インフレ懸念は本当に去ったのか?原油価格下落・AIブーム・金利と株価の関係を読み解く

本記事は、YouTube動画『足元のインフレの見方と今後の金融市場への影響』の内容を基に構成しています。

目次

インフレ懸念は後退しているが、安心するにはまだ早い

2026年に入り、世界経済ではインフレをめぐる見方が大きく揺れています。

2月末からイランでの戦争が始まったことで、エネルギー価格は急騰し、石油製品の不足も懸念されました。原油価格の上昇は、ガソリン価格や電気代、輸送コストなどを通じて、世界的な物価上昇につながる可能性があります。

しかし、足元では原油価格が少しずつ落ち着きを取り戻しています。それに伴い、市場が予想する将来のインフレ率、いわゆる期待インフレ率も下がり始めています。

この動きを受けて、世界の中央銀行による利上げ観測も後退してきました。インフレが落ち着くのであれば、中央銀行は無理に利上げを急ぐ必要がなくなります。

ただし、ここで重要なのは「本当にインフレ懸念は去ったのか」という点です。原油価格の下落だけを見れば、インフレは落ち着いているようにも見えます。しかし、AIブームによる半導体需要の急増、メモリー価格の上昇、金利と株価の関係変化などを考えると、今後のインフレの見極めはかなり複雑になっていく可能性があります。

エネルギー価格は上がったが、コア物価への波及は限定的

最近の消費者物価指数を見ると、エネルギー価格は上昇しているものの、それ以外の項目への波及は世界的に限定的です。

特に先進国では、エネルギーや生鮮食品を除いたコア指数が、予想の範囲内に収まっている国が多くなっています。コア指数とは、一時的に価格が大きく動きやすいエネルギーや食品を除いて、物価の基調を確認するための指標です。

インフレを判断する際には、単にガソリン価格や電気代が上がったかどうかだけではなく、それが家賃、サービス価格、賃金、製品価格などに広く波及しているかを見る必要があります。

現時点では、エネルギー価格の上昇は確認されるものの、物価全体を押し上げるほどの広がりは限定的だと見られています。

アメリカの場合、関税の影響が薄れてきたことも大きいと考えられます。アメリカが積極的に関税政策を行っていた時期から約1年が経過し、前年同月比で見た場合の押し上げ効果がなくなってきているためです。

原油価格はなぜ急速に下がってきたのか

足元で特に注目されているのが原油価格の下落です。

6月後半には、WTI原油価格が一時60ドル台をつける場面もありました。イランでの戦争が始まる前の段階では60ドル台半ばだったため、まだ戦争前の水準よりは高いものの、ここまで速いペースで下落すると予想していた人は少なかったと考えられます。

この背景には、供給過剰への懸念があります。

もともと原油市場では、OPECが減産を続けてきました。これは、需要に対して供給が多いという状況が続いていたためです。中国の景気低迷によって原油需要が思ったほど伸びていないことに加え、世界的に再生可能エネルギーへの移行が進み、以前ほど化石燃料を必要としない国が増えていることも影響しています。

そのような中、アメリカがベネズエラ産原油の輸出に関する動きを進めたことで、今後さらに供給が増える可能性も意識されました。

さらに、イランでの戦争をきっかけとして、一時的にロシア産原油を輸入することになった国もありました。世界各国は、ホルムズ海峡が長期間封鎖される可能性に備え、別の調達ルートを確保しようと動いたわけです。

ところが、その後、アメリカとイランが合意文書に署名し、ホルムズ海峡の通行状況も戦争前の水準に回復したという情報が出てきました。

そうなると、原油市場は再び「供給が多すぎる」という状況に戻ります。

もともと供給過剰気味だったところに、戦争リスクを警戒して各国が別ルートの確保に動き、その後に中東産原油の供給も再開されるとなれば、原油は余りやすくなります。

結果として、原油価格は大きく下落しました。ゴールドマン・サックスも、この原油価格の下落について読み間違えたとする趣旨の見解を示していたようです。

原油価格下落で期待インフレ率も低下

原油価格が下がると、期待インフレ率も下がりやすくなります。

期待インフレ率とは、市場参加者や消費者、企業が「将来の物価はどれくらい上がるか」と予想している水準です。インフレは実際の物価上昇だけでなく、人々の予想によっても左右されます。

例えば、企業が「今後も物価は上がる」と考えれば、早めに価格転嫁を進める可能性があります。労働者も「生活費が上がる」と考えれば、賃上げを求めやすくなります。こうした動きが重なると、インフレが長引く可能性があります。

一方で、原油価格が下がり、将来の物価上昇への警戒感が後退すれば、中央銀行も利上げを急ぐ必要がなくなります。

世界の中央銀行は利上げに慎重な姿勢へ

インフレ懸念の後退を受けて、世界の中央銀行も金融引き締めに対して慎重な姿勢を見せ始めています。

オーストラリアの中央銀行は利上げ終了を示唆しました。カナダの中央銀行は利下げに言及しています。欧州中央銀行、ECBは2027年第2四半期までにあと2回の利上げを行い、2028年には物価目標を達成できるとの見通しを示しました。

アメリカのFRBについては、政策金利の見通し発表が3ヶ月ぶりだったため、3ヶ月前と比べるとやや引き締め的な内容になりました。ただし、利上げを急ぐような姿勢は見られていません。

つまり、6月までの流れとしては、原油価格の下落と期待インフレ率の低下によって、世界の中央銀行は金融引き締めに慎重になってきたということです。

本当にインフレ懸念は去ったのか

ここで問題になるのが、本当にインフレ懸念は去ったのかという点です。

原油価格だけを見れば、インフレ圧力は落ち着いているように見えます。しかし、今後のインフレを考える上では、もう1つ重要な要素があります。

それがAIブームです。

AI投資の加速によって、半導体需要が急増しています。需要が急増する一方で供給が追いつかなければ、半導体価格は上昇します。実際に、メモリー価格の上昇を背景に、パソコン、スマートフォン、ゲーム機など、さまざまな製品価格が上がり始めています。

以前の動画でも、Nintendo Switchの価格引き上げについて触れられていました。また、Microsoftのゲーム機Xboxも8月から値上げされることが6月26日に発表されています。

こうした製品を生産する企業は、かなり前からメモリーなどの部品を確保していると考えられます。そのため、半導体価格の上昇が消費者向け製品に反映されるまでには時間差があります。

つまり、AIブームによるインフレ圧力は、これからじわじわと広がっていく可能性があるのです。

AIが引き起こすインフレは「良いインフレ」か「悪いインフレ」か

AIによるインフレを考える際には、単純に「物価が上がるから悪い」とは言い切れません。

AIには、半導体需要を急増させて供給不足を生む側面があります。これは供給制約によるインフレであり、景気が良くない中でも物価だけが上がる「悪いインフレ」に近い面があります。

一方で、AIが生産性を高めれば、モノやサービスを作るコストは下がる可能性があります。短期的には物価を下げる要因になるかもしれません。

さらに長期的には、AIによる生産性向上が経済成長を促し、企業収益や所得の増加につながる可能性もあります。その結果として緩やかな物価上昇が起こるのであれば、それは「良いインフレ」と見ることもできます。

一般的に、イノベーションによって生産性が向上し、経済成長とともに物価が緩やかに上がる状況は、良いインフレとされます。

しかし、今のAIによる社会変化は非常に複雑です。GDPが伸びたとしても、AIが人間の仕事を代替することで雇用が悪化する可能性もあります。

経済全体の数字は良く見えるのに、労働者の雇用環境は悪化する。そのような状況になれば、良いインフレなのか悪いインフレなのかを見極めることは難しくなります。

インフレなら株価は上がる、とは言い切れない

インフレ局面では株価が上がると説明する人もいます。たしかに、企業が販売価格を引き上げることができれば、売上や利益が増え、株価にプラスになる場合があります。

しかし、インフレになれば必ず株価が上がるわけではありません。

インフレ率が上昇すると、通常は債券利回りも上昇しやすくなります。金利が上がると、企業の資金調達コストが上昇します。また、中央銀行による金融引き締めも意識されます。

そのため、金利上昇は株価にとってマイナス要因になることがあります。

よく言われるように、金利と株価は逆相関の関係になることがあります。金利が上がると株価が下がり、金利が下がると株価が上がるという関係です。

ただし、この関係も常に成り立つわけではありません。

金利と株価の関係は時代によって変わる

長い歴史を振り返ると、1970年代から1990年代のようにインフレ率が高かった時代には、金利と株価は逆相関になっていた期間が長くありました。

つまり、金利が上がると株価にマイナスの影響を与えやすかったということです。

一方で、1990年代後半以降は、金利と株価の関係がむしろ正の相関になる場面も増えました。金利が上がる時に、株価も上がるという動きです。

これは、金利の水準や経済成長の強さとも関係していると考えられます。低金利環境の中で金利が少し上がる場合、それは景気が良いことの反映と受け止められ、株価も上がりやすくなります。

しかし、インフレが強くなり、中央銀行が本格的に金融引き締めを進める局面では、金利上昇は再び株価の重荷になる可能性があります。

最近は、金利と株価の関係が正の相関から負の相関へ戻るのか、その転換点にあるのではないかという見方も出てきています。

少なくとも、もともと金利と株価は負の相関になりやすい関係だったという点は、投資家として知っておく必要があります。

追加解説:今後のインフレを見るうえで重要なポイント

今後のインフレを見るうえでは、原油価格だけに注目していると判断を誤る可能性があります。

まず、エネルギー価格が落ち着いているかどうかは引き続き重要です。原油価格が下がれば、ガソリン価格や輸送コストを通じた物価上昇圧力は弱まりやすくなります。

しかし、それだけでは不十分です。半導体やメモリー価格の上昇が、家電、スマートフォン、パソコン、ゲーム機、自動車などにどの程度波及するかも見る必要があります。

また、AIによって企業の生産性が本当に上がっているのか、それとも一部の企業だけが恩恵を受けているのかも重要です。

もしAIによって生産性が高まり、経済全体が成長するのであれば、それは良いインフレにつながる可能性があります。一方で、AI投資によって半導体不足が起こり、製品価格だけが上がり、雇用が悪化するのであれば、悪いインフレの側面が強くなります。

さらに、中央銀行の政策姿勢も重要です。インフレ懸念が後退すれば利上げ観測は弱まりますが、再び物価上昇が強まれば、金融引き締めが意識される可能性があります。

その場合、株式市場にも大きな影響が出るでしょう。

まとめ:原油安だけでインフレ終息と判断するのは早い

今回の動画では、足元のインフレの見方について、原油価格、期待インフレ率、中央銀行の政策、AIブーム、金利と株価の関係という複数の観点から解説されました。

2月末からのイランでの戦争によってエネルギー価格は急騰しましたが、足元では原油価格が下落し、期待インフレ率も低下しています。その結果、世界の中央銀行は利上げを急ぐ姿勢から慎重な姿勢へと変化しつつあります。

ただし、インフレ懸念が完全に去ったと見るのは早いでしょう。

AIブームによる半導体需要の急増、メモリー価格の上昇、パソコンやゲーム機などへの価格転嫁は、今後じわじわとインフレ圧力になる可能性があります。

また、AIによるインフレは、良いインフレなのか悪いインフレなのか判断が難しい面もあります。生産性向上による経済成長につながる可能性がある一方で、雇用悪化や供給制約による物価上昇を招く可能性もあるためです。

さらに、インフレになれば株価が必ず上がるという見方にも注意が必要です。金利上昇は企業の資金調達コストを押し上げ、株価にマイナスとなる場合があります。金利と株価の関係は時代によって変化しますが、現在はその関係が再び変わろうとしている局面かもしれません。

今後の金融市場を見るうえでは、原油価格の下落だけで安心するのではなく、AI関連の物価上昇、中央銀行の政策姿勢、金利と株価の関係を総合的に見ていくことが重要です。

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