本記事は、YouTube動画『【日本経済】株高の裏側で起こっている証券業界の地殻変動!なぜ株高のなかで、証券株は低迷しているのか』の内容を基に構成しています。
2026年の日本株市場は、歴史的とも言える上昇局面を迎えています。日経平均株価は6万円台に到達し、新NISAによる個人投資マネーの流入も続いています。普通に考えれば、こうした環境では証券会社が大儲けし、証券株も大きく上昇していそうなものです。
しかし実際には、状況はまったく異なっています。
野村ホールディングスの株価は年初来マイナス圏に沈み、大和証券グループ本社もTOPIXを下回るパフォーマンスとなっています。一方で、三菱UFJフィナンシャル・グループなどのメガバンク株は堅調です。
なぜ、これほどの株高局面にもかかわらず、証券会社の株は冴えないのでしょうか。
その背景には、日本の証券業界が長年進めてきた「ビジネスモデルの大転換」があります。そしてその転換は、業績を安定化させる一方で、「爆発的に稼げない業界」へと変えてしまった側面もあるのです。
今回は、動画内容をもとに、日本の大手証券会社が直面している構造変化について詳しく解説していきます。
日経平均6万円時代なのに証券株が弱い理由
まず現在の市場環境を整理してみます。
2026年5月15日時点で、日経平均株価は6万1409円を記録しました。年初来上昇率は22%に達しています。TOPIXも13.3%上昇しており、日本株全体として非常に強い相場となっています。
しかも、円安も進んでいるため、外貨建て資産や海外株式を保有する投資家の資産残高はさらに膨らんでいます。新NISAによる資金流入も続いており、証券会社にとっては理想的な環境に見えます。
ところが、大手証券株は期待ほど上昇していません。
大和証券グループ本社の年初来上昇率は8.2%。TOPIXを下回っています。さらに野村ホールディングスに至っては、年初来でマイナス2.2%という状況です。
一方、三菱UFJフィナンシャル・グループは17.5%上昇、三井住友フィナンシャルグループも13.1%上昇しています。
つまり、市場全体が上がっているにもかかわらず、証券株だけが取り残されているような状態になっているのです。
実は業績は絶好調だった
ここで重要なのは、「証券会社の業績自体は悪くない」という点です。
むしろ好調です。
野村ホールディングスは2期連続で過去最高益を更新。大和証券グループ本社も2026年3月期で過去最高益を達成しています。三菱UFJ証券も過去2番目の高水準となっています。
つまり、「業績が悪いから株価が下がっている」という単純な話ではありません。
では、なぜ投資家は証券株を積極的に買わないのでしょうか。
その理由を理解するには、日本の証券業界が20年以上かけて進めてきた“構造改革”を見る必要があります。
昔の証券会社は「手数料至上主義」だった
現在の若い投資家にはイメージしにくいかもしれませんが、かつての証券会社は極めて「市況依存型」のビジネスでした。
株式市場が盛り上がれば顧客の売買が増え、手数料収入が急増する。逆に相場が悪化すると、顧客は取引を止め、収益が急減する。
つまり、業績が極端に景気敏感だったのです。
そのため、証券会社は常に「顧客に売買してもらう」必要がありました。
頻繁な売買提案。
投資信託の乗り換え営業。
高回転売買。
こうした営業スタイルが当たり前の時代が長く続いていました。
結果として、不適切営業や強引な勧誘も問題化し、証券会社に対する社会的イメージは決して良いものではありませんでした。
大手証券が目指した「ストックビジネス化」
そこで大手証券各社が取り組んだのが、「フロービジネス」から「ストックビジネス」への転換です。
フロービジネスとは、売買のたびに手数料を取るモデルです。
一方、ストックビジネスは、資産残高に応じて継続的に収益を得るモデルです。
この転換の象徴となったのが「ラップ口座」でした。
ラップ口座とは何か
ラップ口座とは、顧客が証券会社と投資一任契約を結び、資産運用を包括的に任せる仕組みです。
証券会社は売買回数ではなく、「預かり資産残高」に応じて手数料を受け取ります。
つまり、相場が多少悪くても、顧客が資産を預け続けてくれれば安定収益になります。
大和証券は2004年に日本で初めてラップ口座サービスを開始しました。当初の最低投資金額は5000万円でした。
その後、「ファンドラップ」など簡易型サービスも広がり、現在では大手証券の重要収益源になっています。
大和証券の数字が示す“構造転換”
大和証券のデータを見ると、この転換がかなり進んでいることが分かります。
2026年3月末時点で、ファンドラップを含むラップ口座残高は6兆490億円。契約件数は23万1000件に達しています。
さらに、第4四半期のラップ関連収益は180億円で過去最高を更新しました。
ストックベース収益全体では334億円となり、収益全体の47.4%を占めています。
特に重要なのは、「固定費カバー率」が112%に達している点です。
これは、相場変動の影響を受けにくいストック収益だけで、人件費など固定費をまかなえる水準になったことを意味しています。
かつての証券会社にとって、これは“悲願”とも言える状態でした。
しかし、その代償として「爆発力」を失った
ところが、この安定化には副作用もありました。
それが、「株高でも利益が爆発しない」という問題です。
昔の証券会社は、市場が盛り上がれば売買回転率が急上昇し、利益が一気に膨らみました。
しかし現在は、資産残高ベースの安定収益が中心になっています。
つまり、株高になっても利益の伸びは限定的です。
しかも、短期売買を積極的に行う投資家の多くは、すでにネット証券へ移行しています。
ネット証券の存在が対面証券を苦しめる
現在のネット証券業界では、国内株売買手数料無料が当たり前になっています。
SBI証券や楽天証券などが「ゼロコスト競争」を進めたことで、売買手数料モデルそのものが崩壊しました。
若い世代ほどネット証券を使い、スマホで低コスト運用を行っています。
一方、大手対面証券は高コスト構造を抱えています。
店舗。
営業社員。
高額な人件費。
こうした固定費が重くのしかかる中で、利益率を大きく改善するのは簡単ではありません。
なぜメガバンク株の方が強いのか
では、なぜメガバンク株は強いのでしょうか。
最大の理由は「金利」です。
日本銀行の金融政策修正によって金利が上昇すると、銀行は貸出利ざやを拡大できます。
特にメガバンクは預金基盤が大きいため、金利上昇メリットを享受しやすい構造になっています。
一方、証券会社は金利上昇そのものから直接大きな恩恵を受けるわけではありません。
つまり、現在の日本市場では、「銀行の方が収益拡大ストーリーを描きやすい」のです。
大手証券が次に狙う「ウェルスマネジメント」
では、大手証券は今後どこで成長を目指すのでしょうか。
動画では、その候補として「ウェルスマネジメント」が挙げられていました。
これは富裕層向け資産管理サービスです。
欧米では超富裕層向けビジネスが巨大市場になっており、証券会社やプライベートバンクが高収益を上げています。
しかし、日本では事情が異なります。
日本は中間層が比較的厚い社会であり、欧米ほど超富裕層マーケットが大きくありません。
そのため、高収益化しにくいのです。
最後の成長源は「日本人の金融資産」
そうなると、結局最後に頼れるのは、日本人全体の金融資産増加です。
日本の個人金融資産は2300兆円を超えています。
さらに、新NISAやインフレの影響によって、「現金から投資へ」の流れも進み始めています。
証券会社としては、この巨大資産を少しでも預かり、ストック収益を積み上げるしかありません。
ただし、ここにも問題があります。
顧客の高齢化です。
既存顧客は高齢化し、若い世代はネット証券へ流れている。
つまり、大手対面証券は「既存顧客維持」が中心になりやすく、高成長シナリオを描きにくいのです。
証券会社は“普通の会社”になった
今回の動画で最も印象的だったのは、「証券会社が普通の会社になった」という視点でした。
かつての証券会社は、市場が盛り上がると利益が爆発するハイリスク・ハイリターン型の業界でした。
しかし現在は、安定収益を重視する構造へと変化しています。
これは業界としては健全化と言えます。
強引な営業。
回転売買の押し付け。
過度なリスク商品販売。
こうした問題は、以前より改善されてきました。
個人投資家にとっては、現在の方がはるかに良い環境と言えるでしょう。
ただ、その一方で、株式市場が過熱しても証券会社だけが爆発的利益を得る時代ではなくなったのです。
まとめ
日本株市場は歴史的な上昇局面を迎えています。
しかし、その裏側で大手証券会社は大きな構造転換に直面しています。
フロービジネスからストックビジネスへの転換は、業績の安定化という意味では成功しました。しかしその結果、株高局面でも利益が急拡大しにくい業界へと変わりました。
さらに、ネット証券との競争、顧客の高齢化、人件費負担など、多くの課題も抱えています。
今後、日本人の金融資産がさらに投資市場へ流入していく中で、大手対面証券がどのような新たな価値を提供できるのか。
証券業界は今、静かな転換点に立っているのかもしれません。


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