本記事は、YouTube動画『学習編⑤:「理論株価」に使うDCF法を、一番わかりやすく解説』の内容を基に構成しています。
株の勉強をしていると、DCF法という言葉を一度は目にします。ディスカウントキャッシュフロー法と呼ばれるもので、株式の理論価値を算出する代表的な手法として知られています。ただ、名前だけ知っていても、なぜこれが理論的と言われるのか、実際にはどんな考え方で計算するのかまで理解できている人は多くないかもしれません。
そこで本記事では、動画の流れに沿いながら、DCF法の意味、計算の全体像、フリーキャッシュフローの考え方、割引率の役割、そして最重要ポイントであるターミナルバリュー(継続価値)まで、初心者にも分かるように丁寧に整理します。さらに、DCF法が万能な答えではなく、前提次第で結論が変わるという注意点と、それでもDCF法が投資判断に役立つ理由も掘り下げます。
DCF法とは何か:企業価値は将来キャッシュフローの現在価値で決まる
DCF法を一言で表すと、企業が将来生み出すキャッシュフローを、現在価値に割り引いて合計する方法です。
動画では、企業価値の定義として、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローを現在価値に割引いて合計したものが企業価値である、というファイナンスの基本的な考え方が示されていました。
ここで重要なのは、株の価値の原点が、最終的には配当であるという点です。
株式に値段がつく理由は、将来どれだけ配当がもらえるか、あるいは配当に回せる現金がどれだけ生み出されるかに起因します。
DCF法で扱うフリーキャッシュフローは、配当の原資になり得るお金です。だからこそ、将来のフリーキャッシュフローを予測し、それを現在価値に直して合計するDCF法は合理的だと説明されています。
「割引く」とはどういう意味か:未来の100は今の100ではない
DCF法の中核になるのが割引という考え方です。動画では例として、来年100のキャッシュフローが出ると仮定して、割引率が5%なら現在価値は95になる、というイメージが語られていました。
未来の100は確実ではありません。
来年100が本当にもらえるか分からないから、今の価値に直すと少し目減りして見積もる、というのが割引です。そして、再来年の100は来年の100よりさらに不確実なので、より大きく割り引かれます。こうして遠い将来ほど価値が小さく見積もられ、割り引かれた価値を足し上げたものが現在価値になります。
この割引の発想は、DCF法だけでなくファイナンス全体の基礎であり、将来の価値を現在の価値に換算するための共通言語だと言えます。
割引率はどう決まるのか:リスクが高いほど割引率が高い
次に疑問になるのが、割引率はどうやって決めるのかという点です。動画では、割引率はリスクに応じて決まると説明されています。
安定して確実にキャッシュフローを生みそうな企業は、割引率が低くなります。一方で、何をするか分からない、将来の見通しが立ちにくい企業は割引率が高くなります。動画ではイメージとして、やんちゃな企業ほど高く、安心感のある企業ほど低い、という説明がありました。
この割引率は、DCF法でよくWACC(加重平均資本コスト)と呼ばれる指標で置かれます。厳密には株式のベータなどを使って理屈を立てる方法もありますが、動画では、現実にはある程度「感覚」や「市場の見方」が入りやすい部分であることも強調されていました。
なぜDCF法が重要なのか:PERやPBRが「今」ならDCFは「未来」を見る
株式の評価手法には、PER、PBR、EV/EBITDAなど多くの指標があります。しかし動画では、これらは基本的に現在時点の数値を使った相対評価に過ぎない、と整理されていました。
例えば、今の利益が同じ企業でも、将来配当が増えていく企業と、将来配当が減っていく企業が同じ価格で評価されるのは不自然です。ところがPERやPBRは、基本的に今の数値を基準に比べるため、その違いを直接は反映しにくいという弱点があります。
それに対してDCF法は、将来の成長性や将来のキャッシュフローを見積もって評価するため、株の本質に近い形で価値を説明しやすいというメリットがあります。理論的・合理的と言われる理由がここにあります。
DCF法が難しい理由:理論なのに主観が入りやすい
ここで一気に現実的な話になります。DCF法は理論的だと言われますが、動画では同時に、最も難しいのは将来キャッシュフローの予測であり、そこには主観が強く入ると語られていました。
将来のことは誰にも分かりません。神様ではない限り、5年後の売上、利益、投資額、景気、競争環境を正確に当てることはできません。だからこそ、DCF法は理論と言いながら、実はセンスの要素が大きく、計算者の前提が強く反映されるものになります。
DCF法が万能な正解を出す道具だと思い込むと危険で、まずは意見が入る評価であることを理解しておく必要があります。
DCF法の全体プロセス:5年程度予測し、その後は継続価値でまとめる
動画ではDCF法の流れが4ステップで整理されていました。
まず1つ目は、フリーキャッシュフロー(FCF)を予測することです。実務では永久に予測することは不可能なので、5年程度、長くても7年程度の財務予測を作って見積もるのが一般的です。
2つ目は割引率(WACC)を設定することです。安定企業なら低く、リスクが高い企業なら高い、という考え方に基づきます。
3つ目が継続価値の算定です。ここが非常に重要です。5年や7年の予測期間が終わっても企業はその後も続く前提なので、予測期間以降の価値をまとめて計算します。これがターミナルバリュー(Terminal Value)です。
4つ目は、予測したFCFとターミナルバリューを現在価値に割引いて合計し、事業価値、株式価値へと落とし込む計算です。
フリーキャッシュフローとは何か:利益ではなく「実際に残る現金」を見る
DCF法で使うFCFは、配当の原資になり得るキャッシュです。動画では、一般的には営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いたものとして理解すればよい、という説明がありました。
さらに詳しい計算式としては、税引後営業利益(NOPAT)に減価償却費を足し、設備投資(CAPEX)を引き、運転資本の増減を調整して求める、という形が紹介されていました。
ここで重要なのは、損益計算書の利益だけを見ないという発想です。会計上の利益は、計上タイミングや費用配分の考え方で見え方が変わり得ます。一方でキャッシュはごまかしが効きにくいので、最終的に配当を出せるかどうかの判断にはキャッシュの方が本質的だという流れになります。
動画では例として、トヨタのように利益は大きいが設備投資も大きく、FCFが伸びにくい企業があることにも触れられていました。投資家目線では、投資が少なく大きく稼げる企業の方がFCFが出やすく、株式評価上は有利になりやすいという見方ができます。
ターミナルバリューが最重要:企業価値の大半を占めるケースが多い
DCF法で最も重要なのはターミナルバリューだと、動画では繰り返し強調されていました。理由は単純で、5年分の予測よりも、それ以降の継続価値の方が企業価値の大半を占めることが多いからです。
実際の例として、5年分の現在価値の合計が328程度でも、ターミナルバリューが1054となり、企業価値合計1383の大部分をターミナルバリューが占める、という計算例が示されていました。つまり、見た目は5年分を丁寧に予測しているようでも、結局はその後の継続価値の前提が価値を大きく左右する構造になっています。
この事実は、DCF法の理解において避けて通れません。
永久成長率と割引率で価値が激変する:1%の違いが大きな差になる
ターミナルバリューを計算する際には、永久成長率(g)という前提を置きます。予測期間後は毎年何%で成長するかをざっくり決めてしまうという発想です。動画では一般的に1%や2%など控えめな数字が使われることが多いとされていました。
しかしこのgを1%から2%に変えるだけで、企業価値が大きく動きます。動画の例でも、永久成長率が0.01から0.02に変わるだけで企業価値が目に見えて変化し、0.03にするとさらに大きく上振れする様子が示されていました。
さらに、割引率(WACC)の変更も強烈です。割引率が0.08から0.06に下がっただけで、企業価値が1300から2000へ大きく上がる例が示されていました。これは、投資家からの信頼が増してリスクが下がると、同じキャッシュフローでも価値が大きく上がるということを意味します。
ここから分かるのは、DCF法は精密に見えて、実は前提の置き方で結論が大きく変わる評価手法だという点です。
ターミナルバリューの式はPERとつながる:WACC−gが意味するもの
動画ではさらに踏み込み、ターミナルバリューの式が無限等比数列の和の形になっていることが説明されていました。成長率gで毎年増えるキャッシュフローを、割引率WACCで割り引き続けると、数列の和としてまとめて計算できるという発想です。
そして、WACCとgの差であるWACC−gが小さくなるほど、ターミナルバリューは大きくなります。例えばWACCが0.08、gが0.05なら差は0.03になり、1÷0.03は約33です。これは、ざっくり言えば倍率のようなものになり、PERに近い意味合いを持つと説明されていました。
この話を理解すると、PERが単なる相対評価指標ではなく、将来成長とリスクを織り込んだ倍率として、DCFの世界ともつながっていることが見えてきます。
DCF法は危ういのか:前提次第でどうにでもなる問題
ここまで読むと当然の疑問が出ます。企業価値の大半がターミナルバリューで決まるなら、永久成長率や割引率の前提をいじれば、価値はどうにでもなってしまうのではないか、という疑問です。動画でも、AIからの質問としてまさにこの点が投げかけられていました。
結論として、危うさはあります。DCF法で出る理論価値は、絶対的な答えではなく意見である、というのが動画の立場です。にもかかわらず理論株価という言い方だけが独り歩きすると、あたかも正解があるかのように錯覚してしまいます。
それでもDCF法が役立つ理由:株価が動く「原因」を分解できる
ではDCF法は意味がないのかというと、そうではありません。動画では、DCF法は前提次第で結論が変わるからこそ、何が企業価値を上下させるのかを分解して理解できると説明されていました。
例えば、企業の実力はあるのに投資家から信頼されておらず、割引率が高く見積もられて株価が低いケースを考えます。この場合、IR強化、中期経営計画の明確化、海外投資家への説明などで信頼が増せば、割引率が下がり、企業価値が大きく上がる可能性があります。つまり、株価が上がる要因を、業績だけでなく信頼やリスク評価の変化として捉えられるようになります。
また、足元の5年は設備投資が重くてキャッシュフローが伸びなくても、その投資が5年後以降の成長率を押し上げるなら、ターミナルバリューが増え、株価の評価が変わる可能性があります。目先の利益より、長期でキャッシュフローを増やし続けられるかが重要という視点も、DCFの構造から自然に導かれます。
長期投資とDCFの相性:大事なのは「長く成長できる仕組み」
動画の終盤では、企業価値を本当に上げるのは目先の利益を増やすことではなく、将来のキャッシュフローを長期にわたって増加させていくことだという考えが語られていました。
長期投資の本質は、企業が未来にわたり継続的に成長できる活動をしているかどうかを見極めることにあります。市場参加者がその確信を深めれば、割引率が下がったり、成長率の見込みが上がったりして、DCFの前提が改善され、結果として株価が上がっていく、という整理です。
つまりDCFは、計算結果そのものを当てにいくというより、どんな要素が価値を決めているのか、投資家が何を見て評価しているのかを理解するための概念装置として強い武器になります。
まとめ
DCF法は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、理論的な企業価値を求める方法です。PERやPBRが現在の数値を使った相対評価になりやすいのに対し、DCFは将来の成長と配当の原資に焦点を当てるため、株の本質に近い評価だとされています。
一方で、将来予測には主観が入り、特にターミナルバリューが企業価値の大半を占めるため、永久成長率や割引率の置き方次第で結論が大きく変わるという危うさもあります。だからこそDCFの理論株価は絶対的な正解ではなく、意見であることを理解する必要があります。
それでもDCF法を学ぶ価値は大きく、株価がなぜ上がるのか下がるのかを、成長率、投資、信頼、リスク評価といった要因に分解して考えられるようになります。長期投資では、目先の利益よりも、将来にわたりキャッシュフローを増やし続けられる仕組みを持つ企業かどうかが重要であり、DCFの考え方はその視点を自然に育ててくれます。


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