本記事は、YouTube動画『株式投資は美人投票?ケインズの理論と7,900人の実験から学ぶ投資の本質』の内容を基に構成しています。
株式投資で利益を得るためには、企業の業績を分析することが重要だと考えられています。しかし、実際の株式市場では、業績が良い企業の株価が必ず上昇するわけではありません。
むしろ、投資家が「これから人気が出そうだ」と考える銘柄に資金が集中し、企業の実力以上に株価が上昇することもあります。
こうした株式市場の特徴を説明する有名な考え方が、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが提唱した**「美人投票の理論」**です。
この理論では、自分が優れていると思う企業を選ぶのではなく、他の投資家が優れていると判断しそうな企業を予想することが重要になります。
ところが、この考え方には意外な落とし穴があります。
実際に約7,900人が参加した心理実験では、理論的に最後まで考え抜いた人が、必ずしも勝てなかったのです。
さらに興味深いことに、美人投票の理論を説明したケインズ自身も、当初は市場の動きを予測する投資で苦戦していました。しかし、投資手法を大きく変更したことで、長期的には市場平均を上回る運用成績を残しています。
今回は、ケインズの美人投票理論、7,900人が参加した数字当てゲーム、そしてケインズ本人の投資成績を通して、株式投資で本当に重要なことを解説します。
株式投資の「美人投票」とは何か?
ケインズが1936年に提唱した株式市場の考え方
美人投票の理論を広く知らしめたのは、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズです。
ケインズは1936年に出版した著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』の第12章で、株式市場における投資家の行動を新聞の美人投票に例えました。
当時の新聞で行われていた美人投票では、読者が100枚の顔写真から美しいと思う6人を選び、投票します。
ただし、一般的な人気投票とは違い、自分が選んだ6人に投票が集まれば勝ちという仕組みではありません。
賞を獲得できるのは、読者全体で人気を集めた6人に最も近い組み合わせを予想した参加者です。
つまり、自分自身が美しいと思う人物を選んでも、他の読者の好みと一致しなければ勝てません。
勝つためには、他の人が誰を選ぶかを予想する必要があります。
他人の予想をさらに予想する心理戦
このゲームでは、単に「他の人が美しいと思いそうな人物」を選ぶだけでは不十分です。
なぜなら、他の参加者も同じように、周囲の人が誰を選ぶかを予想しているからです。
すると、次のような思考が生まれます。
- 第1段階:自分が美しいと思う人物を選ぶ
- 第2段階:他の人が美しいと思いそうな人物を選ぶ
- 第3段階:他の人が「みんなに人気が出る」と予想しそうな人物を選ぶ
- 第4段階以降:さらに他人の予想を何段階も先読みする
ケインズは、投資家の判断がこうした高次の予想にまで発展することを指摘しました。
ここで重要なのは、投資家の関心が企業そのものから、他の投資家の考えへと移っていくことです。
例えば、ある企業の業績がそれほど良くなくても、SNSで話題になれば株価が上昇することがあります。
その理由は、投資家が企業の将来性を評価したからとは限りません。
「これから多くの人が買うだろう」「話題になっているので、さらに資金が集まるはずだ」と考えた投資家が買い注文を出すことで、株価が上昇する場合もあるのです。
株式市場では企業の実力だけでなく、他人の期待や予想が株価形成に大きな影響を与えています。
0から100の数字当てゲームで分かる投資家心理
平均の3分の2に最も近い数字を選ぶゲーム
美人投票の理論を理解するうえで役立つのが、経済学の実験でも利用されている数字当てゲームです。
ルールは非常に単純です。
参加者は0から100までの数字を1つ選びます。そして、参加者全員が選んだ数字の平均を計算し、その平均に2/3を掛けます。
この計算結果に最も近い数字を選んだ人が勝者になります。
例えば、参加者全員の平均が50だった場合、正解となる数字は次のようになります。
50 × 2/3 = 約33.3
したがって、平均が50になると予想するのであれば、33を選ぶことが合理的です。
しかし、ここから問題が複雑になります。
合理的に考え続けると答えは0になる
仮に、多くの参加者が同じように考えて33を選んだらどうなるでしょうか。
参加者全員の平均は33になり、その2/3は22になります。
さらに、全員が22を選ぶと考えれば、次の正解は約14.7になります。
このように、他の参加者の思考を先読みすると、予想する数字は次第に小さくなっていきます。
全員が同じ段階まで考えた場合の数字の変化50を出発点として、繰り返し2/3を掛けた場合の理論上の推移。実際の参加者の回答分布ではありません。
50から始めて、33.3、22.2、14.8、9.9、6.6と計算を続ければ、最終的には0に近づきます。
全員が0を選んだ場合、平均も0になり、その2/3も0です。
この状態では、誰か1人が別の数字を選んでも、0より有利になることはありません。
経済学では、このような状態を「ナッシュ均衡」と呼びます。
ナッシュ均衡とは、他の参加者の行動が変わらない限り、自分だけ行動を変えても得をしない状態のことです。
したがって、参加者全員が完全に合理的で、他の参加者も同じように合理的に考えると理解しているなら、理論上の答えは0になります。
ところが、実際の実験では、この理論がそのまま当てはまるわけではありませんでした。
約7,900人が参加した実験で分かった意外な結果
3つの新聞・雑誌で数字当てゲームを実施
1990年代後半、実際にこの数字当てゲームが大規模に行われました。
参加者を募集したのは、イギリスの経済紙「Financial Times」、スペインの経済紙「Expansión」、ドイツの科学雑誌「Spektrum der Wissenschaft」です。
3つの媒体を通じて、合計約7,900人が参加しました。
経済紙や科学雑誌の読者が対象となっているため、数字や論理的な思考に比較的関心が高い参加者も多かったと考えられます。
しかし、実験結果は理論上の答えである0とは大きく異なっていました。econweb.ucsd.edu+1
実際の正解は13から17付近だった
実験結果を比較すると、次のようになります。
| 媒体 | 実際の正解 |
|---|---|
| Financial Times | 約13 |
| Expansión | 約16.99 |
| Spektrum | 約14.7 |
理論上の正解は0ですが、実際にはどの実験でも13から17付近が正解となりました。
Financial Timesの参加者が選んだ数字の平均は18.91で、その2/3に相当する約13が勝利する数字になりました。
また、Spektrumでは参加者の平均が約22.08となり、正解は約14.7でした。
Expansiónでも正解は約16.99となっています。ResearchGate+1
つまり、すべての参加者が合理的に考え抜き、0を選ぶという理論上の状況にはならなかったのです。
参加者の多くは3段階程度で思考を止めていた
実験結果から、参加者がどの程度まで他人の考えを先読みしていたのかも推測できます。
最初の平均を50と仮定すると、1段階目は33.3、2段階目は22.2、3段階目は14.8です。
実際の正解が13から17付近だったことを考えると、全体としてはおおむね3段階程度の先読みが結果に反映されていたことになります。
ただし、これは参加者全員が3段階まで考えていたという意味ではありません。
実際の回答には33付近や22付近などに集中する傾向が見られ、0付近を選んだ参加者も存在しました。
つまり、1段階で考えるのを止めた人もいれば、2段階、3段階と先読みを続けた人もいたのです。
この実験が示しているのは、人間の合理性や思考の深さには個人差があるということです。
なぜ0を選んだ人は負けたのか?
0を選んだ参加者の考え方は、理論的には間違っていません。
全員が完全に合理的に行動するのであれば、0を選ぶことが最終的な答えになります。
しかし、現実にはすべての人が同じように考えているわけではありません。
多くの参加者が33や22などを選べば、全体の平均は上昇します。そして、その平均の2/3も0から離れていきます。
その結果、最後まで考え抜いた人よりも、周囲の参加者がどの段階で思考を止めるかを適切に予想した人が有利になりました。
これは将棋のようなゲームとの大きな違いです。
将棋では、相手の最善手をより深く読めることが通常は有利に働きます。
ところが、数字当てゲームでは、相手がどこまで考えるかを読み違えると、自分だけが理論的な最終地点に到達しても勝てません。
重要なのは、どこまで深く考えたかではなく、他の参加者の実際の行動をどれだけ正確に予想できたかなのです。
事前に周囲の人へ聞いた参加者は正解に近づいた
家族や友人と練習した21人の特徴
実験には、もう1つ興味深い結果がありました。
ドイツの科学雑誌Spektrumの参加者の中には、本番の数字を提出する前に、家族や友人と同じゲームを試していた人がいました。
そう回答した参加者は21人です。
そのうち約半数が、12から17の範囲の数字を選んでいました。
一方、参加者全体で12から17の数字を選んだ割合は、わずか14%でした。balabs+1
実際の正解が14.7だったことを考えると、事前に周囲の人とゲームを試した参加者は、正解に近い数字を選ぶ傾向があったことになります。
もっとも、21人という少人数の結果なので、事前練習をすれば必ず勝てると断定することはできません。
それでも、この結果には重要な意味があります。
論理的な推測より実際の人間の行動を観察する
事前に練習した参加者は、他の人が実際にどのような数字を選ぶのかを観察できました。
理論上の答えだけでなく、現実の人間がどの段階まで考えるのかについて情報を得られたわけです。
これは株式投資にも通じる考え方です。
例えば、理論的には割高に見える株式でも、市場参加者が強い成長を期待していれば、さらに買われることがあります。
逆に、企業の業績が良くても、投資家が将来の成長鈍化を心配していれば株価が下落する場合があります。
株価を予想するためには、企業の価値だけでなく、市場参加者が何を期待しているのかを考える必要があります。
ただし、数字当てゲームと違って、株式市場では参加者の予想が明確な数字として発表されるわけではありません。
そのため、他人の期待を正確に把握することは、さらに難しくなります。
株式市場では美人投票が毎日繰り返されている
人気が出そうな銘柄を先回りして買う投資家心理
株式市場では、多くの投資家が将来の値上がりを期待して株式を購入します。
その際、企業の利益や財務状況を分析する投資家もいれば、市場の人気や資金の流れを重視する投資家もいます。
例えば、AI関連銘柄が大きく上昇しているとします。
その状況を見た投資家は、AI関連企業の利益成長を評価して購入することもあれば、「今後もAI関連株に資金が集まるだろう」と考えて購入することもあります。
後者の場合、判断の中心にあるのは企業の価値ではなく、他の投資家が今後どう行動するかという予想です。
さらに、別の投資家は「多くの人がAI関連株への資金流入を予想しているから、もっと買われるはずだ」と考えるかもしれません。
このように、予想の上に予想が積み重なる構造は、ケインズが説明した美人投票そのものです。
SNSの人気銘柄は高値づかみの危険もある
現在では、SNSや動画配信サービスを通じて、株式市場の情報が瞬時に広がります。
著名な投資家が特定の銘柄を紹介したり、多くの個人投資家が利益を報告したりすると、その銘柄への関心が急速に高まることがあります。
しかし、話題になっていることと、これから株価が上昇することは同じではありません。
むしろ、多くの人がすでに購入した後であれば、新たに買い始めた投資家が高値づかみをする可能性もあります。
数字当てゲームでも、33が正解になると考えた参加者が大量に33を選べば、正解はさらに小さくなります。
株式市場でも、多くの投資家が値上がりを期待して買い終えた後には、新たな買い手が不足することがあります。
人気がある銘柄を買うことと、その銘柄で利益を得ることは別の問題なのです。
株式市場には明確な答え合わせがない
数字当てゲームでは、参加者全員の数字が集まれば正解を計算できます。
しかし、株式市場には、誰もが確認できる唯一の正解が存在するわけではありません。
株価が上昇したとしても、その理由が業績の改善なのか、投資家の期待なのか、短期的な需給なのかを完全に区別することは困難です。
さらに、他の投資家が何段階まで先読みして売買しているのかも分かりません。
そのため、人気を先読みする投資では、絶えず他人の予想を推測し続ける必要があります。
こうした難しさは、美人投票の理論を説明したケインズ自身の投資経験にも表れています。
ケインズ自身も最初は株式投資で苦戦していた
ケインズは大学の資金を運用していた
ケインズは経済学者として知られていますが、実際に投資家としても活動していました。
特に重要なのが、イギリスのケンブリッジ大学キングス・カレッジでの資金運用です。
ケインズは大学の運用資産のうち、比較的自由に投資先を選べる資金を管理していました。
後年、研究者が当時の運用記録を分析したことで、ケインズがどのような投資を行い、どの程度の成果を残したのかが明らかになっています。
興味深いのは、ケインズの投資手法が途中で大きく変化していたことです。
当初は景気の波を予想する投資手法だった
ケインズが初期に採用していたのは、景気や金融市場の変化を予想し、株式、債券、現金の配分を変更する投資手法でした。
例えば、景気が良くなりそうだと判断すれば株式を増やし、景気が悪化すると予想すれば株式を減らすという方法です。
現在でいうマーケットタイミング戦略に近い考え方です。
市場全体の値動きを先読みするため、美人投票のように他の投資家より先に行動することが重要になります。
しかし、実際の運用成績は芳しいものではありませんでした。
1926年から1928年にかけて、イギリス株式市場は上昇していましたが、ケインズの運用成績は3年連続で市場平均を下回りました。
景気の先行きを予想する能力と、株式市場で利益を上げる能力は必ずしも一致しなかったのです。AAII+1
1929年の世界恐慌も予測できなかった
1929年9月以降、アメリカの株式市場は急落し、世界恐慌へとつながっていきました。
ケインズもこの大幅な株価下落を事前に正確に予測することはできませんでした。
動画で紹介された運用記録によると、1930年度の運用資産は14.2%減少しました。
また、運用開始からの累積成績では市場に12.6%遅れ、直近5年間で比較すると市場との差は40.3%にも達していたとされています。
経済学の理論を深く理解していたケインズでさえ、市場全体の動きを正確に読み続けることは難しかったのです。
この経験は、ケインズの投資哲学を大きく変えることになります。
ケインズは1930年代に投資手法を大きく変更した
市場の予想から企業の価値を重視する投資へ
1930年代初め、ケインズは、それまでの景気予測を中心とした運用から、個別企業の価値を重視する投資へと方針を変更しました。
新たな手法では、企業の事業内容や経営状況を詳しく調べ、その実力に対して株価が割安だと判断した銘柄を選びます。
そして、購入した株式を短期間で売買するのではなく、長期間保有することを重視しました。
これは現在のバリュー投資や長期投資に通じる考え方です。
重要なのは、他の投資家が次に何を買うかを予想するのではなく、企業そのものを理解することに重点を移した点です。
ケインズは多数の銘柄へ均等に投資するのではなく、自分が十分に理解し、経営を信頼できる企業に投資資金を集中させる方法を採用しました。
実際の投資記録を分析した研究でも、1930年代初めを境に、ケインズが景気予測中心の運用から個別株の長期保有へ移行したことが確認されています。Cambridge Core+1
1929年と1937年の暴落時には行動が変わっていた
ケインズの投資哲学の変化は、株式市場が大きく下落したときの行動にも表れています。
1929年に株式市場が下落し始めた際、ケインズは約1年をかけて保有していたイギリス株式の大部分を売却し、資金を国債へ移しました。
この時期は、景気悪化を予想してリスク資産から資金を引き揚げるという、それまでの投資手法に沿った行動でした。
ところが、1937年に再び大きな株価下落が起きたときには、異なる対応を取っています。
動画によると、ケインズは株式を売却して逃げるのではなく、むしろ一部の銘柄を買い増しました。
株式の組み入れ比率も90%以上を維持していたとされています。
市場全体が下落しても、投資している企業の長期的な価値に対する評価が変わらなければ、保有を継続するという姿勢です。
もちろん、この判断が常に成功するわけではありません。
企業の業績が悪化し、当初の投資判断が崩れている場合には、株式を保有し続けることが損失拡大につながる可能性もあります。
それでも、ケインズが市場の短期的な動きから企業の本質的な価値へと判断基準を移したことは、大きな転換点でした。
ケインズの24年間の運用成績は市場平均を上回った
年平均15.97%という優れた運用実績
ケインズが運用を担当したキングス・カレッジの投資成績を分析すると、長期的には市場平均を上回る結果が確認されています。
1922年から1946年までの約24年間について、各年の運用成績を算術平均すると、ケインズの裁量運用部分とイギリス株式市場は次のようになります。
1922~1946年の年次リターンの算術平均
ケインズの裁量運用
15.97%
イギリス株式市場
10.37%
ケインズ
15.97%
市場平均
10.37%
年間平均の差
+5.60pt
出典:Chambers、Dimsonらによるキングス・カレッジの運用記録分析。年次リターンの算術平均であり、複利の年率リターンではありません。
ケインズの成績は市場平均を年間約5.6ポイント上回っていました。
これは非常に優れた運用成績です。
ただし、ここで注意したいのは、15.97%という数字が毎年一定の利回りで資産が増え続けたことを意味するわけではない点です。
年ごとの成績を単純に平均した数字であるため、資産が実際に何倍になったかを計算する際には、別途複利効果を考慮する必要があります。Paperzz+1
高いリターンの裏には大きな価格変動があった
ケインズの投資手法には、大きな価格変動というリスクも伴っていました。
運用成績の変動の大きさを表す標準偏差を比較すると、ケインズの運用資産は19.08%、イギリス株式市場は17.11%でした。
標準偏差は、リターンが平均値からどの程度ばらつくかを示す指標です。
一般的には、数値が大きいほど運用成績の変動が激しいことを意味します。
つまり、ケインズは市場平均を上回るリターンを得ていた一方で、市場全体より大きな値動きにも耐えていたことになります。Investment Magazine+1
ケインズのように少数の銘柄へ資金を集中させれば、選んだ企業が大きく成長した場合には高いリターンを期待できます。
しかし、反対に投資先の業績が悪化すれば、資産全体が大きく下落する危険もあります。
長期保有という考え方は単純ですが、実際に株価が下落している最中に投資を続けることは容易ではありません。
ケインズが1934年に語った投資の本質
ケインズは1934年、知人に宛てた手紙の中で、自身の投資に対する考え方を述べています。
その趣旨は、十分に理解していると思える企業、そして経営を心から信頼できる企業に、まとまった資金を投じることが正しい投資方法だというものでした。
この考え方は、それまでの市場予測に頼った投資とは大きく異なります。
短期的な株価変動を読み切ろうとするのではなく、企業の事業内容、収益力、経営者の能力を理解し、その企業の長期的な成長に投資するという姿勢です。
もっとも、ケインズは長期投資の難しさも認識していました。
『雇用・利子および貨幣の一般理論』では、真に長期的な期待に基づく投資を実践することは、現実の市場環境では非常に難しいという趣旨の指摘もしています。
市場が急落すると、他の投資家が売却していることに不安を感じ、自分も売却したくなることがあります。
その瞬間、企業の価値を基準に判断していた投資家も、再び他人の行動を気にする美人投票へと引き戻される可能性があるのです。
個人投資家は美人投票から何を学ぶべきか?
企業の価値で買うのか、人気を予想して買うのか
この動画が示している重要なポイントは、株式を購入する前に、自分がどのような理由でその銘柄を選んでいるのかを明確にすることです。
例えば、ある企業の株式を購入した理由が、利益成長や財務状況、将来の事業展開に対する評価であれば、企業の価値を重視した投資といえます。
一方、SNSで話題になっていることや、他の投資家が今後も買い続けると予想して購入したのであれば、美人投票に参加していることになります。
どちらの投資方法にも利益を得る可能性はあります。
ただし、両者では利益を得るために必要な条件が異なります。
企業価値を重視する投資では、企業の分析力や株価が割安かどうかを判断する能力が重要です。
人気を先読みする投資では、他の投資家の期待や行動、市場の資金の流れを予想する能力が求められます。
特に問題になるのは、人気を理由に購入したにもかかわらず、株価が下落した途端に長期投資へ切り替えたり、逆に長期保有を目的として購入した銘柄を短期的な値動きだけで売却したりすることです。
投資の目的と売買判断の基準が一致していなければ、相場環境に振り回されやすくなります。
インデックス投資は別の選択肢になる
個別銘柄の人気や企業価値を予想することが難しいと感じる投資家には、インデックス投資という選択肢もあります。
インデックス投資は、日経平均株価やTOPIX、S&P500などの株価指数に連動する運用成果を目指す方法です。
特定の企業が将来人気になるかどうかを予想するのではなく、指数を構成する複数の企業へまとめて投資することができます。
もちろん、インデックス投資にも市場全体が下落するリスクがあります。
また、市場全体が割高な状況で購入すれば、その後のリターンが低下する可能性もあります。
それでも、個別企業の選択や短期的な人気の先読みを必要としない点は、個人投資家にとって重要な特徴です。
ケインズが実践した集中投資と、幅広い銘柄へ分散するインデックス投資では、リスクの取り方が大きく異なります。
どちらが適しているかは、投資家自身の知識や経験、資産状況、価格変動への許容度によって変わってきます。
まとめ:株式投資では深く考えるだけでは勝てない
ケインズの美人投票理論は、株式市場が企業の業績や価値だけで動いているわけではないことを示しています。
株価には、多くの投資家が何を期待し、他の投資家がどのように行動すると考えているかが反映されています。
約7,900人が参加した数字当てゲームでは、理論上の答えが0であるにもかかわらず、実際の正解は13から17付近となりました。
これは、理論的に最後まで考え抜くことと、現実の人間の行動を正確に予想することが異なるためです。
さらに、ケインズ自身も当初は景気や市場の動きを予想する投資で苦戦していました。
しかし、1930年代に企業の価値を重視した長期投資へと方針を変更し、約24年間の運用成績では市場平均を上回る結果を残しています。
ただし、その成功には市場平均より大きな価格変動が伴っていました。
人気を先読みする投資も、企業の価値を見極める長期投資も、決して簡単な方法ではありません。
大切なのは、自分が何を根拠に投資判断を下しているのかを理解することです。
「この企業の価値を評価して買うのか。それとも、他の投資家が買いそうだから買うのか」
株式を購入する前に、この問いを自分自身に投げかけるだけでも、投資判断の質は変わってくるかもしれません。
ケインズの美人投票理論は、約90年前に提唱された考え方ですが、SNSや動画を通じて投資情報が広がる現代の株式市場においても、重要な示唆を与えています。


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