本記事は、YouTube動画『バフェットの後継者が三菱商事を買い増しした真相と今後のシナリオ』の内容を基に構成しています。
導入
三菱商事が発表した決算では、純利益が前年より約16%減少しました。普通に考えれば、業績が悪化した会社の株を積極的に買うという判断は、投資初心者にとって理解しにくいものです。
しかし、世界的投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイは、むしろ三菱商事株を買い増しました。保有比率は9.67%から11.06%へ上昇し、これまで市場に示していた「9.9%の壁」を超える歴史的な動きとなりました。
今回の買い増しは、単なる逆張りではありません。表面的な減益ではなく、三菱商事の本質的な稼ぐ力、キャッシュフロー、株主還元、そして日本市場全体への長期的な信頼が背景にあります。
バークシャーが超えた「9.9%の壁」の意味
今回の最大のポイントは、バークシャーによる三菱商事株の保有比率が11.06%に達したことです。
バフェット氏は日本の大手商社への投資を始めた当初、各社の取締役会の承認がない限り、保有比率を9.9%超にはしないという姿勢を示していました。これは「経営権を狙う敵対的な株主ではなく、友好的な長期株主である」という市場へのメッセージでもありました。
そのため、今回9.9%を超えたことは非常に大きな意味を持ちます。三菱商事側との間に、単なる大株主と経営陣という関係を超えた、深い信頼関係ができていると考えられるからです。
バークシャーはこれまでも段階的に三菱商事株を買い増してきました。2023年6月には6.59%から8.31%へ、2025年3月には8.31%から9.67%へ、そして今回2026年5月に11.06%へと保有比率を引き上げています。
この流れを見ると、今回の買い増しは突発的な判断ではなく、長期的な計画に基づいた行動だと分かります。
減益決算でも買われた理由
三菱商事の2026年3月期の純利益は約8,400億円で、前年より約16%減少しました。この数字だけを見ると、業績悪化と受け止める投資家がいても不思議ではありません。
しかし、バフェット氏が重視しているのは、表面的な会計上の利益だけではありません。重要なのは、その減益が一時的なものなのか、それとも本業の稼ぐ力が落ちているのかという点です。
今回の減益要因には、ローソン関連の会計上の利益が消えたことが大きく影響しています。前年度には、ローソンを持分法適用会社にする際の評価益として約1,831億円が計上されていました。これは実際に本業で稼いだ利益というより、会計上発生した一時的な利益です。
さらに、前年にあった海外事業の売却益や引当金戻入益なども、今期には存在しません。つまり、減益の多くは「もともと繰り返される予定のない利益が消えた」ことによるものです。
一方で、三菱商事の営業収益キャッシュフローは当初計画の9,000億円を上回り、9,200億円に達しています。会計上の利益は減っていても、実際に会社が生み出す現金は強さを保っているのです。
バフェットが重視する「本当の稼ぐ力」
バフェット氏が長年重視してきた考え方に「オーナーアーニング」があります。これは、会計上の利益ではなく、企業が実際に株主へ還元できる現金をどれだけ生み出しているかを見る考え方です。
三菱商事の場合、資源、エネルギー、食料、デジタル、金融など、幅広い事業を持っています。特にLNG関連事業や北米シェールガス事業などは、将来の安定収益源として期待されています。
また、フィリピンでのデジタル金融事業や国内データセンター事業への投資も進んでおり、資源価格だけに左右されない収益基盤を作ろうとしています。
さらに、1株当たり110円の配当維持や、大規模な自己株式償却も実施されています。2026年3月末までに3億291万株の自己株式が償却されており、これは残った株式の価値を高める効果があります。
バフェット氏が見ているのは、短期的な減益ではなく、こうした企業の本質的な体力です。
円建て社債2723億円の意味
今回の買い増しには、バークシャーによる円建て資金調達も関係しています。
バークシャーは2026年4月、合計2,723億円規模の円建て社債を発行しました。これは日本市場でも非常に大きな資金調達です。
円で資金を調達し、その円で日本株を買うことで、為替変動リスクを抑えることができます。円安になっても円高になっても、借り入れと投資対象が同じ円建てであるため、為替損益の影響を受けにくい構造になります。
これはバークシャーが日本株投資で活用してきた、非常に合理的な財務戦略です。
ただし、今後は日銀の利上げによって、円建て資金の調達コストが上昇する可能性もあります。今回の社債発行は、まだ低コストで円資金を確保できるタイミングを狙った動きとも考えられます。
三菱商事の株価を左右する受給構造
三菱商事の株価を見るうえでは、業績だけでなく受給も重要です。
信用取引では、買い残が約554万株、売り残が約96万株あり、信用倍率は約6倍弱となっています。信用倍率が高いということは、将来的な売り圧力が残っているという意味です。
株価が下落した場合、信用買いをしている投資家が損失に耐えられず、売りを出す可能性があります。これが連鎖すると、企業価値とは関係なく株価が大きく下がることもあります。
一方で、海外機関投資家は三菱商事に対して強気の見方を続けています。大手証券会社が高い目標株価を設定しており、野村証券や三井住友トラストなどの大手機関投資家も保有を増やしています。
このように、短期的には信用買い残による売り圧力がある一方で、長期的には海外投資家や機関投資家による買い需要が支えになっている構図です。
東京海上ホールディングスへの出資も重要な布石
バークシャーの日本戦略を考えるうえで、東京海上ホールディングスへの出資も見逃せません。
2026年3月、バークシャーは東京海上ホールディングスと戦略的パートナーシップを結び、約2,874億円を出資して発行済み株式の2.5%を取得しました。
バークシャーは保険・再保険ビジネスに強みを持つ企業です。一方、東京海上も日本最大級の損害保険グループであり、海外展開も進めています。
両社が組むことで、再保険分野での協力や海外M&Aでの共同投資など、さまざまな可能性が広がります。
さらに東京海上は、バークシャーへの株式処分と同時に、同規模の自社株買いを発表しました。つまり、新たに株式が発行されることで既存株主の価値が薄まることを、自社株買いによって打ち消した形です。
これは株主還元を重視する姿勢を示すものであり、バフェット流の投資基準にも合致しています。
次にバフェットが買う可能性のある日本株
動画では、今後バフェット氏やバークシャーが注目する可能性のある日本株として、いくつかの候補が紹介されています。
まず有力候補として挙げられるのが、三菱UFJフィナンシャル・グループです。日銀が利上げを進める局面では、銀行は貸出金利の上昇によって利ざやが拡大しやすくなります。さらに三菱UFJは国内だけでなく、東南アジアにも強いネットワークを持っています。
次にNTTも候補として考えられます。通信インフラは社会に不可欠な事業であり、安定したキャッシュフローを生みやすい分野です。バフェット氏が好む「長期的に必要とされ続けるインフラ企業」という条件に近い存在です。
また、オリックスも注目候補です。リース、金融、不動産、ホテルなど幅広い事業を持ち、割安なコングロマリットという点で、かつての5大商社への投資判断に似た面があります。
ただし、これらはあくまで推測です。重要なのは、実際に買われるかどうかではなく、バフェット氏がどのような基準で企業を選んでいるのかを学ぶことです。
三菱商事の強みとリスク
三菱商事の強みは、世界的投資家であるバークシャーが11%超を保有しているという安心感だけではありません。
資源、エネルギー、食料、デジタルなど、事業ポートフォリオが幅広く分散されています。さらに営業収益キャッシュフローが9,200億円に達しており、実際に現金を生み出す力もあります。
配当維持や自己株式償却など、株主還元への姿勢も明確です。
一方で、リスクもあります。商社は資源価格の変動に業績が左右されやすく、原油や原料炭価格が大きく下がれば、利益計画に影響が出る可能性があります。
また、信用買い残が多いため、株価が急落した場合には投げ売りが連鎖するリスクもあります。さらに中国経済の減速や世界景気の後退も、三菱商事の業績に影響する可能性があります。
今後の株価シナリオ
上昇シナリオでは、2027年3月期の純利益が会社計画通り、あるいはそれ以上で着地し、さらに増配が発表される展開が考えられます。
加えて、バークシャーがさらに保有比率を引き上げるとの観測が広がれば、海外機関投資家の追随買いが入り、株価の再評価が進む可能性があります。
一方で、下落シナリオもあります。資源価格の下落、日銀の急速な利上げ、円高進行、世界景気の悪化などが重なれば、株価が大きく調整する可能性も否定できません。
特に信用買い残が多い状態では、短期的に株価が本来の価値以上に売り込まれる「オーバーシュート」が起きることもあります。
つまり、三菱商事は長期的には魅力のある銘柄である一方、短期的には大きな値動きが起こり得る銘柄でもあります。
長期投資家はどう向き合うべきか
バフェット氏が三菱商事を11.06%まで買い増したという事実は、「今すぐ買うべき」という単純なサインではありません。
むしろ、三菱商事という企業が今後10年、20年にわたって安定的に現金を生み出し、株主に還元し続ける力を持っていると、世界的投資家が判断したという意味で受け止めるべきです。
長期投資家が見るべきポイントは、日銀の利上げペース、資源価格の動向、そしてバークシャーの次の大量保有報告書です。
株価が下がったとき、それが一時的なノイズなのか、それとも企業価値に関わる構造変化なのかを見極めることが重要です。
表面的なニュースだけを見ていると、「減益なのになぜ買うのか」という疑問で止まってしまいます。しかし、キャッシュフロー、株主還元、円建て資金調達、受給構造まで見ていくと、バークシャーの投資判断には明確な論理があることが分かります。
まとめ
今回の動画では、バークシャー・ハサウェイが三菱商事株を11.06%まで買い増した背景について、決算内容、キャッシュフロー、円建て社債、受給構造、東京海上への出資など、複数の視点から解説されていました。
三菱商事は表面的には減益決算でしたが、その中身を見ると、一時的な会計上の利益が消えた影響が大きく、本業の現金創出力はむしろ堅調です。バフェット氏が重視するのは、短期的な利益の上下ではなく、長期的に株主へ現金を還元できる力です。
一方で、資源価格の変動、信用買い残、日銀の利上げ、円高、中国経済の減速といったリスクも無視できません。
大切なのは、「バフェットが買ったから買う」という単純な判断ではなく、なぜ買ったのかを理解することです。その論理を学ぶことで、三菱商事だけでなく、他の日本株を見る目も養うことができます。


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