本記事は、YouTube動画「【速報解説:円安メリットは本当に大きいのか?】円安でも国内投資は簡単に戻ってこない/企業は外貨を海外に再投資/外為特会の正確な認識/与党大勝なら為替はどう動く?【みずほ銀行・唐鎌大輔】」の内容を基に構成しています。
円安を巡る議論が過熱する背景
ここ数日、日本国内では「円安は本当に日本経済にとってプラスなのか」という議論が急速に広がりました。
その発端となったのが、政権中枢からの発言をきっかけとした円安メリット論です。
報道やSNSでは「円安を容認しているのではないか」「輸出企業にとって有利なのだから問題ないのではないか」といった単純化された見方が目立ちました。
今回の動画では、こうした議論に対し、みずほ銀行のチーフマーケットエコノミストである唐鎌大輔氏が、経済データと実態を踏まえながら冷静な解説を行っています。
結論から言えば、円安か円高かを単純に善悪で語ること自体が、現代の日本経済にはそぐわないという指摘です。
円安と円高はどちらが良いのかという問いの難しさ
唐鎌氏はまず、円安と円高のどちらが良いのかという問いそのものが、簡単に答えを出せない問題であると述べています。
過去を振り返れば、円高局面では輸出企業が苦しみ、生産拠点が海外に移転する動きが進みました。
一方で、現在のような円安局面では、輸入物価の上昇や家計の負担増といった別の問題が生じています。
つまり、円安にも円高にも、それぞれメリットとデメリットが存在します。特定の為替水準が常に正解ということはなく、経済状況や産業構造によって評価は変わるというのが、唐鎌氏の基本的な立場です。
円安が輸出企業の「バッファー」になっている事実
動画の中では、円安が輸出企業、とりわけ自動車産業にとって一定の緩衝材になっているという事実も紹介されています。内閣府の企業行動に関するアンケート調査によれば、日本の輸送用機械産業の採算レートはおおよそ1ドル125円程度とされています。
ここに約15%の関税負担を加味すると、採算が取れる水準は1ドル144円前後となります。
現在の為替水準が155円から156円程度であることを考えると、そこには10円以上の余裕がある計算になります。この点だけを見れば、「円安が企業の利益を下支えしている」という指摘自体は、事実に基づいたものだと言えます。
円安になっても国内投資が戻らない現実
しかし、問題はそこから先です。多くの人がイメージするように、「円安になれば企業が国内に戻ってきて投資が増える」という単純な構図は、ここ10年以上の日本では当てはまっていません。
実際には、円安が進行してきたこの約10年間、日本企業の対外直接投資、つまり海外への投資はむしろ増加してきました。国内投資が大きく回復したとは言い難い状況が続いています。
その背景には、日本企業が海外で得た利益を、そのまま海外で再投資する動きが強まっていることがあります。
この再投資の割合は年々高まっており、統計上は日本の経常黒字として計上されますが、実際には資金が日本国内に戻ってきていないケースが多いのです。
なぜ円安でも円高にならないのかという構造的問題
唐鎌氏は、この海外再投資の増加こそが、「日本は経常黒字なのに円高にならない」理由の1つだと指摘します。
表面上は黒字であっても、その資金が国内で円に交換されず、海外にとどまっていれば、円高圧力は生まれにくくなります。
この点は、アメリカの為替政策報告書でも指摘されており、日本の経常黒字が為替市場に十分反映されていない実態が国際的にも認識されています。
つまり、為替レートだけを見て日本経済を評価することには、大きな限界があるということです。
為替だけで企業の経営戦略は決まらない
唐鎌氏が強調するのは、「為替レートだけで企業は投資判断をしない」という点です。円高時代に海外へ出て行った企業が、円安になったからといって簡単に国内へ戻れるわけではありません。
生産拠点の移転には多額のコストがかかりますし、人材やサプライチェーンの問題もあります。
仮に国内に戻ったとしても、それがそのまま円高につながるわけではありません。このように、為替は数ある判断材料の1つに過ぎず、万能な政策手段ではないという現実があります。
国内投資を呼び戻すために本当に必要なこと
唐鎌氏自身は、経済産業省の検討会にも関わりながら、「どうすれば国内投資を呼び戻せるのか」という議論に参加していると語っています。
そこでは、為替水準だけでなく、収益性、制度、規制、労働環境など、より広い視点での政策が求められています。
円安は国内投資の一因にはなり得ますが、それだけで全てが解決するという考え方は現実的ではありません。円安と国内投資を直線的に結びつけるイメージは、一度立ち止まって見直す必要があるといえるでしょう。
外為特会は「儲かっている」だけで判断してよいのか
動画では、外為特会、いわゆる外国為替資金特別会計についても言及されています。円安局面では、円ベースで見れば外為特会が利益を上げているように見えます。この点自体は事実です。
しかし、重要なのは、その資金をどの通貨で評価し、どのように使えるのかという点です。仮に為替介入などでドル資金が必要になった場合、問題になるのは「ドルでいくら持っているか」です。円換算で儲かっているという事実だけをもって、自由に使える資金だと考えるのは正確ではありません。
この点については、すでに多くの専門家が指摘している通りであり、外為特会を過度に万能視するのは危険だと言えます。
与党が大勝した場合、為替はどう動くのか
動画の後半では、与党が大勝した場合の為替への影響についても議論されています。
一般には、「円安容認姿勢が強まるのではないか」と見る向きもありますが、唐鎌氏は必ずしもそうは考えていないと述べています。
むしろ、中途半端な勝ち方をして政権基盤が不安定になる方が、拡張財政に傾きやすく、結果として市場に不安定要因をもたらす可能性があると指摘します。
一方で、圧倒的な政治的基盤があれば、為替や金融政策についても冷静で抑制的な対応が取りやすくなるという見方です。
二者択一的な経済論争への警鐘
唐鎌氏は最後に、日本の経済政策論が「リフレか反リフレか」といった極端な二者択一に陥りがちである点に強い懸念を示しています。円安か円高か、拡張か緊縮か、といった単純な対立ではなく、その中間や調整こそが政治や政策の本質であるという指摘です。
感情的な上げ足取りや断片的な報道に振り回されるのではなく、データと構造を踏まえた冷静な議論が必要だというメッセージは、今回の動画全体を貫く重要なテーマだと言えるでしょう。
まとめ
今回の動画を通じて明らかになったのは、「円安=日本経済にとって自動的にプラス」という考え方が、もはや現実に合わなくなっているという点です。円安には確かにメリットもありますが、それだけで国内投資が戻り、経済が活性化する時代ではありません。
重要なのは、為替を万能な政策手段と誤解せず、企業行動や国際資本の動き、産業構造といった複雑な要素を正しく理解することです。円安を巡る議論をきっかけに、日本経済の現状をより立体的に捉え直すことが、今まさに求められていると言えるでしょう。


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