高ROE株投資は本当に「おいしい」のか?失敗しないための3つのポイントとPBR1倍割れの本当の意味

本記事は、YouTube動画『【上級編】高ROE株投資で失敗しないための3つのポイント』の内容を基に構成しています。

目次

高ROE株=優良株という「神話」

株式投資の世界では、ROE(自己資本利益率)が高い企業は「効率よく利益を稼いでいる優良企業」として、しばしば投資家から脚光を浴びます。投資本や解説記事でも「高ROE銘柄を買え」といったフレーズはよく見かけるところです。

しかし、動画で紹介されている内容は、こうした単純な「高ROE神話」に冷静な疑問を投げかけるものでした。
結論から言うと、「高ROE株だからといって、そのまま高いリターンが得られるわけではない」という現実が、学術研究や日本株のデータからも確認されているという話です。

ここでは、なぜ高ROE株投資が思ったほど儲からないのか、その理由を3つのポイントに整理しながら、PBR1倍割れの本当の意味や、高ROEを持続させやすい企業の条件まで丁寧に解説していきます。

 

ROEとは何か、なぜ投資家に好まれるのか

まず前提として、ROEとは何かを簡単に整理しておきます。

ROE(Return on Equity)は「自己資本利益率」と訳され、株主から預かった自己資本をどれだけ効率よく利益に変えているかを示す指標です。

ざっくり言えば、

・企業が持つ自己資本
・そこからどれだけの利益を稼ぎ出しているか

を表すもので、数字が高いほど「資本効率が良い=経営が上手い」と評価されやすくなります。

このため、多くの投資家やファンドは「ROEが高い企業=投資妙味がある企業」とみなし、高ROEランキングなどを参考に銘柄を選ぶことが少なくありません。ところが、実際のリターンのデータや、学術研究の結果をよく見ると、話はそれほど単純ではないことが分かります。

 

高ROE株が儲からない3つの理由

動画では、高ROE株が必ずしも投資家に高いリターンをもたらさない理由として、次の3点が挙げられていました。

  1. 高ROEはすでに株価に織り込み済みであること
  2. ROEには平均回帰(平均への引き寄せ)の力が働くこと
  3. ROEとPBRの関係が、リターンの見え方を歪めていること

順番に見ていきます。

 

理由1:高ROEは「すでに折り込み済み」

最初のポイントは、とてもシンプルです。
高ROEであるという情報は、もはや「周知の事実」であり、市場にとって目新しい情報ではない、という点です。

株式市場は「生き馬の目を抜く」と表現されるほど、情報の織り込みが速い世界です。

すでに実績ベースで高ROEである企業は、多くの投資家から注目され、結果として株価には「高ROEにふさわしい水準」が反映されていると考えるのが自然です。

つまり、

・高ROE銘柄だからといって「割安」とは限らない
・むしろ人気ゆえに、すでにかなり高い株価がついている場合も多い

ということになります。

この時点で、「高ROEだから買えば儲かる」という単純な発想は危ういことが分かります。

投資で重要なのは、「良い企業であること」ではなく、「良い企業に対して、今の株価が割安かどうか」です。高ROEは前者のヒントにはなりますが、後者の判断を省略してしまうと、期待したようなリターンが得られない可能性が高まります。

 

理由2:ROEには「平均回帰」の力が働く

2つ目の理由は、やや専門的ですが非常に重要なポイントです。
それは、ROEという指標には「平均回帰」の力が強く働く、という事実です。

世界的な研究でも確認されている平均回帰

ファイナンスの分野では有名なファーマ・フレンチの研究などをはじめ、競争的な市場環境では企業の収益性は平均に引き寄せられる、という結果が数多く示されています。

・上に行き過ぎた収益性(高ROE)は長続きしにくい
・下に行き過ぎた収益性(低ROE)も、時間とともに戻る傾向がある

つまり、「高ROEがずっと続く企業は少数派」であり、多くの企業はやがて平均的な水準に戻っていく、というのがデータ上の現実です。

日本市場でも、日興アセットマネジメントの吉野高明氏の研究(2019年〜2022年を対象とした分析)において、ROEの平均回帰が確認されています。この研究では、高ROE銘柄と低ROE銘柄のROE格差は、3年後には縮小しているケースが多いとされており、「平均回帰が基本状態」と結論づけられています。

一時的にモメンタム(勢い)が効く局面はあるものの、長期的には高ROEがずっと維持されるケースは少ない、ということです。

 

なぜROEは平均に戻ってしまうのか

では、なぜ高ROEは長続きしないのでしょうか。
その根本的な理由として、動画では「利益剰余金」の存在が説明されていました。

ROEの分母である自己資本の中には、利益剰余金が含まれます。利益剰余金とは、これまで企業が稼いできた利益を内部に蓄積したものです。毎年の純利益は、この利益剰余金に積み上がっていきます。

高ROEの企業は利益を出し続けるため、その利益を内部留保として貯めていくと、分母である自己資本(特に利益剰余金)がどんどん膨らんでいきます。

・自己資本が年々巨大化していく
・その巨大化した分母に見合うだけの利益を出し続けなければ、ROEは維持できない

という構図になります。

つまり、高ROEであること自体が、将来のROEを押し下げる圧力を生みやすい、というパラドックスが起こるわけです。高いROEを維持するためのハードルは、年を追うごとに高くなっていきます。

この構造的な理由から、「高ROE銘柄が高ROEのまま長期にわたって走り続ける」のはかなり難しいのです。

 

高ROEの持続性が乏しい=株価リターンも伸びにくい

高ROEそのものは、もちろん「良い状態」ではあります。しかし、問題はそれが持続するかどうかです。

ROEが高い水準から下がっていく局面では、企業価値評価も下振れしやすく、株価リターンは伸びにくくなります。


高ROE状態が長く続かないのであれば、「高ROEだから買う」という戦略は、長期的なパフォーマンスという観点では限界があると考えるのが自然です。

 

高ROEを維持しやすい企業の共通点

では、高ROEを比較的持続しやすい企業にはどのような特徴があるのでしょうか。
動画では、本で紹介されている内容や、吉野氏による「Gスコア戦略」なども踏まえながら、共通点が整理されていました。

大きくまとめると、次のようなポイントが重視されます。

  1. レバレッジ(借入)ではなく、事業の効率でROEを高めているか
  2. 売上高(トップライン)の成長率が高いか
  3. マージン(営業利益率)が高く、収益性が安定しているか

レバレッジをかけることでROEを高く見せることは可能ですが、その場合は景気変動に大きく振られやすくなります。逆に、ROA(総資産利益率)も高い企業であれば、借金頼みではなく、本業の効率で高ROEを実現していると考えられます。

吉野氏のGスコア戦略では、たとえば次のような条件が重視されていると紹介されています。

  • ROEだけでなくROAも高い(レバレッジ頼みではない)
  • 営業キャッシュフローベースのROAが高い(利益以上にキャッシュを稼いでいる)
  • ROAの分散が小さい(収益性が安定している)
  • 売上高成長率の分散が小さい(成長のブレが小さい)
  • 研究開発費が高い
  • 設備投資が高い
  • 広告宣伝費が高い

こうした特徴は、「将来の成長に向けた先行投資をしっかり行いながら、安定的に収益を上げている企業」と読むことができます。

単純に「今ROEが高い企業」を追いかけるのではなく、

・レバレッジに頼らず
・売上高成長と利益率の両面で強く
・かつ将来の成長に向けた投資も怠っていない

といった観点から銘柄を選ぶことが、高ROE戦略を現実的なものにするうえで重要だと考えられます。

 

理由3:ROEとPBRの関係が、リターンの見え方を歪める

3つ目のポイントは、ROEとPBRの関係に関するものです。

PBR(株価純資産倍率)は、一般に

PBR = PER × ROE

と分解して表すことができます。

低ROE銘柄は、しばしば低PBR銘柄としても分類されます。一方で、「低PBR銘柄は超過リターンを生みやすい」という統計データが、多くの研究で示されています。

この結果を組み合わせると、

・低ROE銘柄は、低PBRであるがゆえに、その後高いリターンを生んでいるように見える

という「見かけ上の効果」が発生します。本質的には「PBRが低い」ことがリターンに効いているのに、表面的には「低ROE銘柄の方が儲かっている」と見えてしまうわけです。

このように、ROE単体で銘柄を評価すると、PBRなど他の指標と絡み合った効果を取り違えてしまう危険があります。


動画では、「必ずしも高ROE銘柄が高リターンにつながるわけではなく、むしろ低PBR戦略の方が超過リターンに近い」という点が強調されていました。

 

山崎元氏の指摘:「大事なのは今のROEではなく、これからのROE」

動画では、過去の記事からの引用として、山崎元氏のコメントも紹介されていました。

要旨としては、

・現在ROEが高い会社が、今後も投資対象として有望とは限らない
・重要なのは、「これからROEが上がる可能性のある株」である

という指摘です。

これは、先ほどの平均回帰の話とも整合的です。
高ROEが持続しにくいのであれば、投資家が重視すべきなのは「過去や現在の水準」ではなく、「今後ROEが改善していく余地のある企業」です。

「すでに高い企業」ではなく、「これから良くなる企業」に目を向ける必要がある、という意味で、高ROEランキングをそのまま投資判断に使うことの危うさを示唆する内容と言えます。

 

PBR1倍割れは本当に「解散価値割れ」なのか

動画の後半では、ややマニアックながら重要なテーマとして、「PBR1倍割れの本当の意味」についても解説されていました。

一般的には、PBR1倍割れは「解散価値を下回っている状態」と説明されることが多く、「今すぐ会社を解散して資産を売却すれば、株主には今の株価以上の価値が残る」といったイメージで語られます。

しかし、現実には、

・帳簿通りの価格で資産を売却できるとは限らない
・実務的にすぐ解散することもほぼない

といった点から、「解散価値割れ」という説明はどこか現実離れしている側面があります。

 

数式で読み解く:PBR1倍割れの本当の意味

ここで再び、PBRの分解式を使います。

PBR = PER × ROE

PERの逆数は「益回り」と呼ばれ、

益回り = 1 ÷ PER

という形で表されます。例えば、PER20倍なら益回りは5%です。

市場から見れば、この益回りは「その銘柄に対して期待しているリターン」とも捉えられます。
簡単に言えば、

・リスクが高い銘柄なら、高い益回り(=低いPER)が求められる
・安定した銘柄なら、低い益回り(=高いPER)でも許容される

というイメージです。

ここで、「ROEが市場の要求リターン(=益回り)よりも低い」と仮定してみます。
式の関係を整理していくと、

・ROEが益回りを下回っているとき、PBRは1倍未満になりやすい
・逆に、ROEが益回りを上回っているとき、PBRは1倍超になりやすい

という関係が導かれます。

このことから、PBR1倍割れは、

「解散価値を下回っている」
というよりも、

「その企業のROEが、市場が要求しているリターン(益回り)を下回っている状態」

と解釈した方が、投資の現実に即しているのではないか、という説明がなされていました。

たとえば、PBR0.3倍といった銘柄は少なくありませんが、「今すぐ解散すれば帳簿の3倍以上の価値がある」という話には、やはり違和感があります。それよりも、

・リスクに見合うだけのROEを稼げていない
・市場の要求リターンを満たせていない

からこそ、PBRが低く放置されている、と理解した方が納得感があります。

このように、PBR1倍割れを「市場の期待リターンに対してROEが届いていないシグナル」として捉えることで、指標の見方はかなり現実的になります。

 

実務的にどう活かすか:ROEを見るときのチェックポイント

ここまでの内容を、個人投資家が実務的に活かすためには、次のような考え方が有用だと考えられます。

  • 「今ROEが高い企業」だけでなく、「これからROEが上がる余地のある企業」に注目する
  • レバレッジ頼みの高ROEではなく、ROAや営業キャッシュフローもチェックする
  • 売上高成長率や利益率の安定性、研究開発費や設備投資、広告宣伝費といった先行投資の姿勢を見る
  • PBRが低いからといって自動的に「解散価値割れ」と判断せず、その企業のROEと市場の要求リターン(益回り)を冷静に比較する

このように、単一の指標に頼るのではなく、ROE・ROA・売上成長・マージン・キャッシュフロー・PBRなどを組み合わせて総合的に判断することが、高ROE戦略を「幻想」ではなく現実的な投資戦略に近づける鍵になります。

 

まとめ:高ROEだけでは勝てないが、使い方次第で有効な指標になる

動画で紹介されていたポイントを、最後に整理します。

  • 高ROE株が必ずしも儲からないのは、高ROEがすでに株価に織り込み済みであることが多いから
  • ROEには平均回帰の力が強く働き、高ROE状態が長く続く企業は少ない
  • 高ROEであり続けるためには、レバレッジ頼みではなく、売上成長と高いマージン、安定した収益性、積極的な先行投資が必要
  • 低PBR銘柄には超過リターンが確認されており、その影響で「低ROE銘柄の方が儲かっているように見える」現象も起こる
  • PBR1倍割れは「解散価値割れ」というよりも、「ROEが市場の要求リターン(益回り)を下回っている状態」と理解した方が現実的
  • 重要なのは「今ROEが高い企業」ではなく、「これからROEが上がる可能性のある企業」に目を向けること

高ROEという指標は、それ自体が悪いわけではありません。ただし、「高ROEだから買えば儲かる」という単純な発想は危険であり、ROEの構造的な性質や、PBR・PERとの関係、企業の投資姿勢、キャッシュフローの質などを踏まえたうえで慎重に使う必要があります。

今回の内容はやや上級編ではありますが、指標の裏側にあるロジックを理解しておくことで、数字だけに振り回されない、より実践的な投資判断につながっていくはずです。

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