インドルピー安はなぜ止まらないのか?構造的な下落要因と5つの影響・5つの対策

本記事は、YouTube動画『The Never Ending fall of INR– [5 ways this impacts you] | Detailed Analysis』の内容を基に構成しています。

 

目次

終わらないインドルピー安は「一時的な事件」ではない

インドルピー(INR)の下落が止まりません。
過去は年平均3〜4%ほどのペースでじわじわと価値を落としてきましたが、直近では1年で約6%と、明らかに下落ペースが加速しています。

「アメリカも問題だらけなのに、なぜドルではなくインドルピーがこんなに売られているのか」
「この通貨安は自分の生活にどう関係するのか」
「2026年以降、個人としてどんな行動をとるべきなのか」

動画では、こうした疑問に答える形で、

  • そもそもなぜINRはここまで下落しているのか
  • その下落は私たちの生活にどう影響するのか(5つのポイント)
  • 2026年以降を見据えて、個人として取れる対策は何か

を、経済学の基本から丁寧に解説しています。

本記事では、その内容をできるだけ削らずに整理しながら、背景となるマクロ経済の考え方も加えて解説していきます。

 

為替レートは「需要と供給」で決まる

為替レートの基本は「水のボトル」と同じ

動画ではまず、難しい政治の話ではなく、経済の最も基本的な考え方から説明が始まります。

経済学では、モノやサービス、そして通貨の価格は「需要と供給」のバランスで決まると考えます。
縦軸に価格、横軸に数量をとり、右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線が交わる点が、その商品の「市場価格」です。

具体例として、水のボトルが挙げられます。

・供給数が1000本
・欲しがる人(需要)が100人

という状況なら、単純化すると「供給÷需要」のイメージで、1本あたりの価格が決まります。
このイメージをそのまま「通貨」に当てはめることができます。

同じ考え方で、「INRの供給が大きく増え、需要がそれほど増えない」あるいは「INRの需要が減る」と、為替市場でのINRの価格は下がります。逆に、INRの需要が供給に比べて増えれば、INRの価値は上がります。

ここまでは素朴な話ですが、実際の通貨市場では、通貨は「他の通貨との相対的な力関係」で評価される点が重要です。

 

通貨は必ず「他の通貨」と比べられている

現在の世界で流通しているお金の多くは「法定通貨(fiat currency)」と呼ばれます。
USドル、INR(インドルピー)、ユーロ、円などはその代表例です。

インドルピーの需要が増えているか減っているかを考えるとき、必ず「別の通貨と比べてどうか」という視点が必要になります。
動画では特に、

・INRの需要が「USドルと比べて」どう推移しているか

という問いが重要だと説明されます。

「数か月前には『ドル崩壊』『アメリカの債務危機』といったニュースが溢れていたのに、実際にはINRが大きく下落している。これはなぜなのか。」

ここから、より深いマクロ経済の話へと進んでいきます。

 

動画内容の詳細解説① INRが「構造的に」弱いとされる理由

動画のキーワードは「構造的(structurally)」という言葉です。


つまり、一時的な事件ではなく、INRの需要を押し下げる仕組みが、通貨の用途ごとに埋め込まれているという視点です。

通貨の主な用途として、動画では次のようなものが挙げられています。

・貿易(国と国との取引で使われるか)
・資産市場(株式・債券などで使われるか)
・債券・国債などの「借金の証文」として信頼されているか
・不動産投資の通貨として選ばれるか
・「価値の保存手段(ストア・オブ・ウェルス)」として選ばれるか
・海外送金(送受金のインフラとしての使いやすさ)

それぞれの項目でINRの立場を見ていくと、なぜ需要が構造的に弱いのかが浮かび上がってきます。

 

1 貿易面でのドル支配とインドの「輸入国」構造

世界の貿易取引の約60〜65%は、USドル建てで行われているとされています。
インドと中国が取引をする場合を考えると、このドル支配の構図が分かりやすくなります。

仮に、

・中国が100本のペンをインドに輸出する
・1本あたり1ドルなので、中国はインドに100ドルを請求する

とします。

インド側が「今は1ドル=90ルピーだから、9000ルピーで払うのでINRで決済してほしい」と申し出たとします。
中国は一見「それでもよい」と言えそうですが、問題はその先です。

中国側から見ると、

・9000ルピーを受け取っても、そのルピーでインドから十分な量のモノを買えるとは限らない(インドは「純輸入国」だから)
・一方、ドルなら他国(ロシアからの原油など)との取引にそのまま使える

という事情があります。

このため、中国のような輸出国にとって、INRよりもドルの方が圧倒的に使い勝手が良いのです。


インドが「純輸入国」である限り、INRは貿易決済通貨としての地位を高めにくく、ドルの優位は揺らぎません。

 

2 資産市場の規模と魅力の違い

次に、株式市場などの「資産市場」における通貨の使い道を考えます。

アメリカの株式市場は、インドに比べておよそ12〜13倍の規模があると言われています。
中国や他国の政府・機関投資家がUSドルを保有している場合、そのドルを使って、

・Google
・Amazon
・Meta

などの巨大企業の株式を購入することができます。これが、ドル建て資産市場の大きな魅力です。

一方、インド株式市場も成長していますが、

・外国人投資家(FII)よりも、国内機関投資家(DII)の存在感が年々強まっている
・規模そのものも、アメリカ市場とは大きな差がある

といった現状があり、世界中の資金を長期的に呼び込む「受け皿」としては、まだ弱い側面があります。

 

3 債券市場と「デノミネーション(高額紙幣廃止)」の影響

動画で特に強調されていたのが、インドの債券市場や「政府への信用」に関する部分です。

かつてインド政府は、1000ルピー札など高額紙幣の突然の廃止(いわゆるデモネタイズ)を行いました。
紙幣には

「この紙幣の所有者に対して1000ルピーを支払うことを約束する」

といった文言が印刷されていますが、その「約束の証文」である紙幣そのものが、政府の判断で突然無効になったわけです。

もちろん交換期間は設けられましたが、

・長い行列に並ばなければ交換できない
・地方や高齢者など、実質的に交換が難しい人も多くいた

といった現実がありました。

動画では、この出来事を「自国の債務に対する信用を自ら傷つけた」とかなり辛辣に評価しています。
この経験から、インド国債やルピー建ての債券を「長期の安全資産」として保有することに、海外投資家が慎重になるのは自然だ、という指摘です。

 

4 不動産市場の透明性の低さ

ドバイなどでは、世界中の投資家が不動産市場に殺到しています。
一方で、インドの不動産市場に、欧米やアフリカなど非インド系の富裕層が積極的に参入しているかというと、そうとは言いがたい状況です。

その理由として、

・購入や登記の手続きが分かりにくい
・法制度や権利関係が不透明
・長期保有した場合のリスクが見えにくい

といった点が挙げられています。

このような不透明さは、「INR建ての不動産」を世界的な投資先として選びにくくする要因となり、ここでもINRの需要を押し下げています。

 

5 「価値の保存手段」として選ばれない通貨

通貨には、「価値をためておく器」としての機能も求められます。
しかし、INRは長期的に毎年3〜4%ほど価値が下落してきた通貨です。

動画では、ケニアの通貨を例に、

・年間10〜20%のペースで通貨価値が失われる国では、人々がUSDT(ドル連動のステーブルコイン)などに逃避する

という話も紹介されます。

インドでも、多くの人が長期的な価値保存の手段としてゴールドやシルバーを選んでいる現実があり、「ルピーは価値の保存という点では弱い」とされています。

 

6 送金インフラとしての不便さ

インドの銀行経由で海外送金を行う際、

・為替手数料として2〜3%程度を取られるケースが多い

という指摘もあります。

例えば、インドから米国の証券口座に5000ドル相当の資金を送ろうとすると、その数%が手数料で失われ、実際に投資に回せる額が減ってしまう、という状況です。

これは、

・インドの送金インフラが、グローバル・スタンダードと比べてまだ高コストである
・INRを国際送金の中核通貨として使おうとする誘因が弱い

ことを意味しており、ここでもINRへの構造的な需要は伸びにくくなっています。

 

7 それでもINRを支えている「NRI送金」

こうした弱点の多いINRを、それでもある程度支えているのが「NRI(海外在住インド人)の送金」です。

UAEなどで働くNRIが、両親や家族に仕送りする場合、

・ドルやディルハムのままでは送れず、必ずINRに両替して送金する必要がある

ため、一定のINR需要が継続的に生まれます。

動画では、

・NRIからの送金がなければ、INRはもっと大きく下落していた可能性が高い

と評価しています。

 

8 今年、特に下落率が大きくなった理由

ここまでが「構造的な弱さ」の話です。
では、なぜ直近1年で、例年よりも大きく約6%も下落したのか。

動画では、その理由として「中央銀行のスタンスの変化」を挙げています。

・2015年頃から2024年頃までは、インドルピーが大きく売られる局面になると、中央銀行(RBI)が市場介入してINRを買い支える方針をとっていた
・しかし直近では、「過度な介入をやめ、市場に任せる(フリーフロート)方向に舵を切りつつある」と見られる

その背景として、公表されている「インフレ率1%」という数字の信憑性への疑問も指摘されます。

・実際の生活実感として、インフレが1%にとどまっているとは考えにくい
・インフレ率を低く見せれば、名目上は「安定」しているように見えるが、通貨価値の下落や実質的な物価高のツケが後から一気に表面化する可能性がある

こうした要因が重なり、2025年前後のINRは、例年より速いペースで下落しているという分析です。

 

INR安があなたに与える5つの影響

動画の後半では、「INR安が具体的にあなたの生活にどう影響するのか」を5つのポイントに整理して説明しています。

1 輸出産業が一時的に有利になる

インドルピーが下落すると、海外から見た場合、

・同じ1ドルで、より多くのINR建てのモノやサービスを買える

ようになります。

例えば、

・1ドル=100ルピーのとき、100ルピーのペンは1ドル
・1ドル=150ルピーになれば、同じ1ドルで150ルピー相当のペンが買える

となるので、理屈の上では「インドからの輸出品が割安になり、輸出が伸びる」方向に働きます。

ただし、これはあくまで、

・インドが「競争力のある輸出品」を持っている場合

に限られます。
すでに中国などが、同じ商品をより低コスト・高品質で供給している分野では、INR安だけで輸出が急拡大するとは限りません。

 

2 輸入品・エネルギー価格の上昇

インドは「エネルギーの純輸入国」です。
原油などを海外から輸入しているため、通貨安は直接的にコスト増につながります。

・1ドル=100ルピーのときに100ドルだった原油なら、1万ルピーで買えます
・1ドル=120ルピーになれば、同じ100ドルの原油を買うのに1万2000ルピーが必要になります

このように、INRが弱くなればなるほど、輸入エネルギーや輸入原材料の価格はINRベースで上昇し、最終的には電気代、ガソリン代、輸入品の価格上昇となって家計に跳ね返ってきます。

 

3 インフレが加速し、実質的な負担が増える

輸入価格の上昇は、様々な商品・サービスの値上げにつながり、インフレを押し上げます。

さらに、中央銀行が今後利下げに動けば、

・名目金利は下がる
・通貨安と物価上昇が進む

という組み合わせで、実質的なインフレ(体感物価)は大きくなる可能性があります。

動画では、

・「公表インフレは1%」のような数字と、実際の生活コストの乖離がさらに大きくなる
・インドは「資産を守る」という意味では非常に厳しい環境になりつつある

という警鐘が鳴らされています。

 

4 NRI投資がインドの資産価格を押し上げる

INR安は、海外在住のインド人(NRI)にとっては「インド資産が割安に見える」状況を生みます。

例えば、

・UAEや欧米でドルやディルハムを稼いでいるNRIが、インドに家を買おうとすると、通貨安の分だけINR建ての不動産が相対的に安く見える

結果として、

・NRIによる不動産投資が増える
・都市部の住宅価格や賃料が上昇する
・教育費など、NRIも利用する分野の価格が押し上げられる

といった形で、国内に住む人たちの生活コストがさらに高くなる恐れがあります。

 

5 長期的に「生活コストの国際競争」にさらされる

輸出産業・輸入物価・インフレ・NRI投資などの要因が重なると、インド国内で暮らす人たちは、長期的に

・給与の上昇ペース以上に生活コストが上がっていく
・中間層が「良質な住宅」「良質な教育」から徐々に排除される

というリスクにさらされます。

動画では、この流れを前提として、

・「質の低い資産」にお金を置いておくと、インフレと通貨安で価値が目減りし続ける
・「質の高い資産」や「通貨分散」を通じて、防御的なポジションを取る必要がある

と強調しています。

 

2026年以降を見据えた5つの対策

最後に動画では、「インドルピー安という現実を前提に、個人として何ができるか」を5つのポイントで提案しています。

ここでは、内容を補足しつつ整理します。

 

対策1 インド国内では「高品質な資産」に絞って投資する

インフレと通貨安が進むとき、すべての資産が均等に値上がりするわけではありません。
需要が集まるのは、多くの場合

・都市部の高品質な住宅
・富裕層やNRIが好む一等地の物件

など、「上位の資産」です。

一方で、

・地方都市の質の低い住宅
・需要の弱いエリアの不動産

などは、名目価格が上がっても「売れない」「貸せない」リスクが高まり、実質的なリターンが低くなりがちです。

そのため、

・同じ「不動産投資」をするにしても、可能な限り高品質な資産に絞る
・中途半端なクオリティの物件を増やすより、少数でも質の高い資産に集中する

という考え方が重要になります。

 

対策2 「守りの低リスク商品だけ」に頼らない

インフレと通貨安が進む環境では、

・定期預金(FD)
・公的年金や積立(PF、EPFなど)

といった「一見、安全そうな商品」に資産を集中させていると、実質的には資産価値が削られていきます。

例えば、

・FD金利が7%
・税引き後の実質利回りが5%
・実際のインフレ率がそれ以上

という状況では、「名目ではお金が増えているように見えても、購買力はむしろ失われている」という逆転現象が起きます。

動画では、

・完全にFDを否定するわけではなく、「生活防衛資金」程度にとどめるべき
・長期の資産形成では、どうしても「ある程度リスクを取る投資」が必要になる

という点が強調されています。

 

対策3 資産の20〜40%をUSドル建てに分散する

通貨安リスクに対する、最もシンプルで強力なヘッジが

・USドル建て資産への分散投資

です。

例えば、

・米国株(Metaなど)を100ドル分購入した場合、INRがどれだけ下落しても「100ドル」という額面は変わりません

INR建ての資産だけを持っている場合と比べて、

・INRが大きく下落した局面で、ドル建て資産の価値が相対的に高まり、ポートフォリオ全体のバランスを保ちやすくなる

というメリットがあります。

動画では、

・所得の20〜40%程度を目安に、法的に認められた範囲でUSドル建て資産を持つことを提案
・米国株投資の方法や税制については、別途詳しい解説を参照するよう案内

といったアプローチが紹介されています。

 

対策4 輸出企業・外貨収入企業に注目する

インド国内株式に投資する場合も、

・インド国内需要だけに依存する企業
よりも
・海外向け売上やドル建て収入を持つ企業

の方が、通貨安の影響を受けにくい、あるいはむしろ追い風になることがあります。

動画では具体例として、

・IT企業など、海外からドル収入を得ている企業

への投資が取り上げられています。
自国通貨が安くなる局面では、

・ドル建て売上を持つ企業のINR換算売上・利益が増えやすい

という特性を活かす戦略です。

 

対策5 コモディティ価格に依存する企業は慎重に

一方で、通貨安とインフレが進む局面で注意したいのが、

・輸入原料やエネルギーなど、コモディティ価格に強く依存している企業

です。

・原油や金属などを大量に輸入し、それを原料として製品を作っている企業
・コストの大部分が輸入品で占められている企業

は、INR安によるコスト増を最終製品価格に転嫁しきれない場合、利益率の悪化に直面します。

動画では、

・今後のポートフォリオ構築では、こうした企業を過度に重くしない方が良い
・輸入依存度やコスト構造を企業ごとにチェックすることが重要

と注意を促しています。

 

まとめ 「終わらないINR安」を前提に設計する

動画が伝えたかったメッセージを、あらためて整理すると次のようになります。

  • INRの下落は、一時的な事件というより「構造的な要因」に支えられている
  • 貿易構造、資産市場の規模、債券市場への信用、不動産の透明性、価値保存手段としての弱さ、送金インフラの問題などが複合的に絡んでいる
  • 直近の大きな下落には、中央銀行の介入姿勢の変化や、公表インフレと実感インフレの乖離も影響している
  • INR安は一部の輸出企業にはプラスでも、輸入価格の上昇、インフレ加速、NRI投資による資産価格高騰などを通じて、多くの人の生活コストを押し上げる
  • この環境で資産を守るには、「高品質な資産への集中」「FDやPFだけに頼らない」「ドル建て資産への分散」「輸出企業への投資」「コモディティ依存企業への注意」といった具体的な行動が重要になる

インドルピー安の流れそのものを、個人が止めることはできません。
しかし、その「流れの中でどう振る舞うか」は、自分で選ぶことができます。

通貨の議論や政治的なスローガンに振り回されるのではなく、

・自分の収入源
・通貨の持ち方
・投資先の通貨や業種のバランス

を見直すことで、長期的な資産形成と生活の安定性は大きく変わってきます。

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