本記事は、YouTube動画『原油高で「まだ買いか?」株価急騰の裏に潜むリスクと本当の期待』の内容を基に構成しています。
導入
原油高や円安が進むと、真っ先に注目されやすい日本株の1つがINPEXです。資源価格の上昇が業績を押し上げやすい企業として知られており、特に中東情勢が緊迫した局面では「原油関連株」として市場の関心を集めやすい存在です。
実際、今回の動画でも取り上げられているように、INPEXの株価は今年に入ってから大きく上昇し、投資家の注目度は一段と高まっています。そのため、個人投資家の中には「ここまで上がっても、まだ買えるのではないか」「原油が上がるなら、さらに上昇余地があるのではないか」と考えている人も少なくないはずです。
しかし、株価が上昇しているからといって、単純に今後も上がり続けるとは限りません。特に資源株は、見た目には分かりやすくても、実際には地政学リスク、為替、輸送ルート、設備構成、商品別の利益構造など、複数の要素が絡み合って業績が動きます。つまり、「原油高だから買い」と短絡的に判断すると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
今回の動画では、INPEXの事業構造を丁寧に確認しながら、どのような局面で業績が伸びるのか、逆にどのようなケースで期待が外れるのかを整理しています。そのうえで、足元の株価水準で買いを検討してよいのか、中長期ではどのように見るべきかについても考察しています。
この記事では、その内容を初心者にも分かりやすい形で整理し、原油高局面でのINPEX投資をどう考えるべきかを、順を追って解説していきます。
背景説明
INPEXとはどんな会社なのか
まず前提として、INPEXはエネルギー開発を手がける企業です。特に中心となっているのは、原油や天然ガス、LNGの探鉱、開発、生産、輸送、販売といった上流事業です。
ここでいう上流事業とは、消費者にガソリンや電気、都市ガスとして届くもっと手前の段階を指します。
つまり、資源そのものを地中から採掘し、開発し、販売できる形で供給する役割です。私たちが普段接する電力会社、ガス会社、石油元売り会社などは、その先の加工や流通、販売を担うことが多いため、INPEXはそれらよりもさらに上流に位置する企業だと理解すると分かりやすいでしょう。
このような事業構造を持つため、INPEXの業績は資源価格の影響を非常に受けやすい特徴があります。
動画内でも触れられているように、原油価格が1ドル上昇すれば最終利益ベースで55億円のプラス、逆に1ドル下落すれば55億円のマイナスとなります。さらに、為替についても1円の円安で30億円のプラス、1円の円高で30億円のマイナスとされており、原油価格と為替の変動が収益に大きく直結するビジネスです。
この数字を見ると、なぜINPEXが原油高や円安局面で買われやすいのかがよく分かります。
資源価格が上がれば、同じ量を売っても収益が増えますし、ドル建てで稼いだ利益を円に換算するときに円安であれば、手元に残る金額はさらに大きくなります。
足元で株価が急騰している理由
今回の動画では、撮影時点での株価が4452円、PERが15.7倍、配当利回りが2.4%と紹介されています。そして、昨年7月頃から上昇基調に入り、今年1月以降はさらに強い上昇が続き、年初来で50%近い上昇となっていることが強調されています。
この背景にあるのが、中東情勢の悪化です。特にイランを巡る緊張が高まり、ホルムズ海峡を中心とした原油輸送に対する不安が強まることで、原油価格は急騰しやすくなります。中東は世界の原油供給において極めて重要な地域であり、その輸送ルートが不安定になるだけで、国際価格は大きく反応します。
さらに、米国ではインフレ再燃への懸念から、利下げを進めたくても進めにくいという見方が出やすくなります。そうなると日米金利差の縮小が進みにくく、円安が続きやすいという連想にもつながります。原油高と円安が同時に進行すれば、INPEXの業績には理屈の上では追い風です。こうした期待が株価の急騰を支えているわけです。
ただし、今回の動画の核心は、ここで思考を止めてはいけないという点にあります。原油高だから全面的にプラス、円安だから完全に追い風、という単純な話ではないというのが、今回の重要な論点です。
動画内容の詳細解説
原油高でも必ずしも全面高ではない理由
動画ではまず、過去の原油高局面と今回の違いを確認する必要があると指摘しています。特にコロナ禍後の2022年から2023年にかけては、経済活動の再開による需要増と、産油国側の供給制約、さらにロシア・ウクライナ戦争による供給不安が重なり、原油価格が大きく上昇しました。
このときINPEXが大きく恩恵を受けたのは、中東アフリカ地域でした。動画では、地域別利益の中でも中東アフリカの伸びが顕著だったことが示されており、特にアブダビなど中東での原油生産が収益に大きく寄与していたことが説明されています。
ここまでは一見、今回も同じように見えます。しかし、今回の原油高の原因を考えると話は変わってきます。現在の原油高は、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に近づくかもしれないという不安から生じている側面があります。つまり、価格が上がる一方で、そもそもその原油を無事に輸出できるのかという問題があるのです。
動画では、INPEXがアブダビで採掘した原油を輸出する際には、ホルムズ海峡を通る必要がある点が取り上げられています。ここが最大のポイントです。原油価格が上がっても、その原油を輸送できなければ、売上や利益として取り込めません。価格上昇の恩恵を受けるどころか、販売機会そのものを失う可能性があるのです。
これは初心者にとって非常に見落としやすい点です。株式投資では「何が売れるか」だけでなく、「売れる状態が維持できるか」も重要です。資源企業の場合、地政学リスクは単なるニュースの材料ではなく、物流や販売そのものを直撃する現実的なリスクになります。
ホルムズ海峡リスクが意味するもの
ホルムズ海峡は、中東産原油の海上輸送における重要なチョークポイントとして知られています。ここが不安定になると、世界の原油市場全体が動揺し、価格は上がりやすくなります。
ところがINPEXにとっては、価格上昇がそのまま利益増加につながるとは限りません。なぜなら、自社が扱う中東産原油もまた、このルートに依存しているからです。市場全体が「供給不安」で価格を押し上げているとき、当の供給側にいる企業が同時に輸送制約を受ける可能性があるわけです。
動画では、代替的にパイプラインを使って外海へ出すルートの可能性にも触れていますが、これは緊急時の対応にすぎず、しかも他の権益者もいる中でINPEXだけが優先的に使えるとは考えにくいと説明されています。つまり、代替手段があるとしても、楽観視はできないということです。
この視点は非常に重要です。投資家はしばしば、ニュースの見出しだけを見て「原油高=資源株高」と反応しがちですが、実際にはその背景にある輸送・供給網まで理解しないと、本当のリスクは見えてきません。
INPEXの真の収益源としてのLNG事業
今回の動画で特に興味深いのは、INPEXの利益構造を詳しく見ていくと、現在の収益の柱が必ずしも中東原油だけではないという点です。そこで浮かび上がってくるのが、オーストラリアの大型LNG事業であるイクシスプロジェクトです。
動画では、2023年以降のセグメント区分変更後、このイクシスプロジェクトの利益貢献が非常に大きくなっていることが示されています。生産量の地域別構成比では約42%程度である一方、セグメント利益ベースでは2025年度で68%を占めると説明されており、現在のINPEXはこのプロジェクトに大きく支えられているといえます。
しかも、イクシスプロジェクトはオーストラリアに位置しているため、ホルムズ海峡封鎖の直接的な影響は受けません。ここが中東原油との大きな違いです。さらに2018年の稼働開始以降、順調に生産量を増やし、コスト削減も進んでいるため、利益率は80%超という極めて高い水準に達しているとされています。まさにドル箱事業と呼べる存在です。
この点を踏まえると、INPEXの投資判断を考える際に「原油」だけを見ていると不十分だということが分かります。むしろ今後の株価評価を左右するのは、LNG価格の動向や、このイクシスプロジェクトの収益性をどう見るかという視点かもしれません。
LNG価格は本当に上がるのか
動画では、天然ガス価格やLNG価格は、ある程度は原油価格に連動する可能性があると説明されています。また、原油供給が不安定化することで、各国が代替エネルギーとしてLNGをより重視する可能性も指摘されています。
この論理だけを見ると、ホルムズ海峡封鎖が長期化すれば、原油高の時間差でLNG価格も上昇し、結果的にイクシスプロジェクトがさらに恩恵を受けるという期待が生まれます。これは確かに、INPEXにとって最も望ましいシナリオの1つです。
ただし動画では、その見方にも注意が必要だとされています。まず、ホルムズ海峡の問題が短期間で解消された場合、LNG価格まで十分に波及しない可能性があります。原油価格が一時的に上がっても、天然ガス市場にその影響が本格的に反映される前に地政学リスクが後退すれば、期待された追い風は限定的になるかもしれません。
さらに、各国の電源構成やエネルギー供給網は、そんなに簡単に切り替えられるものではありません。原油が厳しいからすぐにLNGへ、という話にはならないのです。LNGは輸送も貯蔵も難しく、インフラ整備にも時間がかかります。発電設備や受け入れ設備、貯蔵能力など、既存の仕組みに最適化された構造を短期間で変えることはできません。
つまり、LNGに期待が集まるロジックには一定の合理性がある一方で、それがすぐに企業業績に反映されると考えるのは早計だということです。
INPEXにとっての最良シナリオと最悪シナリオ
動画では、こうした要素を踏まえて、INPEXにとっての最良シナリオと最悪シナリオが整理されています。
最良シナリオは、ホルムズ海峡の封鎖や緊張が長期化するなかでも、日本向け輸送などに一定の例外的な通行余地が生まれ、中東原油の販売が完全には止まらないことです。そのうえで、時間差を置いてLNG価格も上昇し、イクシスプロジェクトが大きく利益を押し上げる展開になれば、INPEXには大きな業績向上余地が出てきます。
一方、最悪シナリオは、原油価格だけが上がったものの、中東原油の輸出が滞って販売機会を失い、しかもLNG価格には十分な恩恵が及ばないケースです。さらにその後、情勢が落ち着いてFRBの利下げ観測などが出てくれば、原油安と円高が同時に進む可能性もあります。そうなると、株価に織り込まれていた期待が一気に剥落し、大きな下落につながる恐れがあります。
ここで重要なのは、すでに株価が年初来で50%近く上昇している点です。株価とは、現在の業績だけでなく将来への期待を先回りして織り込むものです。期待が大きくなりすぎた状態では、少しでもシナリオが崩れると大きく売られることがあります。動画が「今は無理に買う必要はないのではないか」と結論づけているのは、このリスクを重視しているからです。
追加解説
短期では慎重、中長期では検討余地がある理由
今回の動画は、短期的には慎重な見方を示しながらも、中長期では一定の評価余地があるとしています。このバランス感覚は非常に重要です。
短期で見れば、株価はすでに大きく上昇しており、足元の地政学リスクや原油高、円安への期待をかなり織り込んでいる可能性があります。しかもその期待が、必ずしもそのまま利益に直結するとは限らないことは、ここまで見てきた通りです。そのため、今の時点で飛び乗るのはハイリスクだという見方には十分な説得力があります。
しかし、中長期になると話は少し変わります。日本は資源を海外から輸入せざるを得ない国であり、エネルギー安全保障は極めて重要なテーマです。さらに脱炭素や電源構成の見直しが進む中で、石油よりもCO2排出量が少ないとされるLNGの重要性は相対的に高まりやすいと考えられます。
再生可能エネルギーの導入は進めるべきですが、天候や地形、系統制約などの問題もあり、一気に置き換えることは難しいのが現実です。原発にも社会的な抵抗があります。そうした中で、LNGは現実的な移行エネルギーとして位置づけられやすく、日本にとっても戦略的な意味を持ちやすい資源です。
この観点から見ると、INPEXが保有するLNG関連資産、特にイクシスプロジェクトの価値は、中長期ではむしろ見直される余地があるといえます。
アバディ事業という次の成長テーマ
動画では、イクシスプロジェクトに続く大型案件として、インドネシアのアバディ事業にも触れています。これはINPEXが今後の成長の柱として進めている大型LNGプロジェクトであり、今後3年間で4000億円から6000億円程度の投資を行い、2030年代初めの事業化を見据えていると説明されています。
ただし、この事業はまだ収益化しているわけではなく、現時点では基本設計フェーズにあります。動画中でも、2027年中のFID、つまり最終投資意思決定を目指す段階であり、本格的な開発工事に入る前の状態であることが強調されています。
このため、将来の成長期待はあるものの、現時点では不確実性も大きい案件です。イクシスプロジェクトのように高収益な事業になるかどうかは、まだ分かりません。しかも投資額が大きいため、仮に期待通りに進まなければ、業績面での重荷になる可能性もあります。
もっとも、動画では国の支援や公的融資、債務保証などが入っている点にも触れられており、事業が想定通りに進まなかったとしても、直ちに企業の存続を脅かすような極端なリスクは低いとみられています。ただし、それはあくまで倒産リスクが低いという意味であって、株価に対する失望売りが起きないという意味ではありません。ここは投資家として丁寧に切り分けて考える必要があります。
初心者がINPEXを見るときのポイント
今回の動画の内容を踏まえると、初心者がINPEXのような資源株を見るときには、少なくとも3つの視点が必要だといえます。
1つ目は、原油価格だけで判断しないことです。価格が上がる理由が何かを見なければなりません。需要増による上昇なのか、供給不安による上昇なのかで、企業への影響は変わります。
2つ目は、利益の地域別構造と商品別構造を確認することです。中東原油だけでなく、LNGがどれだけ利益に寄与しているのかを見ることで、企業の実態がより正確に見えてきます。
3つ目は、株価が何を織り込んでいるかを考えることです。たとえ事業に将来性があっても、短期的に期待が先行しすぎている場面では、株価が大きく調整することがあります。良い企業かどうかと、今買うべきかどうかは、別の問題です。
今回の動画はまさに、その違いを丁寧に教えてくれる内容でした。INPEXという企業自体には一定の魅力がある一方で、足元の相場環境では短期的な熱狂が入りすぎている可能性があるという見方は、冷静な投資判断につながるはずです。
まとめ
INPEXは、原油高と円安の恩恵を受けやすい代表的なエネルギー株として、足元で強い注目を集めています。実際に株価も大きく上昇しており、市場の期待が高まっていることは間違いありません。
しかし、今回の動画が伝えている重要なメッセージは、原油高だからといって単純に強気になってはいけないということです。特に今回の原油高は、ホルムズ海峡を巡る地政学リスクと深く結びついており、価格上昇の一方で輸送や販売に制約が出る可能性があります。中東原油を扱うINPEXにとっては、むしろその点が大きな不確実性になります。
一方で、INPEXの利益を大きく支えているのは、オーストラリアのイクシスプロジェクトを中心としたLNG事業です。こちらはホルムズ海峡の直接的な影響を受けにくく、中長期ではLNG需要の高まりという追い風を受ける可能性があります。さらに、将来の成長テーマとしてアバディ事業も控えており、企業としての中長期的な評価余地は十分に残されています。
そのため、今回の動画の結論を整理すると、短期では無理に飛びつく必要はなく、むしろ加熱感や期待の織り込み過ぎに注意すべき局面です。ただし、中長期ではエネルギー安全保障やLNGの重要性を踏まえると、調整局面が来たときには改めて検討余地のある銘柄だといえます。
資源株は値動きの材料が分かりやすいように見えて、実際には非常に複雑です。だからこそ、ニュースの見出しだけではなく、どこで利益を稼いでいるのか、どんなリスクが潜んでいるのか、そして今の株価がどこまで期待を織り込んでいるのかを冷静に見極めることが大切です。今回の動画は、その視点を持つ重要性を改めて教えてくれる内容だったといえるでしょう。


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