本記事は、YouTube動画『【DIGEST】地政学で読み解く世界情勢/日経平均5万円の背景/金回帰と脱ドル/トランプ外交の影響/米中対立と台湾有事の可能性』の内容を基に構成しています。
導入
世界経済と地政学は今後10年の方向性を決める重要な局面にあります。金価格の上昇、ドル信用不安、アメリカの財政問題、トランプ外交の影響、中国の台頭、米中対立、そして台湾有事の可能性。これらのテーマは互いに複雑に絡み合い、投資環境や国際関係を大きく左右します。
今回の記事では、エコノミストのエミン・ユルマズ氏が語った「地政学から読む世界の未来」を、できる限り詳しく、初心者にもわかるよう丁寧に解説します。
お金の進化と国際秩序の揺らぎ
エミン氏は、世界の動きを理解するうえで「お金の流れを追うこと」が最も重要だと強調しています。貨幣は人類最大級の発明であり、その進化スピードは時代を下るほど加速しています。
- コインの誕生:約3000年前
- 紙幣の普及:約500年前
- クレジットカード誕生:約70〜80年前
- インターネットバンキング:約25年前
- 仮想通貨:約15年前
時間が経つほど、次の金融技術への移行期間が短くなり、社会全体の“変化の速度”が急激に高まっています。価値の保存手段としての通貨が揺らぎ始めている今、世界中で資産の移動が起きているのです。
ゴールド高騰と脱ドルの本質:グレシャムの法則が再び動き始めた
現在の金高騰の背景には「グレシャムの法則(悪貨が良貨を駆逐する)」が働いていると指摘されます。
ローマ帝国末期に起きた“通貨の劣化”
ローマ帝国は軍事費膨張で財政が悪化し、コインに含まれる金・銀の量を減らしました。その結果、価値の高い古いコインは市場から消え、価値の劣るコインだけが流通するようになりました。
現代でも同じ現象が起きています。
アメリカはリーマンショック以降、量的緩和で莫大なドルを市場に供給し続けました。その結果、ドルの実質価値が低下し、人々は「価値があるうちにドルを手放そう」と考え、金・株・不動産などへ資金を移し替えています。
中央銀行の金購入が“異常に増えている”
過去3年間、各国中央銀行による金の購入量は、直前10年間の平均の約2倍に達しています。これは単なる投資ではなく、ドル基軸体制への不安を反映した動きです。
アメリカの財政危機:38兆ドルの債務と軍事力の限界
アメリカの国家債務は38兆ドルに膨らみ、利払いだけで年間1兆ドルを超えています。これは税収の20%以上が利払いに消えることを意味し、国家の持続性そのものを揺るがします。
本来、ドルの信認を支えてきたのは以下の2点です。
- 世界最大の経済規模
- 世界の貿易ルートを守る圧倒的な軍事力(米海軍)
特に米海軍は“世界の警察”として海の安全を守り、国際貿易を成り立たせる役割を担ってきました。この存在こそがドルの基軸通貨としての裏付けになっていました。
しかし財政悪化により、この軍事的プレゼンスを維持できるのか不透明になりつつあります。
トランプ外交がもたらす変化:アメリカは世界の警察を辞めるのか?
トランプ氏は「アメリカは世界に金を使いすぎている」と主張し、海外への関与を減らす政策を支持しています。しかし、世界の警察役を下りることは、同時にドルの強さを失うことにつながります。
エミン氏は次のように指摘します。
- 強いドルとアメリカの軍事力は“表裏一体”である
- 世界の警察を辞めた瞬間、ドルの信認が揺らぐ
- トランプ政権の後も“トランプ主義”はアメリカに残る
つまり短期的な政権交代ではなく、アメリカが構造的に内向きになり、国際秩序が大きく変わる可能性があるということです。
米中対立の行方:短期は中国有利だが、長期では双方にリスク
中国はレアアース供給や巨大市場を通じてアメリカへの影響力を強めています。バイデン政権は「静かな制裁」により着実に中国にダメージを与えていましたが、トランプ政権は派手な対立パフォーマンスを行い、中国がレアアースカードを切る事態を招きました。
しかし中国にも大きな構造問題があります。
- 不動産バブル崩壊によるデフレ
- 若年層の失業率上昇
- 人口減少
- リーダーシップの不透明化
米中双方が弱体化し、不安定化していることが、むしろ世界にとって“危険な環境”を生んでいます。
台湾有事の可能性:10年以内に起きるシナリオはあるのか
エミン氏は、台湾有事の確率は高くないとしつつも「十分あり得る」と述べています。特に「もし中国が行動するなら今の数年が最も可能性が高い」と指摘しました。
その理由は以下の通りです。
- 中国は長期的に国力が衰退する可能性がある
- アメリカは分断と財政問題で弱体化している
- トランプ政権なら中国と“ディール”が可能
- ロシア・ウクライナ戦争で見せたように、弱者側に厳しい政策を取る傾向がある
台湾有事が実際に起きるかどうかは不確実ですが、投資家・企業・国家にとってリスクシナリオとして常に想定しておく必要があります。
日本の課題:アメリカ依存からの脱却と自立した安全保障
アメリカの影響力が弱まる未来を前提にすると、日本は自ら防衛力を強化し“自立した国”として立ち回る必要があります。
- アメリカが急速に衰退しても対応できる体制
- 中国との緊張を抑えるだけの抑止力
- 経済・金融面での独立性の確保
エミン氏は「日本が自立すれば、中国は容易には手出しできない」と述べており、日本にとってはむしろ“歴史的チャンス”になり得る側面もあります。
まとめ
本記事では、金回帰、脱ドル、米中対立、トランプ外交、アメリカの財政問題、台湾有事、日本の安全保障という幅広いテーマを地政学的視点から整理しました。
世界は今、大きな構造転換期にあり、これまで当たり前とされてきた米国中心の秩序は揺らぎつつあります。ドルの信認低下と金価格の上昇はその象徴であり、米中対立や台湾情勢の不安定さは今後10年の国際環境を大きく左右します。
日本にとっては不安要素もありますが、一方で自立した国家戦略を築くチャンスでもあります。世界が大きく変わる今こそ、地政学的な視点から経済ニュースを読み解くことが、将来の投資判断や生活の安定につながるでしょう。


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