まず結論です。
いま起きている現象は「金が高すぎる」のではなく「通貨の価値が下がっている」。
上昇しているのは資産ではなく通貨安のほう、という視点転換が必要です。
主導しているのは個人投資家ではなく各国の中央銀行と大手機関。歴史上の通貨リセット局面では同じパターンが繰り返されてきました。行動指針は、短期の投機ではなく長期の資産防衛としての分散と現金同等物の質を見直すことです。
この記事でわかること
- なぜ「利上げ期でも」ゴールドが上がるのか
- 金上昇の主役は誰か(個人ではなく中央銀行・機関)
- 通貨リセットとは何か、歴史の数値で理解する
- 米株投資家・日本の家計が取るべき具体策
いま何が起きているのか:主役は個人ではない
動画の要点は次の三つに集約されます。
1 ゴールド上昇を牽引しているのは中央銀行と機関投資家
動画では、一般投資家のゴールド配分は依然として薄いという調査を引用。
アドバイザーのポートフォリオで金比率が1%未満という回答が75%だったという趣旨です。つまり「個人の熱狂がピーク」という段階には達していません。
2 株60%・債券40%の「60/40」は崩れ、金を20%組み込む例も
動画ではモルガン・スタンレーが株60・債券20・金20という提案に言及。安全資産の座を債券が独占せず、通貨劣化に強い実物資産を組み込む流れが強まっていると示唆します。
3 利上げ期でも金が買われる「常識の反転」
本来は金利上昇=債券の相対優位で金は売られやすいはずが、今回は逆。
FRBの金融政策だけでは市場の不安を抑えきれず、基軸通貨ドルの信認を巡る不確実性が金需要を支えている、という見立てです。
通貨リセットの論点:価格が上がるのは資産か、それとも通貨安か
動画の核心は「上がっているのは資産ではなく、通貨の価値が下がっている」という視点です。実際、
- 株価上昇
- ビットコイン上昇
- 不動産・地価・生活物価の上昇
これらを一つの線で貫く説明は「通貨の購買力低下」。紙幣供給が増えるほど、通貨建ての名目価格は押し上げられます。金は供給が急増しにくいので、通貨劣化の鏡として値が映りやすいのが特徴です。
歴史が語るパターン:通貨が壊れるとき、何が起きたか
動画が挙げた通貨リセット事例を、イメージしやすいように整理します。
ワイマール(1920年代ドイツ)
わずか数年で通貨桁が8つ増える超インフレ。金・銀を買うのに必要なマルクが天文学的に増加。名目通貨の0が増えるのは「通貨の再評価(ゼロ落とし)」の前触れや結果として頻発。
ベネズエラ(近年)
桁落としを複数回実施。2021年には0を6つ削減。通貨が薄まるほど、金の現地通貨建て価格は「異常な」上昇を記録。
その他
アルゼンチン、レバノン、キプロスなども通貨・資本規制・デフォルトリスクが繰り返し顕在化。
共通点はただ一つ。法定通貨の信認が崩壊するとき、価値保存の受け皿は「増やせる紙」ではなく「希少なもの」に向かうということです。
なぜ各国の中央銀行が金を買うのか
1 経済制裁の時代
対立国の外貨準備(ドル)や国債が凍結・兵器化されうるなら、裏返して言えば「誰にも凍結されない準備資産」が欲しくなります。
2 債務スパイラルへの警戒
国債需要が細ると金利を上げて買い手を呼ぶ必要があり、利払い増→さらなる借金→信認低下の悪循環に。基軸国がそのリスクをゼロにできない以上、準備の一部をコモディティに振り向ける動機が働きます。
3 供給の制約
紙幣はボタンで増やせるが、金は地中から取り出すほかありません。通貨価値が薄まるとき、希少資産側に相対価格が移るのは構造的です。
日本の家計が直面する二重苦:ドル安と円安の同時進行
動画は厳しい指摘をしています。
- ドルの価値が低下する局面でも、円がそれ以上に下落している
- 円建ての給与は名目横ばいでも、実質購買力は削られていく
これは日本の家計にとって、輸入物価・生活コストの上昇と資産防衛ニーズを同時に突き付けます。家計防衛のキーワードは「外貨・実物・現金性の質」の三つです。
実務パート:資産防衛のための5つの手順
1 家計の通貨バランスを点検する
円100%前提をやめ、生活費の何か月分をどの通貨・どの形で持つかを決める。為替ヘッジ型の選択肢も検討。
2 インフレ耐性のある資産を「役割」で組み込む
株式(成長)、国債(クッション)、金やコモディティ(通貨劣化・地政学の保険)、現金(流動性)。目的を明文化してから比率を置く。
3 コストと保管を詰める
金のエクスポージャーは現物・ETF・金鉱株で性質とコストが違う。現物は保管とスプレッド、ETFは信託報酬、鉱山株は株式リスクが乗る。何をリスクとして引き受けるかを先に決める。
4 売買ではなく「再配分」で管理する
四半期〜年1回のリバランスだけで「高くなった資産を削って、低くなった資産へ回す」を機械的に。短期の天井当ては不要。
5 生活インフラのアップデート
固定費のドル化(海外サブスク・クラウド)、海外収入源の開拓、副収入の仕組み化など、キャッシュフローを通貨劣化に強くする。投資だけでなく「稼ぐ通貨の多様化」も防衛策。
目安ポートフォリオ例(あくまで考え方のたたき台)
フェーズ | 株式 | 債券 | 金・コモディティ | 現金・短期 |
---|---|---|---|---|
成長重視 | 55 | 25 | 10〜15 | 5〜10 |
中庸(インフレ防衛) | 45 | 25 | 20 | 10 |
低ボラ志向 | 30 | 40 | 15 | 15 |
・金20%は「モルスタ例」に近い配分のイメージ。
・為替ヘッジの有無、生活通貨の構成で最適解は変わります。
よくある誤解と落とし穴
・金は必ず右肩上がり
→ 通貨ごとにトレンドが異なる。現物の保管コストや売買コストも無視できない。
・「利上げ=金安」は絶対
→ 今回のように地政学・制裁・準備資産の構成変化が効く局面では逆流も起こりうる。
・金鉱株=金と同じ
→ 鉱山コスト、経営、株式市場のリスクが上乗せ。ボラティリティは金本体より高いことが多い。
反証可能性と冷静さ
過度な「通貨崩壊」シナリオは常に誇張のリスクがあります。歴史は韻を踏むが、同じ歌詞で繰り返すわけではありません。したがって
・複数シナリオに耐える分散
・現金同等物の「質」(どの通貨・どの保管形態か)
・再配分での規律運用
この三点で、極端な予想に依存しない体制を作るのが現実的です。
今日からできるチェックリスト(5分で棚卸し)
- 生活費6〜12か月分の待機資金はどの通貨で、どこに置いているか
- 投資資産のうち「通貨劣化への保険」は何%か(ゼロなら要検討)
- ゴールドへのエクスポージャーの形態は何か(現物・ETF・鉱株)
- リバランスの頻度とルールは紙に書いてあるか
- 為替ヘッジ方針は明文化しているか(やる、やらない、条件付き)
まとめ
- 金の高騰は「通貨の価値低下」を映す鏡。
- 主導は中央銀行・機関で、個人の大合唱はまだ来ていない。
- 歴史的な通貨リセット局面と似たシグナルが点灯。
- だからこそ、短期の当て物ではなく、役割を定めた配分と規律運用で備える。
- 投資だけでなく、収入の通貨分散も資産防衛の一部。
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