経済を大きく成長させましたが、その影ではアメリカ国内に深い亀裂も生みました。
・富の格差が異常な水準まで拡大
・移民増加による人口構成の変化(白人比率の低下)
・LGBTの権利保護や価値観の多様化
・キリスト教的価値観の相対化
この変化の中で、「取り残された」と感じる層が増えていきます。
いわゆるトランプ支持層は、新自由主義のレースに乗り遅れた人たちであり、彼らの要望は非常にシンプルです。
具体的な理想像があるわけではなく、とにかく今のシステムを壊してほしい。
後のことは分からないが、現状だけはなんとかしてほしい。
こうした不満が積み重なり、中国に工場や雇用を奪われたという反発も加わって、「中国はアメリカをレイプした」とまで表現するトランプ大統領が誕生します。
新自由主義は、わずか30年あまりで限界が露呈し、今また新しいパラダイムへの転換点に来ている、というのが著者の認識です。
中国の衰退シナリオ:レイ・ダリオより早く警告していた内容
2021年時点での「中国は90年代の日本と同じ道」という予測
著者は2021年前半の時点で、
・米中対立は不可避
・アメリカの優位性は揺らがない
・中国は90年代の日本と似た道を辿っている
という趣旨のレポートを出していました。
当時は、
中国は日本とは違う日本のように不良債権を先送りしたりしない
といった反論・苦情も多かったと言います。
顧客の一人であるブリッジウォーター・アソシエイツ(レイ・ダリオのファンド)も、当時は中国に強気で、不快感を示していたそうです。
ところがその後、中国に強気だったブラックロックやレイ・ダリオ自身も、中国投資で痛手を被り、現在ではダリオは
・中国は今後100年続く嵐に入ろうとしている
・日本のバブル崩壊後のように、長い試練の時期が続くだろう
とトーンを大きく変えています。
つまり、著者はレイ・ダリオやブラックロックより早く、中国の構造的な問題と長期停滞リスクを読み、顧客に警告していたという構図です。
中国経済の構造問題:不動産バブルと若者失業、台湾有事リスク
本書と動画では、中国の現状として次のような点が指摘されています。
・不動産バブル崩壊
→ 家計の資産の多くが不動産に偏っていたため、消費意欲が冷え込む
・若者の失業率が急上昇
2023年6月時点で21.3パーセントという高水準に達し、その後統計公表を停止
統計の出し方を変えた新しい指標でも17パーセント程度と高いまま
・2024年時点で、大学卒業2カ月前の内定率が48パーセント(半数以上が内定なし)
このままいくと、2027年までに1000万人規模の若者が就職できない状態になる可能性があると、著者は警告します。
行き場のない若者を大量に抱えた国家が選びがちな出口が、軍と戦争です。
これが、台湾有事リスクと結び付けて語られています。
米中関係については、3つのシナリオが提示されます。
- 戦争で覇権国と新興国の勝敗を決する(真珠湾攻撃のようなパターン)
- 覇権国が座を譲るか、新興国が諦めてひざまずく
- ホットウォーを避けた冷戦(米ソ冷戦のようなパターン)
メインシナリオは3つ目の「新冷戦」だが、次にあり得るのが1の戦争シナリオであり、その象徴が台湾有事という位置づけです。
特に、2021年に米インド太平洋軍司令官フィリップ・デイビッドソンが議会証言で
台湾への脅威は今後10年、実際には6年以内に明らかになると思う
と述べています。これは、2027年までに台湾有事が起こる可能性を示唆する言葉として注目されています。
経済的に追い詰められ、若者の不満が高まる中で、習近平が4期目に入る前に「台湾進攻」という実績作りに走るのではないか。
そんな「窮鼠猫を噛む」ような最悪シナリオも、現実味を帯びてきているという指摘です。
インドの台頭:アメリカが与えた「特等席」
では、中国が失速したら世界経済はどうなるのか。
ここで過去の「日本からアジアNIES、そして中国へ」というバトンリレーが再び参考になります。
冷戦末期、アメリカの高官ティモシー・ガイトナーは
しばらくは韓国や台湾などの新興国で時間を稼ぎ、その後は中国がある
と語ったと言われています。
今ワシントンでは、それとよく似た議論が繰り返されていると著者は言います。
世界第2位の中国経済が潰れたらどうするのか。
その鍵を握るのがインドです。
インドを中国の代替先として育てる、という発想です。
インドには、人口ボーナスという強力な追い風があります。
若年人口が多く、これから数十年は労働力と消費市場が拡大し続ける見込みです。
さらに外交面では、インドは非常に特別な扱いを受けています。
・モディ首相がプーチン大統領と会談しても、アメリカは強く非難しない
・ロシアとの関係を保ちながら、アメリカとも良好な関係を維持
通常なら強く批判されるような行動でも、インドにはほとんどお咎めがありません。
これはまさに「カジノオーナーであるアメリカが、今のインドに特等席を与えている」状態だと表現されています。
日本に巡ってくるチャンス:再び「ここに座れば勝てる席」へ
この大きなパラダイム転換の中で、著者は日本の立ち位置を非常にポジティブに評価しています。
新自由主義の歪みを是正するために、アメリカは再び「大きな政府」的な仕組みを組み直そうとしています。
その際、中国を封じ込めるための強いパートナーとして、再び「強い日本」が必要になる、という見立てです。
冷戦時代、アメリカは日本に
・安全保障の面倒をほぼ全て引き受ける
・その代わり、日本は経済成長に集中し、アメリカ市場に高品質製品を輸出する
という特等席を用意しました。
今度は、形は変わりつつも、「中国封じ込め」のための重要パートナーとして、日本に再び良い席を差し出している、という構図です。
もちろん、日本が自動的に勝者になるわけではありません。
しかし、
・安全保障環境の変化(台湾有事リスク、自国防衛の必要性)
・サプライチェーン再編(脱中国、フレンドショアリング)
・インドや東南アジアとの新たな連携
などの流れをうまく活かせば、日本は相対的な勝者になり得る、というのが本書の大きなメッセージです。
異なる視点の本と読み比べる意義
動画では最後に、別の書籍「世界経済の資格(高野龍太郎さん・岡田克大輔さん)」も紹介されていました。
この本では、
・中国は課題に対してさまざまな政策で対応している
・学歴格差是正や不動産市場へのテコ入れなど、中国は改革を試みている
・アメリカはむしろ課題を放置気味
というスタンスで書かれているそうです。
また、ドル基軸通貨体制は永遠ではない、という視点も提示されています。
一方、「世界秩序が変わる時」では、
・中国は長期の嵐に入る
・アメリカは問題を抱えつつも、パラダイムを作り変える側のプレーヤーであり続ける
・日本とインドはその新しい秩序の中で重要な役割を与えられている
という立ち位置で論じられています。
同じ事象(中国の不動産バブル、米中対立、ドル覇権など)についても、著者の視点によって解釈が変わることがよく分かります。
こうした複数の視点を読み比べることで、自分なりの世界観を立体的に組み立てられるのが、読書の大きなメリットです。


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