このブログは「『下手な人が分散投資をするのは危険…』投資の神・片山晃に学ぶ“黄金の投資の哲学”【片山晃×田中渓】/MONEY&MATE(マネーメイト)」という動画タイトルを基に記事を書いています。
結論:分散投資は「誰がやるか」で安全にも危険にもなる
片山晃さんが一番強く伝えているのは、次のような考え方です。
「分散投資は万能の安全装置ではない。銘柄をうまく選べない人が、なんとなくたくさん持つと、むしろ危険だし、インデックスにも勝てなくなる。」
ポイントを先に整理すると、こんなイメージです。
- 本当に実力がある人なら、3〜10銘柄に集中しても合理的になり得る
- 逆に、銘柄選択の力が弱い人が「とりあえず分散」すると、平均点が下がり、指数に勝てないポートフォリオになりやすい
- 大きく資産を増やせる瞬間は、人生でそう多くない「3〜5回の“全力で張れる局面”」
- そこを見抜くためには、日頃から知識と経験を積み、自分の「実力レベル」と「分からない領域」を冷静に把握しておくことが不可欠
この記事では、動画で語られた具体的なトレード事例や失敗談を踏まえながら、片山さんの「黄金の投資哲学」を初心者にも分かりやすく整理していきます。
片山晃の資産曲線に隠れた“ターニングポイント”
2010年、1億円を超えたきっかけは「シナジーマーケティング」
片山さんが初めて資産1億円を超えたのは2010年。きっかけは「シナジーマーケティング」という会社でした。
この銘柄は、時価総額が約15億円程度の小型株の時期から、大手クラウド企業セールスフォースとの資本提携が材料となり、わずか1年で株価が10倍以上になりました。
片山さんは、その途中で乗って約3倍を取ったあとに売却。その後も株価はさらに倍近く上がり、数千万円規模から一気に2億円近くまで資産が増えました。
数字だけを見ると大成功のトレードです。しかし本人はこのトレードを「失敗だった」と振り返っています。
なぜ“儲かったのに失敗”なのか
理由はとてもシンプルで、「自分の仮説が正しくなかったから」です。
- 当時は「これはすごい成長株になる」と期待して買った
- 実際には、その後の業績は伸び悩み、最終的には片山さんが売った水準よりも低い株価で他社に買収された
つまり、株価は一時的に10倍になったものの、企業としての「フェアバリュー(企業価値)」や「EPS(1株あたり利益)」が継続的に伸びたわけではなかった。
結果的に「高く売れて儲かった」ものの、それは「たまたまタイミングが良かっただけ」であり、再現性のある勝ち方ではなかった、という反省です。
ここで片山さんは、
- テーマ株や一時的なブームで伸びる銘柄ではなく
- EPSがしっかり伸び続け、フェアバリューそのものが切り上がっていく銘柄
に集中すべきだというスタンスに、より強く舵を切ったと語っています。
「お金に色がある」勝ち方にこだわる理由
片山さんは、自分の儲け方についても強いこだわりがあります。
「お金を増やせれば何でもいい」とは考えていません。
- 自分の立てた仮説
- その仮説の検証プロセス
- 予想した未来が現実になったかどうか
こういったプロセスが正しかったと思えるかどうかが、投資家としての一番の喜びだと語っています。
たとえば、ポンジスキームのような“誰かが最後に大損して終わる仕組み”で、自分だけ儲かっても、それは「きれいな勝ち方ではない」と感じる。
だからこそ、たまたまラッキーで儲かったシナジーマーケティングのトレードも、「勝ち方として納得はいっていない」という位置づけです。
これが、後の「日本ライフラインへの全力投資」につながる重要な伏線になっています。
機会損失の悔しさと「自分の土俵」を決める重要性
ビットコインには乗らなかった理由
片山さんは、「ビットコインがこんなに上がったのに、買っておけばよかったとはあまり思わない」と話します。
理由は、「自分の領域じゃないから」です。
自分が詳しくない領域、きちんと分析できない対象は、そもそも「当てに行くゲームのフィールドではない」と割り切っています。
これは、個人投資家が真似しやすい非常に重要な考え方です。
- 世の中には、次々と“上がったもの”が現れる
- そのたびに「買っておけばよかった」と考えてもキリがない
- それよりも、「自分が本気で分析できる領域」の中で取りこぼしたチャンスの方がよほど悔しい
だからこそ、片山さんは「個別銘柄で、これは取れたはずだ」という機会損失を極力減らしたいと話しています。
逃したチャンスの具体例:藤倉のケース
約2年前、半導体やAIデータセンター向けの光関連を徹底的に調べていた時期があり、その中で「藤倉」という銘柄を見ていたそうです。
- そのときのPERは約8倍
- そこからPERは15倍程度まで上昇
事前にしっかり調べていたにもかかわらず、そこで十分に乗れていなかったことについて「お前見てただろ、と自分にツッコミを入れたくなるくらい悔しい」と語ります。
ここには、
- 「自分の土俵で、勝てるチャンスを逃した悔しさ」
- 「だからこそ、日々の分析と決断力が大事」
というメッセージが込められています。
一撃で資産を10倍にした「日本ライフライン全力投資」
10億を全部突っ込んで、ほぼ1トレードで100億へ
動画の中で一番インパクトのある話が「日本ライフライン」のトレードです。
- 当時の資産は約10億円
- その10億ほぼ全額を日本ライフラインに投下
- 実際にはレバレッジ約1.5倍をかけていたので、ポジションは約15億円相当
- 結果的に「平均10倍以上」で売却し、ほぼこの1トレードで資産が100億円に到達
まさに「人生のジャンプ台」になったトレードです。
なぜそこまで全力投資できたのか
ここで重要なのは、「単なる度胸勝負ではなかった」という点です。
日本ライフラインは当時、市場からは「地味な医療機器商社」という評価をされていましたが、ファンダメンタルは極めて健全でした。
- PBRは約0.4倍台
- 配当利回りは約4%
- 倒産リスクはかなり低く、バランスシートも堅い
片山さんは、「仮に成長性の読みが外れても、ここから大きく損をする可能性は低い」という“ダウンサイドの限定性”を非常に重視していました。
そのうえで、EPSの成長性やビジネスの伸びを見て、「これは自分のこれまでの集大成になるようなトレードになる」と確信し、ほぼ全力で行ったわけです。
もちろん順風満帆だったわけではなく、大量保有報告書を見ると、ポジションを持ちきれなくなって下落局面で一部売らざるを得なかった期間もあったと正直に語っています。
それでも、トータルとしては想定どおりの“10倍超えトレード”となり、資産を一気に100億へ押し上げたのです。
下手な人の分散投資は、なぜ危険なのか
ここからが、動画タイトルにもある「下手な人が分散投資をするのは危険」というテーマです。
仮説:神様レベルなら1銘柄100%が最適解
片山さんは、極端な例え話としてこう言います。
「もし田中さんが“株の神様”で、年初の時点でその年に最も上がる株を確実に分かっていたら、他の銘柄を買う意味はありますか?」
答えはもちろん「ない」です。
その1銘柄に100%投資するのが、理論的にはベストです。
ただ、現実には誰も“神様”ではないので、未来は読み切れないし、分析にも限界があります。
自分が“神様からどれくらい離れているか”で分散度合いが決まる
片山さんは、自分たちの立ち位置を次の2つの要素の掛け合わせだと整理しています。
- 未来の不確実性(人間である以上、必ずあるブレ)
- 自分の分析力・銘柄選択力(株をどれだけ分かっているか)
この2つの掛け算で、「自分が株の神様からどれくらい離れているか」が決まり、その距離に応じて「どの程度分散すべきか(どこまで集中してよいか)」が決まるという考え方です。
状況によっては、「今はほとんど神に近い」と感じる局面もあるし、「まったく読めないから、慎重に広く薄くしか張れない」と感じる局面もある。
重要なのは、その都度、自分の立ち位置を客観的に見直すことです。
銘柄選択が下手な人ほど、「平均点の罠」にハマる
ここで片山さんは、分散と実力の関係を「点数」で説明します。
自分自身については、
- 「今、10銘柄挙げろ」と言われたら、平均90点くらいのポートフォリオは作れる
- 「30銘柄挙げろ」と言われると、端の銘柄の質が下がって平均80点くらいになってしまう
と自己評価しています。それでも80点なら、インデックスに勝てる可能性は十分あります。
しかし、これが初心者の場合は話が変わります。
- そもそも「一番いいと思っている銘柄」でさえ、実は60点程度しかない
- 3銘柄くらいに絞っていれば、たまたま運良く80点級の銘柄が混ざることもある
- ところが、よく分かっていないまま10銘柄、30銘柄と増やしていくと、平均点がどんどん下がり、悪い意味での“平均値”に収束する
この状態になると、「絶対にインデックスに勝てないポートフォリオ」が出来上がってしまうと警鐘を鳴らしています。
イメージしやすいように簡単な表にすると
| 投資家のタイプ | 保有銘柄数 | 1銘柄あたりの平均点 | ポートフォリオ全体の期待値 |
|---|---|---|---|
| 実力者A | 10銘柄 | 90点 | インデックスより高い可能性大 |
| 実力者A | 30銘柄 | 80点 | まだインデックスに勝てる可能性あり |
| 初心者B | 一番良いと思っている銘柄でも60点 | 3銘柄 | たまたま当たれば勝てることも |
| 初心者B | 30銘柄 | 50〜60点に収束 | インデックスに勝つのはほぼ不可能 |
問題は、「自分が初心者Bなのに、実力者Aのような分散を真似すること」です。
結果として、「ただの平均以下の寄せ集めポートフォリオ」になり、インデックス投資よりも手間がかかるうえにリターンは劣る、という最悪の状態になります。
個人投資家は本当にプロに勝てないのか?
「プロに勝てない」は幻想だという指摘
片山さんは、「個人はプロに勝てない」というのは幻想ではないか、とも話しています。
確かに、情報量や企業への取材力など、情報の非対称性の面ではプロが有利です。それでも、プロにはプロなりの制約があります。
- 運用額が大きく、1銘柄に集中できない
- ファンドの規模を考えると、中小型株を十分な量だけ買えない
- 資金を使い切る必要があり、「本当は微妙だけど、とりあえず入れざるを得ない銘柄」が増える
- 結果として、65〜75点くらいの“まあまあ”な銘柄でポートフォリオが埋まりがち
一方、個人投資家は、
- 本当に良いと思う数銘柄だけに集中できる
- 銘柄数や組入れ比率に縛りがない
- “ここだ”と思うタイミングで一気に張る自由がある
という意味で、条件次第ではプロより有利な立場に立つことも可能です。
ただし、ここで前提になるのが「きちんと修練を積み、知識と経験を備えていること」です。
この前提がないまま、「プロにも勝てるはずだ」と勘違いして集中投資をすると、先ほどの「60点銘柄に全力」という悲惨な結果に直結してしまいます。
人生を変える「3〜5回の全力集中」のために
片山さんも田中さんも、「人生のジャンプは、たった数回の“集中投資の瞬間”から生まれる」と指摘しています。
- 株
- 不動産
- 事業投資
ジャンルは違っても、「これは絶対におかしい」「この価格は明らかに間違っている」と確信できる瞬間が、人生でほんの数回訪れる。
そこで「全力で取りに行けるかどうか」が、資産曲線を大きく押し上げるか、ただの横ばいで終わるかを分ける、というイメージです。
ただし、そのためには
- 日頃から地道に勉強していること
- 業界や企業を深く理解していること
- バランスシート、キャッシュフロー、EPS成長などを読めること
- ダウンサイドリスク(倒産や致命傷)を見極められること
といった基礎体力が必須です。
何も勉強していないのに「これは人生を変えるチャンスだ」と思い込むのは、ただのギャンブルになってしまいます。
自分の実力を客観視できなければ、ポートフォリオは決められない
動画の終盤で、片山さんは非常に重要な一言を残しています。
「自分の実力がどれくらいなのかを客観視できなければ、そもそもポートフォリオをどう組むべきかも決められない。」
これは、初心者にとってもベテランにとっても、重い言葉です。
- 自分は“達人”なのか
- そこそこ分かっている“中級者”なのか
- まだまだ何も分かっていない“初心者”なのか
この自己評価を誤ると、
- 初心者なのに個別株3銘柄に全集中して即退場
- 逆にそこそこの実力がついているのに、いつまでも「とりあえずインデックスだけ」で終わってしまい、本来取りに行けたはずのジャンプを逃す
という、どちらにももったいない状況になります。
まとめ:片山晃流「黄金の投資哲学」から学べること
動画の内容を通して整理すると、片山晃さんの投資哲学はおおよそ次のようにまとめられます。
- 儲かれば何でもいいのではなく、「仮説とプロセスが正しかった勝ち方」にこだわる
- テーマ株の一時的な高騰ではなく、EPSが伸び、フェアバリューそのものが上がる企業に投資する
- 人生で数回訪れる“本当におかしい価格”に気づいたときは、大きく集中して資産をジャンプさせる覚悟も必要
- その際も、バランスシートやキャッシュフローを読み、倒産しないか、ダウンサイドが限定されているかを冷静にチェックする
- 分散投資は「誰がやるか」で意味が変わる。銘柄選択の力が弱い人が中途半端に分散すると、インデックスにも勝てない危険なポートフォリオになりやすい
- 個人は、制約だらけのプロよりも有利な場面もあるが、それは「修練と自己認識」が前提条件
これらを踏まえると、多くの個人投資家にとっての現実的なステップは、
- まずはインデックス投資などで市場全体の動きや企業指標に慣れる
- 並行して、少額で個別株を研究し、自分の「土俵」と「得意分野」を見つける
- 自分の実力が上がってきたと感じたら、少数精鋭の銘柄に比重を移していく
というようなプロセスになるはずです。
「下手な人の分散投資は危険」というメッセージは、
決して「分散はダメ」「みんな集中しろ」という話ではなく、
「自分の実力と距離感を間違えたまま形だけ真似をするのが、一番危ない」
という警告だと受け取ると、とても腹落ちしやすいと思います。


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