MMT現代貨幣理論とは何か?なぜ批判されるのか、日本との関係まで丁寧に解説

本記事は、YouTube動画「MMT 現代貨幣理論とは?なぜMMTは叩かれるのか。」の内容を基に構成しています。

目次

導入:MMTは「無限バラマキ理論」ではない

MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)は
「自国通貨を発行できる政府は財政破綻しない」
「税は財源ではない」

といった主張で知られています。

このフレーズだけを聞くと
「それはさすがに極論だ」
「そんなことをしたらハイパーインフレになる」

と感じる人が多く、実際に欧米や日本でもMMTはしばしば「危険」「トンデモ理論」として批判されてきました。

しかし動画で解説されているMMTの中身を丁寧に追っていくと、

  • MMTは「無限に通貨を発行してよい」とは主張していない
  • 制約は財政赤字ではなく「供給能力」と「インフレ率」だと明確に述べている
  • 政府と中央銀行の会計上の仕組みを、ありのままに整理した基礎理論である

という姿が見えてきます。

さらには、日本の国債構造や日銀と政府の関係を考えると
「日本はすでにMMT的な統合政府に近い形で動いている」
とまで指摘されています。

本記事では、

  • 経済学の歴史的な流れの中でMMTがどこに位置づくのか
  • MMTが具体的に何を主張しているのか
  • なぜここまで強く批判されるのか
  • 日本はMMTとどう関係しているのか

を動画の内容に沿って整理し、初心者にも分かりやすい形で解説していきます。

経済学の歴史的な流れとMMTの位置づけ

まず、MMTが「どこから出てきた理論なのか」を理解するために、経済学の系譜が簡潔に紹介されています。

古典派経済学:アダム・スミスと「見えざる手」

18世紀、アダム・スミスが産業革命期の社会を分析し「国富論」を発表します。
ここで示された考え方は、後に「古典派経済学」と呼ばれる流れの出発点となりました。

古典派の基本的な見方は次のようなものです。

  • 政府は市場にできるだけ介入せず、自由放任に任せるべき
  • 需要と供給は市場メカニズムによって自動的に調整される
  • この自動調整機能を「神の見えざる手」と表現

この思想は、自由市場を信頼し、政府の役割を最小限と考える立場の出発点として、現在まで大きな影響力を持ち続けています。

新古典派経済学:数学を取り入れた「均衡モデル」

19世紀には、古典派の考え方に数学的手法を導入して、論理的に体系化した「新古典派経済学」が登場します。

  • 需要と供給の均衡
  • 一般均衡理論
  • さまざまな数式やモデル

こうした枠組みが整備され、経済学はより「数学的で洗練された学問」のような姿を持つようになりました。

ここで扱われるのは主に「個人」や「企業」の行動であり、これがミクロ経済学の基礎になります。
この世界観では、政府も「家計や企業と同じ経済主体の1つ」として扱われます。

ケインズ経済学:市場は放っておくと安定しない

20世紀に入り、世界恐慌などの経験を経て、ジョン・メイナード・ケインズが登場します。

ケインズは、

  • 個々の企業は自社の利益を優先して動く
  • その結果、全体としては不況や失業が長期化することがある
  • 自由放任では市場は安定せず、需要不足が続くことも多い

と指摘しました。

そこでケインズは、

  • 国家全体の視点で需要と供給を管理できる存在
  • つまり政府が、財政政策や金融政策によってマクロな経済をコントロールすべき

と主張し、これがマクロ経済学の出発点となります。

ニューケインジアンや主流派経済学へ

その後、新古典派の枠組みにケインズ的な要素を取り入れた「新ケインジアン」などが生まれ、現在の主流派経済学の土台になっていきます。

  • 基本は新古典派的な数式モデル
  • その一部にマクロ的な調整メカニズムを導入
  • 世界中の経済学教育や政策論議のベースになっている

日本の経済政策の議論も、基本的にはこの主流派経済学を前提に組み立てられています。

ポストケインズ派からMMTへ

ケインズのマクロ理論は、その後「ポストケインズ経済学」として発展します。
そして、このポストケインズ派の系譜から派生したのが「MMT(モダン・マネタリー・セオリー=現代貨幣理論)」です。

動画では、MMTの主な主張として次の点が挙げられています。

  • 政府と中央銀行は実質的に統合されたセクターである
  • 政府支出の財源は税収ではなく新たな通貨発行である
  • 自国通貨を持ち通貨発行権を有する政府は原理的に財政破綻しない
  • 政府支出の上限は、財政赤字ではなく国民の供給能力によって決まる

以下では、それぞれをもう少し詳しく見ていきます。

MMTの中身1:政府と中央銀行は「統合政府」である

MMTでは、政府と中央銀行を切り離さず「統合政府」として扱います。

これに対して、主流派の立場からは次のような批判があります。

  • 中央銀行は政府から独立した存在であるべき
  • 中央銀行が政府の財政を直接支えるのは禁じるべき
  • 政府と中央銀行を一体とみなすと、財政規律が失われ、無秩序な通貨発行につながる

実際、日本を含む多くの先進国では、法律上「中央銀行の独立性」が重視され、政府に対する直接の国債引き受け(いわゆる直貸し)は禁じられています。

しかし、動画が指摘するのは「法的建前」ではなく「実務上の現実」です。

ベースマネーと日銀当座預金という「天井のお金」

世界中の政府の財政は、中央銀行の口座の中で動く特殊なお金(ベースマネー)によって決済されています。

  • 日本では「日銀当座預金」と呼ばれる
  • 政府、日銀、民間銀行だけがやり取りするクローズドな世界
  • 私たちが日常で使う預金や現金とは別の階層にある「天井のお金」

このベースマネーが存在することで、政府は支出を行い、国債の決済も行われます。

国債発行とベースマネー供給の関係

動画では、国債とベースマネーの関係が次のように説明されています。

  • 政府が国債を発行する
  • 民間銀行が日銀当座預金(ベースマネー)を使って国債を購入する
  • 政府はその代金としてベースマネーを獲得し、財政支出を行う
  • その後、日銀が国債を買い取ることで、さらにベースマネーが供給される

要するに、

「国債発行を通じて、政府の財源となるベースマネーが生み出されている」

という構図です。

この全体像を見ると、政府と中央銀行は実務上、切り離しがたい一体の仕組みとして動いていることが分かります。
MMTは、その現実を「統合政府」という言葉で整理しているにすぎません。

MMTの中身2:政府支出の財源は税金ではなく通貨発行

次に重要なのが、「政府支出の財源は税ではなく通貨発行である」という主張です。

ここが多くの人にとって最も直感に反し、抵抗感を持たれやすいポイントです。

通貨発行と信用創造の流れ

通貨発行を単純化すると、動画では次のように説明されています。

  • まず政府が国債を発行する
  • 中央銀行がそれと引き換えにベースマネーを生み出す(信用創造)
  • そのベースマネーを担保に、民間銀行が預金通貨を創造し、実体経済にお金を供給する

つまり、政府支出が先にあり、その裏側で国債発行と中央銀行のベースマネー供給が行われている、と整理できます。

納税のプロセスは「お金を消す」プロセス

これに対して、納税のプロセスは次のような流れになります。

  • 私たちの銀行口座から「市中のお金」が引き落とされる
  • そのとき、預金通貨は消滅する
  • 同時にベースマネーが政府口座に移り、政府の負債である国債が償還されて消滅する
  • 最終的に、お金と国債は相殺され、バランスシート上はプラマイゼロに戻る

この構造から、MMTでは

「税金とは、使い回すための財源ではなく、通貨を消滅させる仕組みである」

と位置づけます。

なぜ「税=財源」という感覚と食い違うのか

私たち家計の感覚では、

・まず稼ぐ
・それを貯める
・必要なときに取り崩して使う

という順序が当たり前です。
そのため、多くの人は無意識に「政府も同じだろう」と考えがちです。

しかし、冷静に考えれば、

  • 日本円という通貨そのものは、政府(と中央銀行)が発行しなければ1円も存在しない
  • 発行した通貨は、政府から見れば「負債」としてバランスシートに計上される
  • 通貨は、発行された瞬間から政府のマイナス計上として世の中に出回り、税で回収されたときにプラマイゼロに戻る

という構図になっています。

つまり、

  • 政府の財政は、常に「赤字(マイナス)」であることが本質
  • 通貨を創造し、また消滅させることで、世の中のお金の総量を調整し、経済を回す

これこそが、MMTが見ている「政府財政の本質」です。

MMTの中身3:自国通貨建ての政府は財政破綻しない

ここまでの構造を踏まえると、MMTが主張する

「自国通貨を発行できる政府は財政破綻しない」

という結論につながります。

理由はシンプルで、

  • 自国通貨建ての国債は、自国の中央銀行が通貨を発行することで、いつでも決済可能
  • 政府と中央銀行を統合して見れば、「お金を作る側」が自分の借金を自分のお金で返せなくなる、という状態は論理的にありえない

からです。

もちろん、これに対してはすぐに次のような批判が飛んできます。

・それなら政府は通貨を無限に発行できるのか
・そんなことをすればハイパーインフレになって経済は崩壊する

ここで重要なのが、動画でも強調されている

「MMTは無制限の通貨発行を認めているわけではない」

という点です。

MMTの中身4:制約は「財政赤字」ではなく「供給能力とインフレ」

MMTが言う「制限」は、政府の赤字残高ではなく、経済の実体側にあります。

動画では、分かりやすく次のような例で説明されています。

生産力100の国に対していくら通貨を投入するか

仮に、その国の生産力(供給能力)が100だとします。

  • ここに通貨120を投入するとどうなるか
  • 最初は需要が増え、消費が活発化し、企業の売上が増える
  • 企業は設備投資や雇用拡大に動き、生産能力を引き上げようとする
  • やがて生産力は120まで拡大し、経済は一段豊かになる

このように、通貨を増やすことが生産力を引き上げる「牽引役」になるのが、本来の積極財政の役割です。

税の減税も同じで、

  • 企業や個人の手元に残るお金が増える
  • 投資や消費に回ることで、やはり生産力の向上を後押しする

という効果が期待できます。

逆に、同じ国に対していきなり通貨10000を投入すればどうなるか。
供給能力を大きく超える需要が生じ、物価は制御不能のインフレになります。

MMTが言っているのは、

  • 通貨発行や財政支出の「上限」を決めるのは、生産力とインフレ率である
  • 赤字残高や国債の絶対額そのものは、本質的な制約ではない

ということです。

緊縮財政は「生産力100の国に通貨70しか渡さない」状態

動画では、財務省的な緊縮財政のイメージを、

「生産力100の国に対して70しかお金を出さない状態」

と表現しています。

  • 需要が足りず、企業の売上が伸びない
  • 投資も雇用も伸びない
  • 結果として、本来あるはずの生産力も発揮されない

この状態が続けば、経済が縮小し、国全体が貧しくなるのは当然です。

MMTは、こうした「お金の出し渋り」が長期の停滞とデフレを招いてきたと考えます。

なぜMMTはここまで批判されるのか

ここまでの理屈だけを聞けば、MMTの説明はむしろ「現実の会計構造を素直に整理しただけ」とも見えます。
にもかかわらず、MMTは欧米でも日本でも「危険」「トンデモ」と批判されがちです。

動画では、その背景として次のような歴史的・政治的な事情が語られています。

戦争とインフレの歴史:通貨の乱発への反省

多くの国では、過去に

・権力者が通貨発行権を乱用した
・戦争や財政出動でお金を刷りすぎた
・ハイパーインフレや通貨価値の崩壊が起きた

という歴史的な経験があります。

その反省から、

・政府に通貨発行の自由を与えてはいけない
・中央銀行は政府から独立させ、直接の財政ファイナンスは禁止するべき

という思想が強く根付いています。

国債ビジネスとしての金融市場

欧米では、政府の国債は単なる「国内向けの借金」ではなく、

・世界中の投資家が売買する巨大な金融商品
・市場原理の中で価格が決まり、ビジネスとして成り立つ対象

になっています。

この枠組みでは、政府も「企業や家計と同じ経済主体の1つ」とみなされ、

・財政は収支のバランスが重要
・税収あっての支出でなければならない
・財政赤字の拡大は、国の信用低下と見なされる

という、ミクロ経済的な論理で語られがちです。

その中で、

  • 政府と中央銀行の直接取引(財政ファイナンス)はご法度
  • MMTが主張する統合政府の考え方は、国債市場の前提を揺るがしかねない

と受け取られます。

もしMMT的な見方が主流になれば、

・「国債市場の役割とは何か」
・「政府の財政は何をもって健全とみなすべきか」

といった前提から見直す必要が生じ、巨大な国際金融ビジネスに影響が出る可能性があります。

そのため、MMTへの反発の多くは、純粋な理論的批判というよりも

「既存のビジネスモデルや制度を守るための防御反応」

という側面もあるのではないか、と動画では指摘されています。

日本は「MMTを体現している国」なのか

このような中で、日本の状況は少し特殊です。

動画では、日本を「MMTを体現している国」と表現しています。

国債の保有構造:9割を国内が持つ日本

欧米では、国債の保有者に海外投資家が大きく関わりますが、日本では事情が異なります。

・日本の国債の約9割は国内の金融機関が保有
・海外保有比率は約1割にとどまる

さらに、

・日銀は公開市場操作(買いオペ)を通じて、毎月大量の国債を購入
・その結果、事実上「政府の財政を日銀が支えている」構造になっている

という実態があります。

形式上は「日銀は独立」とされていますが、

・金利のコントロール
・国債市場の安定
・政府との政策協調

などを通じて、実務レベルでは政府と一体となって動いている場面が多く見られます。

動画は、この構造を

「MMTが提唱する統合政府の典型例」

と評価しています。

緊縮財政が招いた長期停滞は「MMT的には誤り」の証拠

日本では長年、財務省主導で

・財政赤字の削減
・増税と歳出削減
・プライマリーバランス黒字化目標

といった「財政健全化」が重視されてきました。

その結果、

・デフレと低成長が長期化
・潜在成長率が下がり、賃金も伸び悩み

という現実があります。

MMT的に見れば、これは

・本来あるべき生産力に対して、お金の供給が足りていない
・需要不足によって、経済のパイを自ら縮めてしまった

という状態です。

動画では、こうした日本の長期停滞の実績そのものが、むしろ

「MMTが指摘する『緊縮の危険性』が正しかったことの証拠になっている」

と逆説的に解釈されています。

それにもかかわらず、日本の言論空間では依然として

・MMTは危険な思想
・積極財政は破綻への道

といったイメージが強く、欧米式の財政規律論が根強く残っています。

MMTは「政策メニュー」ではなく「基礎理論」である

最後に重要なのが、MMTの位置づけそのものについての整理です。

動画では、MMTについて次のようにまとめています。

・MMTは「財政政策の提案」そのものではない
・採用するか否かを選ぶ「制度のオプション」でもない
・現代の通貨発行の根源的な仕組みを説明する「基礎理論」である

つまり、MMTは

「今の世界の通貨システムは、実際にはこういう仕組みで動いている」

という事実を整理したものであり、

・積極財政をどう設計するか
・どの分野にどれだけ予算を配分するか
・どのような税制や社会保障制度が望ましいか

といった「政策論」そのものではありません。

動画は、MMTと現実の政策の関係を、

「MMTは数学、現実の経済運営は物理学」

という比喩で説明しています。

・数学は論理的に正しい
・しかし、現実の物理現象は、摩擦や不確実性などを含めて別に分析が必要

同じように、

・MMTは会計と通貨発行の構造を論理的に整理した基礎理論
・現実の経済運営は、利害や政治、国際関係、心理などを含めた別次元の問題

という位置づけです。

したがって、

・MMTを理解することと
・「何でもかんでもばらまけ」と主張すること

はまったく別の話です。

むしろ、MMTで足場を固めたうえで、

・どの程度のインフレ率を目標とするのか
・どの分野の供給能力を伸ばすべきか
・どんな形の財政拡大が最も効果的なのか

といった議論を行うことが、健全な政策議論への近道だと動画は訴えています。

まとめ:MMTを「危険思想」と切り捨てる前に、仕組みの理解を

動画の内容を整理すると、MMTをめぐるポイントは次のようにまとめられます。

  • MMTは「自国通貨を発行できる政府は財政破綻しない」「税は財源ではなく通貨を消す仕組み」と整理する現代貨幣理論である
  • 政府と中央銀行は、実務上「統合政府」として一体で動いており、国債とベースマネーの仕組みから見ても切り離して考える方が不自然である
  • 通貨発行の制約は「財政赤字」ではなく「国民の供給能力とインフレ率」であり、無制限な通貨発行を認めているわけではない
  • 緊縮財政は、生産力100の国に通貨70しか供給しないようなもので、経済を縮小させる方向に働く
  • 欧米では歴史的なインフレ経験や、国債ビジネスを支える制度上の都合から、MMTが強く批判されてきた側面がある
  • 日本は国債の大半を国内が保有し、日銀が継続的に国債を買い支える構造から、実務上すでにMMT的な統合政府に近い状態にある
  • MMTは政策メニューではなく、現代通貨システムの「基礎理論」であり、これを否定することは、物理学者が数学を否定するようなものだと動画は指摘している
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