最初に結論をはっきり書きます。
投資をはじめる段階では、全世界株式かS&P500のどちらか一本にしぼって積み立てるのがいちばん効率的です。
これだけで十分に広く分散され、信託報酬も低く、管理がとても楽です。そこから一歩進めたいと思ったときに、金やハイテク集中のFANG+を少額だけ添える。
暴落に備えたいなら金を、成長の上振れを少しだけ狙いたいならFANG+を、という具合に、性質の異なるものを薄く重ねる。これが動画が示した実践的な道筋でした。
なぜ一本で十分なのか。オルカンとS&P500の近さ
オルカンと呼ばれる全世界株式は、名前のとおり世界中の株をまとめた指数ですが、その中身の約六割はアメリカ株です。
つまり、S&P500とオルカンは見た目ほど遠い存在ではありません。
たとえば、同じ年にアメリカの大型株が10パーセント上がれば、オルカン全体もそれに強く引っ張られます。二つを同時に持っても、思ったほど値動きの違いが出ないのはこのためです。
だからこそ、最初のうちはどちらか一本に集中して積み上げたほうが、余計な手間も迷いも減ります。信託報酬も年0.1パーセント未満という水準が一般的で、長い時間軸で見るとこの差がじわじわ効いてきます。
コアを決めたら、少量のトッピングで性質を足す
一本の積み立てに慣れてきて、もう少し工夫したいと感じたときに役立つのが小さなトッピングです。
ここで大事なのは、似た性格の投資信託を足すのではなく、違う性質を持つものを少量だけ加えること。動画が示した代表格は二つ、FANG+と金でした。
FANG+はFacebook、Amazon、Netflix、Googleなどテクノロジー大手に寄せた指数です。
上昇局面ではぐっと伸びる半面、下落のスピードも速い。だから、あくまで味付けとして使います。コアが90ならFANG+は10、コアが95ならFANG+は5といった具合に、全体のほんの一部にとどめるのが現実的です。強気相場の伸びを少しだけ上乗せする、という位置づけが合います。
金はまったく逆の役割です。
株と連動しにくく、株が不安定なときに上がってくれることがある。
たとえば株が10パーセント下がった局面でも、金が5パーセント上がれば、株80に金20という組み合わせだと、全体の下げ幅はおよそ6パーセントに緩みます。
もちろん毎回そう都合よく動くわけではありませんが、性質の異なる資産同士を組み合わせることで、値動きの角が丸くなるのは確かです。だからこそ、オルカンとS&P500を一緒に持つより、株と金というように性質で分けるほうが、分散としての意味が生まれます。
アクティブ運用が抱える二つの壁。情報の見えにくさとコスト
ランキングの後半には、世界成長株の厳選や厳選株式オープンといったアクティブファンドが並んでいました。
プロが銘柄を選び、指数を上回ることを狙う商品です。過去一年で六十パーセント超という際立った成績が出ているものもありますが、ここには二つの壁があります。
一つ目は中身の見えにくさです。構成上位に、普段のニュースでは耳にしない企業が並ぶことが珍しくありません。見知らぬ会社が三割を占めると、上がる理由も下がる理由も、日々の情報からは掴みにくくなります。
判断材料が手元に届きにくい分、波に乗り遅れたり、逆風に長くさらされたりしがちです。
二つ目はコストです。信託報酬が年1.9パーセント前後という水準は、インデックスの二十倍に達することもあります。
長期になるほど、この差は複利で効いてきます。
さらに、売却時に信託財産留保額がかかる商品もあり、入り口と出口の両方で費用負担が重くなります。
毎月分配型の場合は、見かけの分配金の裏側で元本が削れていることが少なくなく、税金面でも自分で必要額だけを売却して受け取る方式に比べて不利になりがちです。配当をもらう心地よさよりも、資産の土台を育てる方が長期的には報われます。
レバレッジ型が長期に向かない理由。算数でわかる減衰
日本株の四・三倍ブルや三・八倍ベアのようなレバレッジ型は、日々の値動きを大きく増幅します。
数字だけを見ると魅力的ですが、長く握るほど不利になりやすい構造があります。たとえば、相場が一日で10パーセント上がり、翌日に10パーセント下がったとします。
通常の指数なら、1.1と0.9を掛け合わせて0.99、つまり1パーセントの下落で済みます。
ところが四・三倍ブルだと、上昇日は1.43倍、下落日は0.57倍。掛け合わせると0.815で、最初から18.5パーセントも目減りします。
ベア側でも似た減衰が起きます。現実の相場は上げ下げを繰り返すため、長期ではこの減衰の積み重ねが効いてしまう。ゆえに、日次で機敏に手じまう短期戦術を徹底できる人以外には、常用しにくい商品です。
株と金を合成する発想。上手に使えばマイルド、ただし弱点も
トレイサーズのゴールド・プラスのように、株と金を一つに束ねるタイプは、性質の異なる二つを同時に抱え、値動きをマイルドにする発想です。
レバレッジという言葉が出てきますが、ブル・ベア型のように一方向へ倍率をかけるのではなく、違う性質を同時に抱えるため、体感のリスクは控えめになりやすいのが特徴です。
ただし、株も金も同じ方向に崩れる局面では痛手が大きくなります。また、非課税制度の対象外であることが多く、優先順位は、まず王道の積み立てで枠を満たしてから、という位置付けになります。
初心者が今日からできる一歩。その後の伸ばし方
はじめの三か月は、一本だけに集中した積み立てで十分です。
毎月定額を機械的に投じ、価格の上下に心を動かさない練習になります。
半年ほど経って、そのリズムに慣れてきたら、暴落時の揺れが気になる人は金を一割だけ足してみる。
強気相場の追い風が欲しい人はFANG+を五パーセントほど添えてみる。どちらの場合も、まずは少額から始め、三か月置きに体感のブレや睡眠の質を自分に問い直します。
夜に価格が気になって眠れないようなら、比率を元に戻す。それでも落ち着いて持てるなら、ほんの少しだけ比率を上げる。この繰り返しが、自分に合った配分の最短ルートです。
似たものを重ねない。性質で広げる
投資で失敗しやすいのは、名前の違う似た商品を積み上げてしまうことです。
オルカンとS&P500を半分ずつ持つより、どちらか一本にまとめて、空いた半分で金のような異質な資産を組み合わせるほうが、同じ分散という言葉でも意味合いがまったく違ってきます。
分散は数を増やすことではなく、性質を広げること。ここを押さえるだけで、暴落時の心理的な負担が目に見えて軽くなります。
まとめ。王道は地味だが強い。味付けは控えめに長く続ける
長期投資の王道は驚くほど地味です。
全世界かS&P500のどちらか一本をコツコツ積み立てる。
それだけで世界経済の伸びを素直に取り込めます。
そこに、金やFANG+を少しだけ添えることで、自分の性格や目的に合わせたリズムに整えられる。毎月分配の心地よさや、レバレッジのスリルに惹かれたくなる瞬間は誰にでもありますが、費用、税制、そして単純な掛け算の現実を思い出しましょう。
十年後、二十年後に笑って続けられるかどうかは、今日の一つの選択にかかっています。王道を土台に、味付けは控えめに。これが、暴落しても資産を減らしにくくするいちばん現実的な方法です。
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