本記事は、YouTube動画『米国株12月の動き方が毎年ほぼ同じ理由とは?今年の上昇サインとリスクをプロ視点で解説!』の内容を基に構成しています。
毎年のように語られる「12月は上がりやすい」というアノマリー
米国株投資をしていると、年末が近づくたびに耳にする言葉があります。
「12月はシーズナリティ的に強い」「サンタクロースラリーに乗れ」
こうしたフレーズは、もはや相場の“季語”のような存在です。
実際、動画でも解説されているように、S&P500の過去の統計を見ると、12月は上昇しやすい月として知られています。
ただし、それはあくまで「確率が高い」という話であって、「必ず上がる」という保証ではありません。
本記事では、過去データが示す12月相場の特徴、サンタクロースラリーが起こりやすいメカニズム、年末特有のリスク、そして2025年のような局面で個人投資家がどのような戦略を取りうるのかを、できる限り丁寧に整理します。
12月は本当に「年間で最も強い月の1つ」なのか
まずは統計的な事実から確認していきます。
動画では、S&P500の過去データを複数の期間で検証した結果が紹介されています。期間によって数値は多少異なりますが、いずれも共通しているのは、「12月は上昇しやすい月である」という点です。
例えば、
- 過去約30年でのS&P500の12月の勝率は約70%前後
- 過去約45年で見ると上昇確率は約71%、平均騰落率は約+1.19%
- 1950年から2024年までの長期データでは、12月の上昇確率が約73%、平均上昇率は約+1.4%
おおむね「勝率7割、平均上昇率1%強」という傾向が、期間を変えても確認されています。
このため、多くの投資家が「12月は上がりやすい」というイメージを持つことには、一定の統計的根拠があります。
ただし、勝率はあくまで約70%台です。
残りの約30%では「下がっている年もある」という事実も同時に押さえておく必要があります。
12月相場の構造:前半が重く、半ばから年末にかけて強くなりやすい理由
12月相場の特徴として、動画で繰り返し強調されているのが「月前半と月後半で動きが違う」という点です。
月前半が軟調になりやすい理由
12月前半には、株価の重しとなりやすい要因がいくつか存在します。
1つは「タックスロスセリング(税金対策の損出し売り)」です。
年間を通じて利益が出ている投資家は、税金を軽減するために、含み損の出ている銘柄や投資信託をわざと売却し、損失を確定させます。これにより、利益と損失を相殺して課税所得を減らすことができます。
この「損出し売り」は、米国市場では12月前半に出やすい動きとされています。
その結果、
・12月前半は需給面で売り圧力が出やすい
・一時的に下げやすい
というパターンが生まれます。
もう1つが、金融政策イベントです。
12月上旬にはFOMCが開かれることが多く、利下げの有無や、今後の金利見通しを示すドットチャートが公表されます。
市場は事前にシナリオを織り込みにいきますが、もし「利下げ期待が強かったのに、実際には見送り」などのギャップが生じれば、ショック的な売りが出る可能性があります。そのため、
・12月9日〜11日前後のFOMC付近
・金利やドルの急変時
には、短期的なボラティリティ上昇に注意が必要だと指摘されています。
月半ばから年末に向けて強くなりやすい理由
一方、12月の「後半」にかけては、株価を押し上げやすい要因が増えます。
代表的なものとして、動画では次の要因が挙げられています。
- タックスロスセリングが一巡し、損出しの売りが出尽くす
- 機関投資家が年末に向けてポートフォリオを調整する
- 配当金が再投資されることで、株式への買い需要が高まる
- クリスマス前後から年末年始にかけて、個人投資家のマインドが前向きになりやすい
特に米国や欧州では、クリスマス休暇が日本以上に重視されます。
12月25日前後から2週間程度、休暇を取る人も珍しくありません。市場参加者が減り、流動性が低下する中で、一方向に注文が偏ると、値動きが大きくなりがちです。
・売り手が少ない中で買いが入れば、上昇が加速しやすい
・一度トレンドが出ると、その方向に走りやすい
こうした要因が重なり、いわゆる「サンタクロースラリー」「年末ラリー」が起こりやすい構図が生まれます。
歴史的な例:2018年「クリスマスショック」が示すリスク
動画では、12月相場のリスクを象徴する例として、2018年12月24日の「クリスマスイブ大暴落」が紹介されています。
この年は10月ごろから相場が崩れ始め、徐々に下落トレンドが強まった後、クリスマスイブにかけて大きな急落が発生しました。
結果的に、12月24日が大底となり、その後は株価が急速に戻っていきましたが、「12月だから必ず上がるわけではない」という典型例となっています。
この事例から分かるのは、
- シーズナリティとしては上昇しやすい月でも、ショックが起これば大きな下げはありうる
- 急落局面を「チャンス」と見るか、「リスク」と見るかは事前の準備次第
ということです。
この意味で、12月の統計データはあくまで「傾向」として参考にしつつ、金融危機、地政学リスク、政策ショックなどの突発的な要因には常に備えておく必要があります。
セクター・サイズ別の動き:小型株とディフェンシブセクターに注目
動画では、12月相場の「中身」に踏み込んだ解説も行われています。単に指数全体が上がりやすいというだけでなく、どのようなセクターや銘柄群が動きやすいのかという視点です。
小型株・中型株が買われやすい傾向
12月から翌年1月にかけては、小型株や中型株が上昇しやすい傾向があるとされています。
具体的には、
・S&P MidCap 400(中型株)
・S&P SmallCap 600(小型株)
などの指数が、12月~1月にかけて強くなるケースが多いと紹介されています。それまで軟調だった小型株が、年末にかけて見直し買いされるようなイメージです。
ディフェンシブ・実需系セクターの動き
また、12月はディフェンシブ系、実需系のセクターも比較的堅調になりやすいと言われています。
例として挙げられているのが、
・公益
・資本財
・マテリアル
・金融
といったセクターです。
ただし、これはあくまで過去データに基づく一般論であり、年によってはハイテクやグロース株が強かったケースもあります。
したがって、「毎年必ず同じセクターが上がる」と決めつけず、その年の金利環境や景気、インフレ、政策動向を踏まえて柔軟に考えるべきだと注意喚起されています。
年末ラリーを支える資金フロー:ボーナス・NISA・年金マネー
日本の投資家にとっても、年末・年始は特有の資金フローが生まれるタイミングです。
動画では、次のような要因が挙げられています。
- 日本の個人投資家のボーナス資金が株式市場に向かう
- 新年のNISA枠を使った買いが、年末から準備される
- 年金基金や機関投資家の期末要因によるリバランスで、下がった銘柄やセクターが買われる
- 配当金が口座に入り、そのまま再投資されることで、株式需要が継続する
こうした要因が重なり、
「年末から年始にかけては、指数連動のETFや、ベータの高い銘柄にも資金が入りやすい」
という解説がなされています。
特に、
・S&P500連動のETF
・ナスダック100連動のETF
などは、コア資産として長期保有が意識されやすく、年末の新規資金の受け皿になりやすいと考えられます。
注意すべきリスク:FOMC、流動性低下、ショックイベント
動画では、12月相場に潜む具体的なリスクとして、次のような点が指摘されています。
- 12月上旬のFOMC前後で、利下げ見送りやタカ派なメッセージが出た場合のショック安
- 年末年始にかけて市場参加者が減ることによる流動性低下
- 金利の急上昇が、高配当株や金利敏感株に与える影響
- 金融危機や地政学的リスクなど、突発的ニュースによる急落
特に流動性の低下は、
「小さなニュースでも過剰に反応しやすい」
「売りが売りを呼ぶ展開になりやすい」
といった形で価格変動を増幅することがあります。
そのため、
・シーズナリティに乗る
・年末ラリーを狙う
といった戦略を取るにしても、「何か起きた時にどう対処するか」という視点を事前に持っておくことが重要だとされています。
実践的な戦略イメージ:12月上旬・中旬・下旬の考え方
動画では、12月相場に臨む際の具体的な考え方が、時間軸ごとに整理されています。
イメージしやすいように、ポイントを箇条書きでまとめておきます。
- 12月上旬
- FOMC前後でボラティリティが高まりやすい
- 利下げ見送りやタカ派なメッセージが出れば、一時的に株安・金利高となるリスク
- 怖い場合は株式比率を少し落とす、金利敏感な高配当株を一部減らすなどの調整も一案
- ETFや先物でのヘッジも手段としてはあるが、タイミングを外すと逆効果になりやすく、経験がない場合は慎重に
- 12月中旬
- タックスロスセリングが一巡し、売り圧力が弱まりやすい
- 押し目が来ていれば、中小型グロース株や半導体、ソフトウェア、通信インフラなどを検討する余地
- 下落が一時的な押し目なのか、トレンド転換の始まりなのかを、金利やドル、FOMCの内容を踏まえて見極めることが重要
- 12月下旬〜翌年1月第1週
- 年末ラリーの最終局面となりやすく、トレンドが出た場合は動きが加速しやすい
- 一方で、上がりすぎた銘柄には利益確定売りも出やすく、指数が伸び悩む可能性もある
- 短期で追加したポジションについては、ストップロスを浅めに設定し、想定外の下落で大きな損失を出さないようにする
- コア資産としてのS&P500やナスダック100連動のETFは、短期の上下に振り回されず、長期視点での保有を基本とする
こうした戦略の前提として、「株式は長期的には右肩上がりで成長する資産であり、基本は買いに回る側でいるべきだ」という視点が示されています。
空売りで短期的な利益を狙う手法は、短期間で相場が反転した場合に「何も得られず、むしろ損失だけ残る」リスクが大きいことから、特に個人投資家には慎重さが求められるというスタンスです。
コア資産とタクティカル運用のバランス
動画の中で強調されているのは、「何をコア資産とし、そのうえでどこまでタクティカルな売買を許容するか」という考え方です。
コア資産として想定されているのは、
・S&P500連動のETFやインデックスファンド
・ナスダック100連動のETF
といった、米国株市場全体や大手グロース企業群に幅広く分散された商品です。
これらは「長期で積み立て、淡々と保有するもの」と位置づけられており、12月の短期的な値動きに過度に反応する必要はないとされています。
一方で、
・年末に向けて半導体やソフトウェアなど、特定セクターを短期的に上乗せする
・ラッセル2000など、小型株指数に連動するETFを一時的に増やす
といったタクティカルな運用は、「押し目を拾う」「短期間と割り切る」「ストップロスを浅めに置く」という前提のもとで行うべきだという整理です。
また、年末は流動性が低下しやすいことから、
「普段よりもポジションサイズを小さくする」
こともリスク管理の一環として提案されています。例えば、通常10万円分買うところを7万円〜8万円に抑えるといったイメージです。
まとめ:12月は「期待値が高い月」だが、過信せず冷静な戦略を
最後に、動画の結論部分に沿ってポイントを整理します。
- 統計的には、12月はS&P500の勝率が約70%台、平均上昇率も1%超の「期待値が高い月」である
- ただし、それはあくまで過去データに基づく傾向であり、必ず上がるわけではない
- 12月前半は、FOMCやタックスロスセリング、流動性の変化などで相場が荒れやすい局面
- この局面をうまく乗り切れば、12月中旬以降〜年明けにかけて年末ラリーに乗れる可能性が高まる
- セクターや銘柄選びでは、小型株やディフェンシブ・実需系、場合によっては半導体やソフトウェアなどのグロース系に注目する余地があるが、その年の金利・景気環境を必ず確認することが前提
- コアとなるのはS&P500やナスダック100連動のETFなど長期資産であり、短期の値動きに一喜一憂しすぎないことが重要
- タクティカルな売買を行う場合は、ポジションサイズを抑え、ストップロスを浅めに設定し、想定外の下落で大きな損失を出さない工夫が必要
シーズナリティは、あくまで「確率の傾向」であって、「未来を約束するもの」ではありません。
それでも、年末相場に特徴的な資金フローや心理を理解しておくことは、過度な悲観や楽観に振り回されないための大きな助けになります。
期待値が高いとされる12月だからこそ、データに楽観しすぎず、リスクを冷静に見つめながら、自分の投資方針と時間軸に合った戦略を組み立てていくことが求められます。


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