成功した投資家など「まぐれ」運を実力と勘違いする人たち

今回ご紹介するのは、ナシーム・ニコラス・タレブ氏の著書「まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」についての動画です。

タレブ氏は、「ブラック・スワン」などの著書で知られ、独自の視点からリスクや不確実性についての考察を展開してきました。この本もその一環であり、特に「まぐれ」の要素がいかに投資の世界で過大評価されているかについて鋭く切り込んでいます。

著:ナシーム・ニコラス・タレブ, 翻訳:望月 衛
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目次

投資家の実力と「まぐれ」

本書の中でタレブ氏は、「本当に実力のある投資家は少ないが、運が良ければ誰でもウォーレン・バフェット並みの成績を上げられる」と述べています。

これは、運がもたらす一時的な成功を実力と勘違いすることの危険性を指摘しているのです。例えば、1000人の投資家がいた場合、その中の一人が偶然にも素晴らしい成績を収めることがあります。

しかし、それが実力ではなく、単なる「まぐれ」である可能性も大いにあります。

タレブ氏はまた、「隣の億万長者」という本を痛烈に批判しています。

この本は、億万長者の特徴を研究し、質素で地味な生活が成功の秘訣であるとしていますが、タレブ氏はこれに対し、「成功した人だけに焦点を当てているため、同じような生活をしていても成功しなかった人たちの存在が無視されている」と指摘します。

これは「生存者バイアス」と呼ばれるもので、成功例だけを見て全体を判断してしまう誤りを示しています。

ソロンの戒めとロシアンルーレットの例

本書の第一部では、「ソロンの戒め」という逸話が紹介されています。

これは、今成功している投資家が未来も必ず成功するとは限らないという教訓を伝える話です。

ソロンというギリシャ時代の政治家が、豪華な生活をしているリディアの王に対して、成功が永続するわけではないと冷静に述べたエピソードです。

過去の成功が未来の成功を保証するわけではないということを、私たちはしばしば忘れてしまいます。

また、タレブ氏はロシアンルーレットの例を使って、リスクの認識の甘さについて説明しています。

ロシアンルーレットは、6発の銃弾のうち1発だけが実弾で、残りは空砲という危険なゲームです。

確率的には5/6の確率で助かることになりますが、死の危険があるにも関わらず、多くの人はそのリスクを過小評価してしまいます。

投資の世界でも同様に、「今まで暴落したことがないから、今後も大丈夫だ」という安易な考えが多くの投資家に存在します。しかし、過去に経験がないことが未来に起こらない保証にはならないのです。

ブラックスワンと生存者バイアス

「ブラックスワン」とは、非常に稀で予測不可能な出来事を指します。

タレブ氏は、これを過小評価してはいけないと警告しています。

例えば、金融市場においては、過去に例がない暴落が突然起こる可能性があります。このようなブラックスワンが現れると、人々は後付けで理論を作り、予測が可能だったかのように考えがちです。

しかし、本当に重要なのは、そのような稀な出来事が起こり得るという事実を認識し、それに備えることです。

第二部では、「タイプライターの前に座ったサル」の例が出てきます。

無数のサルにタイプライターを叩かせた場合、偶然にも一匹が素晴らしい文章を書けるかもしれません。

しかし、それはあくまで偶然の産物であり、そこに実力はありません。

それでも、その一匹だけに注目してしまうことが「生存者バイアス」の典型です。投資の世界でも、成功した少数の事例だけを見て、それが一般的なルールであると誤解してしまうことがよくあります。

非合理的な人間の行動

本書の第三部では、人間がいかにノイズ(無意味な情報)に騙されやすいかについても言及されています。

人間は無意味な情報を意味のあるサインと勘違いし、誤った行動を取ってしまうことがよくあります。

また、過去の出来事に理由付けをしてしまう「それ見たことかヒューリスティック」という思考パターンも取り上げられています。これにより、人々は偶然の要素を無視し、自分の成功や失敗に無理やり意味を見出そうとします。

タレブ氏は、自分自身もこのような非合理的な行動をしてしまう人間であると認めています。

しかし、その違いは、自分が間違いを犯しやすいことを自覚し、それを理解しようとする姿勢にあると言います。投資においては、偶然と実力を区別し、自分の限界を認識することが非常に重要です。

まとめ

「まぐれ」は、投資の世界における「運」と「実力」の境界線を探る非常に示唆に富んだ一冊です。

成功した時にそれを自分の実力と勘違いし、失敗した時には運が悪かったと思ってしまう人間の心理を鋭く描いています。本書は非常に読みづらい部分もありますが、その内容は深く考えさせられるものばかりです。

初心者からベテラン投資家まで、投資に関心のある方には一読をお勧めします。

著:ナシーム・ニコラス・タレブ, 翻訳:望月 衛
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知っておきたい専門用語集

  • ブラックスワン:非常に稀で予測が難しく、発生すると大きな影響を与える出来事を指す。予測が困難で、発生後にその出来事に対して後付けで説明がなされることが多い。
  • 生存者バイアス:成功した事例だけを見て全体を判断してしまう誤り。失敗した事例が無視されるため、成功が容易に達成できるものと誤解されることが多い。
  • ソロンの戒め:今成功しているからといって未来も同じように成功するとは限らないという教訓。ギリシャ時代の政治家ソロンが豪華な生活を送る王に対して述べた言葉に由来。
  • ロシアンルーレット:6発中1発が実弾の銃で行うゲーム。リスクの認識が甘いことや、一部のリスクが無視されることで重大な結果を招くことの例えとして使われる。
  • それ見たことかヒューリスティック:何かが起こった後に「やっぱりそうだった」と後から理由付けを行う思考パターン。人間は偶然を無視し、出来事に意味を見出そうとする傾向が強い。
  • ノイズ:無意味な情報を指す。人間はノイズを重要なサインと勘違いしてしまい、誤った判断や行動を取ることがある。
  • 帰納法的考え方:過去の経験や事例から一般的な結論を導き出す思考法。ただし、1つでも例外が現れるとその結論が覆されるという欠陥がある。
  • 確率の低いまぐれ:偶然により極めて低い確率で成功すること。しかし、それを実力と勘違いしてしまうことが多い。
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