このブログは元動画のタイトルを基に作成しています。動画内の主張やデータを丁寧に再構成し、初めての方にも分かるように制度の背景、国際比較、最新の動向、今後の政策の行方までを一気通貫でまとめました。
結論
結論から言うと、日本で外国人が土地を買えるのは違法でも放置でもなく、戦後一貫して採用してきた内外無差別の原則と国際ルールを踏まえた制度設計の帰結です。
森林や農地の取得割合は統計上ごく小さい一方で、都市部や観光地の商業不動産では海外資金が顕著に流入して価格上昇を押し上げています。
背景には円安、超低金利、そして法制度と政治の安定という三つの低さが同時にそろった投資環境があります。
安全保障面では重要土地等調査法の施行で一歩進んだものの、取得そのものを事前に止める仕組みは弱く、日本版シフィウスの創設を含む規制強化の是非が焦点です。
経済成長に資する資本を呼び込みつつ、安全保障上のリスクを最小化する精緻な線引きが喫緊の課題です。
日本で外国人が土地を買えるのはなぜか
憲法と民法に基づく内外無差別の原則
日本では財産権の保障が国籍で区別されていません。
民法にも土地所有者を日本国民に限定する条文はなく、外国人も日本人と同様の手続きで土地や建物を取得できます。所有権に期限はなく、売買、贈与、相続も可能です。
永住権や在留資格の有無は原則として要件ではありません。観光ビザで短期滞在中でも、手続き上は購入が可能です。
この枠組みは、第二次世界大戦後の復興と経済成長のために必要だった対外開放政策と整合的でした。
内国民待遇の考え方を含む国際ルールへのコミットメントは、貿易と投資の自由化を進め、日本企業の海外展開と外資の呼び込みの双方を後押ししてきました。
外国人土地法は存在するが運用されていない
1925年に制定された外国人土地法は、相互主義と国防上の制限を規定します。
相互主義は相手国が日本人の土地所有を制限する場合に同様の制限を課せるという考え方で、国防上の制限は特定区域での取得を政令で禁じられると定めます。
しかし戦後、具体的な政令が整備されず、実際の運用はほぼなされてきませんでした。背景には国際協調と投資自由化を優先してきた政策志向があります。
外為法の位置付けは事後報告中心
日本に住所を持たない外国人が不動産を取得した場合、外為法に基づき日本銀行経由で財務大臣への報告義務が生じます。
ただし多くは事後の届出で、事前審査ではありません。
自ら居住する住宅や事務所などは報告免除の範囲に入る場合があり、実務上は購入そのものを止める構造になっていません。制度の主眼は取得後の利用や管理の監督に置かれています。
データで見る実態:森林・農地は微小、都市商業地は厚い
森林と農地の取得割合は極めて小さい
公的統計によれば、直近一年で外国法人などが取得した森林面積は私有林全体の約0.003パーセント、2006年からの累計でも約0.07パーセントにとどまります。
農地も年間で全国農地面積の約0.004パーセント程度で、実際に耕作することが要件となる農地法の枠組みが投機的取得の抑制に作用しています。
外国資本が関与する法人による農地取得の約三分の二は国内居住者や国内法人によるものでした。
数字だけ見れば、国内の水源地や農地が広範に買い占められているという印象はデータで裏付けられていません。ただし、割合が小さくても位置と用途しだいでは影響が大きくなるため、取得エリアの精査は重要です。
都市・観光地の商業不動産は海外資金の存在感が大きい
一方で都市部と観光地では、海外の機関投資家や富裕層の投資が目立ちます。
北海道のニセコは象徴例で、オーストラリア、シンガポール、香港、中国などからの資金で国際リゾート化が進みました。
観光収入や雇用創出、固定資産税の増収などのメリットがある一方、地価や物価の急騰によって地元住民の生活コストが上がる負の側面も顕在化しました。
所有者の多くが海外在住で地域コミュニティへの参加が薄れ、利益が本社のある海外に流出しやすいという指摘もあります。
首都圏では、東京23区の新築分譲マンション価格が平均で1億3309万円に達し、抽選が常態化しています。賃料も過去最高水準を更新し、住宅取得難や家賃負担の増大が都市部の生活課題になっています。
なぜ今、海外資金が日本不動産に向かうのか
円安で相対価格が下がった
為替レートの変化は海外投資家の購買力を直撃します。
例えば5年前に1ドル100円のとき100万ドルで約1億円の物件を買えましたが、1ドル150円なら同じ100万ドルで約1億5000万円規模の物件に手が届きます。外貨保有者にとって日本不動産は割安に見え、円建て資産のディスカウント効果が資金流入を加速させます。
超低金利がレバレッジを可能にした
長期にわたる超低金利は、調達コストを極端に引き下げ、利回りの高い不動産投資との利ざやを拡大させました。
金融環境の変化により金利は上向きつつありますが、主要都市の優良物件では依然として利回りと調達コストのスプレッドが投資妙味を保っています。
政治と法の安定が低リスク資産として評価される
日本は政治リスクが低く、法制度が安定しており、永久所有権を含む強い私有財産権が保証されています。
地政学的に緊張の高い東アジアでありながら、民主主義国としての安定性とインフラの質が、資産避難先としての魅力を高めています。
上海や台北の不動産利回りが1〜2パーセント程度に低下するなか、東京の商業不動産で3〜5パーセントが見込める案件もあり、相対的に日本が選好されやすい状況です。
取引データに見える資金の厚み
2025年の日本の不動産市場では海外投資家が存在感を強め、第1四半期の海外投資額は前年同期比で2.2倍、第2四半期も46パーセント増と堅調でした。
特に大規模オフィスや賃貸レジ、ホテルなどのセクターでクロスボーダー資金の比率が高まっています。
安全保障の論点:重要土地等調査法と現場データ
法律の狙いと仕組み
2022年に施行された重要土地等調査法は、防衛関連施設や国境離島などの周辺を注視区域に指定し、区域内の土地・建物の所有者や利用状況を調査できる枠組みです。
電波妨害などの活動が確認されれば中止命令や罰則を科せます。戦後初めて、安全保障を主な目的として土地利用に介入する制度が導入された点で転換点となりました。
公表された調査結果が示した懸念
初回調査では、基地等の周辺399区域で約1万7000件の取引を精査し、371件、全体の約2.2パーセントが外国人や外国系法人による取得と判明しました。
国籍別では約55パーセントに当たる203件が中国系、続いて韓国が約13パーセント、台湾が約12パーセント、米国が約8パーセントでした。
取得が多かった区域は防衛省市ヶ谷庁舎周辺が104件で最多、次いで陸自補給統制本部周辺が39件、練馬駐屯地周辺が続く結果となりました。東京に加え、千葉、福岡、北海道、愛知などでも重要施設周辺の取得が目立っています。
この数字自体は全体から見れば少数でも、立地と用途によってセキュリティリスクが累積する可能性がある点が論点です。
制度の限界と課題
重要土地等調査法はあくまで利用規制であり、取得の事前差し止め権限を直接付与していません。
悪意ある主体が取得後に潜伏し、有事に初めて妨害行為を起こすといったシナリオへの抑止力は相対的に弱いままです。したがって、取得段階での審査や許可制度の必要性が政治課題として浮上しています。
世界のルールはどうなっているか:主要国の比較
各国は経済自由度と安全保障の線引きが異なります。代表的な枠組みを整理します。
中国
土地は国家所有で、個人も法人も所有権を持てません。住宅用は70年、商業用は40年などの使用権を取得します。外国人の土地所有という概念自体が制度上存在しません。
アメリカ
連邦レベルでは外国投資が安全保障に与える影響を審査する強力な機関としてシフィウスが機能し、必要に応じて条件付けや取引中止の勧告が可能です。
加えて州レベルでの規制が拡大しており、2025年時点で24以上の州が中国、ロシア、イランなど特定の外国政府に関連する主体の農地取得を制限しています。
オーストラリア
外国人の不動産取得には外国投資審査委員会の事前承認が必要です。
住宅不足への対策として、2025年4月から2年間、外国人による既存住宅の購入を全面禁止する措置に踏み切りました。国内居住者の居住権保護を優先する明確な方針です。
韓国
1998年以降は市場を開放しましたが、軍事施設や文化財の保護区域などでは許可制を採用。
2025年にはソウルと周辺地域で外国人土地取引に厳格な許可制度が導入され、購入後2年以上の居住義務付けなど、投機抑制を目的とした実効性のある要件を課しています。
EUとドイツ
EUでは資本移動の自由を重視し、加盟国間の不動産取得は原則自由です。ドイツなどでは安全保障に関わる限定的な例外を除き、外国資本に対する強い包括規制は基本的に採用していません。
各国制度の概観表
| 国・地域 | 取得前審査 | 取得制限の主眼 | 特記事項 | 
|---|---|---|---|
| 中国 | 不要(所有権制度なし) | 国家所有、使用権付与 | 住宅70年、商業40年の期限付き | 
| アメリカ | シフィウス審査 | 安全保障、重要インフラ | 州法で農地取得規制が拡大 | 
| オーストラリア | 事前承認必須 | 住宅供給保護、投機抑制 | 既存住宅の外国人購入を一時全面禁止 | 
| 韓国 | 指定区域は許可制 | 軍事・文化保護、投機抑止 | 首都圏で居住義務など厳格化 | 
| EU(独) | 原則不要 | 資本移動の自由 | 安保関連は限定的例外 | 
日本の政策はどこへ向かうのか
重要土地等調査法で一歩前進
土地利用の監視と是正の枠組みが整い、注視区域の指定や調査の実施が進んでいます。データが公表されるようになったことで、議論は感情論から事実に基づく評価へと段階的に移っています。
日本版シフィウスの創設へ
最新の政治合意では、日本版シフィウスの創設と、外国人および外国資本による土地取得規制を強化する法案の策定が掲げられました。
新内閣では外国人との秩序ある共生社会推進担当が新設され、経済安全保障担当大臣が兼務する体制がとられています。これにより、取得前審査や条件付け、重要施設周辺の事前差し止めなど、実効性の高い手段の導入が視野に入ります。
規制強化への賛否
与党を中心に規制強化を支持する声が高まる一方、野党や経済界からは、外国人という属性だけを理由にした規制は差別につながるという懸念、財産権や市場の自由を不当に制限するリスク、国際資本の萎縮による経済的損失を危惧する意見が出ています。
世論調査では規制強化賛成が多数派で、78パーセントが強化を支持する結果も示されました。民主主義国家として、権利保障と公共の安全、経済活力の三つ巴をどう調停するかが政策設計の肝です。
メリットとデメリットを冷静に仕分ける
経済的メリット
海外投資の呼び込みは、観光・商業施設の開発、周辺産業への波及、雇用創出、固定資産税の増収などの形で地域経済を押し上げます。
ニセコでは年間600億円超の経済効果、6300人超の雇用創出が推計されています。老朽施設の再生や都市更新の投資原資が国内だけでは賄いにくい局面で、クロスボーダー資金は重要な役割を果たします。
社会・経済の歪み
同時に、急速な資本流入は地価と家賃の急騰、生活コストの上昇、地域コミュニティからの逸脱、利益の域外流出といった副作用を伴いがちです。
住宅の取得難や居住の不安定化は、中長期的な都市の競争力を損ないます。所得階層ごとの住宅アクセスの格差が固定化されれば、社会の分断を深める火種にもなりえます。
安全保障上の懸念
重要施設周辺や国境離島での計画的取得は、平時には把握しづらく、有事のリスクだけが顕在化する厄介な性質を持ちます。
地図に点在する小規模の取得が、通信・監視・交通遮断などの機能と結びつけば、累積的な脆弱性となる可能性があります。
解決に向けた現実的な処方箋
ゾーニングによる事前審査と用途規制の併用
重要施設周辺と国境離島に限って、取得前審査や用途条件の付与を行い、用途違反には行政罰と売却命令をセットにする。取得を全面的に禁じるのではなく、透明性と用途適合性を確保する方向で自由と安全の調停を図るのが現実的です。
投資家のプロファイリングと究極受益者の把握
法人の持株構造や実質受益者の開示を徹底し、制裁リストや敵対的行為との相関をAIでスクリーニングする。匿名性の高いビークルを経由した取引に対しては開示義務を強化し、虚偽や不開示には厳罰を科す。
マクロ対策としての住宅供給と居住保全
都市部の住宅不足を緩和するため、容積率緩和とインフラ整備をセットで進め、賃貸住宅や分譲の供給を拡大する。居住用住宅に限っては、一定の居住義務や賃貸登録の義務化で空き家・セカンドハウス化を抑制する。国内居住者の一次取得を優先する抽選ルールなど、ミクロ制度の工夫も考えられます。
観光地の繁栄と地域共生の両立
観光地では、地域参加を投資許可の条件に組み込むことが有効です。自治会費や地域基金への拠出、雇用の地元優先、景観・環境基準の遵守など、地域価値の向上と外資の投資収益の一致点を制度的に作る工夫が求められます。
誤解しやすいポイントの整理
森林や水源地は「買い占め」なのか
統計的には取得割合は微小です。ただし、敏感な位置に点在する取得は影響が大きい可能性があります。割合だけで安心せず、位置情報と用途のモニタリングが重要です。
海外資金が入れば必ず地元が貧しくなるのか
外資の流入は適切なルール設計と地域戦略が伴えば、雇用と税収を増やし、公共サービスの質を高めます。負の外部性を吸収するメカニズムがないと、物価高と域外流出が前景化します。政策設計の巧拙が結果を分けます。
規制強化は経済を必ず冷やすのか
網羅的で一律な規制は投資を冷やしますが、ゾーン限定、用途限定、透明性強化といった精密な規制は、良質な投資を選別し安全保障リスクを抑える効果があります。経済と安全のトレードオフを最小化するのが制度設計の腕の見せどころです。
歴史的背景:戦後日本の資本自由化と不動産
高度成長期の日本は、GATTやOECDの枠組みに沿って段階的に資本取引を自由化し、内外無差別を通じて輸出主導の成長モデルを支えました。
不動産分野でも外資参入の障壁は低く抑えられ、バブル期には海外資金が都心の大型案件に流入しました。
バブル崩壊後は国内金融の収縮を外資が補完した局面もあり、クロスボーダー資本は景気循環に応じて日本の都市更新を支える役割を繰り返し担ってきました。
現在の円安・金利環境は、この歴史的文脈の上で国外資本の循環を強め、国際資本市場と日本の不動産市場の結びつきを一段と密にしています。
ケーススタディ:ニセコに見る光と影
ニセコでは、年間600億円超の経済波及と6300人を超える雇用が生まれました。
インバウンドの高付加価値観光が地域の所得水準を押し上げ、インフラの整備や国際的な認知の向上につながりました。一方で、ラーメン一杯が3800円とSNSで話題になるほどの物価高や、地元住民の住宅難、季節雇用の不安定さ、地域コミュニティの希薄化という負の影響も明らかになりました。
利点と欠点はコインの表裏であり、政策で欠点を緩和しつつ利点を最大化する視点が必要です。
実務の視点:自治体・事業者・個人が今できること
自治体
重要施設周辺のリスク評価地図を整備し、データに基づくゾーニングと用途規制を検討する。観光地では観光負荷の上限、景観基準、地域基金の制度化を進め、開発許認可に条件を付けて地域利益の還流を制度に組み込む。空き家対策と連動し、長期滞在型の国際人材誘致と地域の住宅確保を両立させる。
事業者
クロスボーダー投資のコンプライアンス体制を整え、究極受益者や資金源の透明性を確保する。地域共生のKPIを開示し、雇用、税収、環境負荷の軽減策を投資家と共有する。出口戦略を地域の長期計画と整合させ、短期的な資産転売で外部不経済を増幅させない。
個人
購入検討者は用途地域や将来の規制変更リスクを踏まえ、金利上昇と賃料動向のシナリオでキャッシュフローを堅めに試算する。居住者は地域の開発計画への意見提出やパブリックコメントを通じ、生活者視点のバランスを政策設計に反映させる。
今後のシナリオとチェックポイント
1つ目は、取得前審査の導入と用途規制の強化が段階的に進み、重要施設周辺の取引が精査されるシナリオです。透明性が高まれば、リスク資本は減り、長期志向の良質な資本が残ります。
2つ目は、規制が過剰に広がって投資全体が冷え込むシナリオです。
大型再開発や都市更新の停滞は、住宅不足と老朽化の進行を招きます。3つ目は、改革が中途半端に終わり、利用規制だけが残って取得段階のリスクが温存されるシナリオです。
政策の方向性を見極める上で、注視すべきは四点です。注視区域の拡大と基準の明確化、日本版シフィウスの審査範囲と権限設計、居住用と投資用の線引きと実務運用、そして住宅供給拡大策とのパッケージ化です。安全保障と住宅政策を切り離さない統合設計が成功の鍵となります。
まとめ(要約と次の行動提案)
日本で外国人が土地を買えるのは、戦後の開放政策と国際ルールに沿った制度設計による必然であり、森林や農地の取得は統計上ごく小さい水準にとどまっています。
一方で、円安、低金利、法制度の安定に支えられた投資環境が、都市部や観光地の商業不動産に海外資金を厚く呼び込み、価格と家賃を押し上げています。
安全保障では重要土地等調査法が動き出しましたが、取得前審査は未整備で、日本版シフィウスの創設が次の分岐点です。必要なのは、ゾーニングと用途規制、透明性の強化、住宅供給拡大の三本柱による、自由と安全、成長と生活の精密な調停です。


コメント