【本記事は「まだ安心できない 信用不安のリスク 氷山の一角」という元動画のタイトルと内容を基に記事を書いています】
結論
いまの米国株は短期的に持ち直しているように見えますが、信用不安は終わっていない可能性が高いです。
地銀の不正疑惑や、債務の実態が見えにくい企業の破綻が相次ぎ、プライベートクレジットやBDC(ビジネス・ディベロップメント・カンパニー)に波及すれば、資金の引き上げや融資態度の厳格化を通じて流動性が細り、景気後退の引き金になり得ます。
レバレッジ過多やフルインベストメントは避け、現金・債券・ディフェンシブの比率をあらためて点検する局面です。
いま何が起きているのか
先週の米株はS&P500が1.7%高、ナスダック総合が2.1%高となり、50日移動平均線を回復しました。
とはいえ、Zions(ザイオンズ)やWestern Alliance(ウエスタン・アライアンス)が四半期決算で貸倒引当金や延滞率の動向を注目される状況で、金融セクターの健全性はなお見極めが必要です。
両行は、債権を巡る虚偽表示や詐欺被害などの訴訟を公表しており、投資家心理を冷やしています。
引き金となった破綻と「見えにくい負債」
最近の破綻例として、部品メーカーのファーストブランズ、オートローンのトライカラーが挙げられます。両社に共通するのは、債権・債務の見え方が複雑で、不正が起きやすい構造があった点です。
用語をやさしく整理します。
・ファクタリング
売掛金(商品は納めたが代金未回収の債権)をファクタリング会社に売って早期に現金化する手法です。本来は健全な資金繰り手段ですが、同じ売掛金を複数社に二重売却すれば、どこかは「実体のない債権」をつかむことになります。
・サプライチェーン・ファイナンス(SCF)
買掛金(仕入れて未払いの債務)を金融機関が立替え、支払いを後ろに送る仕組みです。多くの会計基準では借入金として計上しない運用もあり、総負債が表面化しにくい一面があります。これを多用すると、外からは実態がつかみにくくなります。
ファーストブランズは、売掛金の多重売却疑惑や、SCFの過度利用で負債全体像を不透明化していた可能性が指摘されました。負債規模は100億〜500億ドルと幅をもって報じられ、全容はなお不明瞭です。トライカラーも同様の構図が取り沙汰されています。
「ゴキブリは1匹ではない」という警句
JPモルガンのジェイミー・ダイモン氏は「ゴキブリを1匹見たら他にもいる」と述べ、BDCや上場プライベートクレジットの自己点検を促しています。
これらの貸し手は、もともと信用力の低い企業へ融資する特性があります。
景気が鈍化すれば最初の損失吸収層になりやすく、投資資金の引き上げや銀行の融資厳格化が重なると、弱い企業から資金繰りが詰まりやすいのです。
表 リスクの伝播メカニズム(簡略)
出口の狭まり | 直接のきっかけ | 波及先 | 想定される結果 |
---|---|---|---|
債権の不正・多重化 | 売掛金の二重売却、SCF多用 | BDC、プライベートクレジット | 資金引揚げ、スプレッド拡大 |
銀行の慎重化 | 経営陣の与信厳格化 | 脆弱企業(ジャンク級) | 借換失敗→破綻増加 |
投資家のリスク回避 | 連想売り | 金融株・ハイイールド | 流動性低下→景気後退圧力 |
市場の見方はまだ楽観的。それでも用心が必要です
ウォール街では「壊滅的な出来事には至らない」との声もあります。
しかし、2008年も当初は軽視され、時間とともに信用不安が増幅しました。今回は同じとは限りませんが、「小さな亀裂」が「大きな穴」になる過程は、たいてい時間差で進行します。
過度なリスクテイクは控えるのが賢明です。
セクター別の耐性:どこが売られ、どこが底堅いか
景気後退局面では、直近まで過熱していたハイテクがポジション調整の売りに晒されやすいです。
マグニフィセント7やAI関連に資金が集中していた反動は要警戒です。
一方で、ヘルスケアは逆風(薬価など政策要因)で積極的に買われてこなかった分、売り圧力が相対的に弱く、底堅く推移しやすいと見立てられています。
ビットコインは株と同方向になりやすいです
2022年以降の相関から、米株が売られる局面ではビットコインも下落しやすい傾向があります。
さらに来年は半減期の翌年に当たり、統計的に最もパフォーマンスが鈍る年でもあります。暗号資産への過度な強気は抑え、ポジションサイズを見直す余地があります。
TLT(米20年超国債ETF)への見方
利下げサイクルが本格化するなら、TLTは上昇余地があります。
テクニカルでは200週移動平均線の攻防が焦点です。
もっとも、雇用統計の公表遅延が解消された後、数か月分が一気に出て弱い内容なら長期金利低下→TLT上昇、逆に過度な利下げ観測でドル安とインフ再燃なら長期金利反発→TLT急落のシナリオもあります。
株急落時にTLTも同時安となる局面もあり得るため、「万能ヘッジ」とは考えず、期間と出口を決めて使うのが前提です。
動画の相場観まとめ
- 米株は年内に天井をつけ、景気後退を伴う下落相場入りの公算
- 底打ちは平均的には天井から約15か月後。季節性からは2027年3月ごろが一つの目安
- S&P500の最大下落率はドル建てで30%、円建てでは円高進行も加わり40%超の可能性
- 2026〜2040年はS&P500の年平均リターンが一桁前半に低下する一方、欧州株・新興国株・コモディティ・暗号資産などの相対パフォーマンスが高まり、国際分散の妙味が増す見通し
初心者向けの要点整理
- 信用不安は「見えにくい負債」から火がつきやすいです。売掛金の多重売却やSCFの過度利用は典型例です。
- 波及先は、信用力の低い借り手に資金を供給してきたクレジット市場です。ここが縮むと資金繰り難が連鎖します。
- いまは強気一辺倒ではなく、ポートフォリオの防御力を上げる時期です。レバレッジ縮小、現金比率の確保、ディフェンシブの厚み付けが基本です。
まとめ
市場は一見落ち着きを取り戻していても、信用のほころびは水面下で進みます。
いま見えている問題が単発で終わるのか、それとも氷山の一角なのかは、時間の経過とともに判明します。
投資家としては、過度な強気や一発逆転の姿勢を避け、流動性と守備の設計を整えたうえで次の局面を待つのが賢明です。数字と仕組みを押さえ、淡々とリスクコントロールを続けていきましょう。
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