本記事は、YouTube動画『【ゆっくり解説】戦争不参加でもロシアに爆破されます。戦争当事国以外にも広がるロシアによる破壊』の内容を基に構成しています。
ウクライナとロシアの戦争が続くなか、戦場から遠く離れたヨーロッパ各国でも、不審な火災や爆発、放火未遂などが相次いでいます。
特に注目されているのが、防衛企業や軍事関連施設、ウクライナへの物資輸送に関係する拠点などを狙った事件です。
欧州各国の当局や情報機関は、その一部についてロシアによる「ハイブリッド攻撃」や破壊工作の可能性を捜査しています。ただし、すべての事件についてロシア政府の関与が立証されているわけではありません。ロシア側も関与を否定しています。
では、なぜこうした事件が増えているのでしょうか。そして、ロシアが直接工作員を送り込むのではなく、現地の一般人を利用する新しい手法が注目されているのはなぜなのでしょうか。
ヨーロッパで相次ぐ防衛関連施設の不審事件
動画では、2026年8月にヨーロッパ各地で発生した一連の事件が紹介されています。
なかでも大きく報じられたのが、ドイツのライプチヒ・ハレ空港で爆発物を搭載したドローンが発見された事件です。
BBCによると、2026年8月4日夜、同空港の滑走路付近で爆発物を積んだドローンが発見され、爆発物処理ロボットが出動しました。空港の滑走路も一時閉鎖されています。
この時点でロシアとの直接的なつながりを示す証拠は公表されていませんが、ドイツ当局は外国勢力が関与した可能性も含めて捜査しています。
ライプチヒ・ハレ空港は一般の旅客便だけでなく、航空貨物の重要拠点でもあります。ウクライナのアントノフ航空も利用しており、ウクライナ支援に関連する物流の観点からも重要な場所です。
そのため、単なるドローンの侵入事件ではなく、軍事・物流インフラを狙った攻撃だった可能性が注目されています。
ブルガリアの弾薬工場でも火災
2026年8月10日には、ブルガリア中部ベリツァ付近にある防衛企業EMCOの弾薬施設で大規模な火災が発生しました。
従業員は避難し、死傷者は報告されていません。
EMCO側は人為的なミスの可能性を否定しました。一方、事件直後のブルガリア内務省は「外国勢力の関与を示す証拠は現時点では確認されていない」としています。
ここは重要な点です。
動画ではロシアによる一連の破壊工作の可能性が強く示唆されていますが、少なくとも事件直後の段階では、ブルガリア政府がロシアの関与を公式に認定したわけではありません。
ただしEMCOでは過去にも不審な爆発や火災が発生しており、ブルガリアの防衛産業をめぐってロシアとの関連が疑われた事件が複数存在します。
エストニアでは軍事ロボット企業が放火被害
さらに2026年8月15日、エストニアの首都タリンでは、軍事ロボット企業Milrem Roboticsが使用する建物で火災が発生しました。
Milrem Roboticsは、軍用無人車両などを開発するエストニアの防衛企業で、ウクライナにも装備を供給しています。
エストニア検察当局は、この火災について放火の可能性があるとして捜査を開始しました。
エストニアのクリステン・ミハル首相も、ロシアが関与した破壊工作の可能性を重要な捜査対象としていると明らかにしています。ただし、ロシアによる犯行だと確定したわけではありません。
この事件では容疑者も特定されています。
しかし、実行犯が逮捕されたからといって、ただちにロシア政府との関係まで証明できるとは限りません。
ここに、最近の破壊工作の大きな特徴があります。
スロバキアではウクライナ系ドローン工場への放火計画
2026年8月25日には、スロバキアでウクライナのドローンメーカーSkyetonが所有する工場を狙った放火計画が摘発されたと報じられました。
現地警察は外国人3人を拘束しています。
Skyetonは偵察用などの無人航空機を製造するウクライナ企業で、ウクライナ国内だけでなく欧州市場向けの生産も行っています。
動画では、このように8月だけでも防衛企業やウクライナ関連施設を狙った事件が連続している点を取り上げています。
個別の事件だけを見れば火災や放火事件ですが、標的を見ると、防衛産業やウクライナ支援に関係する施設が目立つというわけです。
「ハイブリッド攻撃」とは何なのか
こうした活動を説明する際によく使われるのが「ハイブリッド戦」や「ハイブリッド攻撃」という言葉です。
一般的には、正規軍による直接的な軍事攻撃だけではなく、サイバー攻撃、情報工作、破壊工作、選挙への干渉、スパイ活動などを組み合わせて相手国に圧力をかける方法を指します。
通常の軍事攻撃とは異なり、「誰がやったのか」を明確に証明しにくいことが特徴です。
例えば、軍服を着たロシア軍人が外国の工場を爆破すれば、ロシアによる攻撃だと分かりやすくなります。
しかし、SNSで募集された現地住民が放火しただけなら、その背後に外国の情報機関がいたとしても、国家とのつながりを立証するのは格段に難しくなります。
この曖昧さこそがハイブリッド戦の重要な特徴です。
ロシアが「現地の素人」を利用しているとの指摘
動画の中でも特に興味深いのが、最近のロシアによる破壊工作では、プロの工作員ではなく「現地で募集された一般人」が利用されるケースが増えているという説明です。
これは単なる動画上の推測ではありません。
OCCRPなどによる潜入調査や欧州各国の捜査では、Telegramなどを通じてヨーロッパ在住者を募集し、軍事施設の撮影や放火などを依頼するネットワークの存在が確認されています。欧州の情報・治安当局も、ロシアの情報機関がいわゆる「使い捨て工作員」を利用していると警告しています。
その仕組みは、日本で問題となっている「闇バイト」に似ています。
最初は簡単な仕事から始まる
動画では、リクルートの流れについても詳しく説明しています。
最初から「軍事施設に放火してください」と募集するわけではありません。
例えば、
建物の写真を撮る。
指定された場所まで荷物を運ぶ。
特定の施設を撮影する。
落書きをする。
といった比較的簡単な仕事から始めるとされています。
実際、報道された事例でも、軍事施設の写真撮影や監視、破壊行為などをTelegram経由で依頼されたケースがあります。
最初の仕事を終えると暗号資産などで報酬を支払い、「本当にお金がもらえる」と信用させます。
そこから徐々に違法性の高い仕事へ誘導していくという仕組みです。
個人情報を握らせて逃げられなくする
動画では、日本の闇バイトとの共通点として、応募者から身分証明書や顔写真、家族などに関する個人情報を提出させる手口も紹介されています。
一度こうした情報を渡してしまうと、途中で仕事を断ろうとしても「身元を公開する」「家族に危害を加える」などと脅迫される可能性があります。
報酬と脅迫を組み合わせて実行役をコントロールする構造です。
さらに段階が進むと、物流施設への放火や軍事関連施設の破壊など、より危険な行為を要求されることになります。
国家が本職の工作員を育成し、偽造身分を用意し、外国に潜入させる場合と比べれば、現地住民を数千ドルから数万ドルで雇う方が安価で、発覚した場合の政治的リスクも小さくできます。
実行犯を逮捕してもロシア政府までたどり着きにくい
この仕組みの最大の特徴は、実行犯と指示役の間に距離があることです。
実行犯が知っているのは、Telegram上の匿名アカウントだけという場合があります。
指示役の本名も所在地も分かりません。
実行犯が逮捕されたとしても、指示役がアカウントを削除してしまえば、その先にある情報機関とのつながりを立証するのは難しくなります。
このため「実行犯は捕まったが、誰が最終的に指示したのか分からない」という状況が生まれます。
西側当局がロシアの関与を疑っていても、刑事事件として証明するには別のレベルの証拠が必要になるわけです。
本人がロシアに利用されていると知らないケースもある
さらに複雑なのが、実行犯自身がロシアのために働いていると認識していない可能性です。
例えば、極端な政治思想をSNSで発信している人物に対して、工作員が同じ思想を持つ人物を装って接触するケースがあります。
「あなたの活動を支援したい」
「あなたの考えに共感している」
などと近づき、資金を渡したうえで特定の施設への攻撃を促します。
この場合、本人は自分自身の政治思想に基づいて行動しているつもりでも、結果として外国の情報機関が望む行動を取らされている可能性があります。
誰が国家工作員で誰が単なる犯罪者なのか、その境界を分かりにくくすることも、こうした作戦の特徴です。
以前はGRUの工作員が直接動いていた
ロシアによる海外での破壊工作疑惑そのものは、最近始まった話ではありません。
特によく知られているのが、ロシア軍参謀本部情報総局、いわゆるGRUです。
2014年にはチェコ東部ヴルビェティツェの弾薬庫で爆発が起き、2人が死亡しました。
チェコ政府は後に、この爆発にロシア軍情報機関GRUの29155部隊が関与したと発表しています。チェコ当局によれば、2018年にイギリス・ソールズベリーで元ロシア情報機関員セルゲイ・スクリパリ氏の毒殺を試みた人物と同じGRU要員が、この事件にも関与していたとされています。
スクリパリ事件では神経剤ノビチョクが使用され、スクリパリ氏と娘が重体となりました。
さらに、偶然ノビチョクに接触した地元住民ドーン・スタージェス氏が死亡しています。
2022年以降、ロシア情報機関の活動環境が変化
2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始すると、ヨーロッパ諸国は多数のロシア外交官を国外追放しました。
西側諸国は、外交官として活動していた人物の中に情報機関員が含まれていたとして、大規模な追放措置を実施しています。
その結果、ロシアの情報機関にとってヨーロッパ域内で直接活動することが以前より難しくなったと分析されています。
そこで利用が拡大したとみられているのが、Telegramなどを通じた現地協力者の募集です。
情報機関員自身はロシアなど安全な場所にいながら、現地にいる人間へオンラインで指示を出すことができます。
なぜ軍事施設ではなくIKEAや商業施設まで狙われたのか
初期の破壊工作疑惑では、必ずしも軍事施設ばかりが標的になったわけではありません。
例えば2024年にはリトアニアのIKEA店舗で大規模な火災が発生し、その後、ロシア情報機関との関係が疑われる事件として捜査されました。
ポーランドやイギリスでも商業施設や物流倉庫への放火事件が発生しています。
こうした一般市民が利用する施設は「ソフトターゲット」と呼ばれます。
軍事施設ほど警備が厳しくなく、比較的攻撃しやすい一方、大規模な火災などが起きれば社会に大きな不安を与えることができます。
欧州の治安・情報関係者は、こうした攻撃について、軍事的な損害そのものだけではなく、市民の間に不安や不信を広げる効果があると分析しています。
エッフェル塔付近に置かれた「棺」の事件
動画では、2024年にフランス・パリのエッフェル塔付近で起きた奇妙な事件も紹介されています。
エッフェル塔周辺に「ウクライナのフランス兵」などと書かれた棺が置かれた事件です。
中には遺体ではなく石膏などが入っていました。
当時フランスでは、ウクライナへのフランス軍派遣の可能性が政治的な議論になっていました。
そのため、ウクライナに軍を送ればフランス兵が棺に入って帰ってくることになるという心理的なメッセージだったのではないかとの見方が出ました。
実際に棺を運んだ人物たちは外国籍でしたが、誰が最終的な指示を出したのかという点が問題となりました。
こうした工作では、実行役が工作の本当の目的を十分理解していないケースもあり得ます。
標的が「ソフトターゲット」から防衛産業へ変化している可能性
動画が特に注目しているのは、2026年夏に発生した事件の多くが、防衛企業やウクライナ支援に関連した施設を標的としている点です。
以前はショッピングセンターや一般の物流施設など、不特定多数の市民に心理的影響を与えるソフトターゲットが目立っていました。
それに対し最近では、弾薬工場、軍事ロボット企業、ドローン工場、航空貨物拠点などが狙われています。
つまり、単に社会不安を生み出すだけでなく、ウクライナへ武器や装備を供給するサプライチェーンそのものを妨害することが目的になっている可能性があります。
ただし、個々の事件については現在も捜査中のものが多く、すべてを単一のロシア政府主導作戦として扱うのは慎重であるべきです。
ウクライナによるロシア本土への長距離攻撃との関係
動画では、2026年に軍事関連施設への破壊工作が増えている理由について、いくつかの仮説を紹介しています。
1つは、ウクライナによるロシア国内への長距離ドローン攻撃が拡大していることです。
ウクライナはロシア国内の製油所や燃料施設などへの長距離攻撃を続けており、ロシアのエネルギーインフラにも負担を与えています。
そのため、ロシア側もヨーロッパに存在するウクライナの軍需サプライチェーンを妨害しようとしている可能性が指摘されています。
ただし、これは安全保障専門家などが示している分析の1つであり、個々の事件の動機として確認されたものではありません。
NATOがどこまで反応するかを試しているとの見方も
もう1つの見方は、ロシアがNATO諸国の反応を確認しているというものです。
軍事侵攻とは言えない程度のサイバー攻撃や破壊工作、ドローン侵入などを行い、各国政府がどこまで反応するのかを確認するという考え方です。
米国や欧州の情報当局の間では、ロシアがNATO加盟国に対して限定的な挑発行動を行う可能性について警戒が強まっています。
2026年8月には米情報機関の評価として、ロシアがサイバー攻撃やハイブリッド作戦など、通常の全面戦争には至らない形でNATOを試す可能性があるとの報道も出ました。
一方で、これはロシアによるNATO侵攻が決定しているという意味ではありません。
将来の軍事行動については各情報機関や専門家の評価にも幅があり、可能性と確定した計画を区別して考える必要があります。
CIA長官の突然のモスクワ訪問
こうした緊張が高まるなか、2026年8月25日にはCIAのジョン・ラトクリフ長官がモスクワを訪問し、ロシア対外情報庁SVRのセルゲイ・ナルイシキン長官と会談しました。
ナルイシキン氏自身も会談が行われたことを認めています。
CBS Newsなどは、ラトクリフ長官がロシア側にNATO加盟国への攻撃を行わないよう警告したと、複数の関係者の話として報じました。
ただし、会談内容は公式には公開されていません。
ロシア側は会談について「特別なことではない」と説明し、トランプ米大統領も訪問を「半ば定例のもの」と説明しています。
トランプ大統領は「NATOを攻撃しない」と発言
2026年8月27日、トランプ大統領はロシアがNATO加盟国を攻撃する可能性について、「心配していない」と発言しました。
さらにプーチン大統領について「NATO領土を攻撃することはない」と述べています。
つまり現時点では、米政府内部や欧州の情報当局からロシアの行動への警戒が示される一方、米大統領自身は直接的なNATO攻撃の可能性を否定的に見ているという状況です。
この点については、動画で示されているように「CIA長官が警告に行ったから深刻な事態が迫っている」と断定することはできません。
会談内容が公開されていない以上、警告報道と米露両政府の公式説明を分けて見る必要があります。
2026年9月には欧州側の警戒がさらに強まる
一方、2026年9月に入ってからもヨーロッパの情報機関からは警戒する発言が続いています。
デンマークの国防情報機関は9月24日、ロシアが今後数カ月の間にNATO関連インフラへの長距離攻撃や限定的な軍事行動を行うリスクについて、「低いものの高まりつつある」とする評価を示しました。
同時に、より深刻なサイバー攻撃や破壊工作が増える可能性についても警告しています。
ただし、これも「ロシアがNATO攻撃を決定した」という意味ではなく、安全保障機関によるリスク評価です。
情報機関の警告は、最悪の事態を防ぐために可能性を早期に評価する性質があります。
戦争に参加していない国でも無関係ではいられない
今回の一連の事件が示しているのは、現代の戦争では「戦場」と「戦場ではない場所」の境界が以前ほど明確ではなくなっているということです。
ウクライナ国内で戦闘が行われていても、武器を製造する工場は別の国にあります。
軍事物資を輸送する空港も別の国にあります。
通信網や物流網、金融システム、SNSなども国境をまたいでつながっています。
そのため、ウクライナ戦争に直接参戦していない国でも、軍事支援や物流、産業を通じて間接的に戦争とかかわることになります。
そして、その周辺を狙ったサイバー攻撃や破壊工作が行われる可能性も高まります。
まとめ
ヨーロッパでは近年、防衛企業や物流施設、商業施設などを狙った不審な火災や破壊工作が相次いでいます。
西側諸国の政府や情報機関は、その一部についてロシア情報機関との関連を指摘しており、Telegramなどを利用して現地の一般人を「使い捨て工作員」として募集する手法も確認されています。
かつてはGRUなどの専門工作員が直接外国で活動するケースが目立ちましたが、現在ではSNSと暗号資産を利用し、現地の人間に実行させることで、国家とのつながりを分かりにくくする方法が広がっているとみられています。
一方で、2026年8月に発生した防衛関連施設の火災や放火事件については、現在も捜査中の事件が多く、すべてについてロシアの関与が確定しているわけではありません。
重要なのは、「不審な事件が起きた=ただちにロシアの犯行」と考えることでも、「証拠が完全に公開されていない=ロシアとは無関係」と考えることでもありません。
ロシアによるハイブリッド作戦については過去に各国政府が関与を認定した事例が実際に存在する一方、現在進行中の事件については、確定した事実と情報機関・専門家による分析を区別して見る必要があります。
ウクライナ戦争が長期化するなか、軍事衝突だけでなく、サイバー攻撃、情報工作、破壊工作などを含む「戦争と平時の間」の活動が、今後のヨーロッパ安全保障を考えるうえでますます重要なテーマになりそうです。


コメント