英国経済は本当に復活へ向かっているのか?JPモルガンとゴールドマンの大型投資発表の真相を解説

本記事は、YouTube動画『【英国経済】投資銀行大手が次々に英国への投資を発表!JPモルガンはロンドン新オフィス!GSはバーミンガム拠点人員を倍増!』の内容を基に構成しています。

目次

導入:ロンドンとバーミンガムに相次ぐ「朗報」はどこまでポジティブか

2024年11月27日、イギリスで大手投資銀行による大きな投資計画が相次いで発表されました。
1つは、アメリカの金融大手JPモルガン・チェースがロンドンのカナリー・ワーフに新たな大規模オフィスビルを建設するというもの。


もう1つは、ゴールドマン・サックスが財政破綻状態にある都市バーミンガムの拠点を大幅に拡充し、人員を倍増させるというニュースです。

一見すると「英国経済復活の兆し」のようにも見えるこれらの動きですが、動画ではその背景にある政治・財政・金融政策の思惑、そしてイギリス経済全体への影響について冷静に分析しています。

本記事では、

  • JPモルガンのロンドン新オフィス計画
  • ゴールドマン・サックスのバーミンガム拠点拡大
  • スターマー政権の税制・ISA改革との関係
  • それでも英国経済全体の低迷は続くと考えられる理由

を、初心者にも分かりやすく整理して解説します。

背景:カナリー・ワーフとバーミンガムが抱える「栄光」と「衰退」

カナリー・ワーフ:大英帝国の物流拠点から金融街へ、そして空室問題へ

JPモルガンの新オフィスが建設されるのは、ロンドンのシティではなく、「もう1つの金融街」と呼ばれるカナリー・ワーフです。

カナリー・ワーフはもともとテムズ川沿いの埠頭エリアで、大航海時代以降、貿易と物流の拠点として栄えてきました。しかし、第2次世界大戦後に貿易構造が変化し、コンテナ船の台頭などもあって、従来型の港湾は急速に衰退していきます。

この衰退した港湾地区を再生するため、1980年代〜1990年代にかけてイギリス政府は大規模な再開発を行い、近代的な高層オフィスビルが立ち並ぶ金融街として「カナリー・ワーフ」を生まれ変わらせました。

当時は金融ビジネスが拡大を続けていた時代で、

  • ロンドンの中心部にある「シティ」は歴史的な街並みが多く、大型オフィスビルの供給が難しい
  • そのため、広大な敷地を持つカナリー・ワーフにHSBC、バークレイズなどの大手銀行が次々と拠点を構えた

という経緯があります。
雰囲気としては、動画内では「東京で言えば新宿のようなイメージ」と説明されています。

しかしその後、状況は大きく変わります。

  • EU離脱(ブレグジット)の影響でロンドンの金融センターとしての地位に陰りが出た
  • コロナ禍を契機にリモートワークが広がり、大型オフィスの需要自体が落ち込んだ
  • その結果、ロンドンでは商業用不動産の空室が目立ち始め、金融機関の中には「シティにオフィスが空くならそちらに戻る」動きも出てきた

こうして2020年前後から、カナリー・ワーフでは空室が増え、「もう終わったのではないか」とささやかれるようになりました。
そのため、大学や研究機関、IT企業など金融以外の企業を誘致して、街の機能を多様化しようとする動きも進んでいます。

バーミンガム:工業都市から財政破綻都市へ、それでも再生を目指す町

一方、ゴールドマン・サックスの拠点拡大が発表されたバーミンガムは、イギリス第2の都市です。歴史的には工業都市として栄えましたが、その後、産業構造の変化の中で衰退し、近年は財政破綻状態に陥っていることで知られています。

しかし、バーミンガムも単に衰退しているだけではなく、「もう一度魅力的な都市を取り戻そう」という取り組みを続けています。
その一環として、

  • テクノロジー企業
  • スタートアップ企業

の誘致に力を入れ、イノベーションと新たな雇用創出を目指しているのが現状です。

ゴールドマン・サックスは、こうしたテック・スタートアップへの資金供給や資本市場での資金調達支援を強化する目的で、2021年にバーミンガムに初の拠点を設置しました。今回の拠点拡大は、その動きをさらに一歩前進させるものとなります。

動画内容の詳細解説:JPモルガンとゴールドマンの投資計画の中身

JPモルガン:ロンドン・カナリー・ワーフに巨大オフィスビルを新設

まず取り上げられているのが、JPモルガン・チェースのロンドン新オフィス計画です。

  • 場所:ロンドン東部の金融街カナリー・ワーフ
  • 延床面積:約278,700平方メートル
  • 最大収容人数:約12,000人

規模感をイメージしやすくするために、動画では日本の代表的な高層ビルと比較が行われています。

  • 六本木ヒルズ 森タワーより少し小さい
  • 虎ノ門ヒルズ 森タワーよりは少し大きい

という説明からも、相当な規模のオフィスであることが分かります。

さらに、JPモルガンは最近ニューヨーク本社ビルの建て替えも行っており、こちらは

  • 約60階建て
  • 高さ約423メートル
  • 1万人超の社員が働ける規模
  • 内装も非常に豪華な仕様

とされています。ニューヨーク新本社ビルの延床面積は約230,000平方メートルとされており、それと比較するとロンドン新オフィスはさらに広い計画ということになります。

では、なぜJPモルガンは、ここまで積極的に自社オフィスの建て替え・新設を進めているのでしょうか。

動画では、主な理由として次の点が挙げられています。

  • 元々のビルが老朽化しているという物理的な問題
  • 富裕層や企業経営者を相手にするビジネスにおいて、「豪華なオフィス」を持つこと自体がブランド戦略になっている
  • 投資銀行業務では、企業による巨大M&A(買収・合併)が増えており、そうした大型案件を扱うプレイヤーとしての「格」を建物でも示したい
  • 個人向けサービスも、超富裕層向けのウェルス・マネジメントが増えており、そうした顧客と関係を築く上で、貧弱なオフィスでは説得力に欠ける

つまり、オフィスビルは単なる「働く場所」ではなく、

  • 富裕層顧客をもてなすための「ショールーム」
  • 企業ブランドとステータスを視覚的に示す「広告塔」

という役割も担っているということです。

また、カナリー・ワーフについては、「空室が増え、オワコンではないか」と言われてきただけに、今回の新オフィス計画は、

  • イギリス政府
  • カナリー・ワーフの不動産を運営する企業

にとっても大きな朗報となっています。

ゴールドマン・サックス:バーミンガム拠点を倍増、AI・デジタル投資も本格化

続いて取り上げられるのが、ゴールドマン・サックスによるバーミンガム拠点の拡大です。
11月27日、同社はイギリス第2の都市バーミンガムの拠点について、次のような計画を発表しました。

  • 現在の従業員数:約500人
  • 今後の増員計画:さらに約500人を追加し、合計1,000人規模へ倍増

500人増員というのは、1つの都市の拠点としてはかなり大きな拡張であり、バーミンガムの雇用や地域経済にとってもプラス要因です。

ただし、今回の拡大は単に「バーミンガムのテック企業への金融サービスを強化する」だけが目的ではないと動画は指摘します。

発表の中では、AIやデジタルインフラへの投資として「数十億ポンド規模」の設備投資を行う計画も示されています。

ゴールドマン・サックスはすでにインド拠点で、

  • 顧客向けの取引プラットフォーム開発
  • AIやデジタル関連のシステム投資

を進めており、社員の約2割がインド人になっていると解説されています。しかし、最近はアメリカにおけるビザの問題などから、「インド人をアメリカで採用することが難しくなっている」とも言われています。

このような背景もあり、

  • 技術人材を確保しやすく
  • 時差や文化面でも欧州との相性が良い

イギリス・バーミンガムに目を付けた可能性があると動画は推測しています。

テック企業やスタートアップが集まりつつあるバーミンガムにおいて、

  • 企業への融資
  • 資本市場からの資金調達支援
  • AI・デジタルを活用した新たな金融サービスの開発

を同時に進めていく拠点として、ゴールドマンが本格的な投資を行うという構図です。

英国政府の思惑:スターマー政権の増税・ISA改革と金融業界の「バーター取引」の可能性

では、なぜこれらの投資計画が「ほぼ同じタイミング(11月27日)」で発表されたのでしょうか。
動画では、その背景に「スターマー政権の財政・税制政策」があるのではないかと分析しています。

スターマー政権の増税・予算計画と金融課税強化案

11月26日、スターマー政権は増税および予算計画を発表しました。
その中には、「イギリス経済を支える金融業界に対しても課税を強化する案が検討されていた」と報じられています。

金融機関側から見ると、当然ながらこれは「何としても避けたいシナリオ」です。
しかし、最終的にこの「金融業界への本格的な増税」は実施されませんでした。

その一方で、発表された内容の中には、金融機関にとって「むしろおいしい話」も含まれていました。

ISA改革:預金からリスク資産への資金シフトを促す設計

今回の発表で注目された点の1つが、「ISA(Individual Savings Account)」に関する変更です。
ISAは、日本のNISAに近い制度で、

  • 利子や配当、値上がり益に対して非課税となる
  • 預金も対象に含まれている

という特徴があります。
ただし、預金と投資でそれぞれ利用できる非課税枠には上限が設けられており、今回の発表では「預金に使える枠の上限」が引き下げられることになりました。

これは、政権としては次のようなメッセージを込めた政策だと解釈できます。

  • 家計資金を預金に寝かせておくのではなく、
  • 株式や投資信託など、リスク資産への投資に振り向けてほしい

一方で、金融機関にとっては、

  • 預金よりも投資商品の方が手数料ビジネスの余地が大きい
  • 顧客がISAの枠を使って投資商品を購入すれば、その分だけ収益機会が増える

という意味で、非常に好都合な制度変更です。

動画では、

  • 政府がISAの預金枠縮小という「金融機関に有利な制度変更」を行った
  • その見返りとして、金融機関側がイギリス国内での大型投資計画を発表した

という「バーター取引」のようなものがあった可能性を指摘しています。

もちろんこれはあくまで推測ですが、

  • 11月26日に政府の増税・予算計画発表
  • 11月27日にJPモルガンとゴールドマンによる大規模投資発表

というタイミングの近さを考えると、「事前の水面下のやり取りがあったのではないか」と見るのは自然な流れとも言えます。

追加解説:それでも英国経済全体の低迷は続くのか

動画の語り手は、今回の投資発表を「英国経済にとってプラスであることは間違いない」と認めつつも、「これでイギリス経済全体が一気に復活する」とは考えていません。

その理由として、次の点が挙げられています。

  • スターマー政権は、長引く景気低迷の中で、経済を本格的な成長軌道に戻すための大規模な成長投資を打てていない
  • 財政事情が厳しいため、「景気を押し上げるための積極財政」が取りづらい
  • その中で「金融機関に民間投資を促す」形を取っているが、それだけで国全体の成長を牽引するには規模が足りない

たとえJPモルガンやゴールドマン・サックスのような大手金融機関が数千人規模の投資を行ったとしても、

  • イギリス全体のGDP
  • 地方都市を含む雇用全体
  • 長期的な生産性向上

を大きく押し上げるには、まだまだ力不足という見立てです。

カナリー・ワーフが「かつての勢いを完全に取り戻す」ことも、
バーミンガムが「ヨーロッパ有数のテクノロジーハブとして大躍進する」ことも、
今回の発表だけで一気に実現するとは考えにくい、という冷静な評価が示されています。

動画の結論としては、

  • 今回の投資はポジティブなニュースではある
  • しかし、労働党政権下での英国経済の停滞は、しばらく続く可能性が高い

という慎重なスタンスが取られています。

まとめ:象徴的な「大型投資」と、その裏側の現実

今回の動画で語られていたポイントを整理すると、次のようにまとめることができます。

  • JPモルガンは、ロンドン・カナリー・ワーフに延べ約278,700平方メートル、最大約12,000人収容の新オフィスを建設予定で、これは同社のブランド戦略・富裕層ビジネス強化の一環でもある
  • ゴールドマン・サックスは、バーミンガム拠点を約500人から約1,000人へ倍増し、AI・デジタルインフラに数十億ポンド規模の投資を行う計画を発表した
  • 両者の発表は、スターマー政権による増税・予算計画、ISA改革とタイミングが重なっており、金融業界と政府の間に「暗黙のバーター」があった可能性がある
  • ISAの預金枠を縮小し、預金から投資へのシフトを促すことで、金融機関はより高い手数料ビジネスを展開できるようになる
  • 一方で、こうした投資や制度変更だけでは、長期的な英国経済の停滞を解消するには不十分であり、成長投資の不足という構造的な課題は残されたままである

JPモルガンやゴールドマン・サックスのような大手金融機関による投資は、ニュースとしてのインパクトが大きく、「イギリス経済復活」の象徴のように扱われがちです。しかし、その裏側には、

  • 政府の財政制約
  • 金融業界との利害調整
  • 地域ごとの構造的な衰退と再生の試み

といった、より複雑な現実があります。

今回のようなニュースを目にしたときには、「ポジティブなヘッドライン」だけでなく、

  • 誰が得をするのか
  • どの層にどの程度の恩恵があるのか
  • 国全体の成長にどこまでつながるのか

といった視点で捉えていくことが重要だと言えるでしょう。

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