本記事は、YouTube動画『【株式市場】PostPrime株価急落について!証券取引所の上場基準を厳格化するべきだという主張!』の内容を基に構成しています。
導入
今回のテーマは、株価の上下そのものではなく、日本の株式市場の仕組みやルールの話です。きっかけになったのは、投資系SNSとして知られるPostPrimeの株価が急落し、その背景や是非をめぐって議論が広がったことでした。
動画では、経済評論家のエミン・ユルマズ氏が、そもそも証券取引所の上場基準は適切なのか、もっと厳格化するべきではないか、という論点を提示したことが紹介されます。一方で、投資は自己責任であり、粉飾決算や違法行為があったわけでもないのだから、取引所の責任にするのは筋が違う、という反論もSNS上で強く出ていました。
この動画は、どちらか一方を断罪するというより、株式市場の役割や取引所の責任範囲を改めて考える材料として、論点を整理していく内容になっています。
背景説明
PostPrimeとは何で、何が起きたのか
動画では、PostPrimeは投資系インフルエンサーである高橋ダン氏が立ち上げた企業で、2024年6月に上場したと説明されます。上場直後の株価は上昇し、初値が450円、7月には1200円を超える場面もあったと語られています。
その後しばらくは株価が低迷し、話題になる頻度も落ち着いていましたが、再び注目が集まったのが「秋以降」でした。大口投資家が提出する大量保有報告書を通じて、高橋ダン氏が自社株を売却していることが明らかになり、ネット上で議論が再燃します。
動画内の説明では、上場時点で66%だった保有比率が、12月には50%を下回る水準まで低下していた、という点が注目材料になっています。これが、株価の急落と合わせて強い関心を集めた、という流れです。
論点は株価ではなく「上場基準」と「市場の設計」
ここで大事なのは、動画が扱っているのが、PostPrimeという個別企業の是非を裁く話ではなく、日本の株式市場の制度設計の話に軸足を置いている点です。
動画の語り手も、エミン・ユルマズ氏や高橋ダン氏を個人的に応援する気持ちがあると述べた上で、批判が目的ではないと明確にしています。その上で、今回の騒動をきっかけに、上場基準はどうあるべきかを考えたい、という立て付けになっています。
動画内容の詳細解説
争点1 投資は自己責任か、それとも取引所にも責任があるのか
SNS上での反応として、投資は自己責任だ、粉飾決算や不正がないなら取引所を責めるのは違う、という反論が紹介されます。
これは直感的にも分かりやすく、株式投資の基本原則として多くの人が共有している考え方です。
一方でエミン氏は、取引所の役割をもっと重く見るべきだという立場を取ります。
その説明として動画で紹介されるのが「高島屋の例え」です。高島屋で買った時計が偽物だった場合、それを買った客の責任とは言えず、店側が並べる商品の品質に責任を負うのと同じように、取引所も上場企業の品質に対して一定の責任を負うべきではないか、という主張です。
もちろん、上場企業の価値は日々変動し、時計の真贋とは性質が違います。
それでもこの例えが示しているのは、取引所は単なる場所の提供者ではなく、市場の信頼性を支える管理者としての側面がある、という考え方です。
争点2 日本の税制が「上場」のインセンティブを歪める可能性
動画で重要な論点として語られるのが、上場企業のオーナーにとって、日本の制度が優しすぎるのではないか、という問題提起です。
説明の骨子は次の通りです。
オーナー社長が役員報酬として所得を得ると、累進課税により税負担が重くなりやすい。場合によっては半分程度が税金として持っていかれる。
一方で、会社を上場させ、株式を売却して得る利益にかかる税率は、おおむね約2割である。
この差があるため、資金調達や事業拡大のための上場というより、オーナーが税負担を抑えて資金を手元に移すための上場というインセンティブが働き得るのではないか、という指摘です。
ここでのポイントは、違法行為をしていると言っているわけではないことです。
制度がそうなっている以上、合理的に行動すればそうなる場合がある、という構造の話です。そして、その構造が市場の健全な発展にとって望ましいのか、という問いが置かれています。
争点3 上場基準を厳格化すべきか、という結論の方向性
動画の語り手は、ポストプライムの投資家が損をしたことを理由に取引所へ責任転嫁できるわけではない、という点では自己責任論に一定の理解を示します。
しかし同時に、市場の健全な発展を考えるなら、取引所はこうした問題に対処するため上場基準の厳格化を進めるべきだ、という主張にも賛同しています。
ここで出てくる例えが、サッカーです。
ピッチに立ったら勝負の世界で、選手は自己責任で戦う。しかし、協会や運営団体は、健全にスポーツを楽しめるようルール整備や大会運営を行う責任がある。
株式市場も同じで、参加者が自己責任で判断する一方、市場を運営する側は、信頼性を保つための設計を担うべきだ、という整理です。
実際に東証は上場基準の厳格化に動いている
動画では、理想論だけでなく現実の制度変更の動きが説明されます。日本取引所グループ側にも課題認識があり、実際に上場基準厳格化の方針が示されている、という指摘です。
具体例として、2025年のIPO件数が43件にとどまり、2013年以来の少なさだった、という話が出てきます。大型案件があり調達額自体は高水準だった一方で、件数が少ないという点が特徴だと説明されています。
さらに、2025年4月に東京証券取引所が上場基準厳格化の方向性を発表したことが取り上げられます。
これまで「上場から10年後の時価総額が40億円以上」だった基準について、「5年後に100億円」といった案が示された、という内容です。
動画では、グロース市場の上場企業615社のうち7割にあたる446社がこの基準を満たしていない、という数字も紹介され、影響の大きさが強調されています。
この基準が現実味を帯びると、そもそも上場しても5年後に100億円が難しそうなら上場を見送った方がよい、という判断が増え、IPO件数の減少につながったのではないか、という見立てが語られます。
上場廃止が増えているという別の変化にも触れる
動画では、上場基準の厳格化と直接関わる話ではないと断りつつも、上場企業が減り、上場廃止が増えている点にも触れます。
ここでは、チームモハッピーノートというコミュニティで、企業会計や上場関連に詳しい人物が上場廃止の理由などをまとめている、と紹介されます。近年、上場廃止の傾向が変わってきており、投資家は知っておいた方がよい、という問題意識が示されています。
追加解説
取引所の役割を初心者向けに言い換えるとどうなるか
株式市場は、単に株を売買する場所ではなく、社会に役立つサービスを提供する企業が、広く投資家から資金を集め、事業を拡大するための仕組みです。
この仕組みが機能すると、企業オーナーだけでなく、顧客、従業員、株主、そして社会全体が恩恵を受けやすくなります。動画では「金融は人間の体に例えると血液」という表現が紹介されますが、まさに資金が必要なところへ流れることで、経済全体がより良く動く、という考え方です。
逆に言えば、企業オーナーだけが儲かりやすい設計になってしまうと、市場の本来の目的から外れてしまう可能性があります。
エミン氏の主張は、個別の銘柄の値動きではなく、この制度設計にメスを入れるべきだ、という話として理解すると整理しやすくなります。
自己責任と制度設計は対立ではなく、同時に成り立つ
投資が自己責任であることと、取引所が市場の品質を高める努力をすることは、本来は両立します。
参加者がルールの中で自己判断するのが投資である一方、ルールや基準の質が悪ければ、参加者が不利になりやすい環境が生まれます。
これは、個人の努力で補える範囲を超えることがあるため、市場の信頼性を保つという観点から、運営側が基準を見直す意義がある、というのが動画の結論に近い温度感です。
上場基準厳格化のメリットと注意点
上場基準を厳しくすれば、上場企業の質が上がり、市場の信頼性が高まりやすいという期待があります。初心者にとっては、入り口の段階で一定のフィルターがかかることは安心材料にもなり得ます。
一方で、厳格化が強すぎると、成長途中の企業が資本市場を活用しづらくなる可能性もあります。成長企業が資金調達できないと、イノベーションが遅れたり、海外市場へ流れたりする懸念もあります。
動画はこの点を細かく制度比較する内容ではありませんが、上場基準厳格化は万能薬ではなく、どの論点を優先して設計するかが重要だ、という前提で読むと理解が深まります。
まとめ
PostPrimeの株価急落をきっかけに、上場基準はどうあるべきかという議論が注目されました。
SNS上では投資は自己責任という反論が強く、粉飾決算や違法行為がなければ取引所を責めるのは違う、という見方が示されました。
一方で、取引所は市場の信頼性を支える立場として、上場企業の品質に一定の責任を負うべきではないか、というエミン・ユルマズ氏の主張も紹介されます。
動画が提示する重要な視点は、日本の税制を含む制度設計が、上場をオーナーにとって有利な資金移転の手段にしてしまう可能性があるなら、市場の健全な発展の観点から見直しが必要ではないか、という点でした。
そして実際に東京証券取引所は上場基準厳格化の方向に動いており、IPO件数の減少や、グロース市場の多数の企業が新基準を満たさない可能性など、現実の変化が起き始めていることも語られます。
投資は自己責任である一方、市場の設計を改善し信頼性を高める努力も必要です。
今回の話題は、特定の企業や個人を断罪するためではなく、株式市場の役割と取引所の責任範囲を考える機会として、多くの人が関心を持つ価値があるテーマだと言えそうです。


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