家族間のお金移動と配当の受け取り方で課税リスクが高まります
結論
新NISAは強力な非課税制度ですが、非課税になるのは原則として配当や売却益に関する「所得税と住民税」です。
家族間の資金移動で生じる贈与税や、外貨で受け取った配当を円転するときの為替差益、国内株の配当受け取り方式の設定ミスなどは非課税の対象外になり、後から課税・追徴のリスクがあります。
税務当局はAIで取引データを横断照合しており、件数は減っても一件あたりの追徴額が増えています。落とし穴を知り、設定と記録を整えることが最大の防御になります。
なぜ今、税務リスクが高まっているのか
・税務当局はAIを活用して高リスク案件を抽出しています
・税務調査件数は減少傾向でも、追徴課税額は増加しています
・証券会社の取引データ、銀行入出金、過去の申告情報などが横断的に分析されます
・「今までは大丈夫だった」は通用しにくい時代になっています
落とし穴その一
夫婦間の投資資金で贈与税が発生する可能性があります
よくあるケース
夫の給与を妻名義の口座に振り替え、妻の新NISAで投資し大きく増えた、という事例です。NISAの運用益は非課税でも、そもそもの投資元本の移動が贈与に当たると見なされると、贈与税の対象になり得ます。
・民法では各人名義で得た財産は原則「特有財産」です
・生活費や教育費は非課税になりやすい一方、投資資金の移動は贈与と判断されやすいです
・年間110万円の基礎控除を超える資金移動は課税リスクが高まります
数字で理解するミニ例
投資元本300万円を妻口座へ移し、そのまま妻の新NISAで投資した場合
・基礎控除110万円を差し引いた190万円部分に贈与税の可能性があります
・元本が1000万円規模だと税額も対応コストも一気に重くなります
対策
・生活費や教育費と投資資金を明確に分けて管理します
・夫婦間で資金移動をする場合は、年間110万円の範囲を意識します
・必要に応じて贈与契約書を作成し、振込履歴や目的を記録に残します
・大口や継続的な資金移動は、税理士へ事前相談すると安心です
落とし穴その二
米国株や米国ETFの配当を外貨で受け取り、後で円転すると為替差益が課税されます
新NISA口座でも、外貨配当をドルで受け取り、のちに円転するときに生じる為替差益は「雑所得」として課税対象になります。非課税なのは配当そのものの部分であり、為替差益は対象外です。
数字で理解するミニ例
・受け取り時1ドル120円で5000ドル配当入金=約60万円
・数年後1ドル160円で円転=約80万円
・差額20万円が雑所得として課税対象になります
対策
・為替差益リスクと申告の手間を避けたい場合は、配当の受け取り通貨を円に設定します
・ドル受け取りを選ぶ場合は、円転時に雑所得が発生し得る前提で、確定申告の準備をします
・年間取引報告書や入出金履歴を保管し、計算根拠を残します
落とし穴その三
国内株の配当受け取り方式を間違えると、NISA非課税が適用されません
国内株式の配当には受け取り方式がいくつかありますが、新NISAで非課税が適用されるのは「株式比例配分方式」だけです。他方式のままだと課税されます。
配当受け取り方式の一覧
方式 | NISA非課税適用 | 概要 |
---|---|---|
株式比例配分方式 | 適用されます | 保有口座に比例配分で入金。NISAの非課税扱いになります |
配当金領収証方式 | 適用されません | 郵送の領収証で受け取り |
登録配当金受取口座方式 | 適用されません | 事前登録口座に一括入金 |
個別銘柄指定方式 | 適用されません | 銘柄ごとに受け取り方法を指定 |
主要ネット証券での確認ポイント
・証券口座にログインし、配当受け取りサービスの設定画面で「株式比例配分方式」になっているかを確認します
・設定変更後は、念のため年間取引報告書でも反映状況を確認します
こうすれば安心です
三つの基本ステップ
1 申告が必要になる可能性のあるケースを把握します
・家族間の投資資金の移動
・外貨配当の円転による為替差益
・国内株の配当受け取り方式の設定ミス
2 資金と口座を整理します
・生活費、教育費、投資資金を区分します
・家族間の資金移動は金額、目的、日付、振込経路を記録します
・新NISAは人ごと、口座ごとの制度です。名義と資金の整合性を意識します
3 記録と確認を徹底します
・年間取引報告書、配当受け取り設定、外貨建て明細を毎年確認します
・設定変更や大口移動があればメモやファイルで根拠を残します
・疑問点は早めに税理士へ相談します
家族で合意を可視化します
トラブル予防のひな型イメージ
・誰がいくら、どの口座へ、何の目的で移したのか
・贈与であれば金額、日付、贈与者と受贈者、目的を簡潔に明記
・生活費や教育費としての支出である場合は、領収や用途が分かるメモを添付
・電子でも紙でもよいので、後から第三者が見ても分かる形で保存します
まとめ
・新NISAは非課税ですが、全ての税が無条件でゼロになるわけではありません
・家族間の投資資金の移動は、贈与税の対象になり得ます
・米国株や米国ETFの外貨配当を円転するときの為替差益は雑所得として課税されます
・国内株の配当は「株式比例配分方式」で受け取らないとNISA非課税になりません
・税務当局はAIで高リスク案件を効率的に抽出しています。設定と記録を整え、必要に応じて専門家へ相談することが最善の防衛策です
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