本記事は、YouTube動画「Stop Following The 60/40 Rule – This New Investing Strategy Could Save Your Retirement」の内容を基に構成しています。
導入:かつての「王道戦略」60/40が通用しにくくなっている
長年、株式60%・債券40%に分けて運用する「60/40ポートフォリオ」は、老後資金づくりの王道戦略として世界中で使われてきました。過去約60年で平均年9%前後のリターンを上げてきたとも言われ、金融機関や教科書が推奨する「模範解答」のような存在でした。
ところが動画では、この60/40ルールが「今の時代にはそのまま当てはまらないどころか、退職後の資産を危険にさらす可能性すらある」として、その理由と代替となる考え方が詳しく説明されています。
背景にあるのは、債券の安全性低下、株式市場のボラティリティ(値動きの激しさ)の増大、そしてインフレと財政赤字による国債への信認低下です。世界最大級の運用会社ブラックロックのラリー・フィンクや、レイ・ダリオといった著名投資家も、従来の60/40からのシフトを模索していると紹介されます。
以下では動画の流れに沿いながら、60/40ルールがなぜ揺らいでいるのか、そして動画投稿者がどのような「本物の分散投資」を実践しているのかを、初心者にも分かりやすい形で解説していきます。
60/40ポートフォリオとは何か
まず、前提となる60/40ポートフォリオの基本を整理します。
60/40ポートフォリオとは、投資資産を次のように配分するシンプルな戦略です。
- 60%を株式に投資する
- 40%を債券に投資する
株式部分は企業の成長に連動し、長期的な値上がりによってリターンを狙います。一方の債券部分は、利子収入と価格の安定性によってポートフォリオ全体のブレーキ役を果たし、「守り」と「インカム(利子収入)」を提供する存在とされてきました。
この組み合わせが長期的には非常にうまく機能し、過去およそ60年で年平均約9%の成長を遂げてきたことから、退職資金づくりの「金科玉条」として広く普及しました。
しかし、動画では「その前提条件が崩れつつある」として、3つの理由を挙げています。
なぜ60/40ルールは機能しにくくなったのか
理由1:株式と債券の「逆相関」が崩れた
60/40ポートフォリオの最大の強みは、株式と債券が歴史的に「逆相関」の関係にあったことです。
過去の一般的なパターンは次のようなものでした。
- 株価が上昇しているときは、債券はやや売られやすい
- 株価が下落しているときは、安全資産として債券が買われやすい
この関係のおかげで、株が大きく下がった年でも、債券が値上がりして損失の一部を相殺してくれることが多く、長期的には安定したリターンにつながっていました。
ところが、2022年に大きな異変が起きました。動画では、こう説明されています。
- 2022年は、債券市場にとって「史上最悪レベル」の年となった
- 同じ年に、アメリカ株式市場も約20%の大幅な下落に見舞われた
つまり、株も債券も同じタイミングで大きく値下がりしました。本来なら「株がだめなときの避難先」であるはずの債券が一緒に沈んでしまったのです。
その背景には、次のような要因が重なっていました。
- アメリカ政府の巨額の財政赤字
- 累積した国家債務の増加
- ドルに対する信認不安
- コロナ禍以降の大規模なマネー供給とインフレ
国債というのは「政府への貸付」であり、その価値は「政府の信用」と「通貨の価値」に依存しています。ところが、こうした不安が重なったことで、景気が悪化しているにもかかわらず「債券に逃げる」という動きが弱まり、株も債券も同時に売られるという結果になりました。
株が下がったときに債券が上がってくれなければ、60/40ポートフォリオの安全装置は機能しません。この2022年の出来事は、「60/40は本当に安全なのか」という疑念を市場全体に突き付けるシグナルになりました。
理由2:債券利回りがインフレと税金に食われる
2つ目の問題は、債券投資の「実質リターン」が非常に薄くなっている点です。
動画では、アメリカ国債を例に挙げて、次のような状況が説明されています。
- アメリカ政府に20〜30年お金を貸す長期国債の利回りは、動画撮影時点でおおよそ5%弱
- 例えば、100ドルを年利4.75%で運用すると、年間4.75ドルの利子が入るイメージ
一見すると悪くない数字に見えますが、ここにインフレと税金が加わると状況は一変します。
動画で使われている前提は次の通りです。
- アメリカの「公表ベース」のインフレ率は約3%
- 体感インフレはその2倍、つまり約6%と考えるのが一般的な目安
この前提で考えると、名目利回り4.75%から公表インフレ3%を差し引いた実質利回りは約1.75%に過ぎません。もし体感インフレ6%をベースに考えるなら、実質的にはマイナスになっている可能性もあります。
さらに、国債の利子には税金がかかります。
- アメリカ国債の利子は連邦税の課税対象
- 多くのケースで州税は非課税だが、所得が高い人ほど連邦税率が高くなる
つまり、インフレで購買力を削られたうえに、利子に税金がかかり、手元に残る実質リターンはごくわずか、あるいはほぼゼロというケースも出てきます。
株式のように元本そのものが長期的に成長するのではなく、債券は基本的に「利子収入だけ」がリターン源です。その利子部分がインフレと税金に食われてしまえば、「安全だがほとんど増えない資産」となり、ポートフォリオ全体の成長を大きく押し上げる力にはなりにくくなります。
理由3:株式市場のボラティリティが大きくなった
3つ目の要因は、60%を占める株式側の変化です。
動画では、近年の株式市場の値動きの激しさを、次のような要因と結びつけています。
- 地政学リスクの増大
- インフレ懸念と金融政策の不透明感
- コロナ禍以降の大規模な金融緩和とその反動
- 国家債務の膨張
- AIなどの技術革新による産業構造の変化
- 各国の政治的な不確実性
これらが複合的に作用し、市場は以前よりも短期的なニュースやイベントに敏感に反応するようになりました。その結果、株価の上下動は大きくなり、長期目線で冷静に保有することの心理的ハードルも高まっています。
もちろん、ボラティリティが高いということは、うまくリスクをコントロールできる投資家にとってはチャンスでもあります。しかし、動画が指摘するように、「平均的な人」はそこまでのリサーチや分析を毎日継続することは難しく、多くの人にとっては不安定要因として作用しやすいのが現実です。
このように、
- 株と債券の逆相関が崩れ
- 債券の実質リターンはインフレと税金に食われ
- 株式市場のボラティリティが高まった
という3つの変化が重なったことで、60/40ポートフォリオは「過去ほど頼れるモデルではなくなっている」と動画では結論づけています。
「分散投資」のよくある誤解
次に動画は、「分散投資」という言葉に対するよくある誤解を指摘します。
多くの個人投資家は、次のように考えがちです。
- 優良大型株も持っている
- 成長株も持っている
- 高配当株もある
- REIT(不動産投資信託)にも投資している
だから自分は「分散されている」と思い込みがちですが、動画では「これらはすべて株式という1つの資産クラスに属している」と強調します。
株式市場全体が大きく下落する局面では、こうした銘柄はまとめて売られることが多く、「銘柄の種類を増やしただけでは、本当の意味での下落耐性は高まらない」と説明されています。
動画が提案する本来の分散投資とは、異なる資産クラスにまたがって投資することです。
例えば次のようなイメージです。
- 自分のビジネス
- 実物不動産
- 株式(パッシブ・アクティブ)
- 暗号資産やスタートアップなどの投機的資産
- ゴールドなどのハードアセット
このように、値動きの性質やリターンの源泉が異なる資産クラスを組み合わせることで、初めて本当の意味でのリスク分散が生まれる、という考え方です。
重要なのは、「いきなり全部に手を出さないこと」です。動画では、次のようなステップが推奨されています。
- まず1つの資産クラスで土台を作る
- その中で経験と資産を積み上げる
- 余裕が出てきた段階で2つ目、3つ目の資産クラスへと範囲を広げていく
最初から多くの資産に手を広げる「過度な分散」は、かえって管理を複雑にし、どれも中途半端になりがちです。
動画投稿者のポートフォリオ構成:実例としての「5つの投資先」
ここから動画は、投稿者本人が実際にどのような資産配分を行っているのかを具体的に紹介していきます。これは「真似を推奨するものではない」と前置きしつつも、「発想の参考になれば」という形で公開されています。
1番目:自分のビジネス(最大の投資先)
最も大きな投資先は、自身が経営する会社「Briefs Finance」です。
もともとは「Briefs Media」という金融ニュース・教育のメディア企業でしたが、AIの急速な発展により、「このままでは数年以内にメディア業だけでは生き残れない」と判断し、事業モデルを大きく転換しています。
- 従来のメディア事業から、金融テクノロジー企業へ転換
- メディアで培った知見を活かしつつ、AIを活用した投資リサーチ・分析ツールの開発に注力
- 2026年に新しいAI搭載の投資・リサーチツールをローンチする計画
この転換には「非常に大きなコストと精神的な負担」が伴ったと語りながらも、自分のビジネスこそが最も高いリターンを期待でき、かつ最もコントロール可能な投資対象だと位置づけています。
2番目:賃貸用不動産(キャッシュフローと税制メリット)
2つ目の大きな柱が、賃貸用の実物不動産です。
ここでポイントになるのは、投資対象が「自宅」ではなく「他人に貸すための物件」であることです。
動画では、不動産の魅力として次の3点が挙げられています。
- 毎月の家賃によるキャッシュフローが得られること
- 税制上の優遇措置が大きいこと
- 実物資産として存在する「ハードアセット」であること
特にアメリカでは、不動産投資家向けの税制が非常に優遇されており、減価償却などの仕組みにより、多額の利益を上げていても所得税負担をかなり抑えられるケースがあります。トランプ前大統領が「ほとんど税金を払っていない」と発言した事例なども引き合いに出しながら、不動産が「税引き後ベースのリターンを高めやすい資産」である点を強調しています。
また、不動産は物理的に存在するため、「見て触れることのできる資産」であることも心理的な安心感につながります。株を1株買っても、企業の建物や設備を直接持っているわけではありませんが、不動産なら土地や建物そのものが自分の所有物です。
投稿者本人は、物件の管理業務を自分で行わず、訓練したプロパティマネージャーに委託し、自身は定期的にレポートと数字を確認する形にしていると説明しています。これにより、比較的「手離れの良い」キャッシュフロー源として機能しています。
3番目:株式投資(パッシブ投資とアクティブ投資の2本立て)
3つ目の柱が株式です。ここでは、運用スタイルが2つに分かれています。
1つは完全にルール化されたパッシブ運用、もう1つはリサーチに基づくアクティブ運用です。
パッシブ運用:毎週水曜日の自動積立
パッシブ運用では、毎週水曜日に銀行口座から決まった金額が自動的に引き落とされ、あらかじめ決めたETFのポートフォリオに投資されます。
曜日を水曜日にしているのは、月曜や金曜は祝日と重なって市場が休場になることが多いためであり、特別な「勝ちパターン」があるわけではないとしています。
投資対象となっているETFの多くは、配当や分配金を重視した「キャッシュフロー重視型」の商品です。
- 不動産が家賃収入を生むように
- ETFが配当収入を生む
という形で、定期的なインカムを積み上げていくことを重視しているのが特徴です。
一部には、海外市場や成長性重視のETFも含まれますが、主軸はあくまでも「キャッシュフロー」です。
アクティブ運用:個別企業を選ぶ投資
もう1つがアクティブ運用です。
ここでは、自社のリサーチチームとともに、経済の構造変化や資金の流れを分析し、長期的な成長が期待できる個別企業に投資しています。
動画では、自社サービスとして「Market Briefs Pro」のような有料リサーチレポートを提供しており、そのリサーチは本人の投資判断にも活用されていると説明されます。
本人は「トレーダー」ではなく、中長期的な視点で個別企業に投資するスタイルだと明言しており、短期売買よりも「構造変化に乗る投資」を志向している点が特徴です。
4番目:投機的投資(暗号資産とスタートアップ)およそ18%
4つ目のカテゴリーが、暗号資産とスタートアップ企業への投資です。
ここは本人も「投機的な部分」と明確に位置づけており、ビジネスを除いた投資ポートフォリオ全体の約18%を占めると説明しています。
- 暗号資産は大きく値上がりする可能性がある一方で、大きく値下がりするリスクも高い
- スタートアップ投資については、実際に倒産して投資額がゼロになった事例も多い
そのため、ここは「大きなリターンを狙えるが、ゼロになる覚悟も必要な領域」として扱われています。
重要なのは、こうした投機的資産に投資を始めたのは、他の資産クラスで一定の基盤を築いた後だという点です。最初からミーム株やミームコインに大金を投じるのは、投資ではなくほとんどギャンブルに近い行為になりやすく、動画ではその危険性が繰り返し警告されています。
5番目:ゴールド(約2%)インフレと有事への保険
最後が、物理的な金です。これは全体の約2%程度の小さな比率ですが、重要な役割を持つとされています。
投稿者の考え方はシンプルです。
- 1万ドルの現金
- 1万ドル相当の金地金
この2つを庭に埋めて10年後に掘り出したとき、どちらがより高い購買力を持っているかを考えると、金の方だろうという仮説に基づいています。
長期的にはインフレによって通貨の価値は目減りしていきますが、金のようなハードアセットは「価値の保存手段」として機能しやすいという考えです。
投稿者自身は、長期的には経済成長に対して楽観的であり、株やビジネスを通じて資産を増やしていくことに前向きです。それでも「最悪の事態への保険」として、少量の金を持っておくことは合理的だとしています。
初心者はどう考えればよいのか:現実的なステップ
動画は特定の商品や具体的な比率を勧めるものではなく、「考え方」を提示する内容です。これを初心者向けに整理すると、次のようなステップが現実的なアプローチになります。
- まずは1つの資産クラスで基盤を作る
- 過度な投機から入らず、インデックス型の株式ETFなどで投資に慣れる
- インフレと税金を意識し、「名目利回り」ではなく「実質的な購買力の変化」を見る
- ある程度経験と資産が積み上がってから、少しずつ他の資産クラス(不動産、ビジネス、少額の投機的資産など)に広げる
- ギャンブル性の高い商品は、ポートフォリオの一部(しかも後半のステップ)と考える
重要なのは、「過去の成功パターンをそのまま当てはめるのではなく、今の環境で合理的な選択を考えること」です。
まとめ:60/40から「本物の分散投資」へ発想を切り替える
最後に、動画と本記事のポイントを簡潔に整理します。
- 60/40ポートフォリオ(株60%・債券40%)は、過去60年近くにわたり年平均約9%のリターンを生み出し、老後資金づくりの「黄金ルール」とされてきた。
- しかし、2022年には株と債券が同時に大きく下落し、「株がだめでも債券が守ってくれる」という前提が崩れた。
- 長期国債の利回りは4〜5%前後であっても、公表インフレ3%、体感インフレ6%、さらに税金を考慮すると、実質的なリターンはごくわずかか、場合によってはマイナスになる。
- 株式市場のボラティリティは、地政学リスク、インフレ、巨額のマネー供給、国家債務、AIや政治要因などの影響で高まり、「放置しておけば安定して増えていく」とは言いにくい環境になっている。
- 本当の分散投資とは、株式の中でジャンルを分けることではなく、自分のビジネス、実物不動産、株式(パッシブ・アクティブ)、暗号資産やスタートアップ、ゴールドなど、性質の異なる複数の資産クラスを組み合わせることにある。
- いきなりすべてに手を出すのではなく、まず1つの資産クラスで基盤を作り、その後に少しずつ領域を広げていくことが現実的であり、過度な投機から入るのは危険だと警告している。
60/40ルールは、かつての低インフレ・安定成長の時代には非常に合理的な戦略でした。しかし、インフレ、金利、財政、地政学、テクノロジーといった環境が大きく変化した今、そのまま過去のルールを信じ込むことは、動画の言葉を借りれば「老後資金を危険にさらす」可能性があります。
これからの時代に必要なのは、過去の常識を一度疑ってみて、自分の頭で「本物の分散投資」を考える姿勢です。株と債券だけに頼らず、資産クラスをまたいでリスクとリターンを組み合わせていく発想こそが、変化の激しい時代に老後資金を守り育てていくうえで、ますます重要になっていくと考えられます。


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