米国株が不安定だ、崩壊が始まったのではないか——。こうした声が出やすい局面です。特にここ数日は、ハイテクの一角が急落し、暗号資産や一部コモディティも大きく上下しました。値動きだけを見ると「何かが壊れた」ようにも見えます。
ただ、動画で強調されていたのは、「崩壊かどうか」を感情で決めず、データと“相場サイクル”の位置づけで冷静に確認することでした。結論から言えば、指数全体はまだ崩れていない一方、セクターやテーマによっては明確な急落が起きており、投資家の体感が割れやすい状況にあります。
以下、動画内で示された指標や数値を手がかりに、いま米国市場で何が起きているのかを整理します。
まず確認すべきは「S&P500は本当に崩れているのか」
最初に見ておきたいのが市場全体の体温です。動画ではS&P500の日足(直近約1年)が示され、週末の終値が6932ポイントだったと触れられていました。
重要なのは、短期・中期の移動平均線に対して、相場が致命的に崩れていない点です。いったん下に割り込む場面はあったものの、再び戻し、**50日移動平均線が100日移動平均線を上抜く(ゴールデンクロス)**の形になっている、という説明でした。
加えて、直近1年でS&P500は約14%上昇しているとされます。ここだけを見ると、「市場全体の崩壊」というより、上昇が続いた後の揺れや警戒感が増している状態、という見方が出てきます。
不安心理の温度計:VIXとFear & Greedは“パニック”ではない
「崩壊」の空気を判断する際、投資家心理の指標も有効です。
- VIX(恐怖指数)は一時20を超えて23前後まで上がったものの、週末前に17.76まで低下し、節目の20を下回っている
- CNN Fear & Greed Indexは木曜日に**32(Fear寄り)まで落ちたが、金曜日には45(Neutral)**まで回復
これらは、「市場が恐怖で買えない」状態ではない、という示唆になります。もちろん“安心”でもありませんが、少なくとも全面パニックのサインとは言いづらい、という整理です。
コモディティは「下がった」のに、長期トレンドはまだ崩れていない
次に話題になったのがゴールド(安全資産)です。動画では、ゴールドが一時4000ドル台前半まで下げた後、4979ドルまで戻していると語られていました。さらに直近1年では69%上昇とされます。
ここで面白いのは、「下がった」という事実だけで弱気と断定できない点です。動画では、ゴールドが50日移動平均線にタッチしていない(=短期トレンドが大きく崩れていない)という見方が示されました。
シルバーについても、値動きが激しい反面、
- 直近1年で136%上昇
- 急落はあったが、50日移動平均線まで落ちていない水準
と説明されます。プラチナはボラティリティが高く50日線を割り込む場面があるものの、それでも直近1年で103%上昇とされ、長期視点では「倍になっている」状態だ、という位置づけでした。
つまり、コモディティは“過熱→反動”の調整が起きているが、トレンドが完全に折れたと断定できる段階ではない、という整理になります。
暗号資産(ビットコイン)は別格の下落:高値から“半分”へ
一方で、ビットコインは明確に大きな下落として語られました。動画では、高値の12万ドルを超えたところから、6万3000ドル前後まで下げ「ほぼ半分になった」と説明されています。
ここは市場参加者の体感を大きく悪化させやすい部分です。暗号資産は値動きが大きいぶん、下落がニュース性を持ち、リスクオフの空気を増幅しやすいからです。
いま最も“崩れている”のはソフトウェア:IGVが示す急落の現実
動画の中心テーマの1つは、「指数はまだ健全でも、ソフトウェアが明確に崩れている」点でした。
例として挙げられたのが、ソフトウェア関連ETFのIGVです。価格は82ドル前後とされ、直近高値から見ると約30%下落、直近1年でも約20%下落と説明されました。さらにテクニカル面でも、
- 50日線が100日線・200日線を下抜く(デッドクロス)
- その下で株価が推移
という形で、「ソフトウェアは明確に大きな下落局面に見える」と語られています。
ここが重要で、S&P500のような“市場全体”を見ている人は「崩壊していない」と感じやすい一方、SaaSやソフトウェア銘柄を多く持つ人は「かなり壊れている」と感じやすい、というギャップが生まれます。
急落のきっかけとして語られた「Anthropic(Claude)」と“ソフトウェア不要論”
ソフトウェア急落の背景として動画で語られたのが、**Anthropic(Claudeを手がける企業)**の存在です。特に「AIがアウトプットまで完結し、従来のソフトウェアを置き換えるのでは」という連想が、市場の評価を揺らしているという趣旨でした。
動画内ではAnthropicについて、
- 2021年設立
- 公益性を掲げる形態
- 推定の時価評価が3500億ドル超(約52兆円)
- IPO観測が高まっている
といった話が出ます。同時に、リスクとして
- 大手(Amazon・Google等)から資金支援を受け、インフラ面で依存がある
- 著作権(音楽歌詞・書籍等)をめぐる訴訟リスクが残っている
- 上場後は四半期ごとの利益成長が厳しく問われる
といった点も挙げられていました。
そして、この“AIが仕事の最後までやるなら、既存SaaSのライセンスが要らなくなるのでは”という不安が、ソフトウェア株の急落を呼んでいる、という構図です。
動画では具体例として、直近1カ月の下落として
- Adobe -20%
- Salesforce -28%
- ServiceNow -33%
- Intuit -31%
- Workday -22%
などが並べられました。ここは「指数は崩れていないのに、体感は崩壊」という現象を強く作ります。
“波及”が起きている:金融リサーチ銘柄まで急落
さらに動画では、Anthropicが金融リサーチ領域にも踏み込むような話題が出たことで、金融データ・リサーチ関連にも売りが波及した、と説明されています。
例として、短期間での下落として
- FactSet -17%
- S&P(指数関連企業)-13%
- Nasdaq -12%
- Moody’s -11%
が挙げられました。
「事実を整理して提供する」ビジネスまでAIが置き換えるのでは、という連想が広がると、ソフトウェアに限らず“情報産業”がまとめて売られやすくなる、という見立てです。
GAFAMでも明暗:上がる銘柄と伸びない銘柄がはっきりしている
市場全体が崩れていないとしても、巨大テックが一斉に強いわけではありません。動画では、直近1年での動きとして、
- Alphabet(Google)が**+74%**と目立つ上昇
- Appleは**+18%**程度
- Amazonは**-1.3%**程度
- Metaもマイナス圏
- Microsoftも横ばい気味
といったニュアンスで語られました。
要するに「AIの勝ち筋」がどこにあるかを市場が探し続け、評価が行ったり来たりしている、ということです。決算が良くても下がる、巨大企業でも数時間で時価総額が大きく動く、という“ボラティリティの時代”に入っている、という印象が強調されていました。
セクターの資金ローテーション:ディフェンシブが上位、ハイテクは弱い
直近1週間のセクターパフォーマンスの話も重要です。動画では、
- 生活必需品などのディフェンシブが上位(例:+6%程度)
- 工業、素材、エネルギー、不動産が堅調
- 一方でテクノロジーは**-0.8%**
- 一般消費財は弱め
- コミュニケーションが大きめのマイナス
という趣旨で説明されました。
ここから読み取れるのは、「全面リスクオフ」ではなく、「ハイテク偏重からの揺り戻し」や「守りへの一時的シフト」が起きている可能性です。体感としては不安定でも、市場が“逃げ場”を作りながら資金を移しているとも言えます。
雇用の悪化が焦点:JOLTS求人が低水準、解雇もじわり増加
相場サイクルを考える上で、景気指標は外せません。動画ではJOLTSの話として、
- 求人件数が654万人
- 38万人減で5年ぶり低水準
- 解雇(レイオフ)は176万件で微増
- 求人倍率(失業者1人あたり求人)が0.9で1を割り込む
という説明がありました。
米国は日本より解雇が起きやすく、雇用悪化が景気悪化のシグナルになりやすい、という前提も語られています。ここが不安の根っこです。
ただし雇用悪化は「利下げ期待」を強める側面もある
一方で、雇用が悪化するとFRBの「利下げ余地」が意識されます。動画ではCMEウォッチ(利下げ確率)に触れ、
- 次回FOMC(3月18日)で据え置きが76.8%
- 1回利下げ(0.25%)が**23%**に増えた
と説明されました。さらに年内の利下げ期待も残っている、という見方でした。
ここで重要なのが、「悪いニュースが良いニュースになる」局面です。景気悪化は本来マイナスですが、金利が下がれば株の割引率が下がり、株価にはプラスに働きやすい。動画でも、金利が株式にとって“コスト”であり、割引率(分母)が下がると理屈上は株価が上がりやすい、という説明がありました。
つまり、雇用悪化=即崩壊ではなく、相場は「景気」と「金利」の綱引きで揺れている、ということになります。
相場サイクルの現在地:「業績相場」だと見る理由
動画の結論の軸は、「いまは業績相場にいる」という整理でした。
相場サイクルは大きく4局面で語られます(動画の表現に沿ってまとめます)。
- 金融相場:金融緩和が株価を押し上げる
- 業績相場:景気・業績が良く、株価も高い(ただし過熱後は揺れやすい)
- 逆金融相場:金融引き締めで株価が圧迫される
- 逆業績相場:景気悪化・業績悪化で株価が下がる
動画では、2022年10月に底打ちした後の上昇局面を振り返りつつ、いまは「業績を見ながら上がる局面」にいる、という見方が示されました。だからこそ、急落が起きても“指数全体の崩壊”ではなく、テーマごとの調整として出ている可能性がある、という整理になります。
では投資家はどう動くべきか:短期トレードと長期投資は分けて考える
動画で繰り返し語られたのが、投資スタイルの違いです。
- デイトレ・スキャル:ボラティリティはチャンス。急落は「対応が必要」
- スイング~長期:急落は“ルール通りに買えるかどうか”の問題。慌てて設計を崩す必要は薄い
そして長期側の設計として、強調されたのがコア・サテライト戦略でした。
コアがあると、急落時に「買える」
急落時に最も難しいのは“行動”です。怖くて動けなくなる。そこで、あらかじめ「何をコア資産にするか」「どれくらいの比率で持つか」を決めておくと、下落局面でも淡々と積み立てや買い増しができる、という趣旨でした。
動画内ではゴールド(例:GLDM)をコアとして積み立て・買い増しする例が語られ、「コアに腹落ちしているから買える」という言い方がされていました。
逆に危険なのは「コアとサテライトを混ぜる」こと
下落局面では、サテライトの含み損をコアのルールで正当化してしまい、塩漬けになりやすい。だからこそ、コアとサテライトは分けるべきだ、という注意がありました。
「米株崩壊論」に飲み込まれないための見取り図
ここまでの話を、初心者でも迷いにくい形でまとめると、ポイントは次の通りです。
市場全体(S&P500、VIX、Fear & Greed)は、少なくとも動画内のデータでは“崩壊”の形ではありません。一方で、ソフトウェアや一部テーマは明確に急落しており、ここが体感を悪化させています。さらにAI(Anthropic/Claude)の話題が、ソフトウェアから金融データまで波及し、売りの連鎖が起きやすい構図も見えてきます。
だからこそ必要なのは、「いま指数が崩れているのか」「自分が持つセクターが崩れているのか」を分けて見ること、そして長期投資ならコア資産の設計を崩さないことです。
まとめ:崩壊の前に、まず“どこが崩れているのか”を特定する
米国株が崩壊しているかどうかは、少なくとも動画内の時点では「指数全体はまだ崩れていない」が答えになります。ただし、「ソフトウェアを中心に、テーマの崩れは現実に起きている」ため、投資家の体感は重くなりやすい局面です。
相場サイクルの観点では「業績相場」という位置づけが示され、短期の揺れはあっても、長期の資産形成の設計そのものを崩す必要は薄い、というのが動画のメッセージでした。大事なのは、ショックに反応して投資ルールを変えるのではなく、ルールがあるから淡々と動ける状態を作ることです。


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