このブログは元動画「【日本経済】長期金利1.8%!金融機関の超長期債含み損アップデート!ここまでくるとまずいライン!」のタイトルと内容を基に作成しています。
結論:長期金利の上昇で「30年・40年国債」の価格が大きく崩れ、生命保険会社は原損計上か“数十年の塩漬け”かの厳しい選択を迫られつつある
最初に結論から整理すると、ポイントは次の通りです。
- 10年国債利回りは1.8%台だが、20年・30年・40年の超長期国債は2.8〜3.7%前後まで上昇している
- 金利が上がると債券価格は下がるが、「超長期」であればあるほど値動きが大きくなり、2020年前後に発行された40年国債は発行価格の約57%も値下がりしている
- 30年国債でも、2019〜2022年発行分のほぼ全てが価格60を割り込み、中には50台前半まで落ち込んだ銘柄も出てきている
- 債券価格が発行時から50%以上下落すると、生命保険会社などは「原損」として損失を決算に計上するか、「満期まで売りません」と宣言して数十年単位で塩漬けにするかを選ばなければならない
- 特に30年国債は発行残高が約30兆円規模と巨大で、多くの生命保険会社が大量に保有しているため、価格が50を割ってくると業界全体に与えるインパクトが非常に大きくなる
- 現在、30年国債利回りは約3.38%だが、これが3.5〜3.7%程度まで上がると「多くの30年国債が価格50割れ」という危険ゾーンに入る可能性があり、その前に日銀がオペ増額などで利回りを抑えに動くと考えられる
つまり、「10年金利1.8%」という数字だけを見ると大したことがないように感じるかもしれませんが、その裏で30年・40年の超長期国債が大きく値下がりし、生命保険会社のバランスシートをじわじわと追い込んでいる、ここが今回の一番のポイントです。
日本の長期金利はいまどこまで上がっているのか
まずは足元の金利水準を整理しておきます。動画で取り上げられているのは2024年11月20日時点の状況です。
10年・20年・30年・40年国債の利回り
動画の時点での代表的な利回りは次の通りです。
- 10年国債利回り
約1.8%台 - 20年国債利回り
約2.85% - 30年国債利回り
約3.385% - 40年国債利回り
約3.74%
10年だけ見れば「ようやく1%台後半か」といった印象ですが、30年・40年になると3%台半ば〜後半まで上昇しており、超長期ゾーンでは日本もかなり高い金利水準になってきていることが分かります。
海外(米国・ドイツ)の長期金利との比較
長期金利の高さをイメージしやすくするため、海外との比較も紹介されていました。
- アメリカの30年国債利回り
約4.75% - ドイツの30年国債利回り
約3.3%
これと比較すると、日本の30年国債利回り3.385%はドイツよりやや高い水準です。かつての「日本は圧倒的な低金利」という時代からは、かなり様相が変わってきていることが分かります。
なぜ2020年前後に発行された超長期国債が一番ひどく下がっているのか
次に、「どの銘柄が一番値下がりしているのか」を見ていきます。動画で強調されていたのは「2020年前後に発行された超長期国債が最も価格下落が大きい」という点です。
マイナス金利・YCC・コロナ禍という“超低金利セット”の時代
2020年前後は、次のような状況が重なっていました。
- 日銀がマイナス金利とイールドカーブコントロール(YCC)を継続していた
- コロナショックが発生し、景気の先行きが極めて不透明だった
- 「当面金利は上がらないだろう」という見方が市場のコンセンサスだった
この結果、長期・超長期の国債に対しても強い低下圧力がかかり、「ごく低い利回りで30年・40年という長い期間の国債が発行された」時期がちょうど2020年前後だったわけです。
クーポンが低い債券ほど、あとで大きくやられる
債券価格は、ざっくり言うと「将来受け取る利息(クーポン)+満期時の償還金」を、現在の金利で割り引いたものです。
そのため、元々のクーポンが低い債券ほど、あとから金利が上がったときに価格が大きく下がります。
2020年前後に発行された30年・40年国債は、まさに「史上級にクーポンが低い超長期債」だったため、現在の金利上昇局面で最も大きな打撃を受けている、という構図になっています。
実際いくら下がったのか?40年・30年国債の具体的な価格
ここからは、具体的な銘柄と数字で見ていきます。
40年13回債(2060年3月償還)のケース
動画で取り上げられていたのが「2020年発行の40年13回債」です。
- 種類
40年国債 第13回債(2060年3月償還) - 発行時価格
額面100 - 2024年11月19日時点の価格
42.97
「100で発行されたものが42.97」まで下がっているので、およそ57%も値下がりしている計算になります。2020年に発行された国債の中では、この40年13回債が最も価格下落が大きいと紹介されています。
30年66回債(2050年3月償還)のケース
30年国債でも同じような現象が起きています。
- 種類
30年国債 第66回債(2050年3月償還) - 2024年11月時点の価格
53.94
この銘柄も発行価格100から約46%の値下がりです。
2019〜2022年発行の30年国債はほぼ全て「価格60割れ」
さらにショッキングなのは、2019年3月〜2022年3月までに発行された30年国債(62回〜74回債)についてです。
- 30年62回債〜74回債
価格60を割り込んでいる銘柄が13本
2019〜2022年発行の30年債は全て60割れの状況
2024年6月時点では、「30年国債で60割れしている銘柄は1本もなかった」と解説されていました。それが、11月時点では13本が60割れ。半年ほどの間に、超長期ゾーンの価格下落が一気に進んだことが分かります。
売買参考統計値とは何か?債券価格の“影の基準”
こうした価格は「売買参考統計値」と呼ばれるデータから参照されています。これは、証券業協会が毎日公表している指標です。
- 国債は300銘柄以上あるが、毎日すべてが実際に取引されているわけではない
- しかし、投資家は保有している全ての債券の価値を毎日評価する必要がある
- そこで、実際に取引された銘柄の利回りからイールドカーブを推計し、取引がなかった銘柄についても「参考価格」を計算して公表している
この参考価格があることで、金融機関は毎日の「評価損益」を計算できるようになっています。動画で取り上げられている40年13回債や30年66回債の価格も、この売買参考統計値を基にしています。
含み損が「原損」に変わる危険ラインはどこか
ここからが本題です。単に「価格が下がっている」というだけなら、含み損として我慢していれば済む話にも見えます。しかし、生命保険会社の場合、あるラインを超えると「含み損」が「原損」という“現実の損失”に変わってしまいます。
通常の会計処理:含み損は決算に出てこない
生命保険会社などの金融機関が債券を保有する場合、一般的には次のような会計処理になります。
- 債券を「簿価」(取得価格)で貸借対照表に計上
- 市場価格が下がっても、その分を即座に損失計上しない
- 含み損はあくまで「含み」であり、決算書には反映されない
この状態であれば、評価損が膨らんでも「見た目の利益」は守られます。
価格が50%以上下がると「一時的な下落」とは言えない
問題は、「価格の下落が著しい」と判断される場合です。国債の場合、「発行時から50%以上の価格下落」が一つの基準になります。
- 価格が50%以上下落
一時的な価格変動ではなく、もはや「回復が見込めないレベルの下落」とみなされる - この場合、「原損処理」を行い、含み損を損失として決算に計上する必要が出てくる
国債の場合は、満期まで持ち続ければ額面100で償還されるため、本来なら「最終的には戻ってくる」と言えます。しかし、その場合は次のような前提が必要です。
- 満期まで20年・30年売らない
- 「最後まで保有する」と会社として宣言する
つまり、価格が50を大きく割り込んできた国債については、「原損を計上するか」「数十年間塩漬けにするか」を選ばないといけない状況に追い込まれるわけです。
40年国債と30年国債、どちらがより問題か
ここで、40年と30年の違いも押さえておきましょう。
40年国債:発行量は比較的少ないが、すでに50割れ
40年国債については、そもそもの発行量がそこまで多くありません。
- 2020年前後の40年国債
1回の入札で約6000億円
年間で約3.6兆円規模
さらに、40年債を大量に買う投資家は限られており、主な保有者は次のようなところです。
- カタカナ系生命保険会社
- 外資系・グループ系の生命保険会社
つまり、「保有者の範囲は比較的限られているが、その一部にとってはかなり重たい爆弾になっている」というイメージです。
30年国債:発行量が桁違いで、ほぼ全ての生保が大量保有
一方、30年国債は規模感がまるで違います。
- 2019〜2022年に発行された30年国債(62〜74回債)の合計発行額
約30兆円
この30兆円すべてが生命保険会社の保有ではありませんが、次のような構図があります。
- 日銀も一定量を保有
- 超長期ゾーンは、海外投資家(とくに外国人長期投資家)もかなり保有
- それでも「ほぼ全ての生命保険会社が大量に持っている」と考えられるのが30年ゾーン
40年債は「持っているプレイヤーは少ないが痛みは大きい」のに対して、30年債は「多くのプレイヤーが広く薄く、しかし合計すると巨大なリスクを抱えている」状態と言えます。
なぜ生命保険会社が一番リスクを抱えているのか
超長期国債を持っているのは、生命保険会社と年金基金が中心です。ただし、この2者では会計処理のルールが違います。
年金基金:時価評価なので、そもそも「原損」という概念がない
年金基金は保有資産を原則「時価評価」します。
- 時価で評価しているため、価格が50になろうが40になろうが、その時点での評価額がそのまま反映される
- 「簿価100のまま、原損を計上するかどうか悩む」という発想がそもそも存在しない
そのため、長期国債の含み損問題は、主に生命保険会社の問題として語られている、というわけです。
生命保険会社:原損か長期塩漬けかの二択
生命保険会社は、債券を簿価で計上することが多く、「価格が50を割り込んできたらどうするか」という問題に直面します。
- 原損として損失を計上する
当期の利益を一気に押し下げ、自己資本比率などにも影響が出る - 満期まで保有すると宣言し、長期塩漬けにする
利回りの低い債券を数十年間抱え続けることになり、その間の収益力は抑え込まれる
どちらを選んでも経営的には苦しい選択になるため、「30年債の価格が50を割るかどうか」は、生保業界にとって一つの“まずいライン”になっている、というわけです。
金利がさらに上がったら何が起こる?日銀が動くとしたらどこか
では、この先金利がさらに上がるとどうなるのでしょうか。
30年国債利回り3.5〜3.7%が“本当にまずいゾーン”
動画では、次のようなイメージが語られています。
- 現状の30年国債利回り
約3.385% - これが3.5%、3.6%、3.7%あたりまで上昇
- すると、2019〜2022年発行の30年債の多くが価格50割れに入ってくる可能性が高い
30年国債は発行残高が約30兆円規模であり、その多くを生命保険会社が保有していると考えられるため、「多くの30年債が50割れ」=「多くの生命保険会社が原損か長期塩漬けを迫られる」という構図になります。ここまで行くと、個別企業の問題を超えて、「日本の生命保険業界全体に波及するリスク」になってきます。
日銀が動くとしたら、OP増額などで長期金利を抑えにかかる
こうした背景から、動画では次のような見通しが示されています。
- 30年国債利回りが3.5〜3.7%に近づく前に、日銀が何らかの対応に動く可能性が高い
- 具体的には、オペレーション(国債買い入れオペ)を増額し、長期〜超長期ゾーンの利回り上昇を抑制する方向に動くと考えられる
つまり、日銀としても、「10年金利1.8%」そのものよりも、「30年・40年の価格暴落による金融システムへの悪影響」を重く見ざるを得ない段階に来ている、という見方です。
個人としてどう捉えればいいか:金利上昇は“プラスとマイナス”の両面を見る
動画の締めくくりでは、「高市政権での経済対策などの期待が膨らむ一方で、その裏で起きているマイナス面として超長期国債の含み損問題がある」とまとめていました。個人としてこの状況をどう見ればいいか、整理すると次のような感じになります。
- 円安・金利上昇には、輸入物価上昇や住宅ローン金利上昇などのマイナス面がある一方で、定期預金や個人向け国債の利率上昇といったプラス面もある
- しかし、超長期金利が上がりすぎると、生命保険会社が抱える超長期国債の含み損が“見過ごせないレベル”に膨らみ、原損計上や収益力低下を通じて金融システム全体に影響する可能性がある
- 特に30年国債の利回りが3.5〜3.7%に近づいてくる局面では、「日銀がどう動くか」「生保各社がどう決算を出してくるか」を注視する必要がある
今回の動画は、「長期金利1.8%」という一見小さな数字の裏側で、「2020年前後に発行された30年・40年国債がどれだけ値崩れしているか」「それが生命保険会社のバランスシートにどう跳ね返るか」を、具体的な銘柄名と価格を使って丁寧に解説してくれた内容でした。表向きのニュースでは「10年金利1.8%」や「円安157円」といった見出しばかりが目立ちますが、その影で起きている超長期ゾーンの価格崩壊と、生保の原損リスクという“まずいライン”にも、ぜひ一度目を向けておくと良いと思います。


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