本記事は、YouTube動画『【世界同時ディーゼル危機】補助金リットル51円政策は持続可能なのか。ウクライナ・ロシア戦争の影響は?』の内容を基に構成しています。
世界各地でディーゼル燃料の需給が逼迫し、価格上昇への警戒が強まっています。
ディーゼルはトラックだけに使われる燃料ではありません。農業、建設、製造業、物流など幅広い産業を支えているため、価格が上昇すれば輸送コストや生産コストを通じて、最終的にはさまざまな商品の価格にも影響します。
動画では、現在のディーゼル問題について、ロシア・ウクライナ戦争、中東情勢、中国からの供給減少、米国の政策議論など、複数の要因が重なって起きていると説明しています。
さらに問題は海外だけではありません。
日本もエネルギー資源の多くを海外に依存しており、現在の燃料価格が比較的安定して見える背景には、政府による補助金や石油備蓄などがあります。
世界のエネルギー供給網が不安定になるなか、日本はどのような対策を取るべきなのでしょうか。
世界でディーゼル不足への警戒が強まっている
動画で最初に取り上げられているのが、世界的なディーゼル供給の逼迫です。
ディーゼル燃料、つまり軽油は、トラック輸送をはじめ、農業機械、建設機械、製造業など幅広い分野で使われています。
そのため、ディーゼルは世界経済を動かす「血液」のような存在ともいえます。
実際、米エネルギー情報局(EIA)は2026年9月の短期エネルギー見通しで、米国の留出油在庫が9月に1億バレルを下回り、2026年末から2027年の大部分にかけて過去5年間の低水準を下回る可能性があると予測しています。
背景には、中東、ロシア、中国などからの供給減少があります。
Reutersも、2026年に中東やロシアなどからの供給が減少したことで世界的なディーゼル価格が過去最高水準に上昇し、米国でも在庫が過去5年間の季節平均を大きく下回っていると報じています。
動画では米国のディーゼル価格について「16ドルを超えている」と説明されていますが、ここは注意が必要です。
2026年9月時点の米国の小売ディーゼル価格についてReutersが報じているのは1ガロン6ドル超で、EIAも原油価格と精製マージンの上昇がディーゼル価格を押し上げているとしています。したがって、動画の「16ドル」という部分については、単位や文字起こしを含め確認が必要です。
ロシアの製油所への攻撃が供給を圧迫
ディーゼル供給を不安定にしている大きな要因の1つが、ロシア・ウクライナ戦争です。
動画では、ウクライナがロシア国内の製油所など石油関連施設へのドローン攻撃を続けている点を取り上げています。
製油所は原油をガソリンや軽油、ジェット燃料などに加工する施設です。そのため、原油そのものが存在していても、製油能力が落ちればディーゼルなどの石油製品を十分に供給できなくなります。
Reutersによると、ロシアはウクライナによる製油所へのドローン攻撃などを背景に、2026年7月にディーゼル輸出を禁止しました。ロシアは世界の主要なディーゼル輸出国の1つであるため、供給減少は国際市場にも影響します。
動画では、ウクライナ側にはロシアの戦争継続能力を低下させるという軍事的な目的がある一方、その結果として世界の燃料供給をさらに逼迫させるという難しい側面があると説明しています。
つまり、軍事的には意味のある攻撃であっても、世界のエネルギー市場から見れば別の問題を引き起こす可能性があるということです。
米国でもディーゼル輸出制限をめぐる議論
米国でも、高騰するディーゼル価格への対応が政治問題になっています。
動画では、米国内で生産したディーゼルを国外へ出さず、国内供給を優先するための輸出制限が議論されていると説明しています。
実際に2026年9月には、米国議会の一部からディーゼル輸出を制限すべきだという主張が出ています。
一方、Reutersによると、トランプ政権は輸出禁止について否定的な姿勢を示しています。米国は世界最大級のディーゼル輸出国であり、輸出を止めれば世界市場をさらに逼迫させる可能性があるためです。
ここには難しい問題があります。
一見すると、ディーゼルを輸出せず米国内に残せば、国内価格を下げられそうに思えます。
しかし製油所では、原油からディーゼルだけを作っているわけではありません。ガソリン、ジェット燃料、その他の石油製品も同時に生産されます。
ディーゼルだけ輸出できなくなって国内在庫が積み上がれば、製油所全体の稼働を下げる必要が出てくる可能性があります。その結果、ガソリンや航空燃料など別の製品の供給まで減少する可能性があります。
そのため、輸出制限は単純に「国内の燃料を増やせる政策」とは言い切れません。
ディーゼル危機をさらに複雑にする中東情勢
もう1つの大きな問題が中東です。
動画では特に、
ホルムズ海峡
バブ・エル・マンデブ海峡
という2つの重要な海上輸送ルートに注目しています。
ホルムズ海峡はペルシャ湾と外洋を結ぶ世界有数のエネルギー輸送ルートです。
中東産原油やLNGの多くがこの海峡を通るため、軍事衝突などによって船舶の航行が難しくなると、世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼします。
2026年9月にはホルムズ海峡を通過する石油量が大きく回復した日もあり、米エネルギー長官は1日に約1700万バレルが通過したと説明しています。
ただし、中東情勢が安定したという意味ではありません。
EIAも2026年9月時点で、ホルムズ海峡および代替輸送ルートを通る石油の流れについて、紛争状況によって変動が続く可能性があるとしています。
ホルムズ海峡を避けるルートも安全とは限らない
サウジアラビアなどにとって、ホルムズ海峡が使いにくくなった場合の重要な選択肢となるのが、紅海側へ石油を運ぶルートです。
サウジアラビアには東部から西部へ原油を運ぶ東西パイプラインがあり、紅海沿岸のヤンブー港から輸出できます。
つまり、ホルムズ海峡を通らずに原油を輸出できるわけです。
しかし、このルートにもリスクがあります。
2026年9月にはサウジアラビアの東西パイプラインがドローン攻撃を受け、ヤンブー港経由の原油輸送が停止する事態が発生しました。
その後、サウジアラビアは再びペルシャ湾側からの輸出を増加させています。Reutersによれば、9月中旬以降、ホルムズ海峡経由のサウジ産原油輸送量が増えています。
つまり、
「ホルムズ海峡が危険なら紅海へ」
という単純な構図ではなく、代替ルートそのものも地政学リスクを抱えています。
ディーゼル不足は物価全体に波及する
ディーゼル価格の上昇が問題なのは、自動車に使う軽油が高くなるだけではありません。
トラックの燃料費が上昇すれば物流コストが上がります。
農業機械の燃料費が上昇すれば農産物の生産コストが増えます。
建設機械のコストが上昇すれば建設費にも影響します。
製造業でも工場や物流網を通じてコストが上昇します。
最終的には食品、日用品、工業製品など、さまざまな商品の価格へ波及する可能性があります。
Reutersは、米国ではディーゼル価格上昇による追加負担が物流を通じて消費者価格に転嫁されやすいと指摘しています。
したがって、ディーゼル価格は単なる「燃料の値段」ではなく、インフレを見るうえでも重要な指標です。
日本ではなぜ燃料危機が見えにくいのか
ここから動画は日本の問題へ移ります。
海外では大きな燃料価格上昇が起きているにもかかわらず、日本では日常生活が突然止まるような状況にはなっていません。
動画では、その背景の1つとして政府の燃料価格対策を挙げています。
動画によれば、ガソリンや軽油、灯油などに対して1Lあたり51円規模の支援が行われており、ガソリン価格を全国平均170円程度に抑える政策が取られていると説明されています。
この政策について動画が問題提起しているのは、
「補助金が機能しているか」
ではなく、
「いつまで続けられるのか」
という点です。
燃料価格の急騰時に家計や企業への影響を和らげる効果があったとしても、補助を長期間続ければ財政負担は大きくなります。
一方で、補助を急に縮小すれば物流、農業、製造業などのコストが一気に上昇する可能性があります。
短期的な価格安定と財政負担をどう両立させるかが重要になります。
日本には石油備蓄という「防波堤」がある
日本の強みとして動画が挙げているのが、石油備蓄です。
日本は1970年代のオイルショックを経験したことで、石油供給が途絶する危険性を強く認識するようになりました。
1973年の第4次中東戦争をきっかけとした第1次オイルショックでは、原油価格が急上昇し、日本社会にも大きな混乱が広がりました。
この経験を背景に、日本では国家備蓄と民間備蓄を組み合わせた石油備蓄制度が整備されてきました。
動画ではこれを「スーパー堤防」にたとえています。
海外からの石油輸入が一時的に滞っても、すぐに社会全体が機能停止しないための時間を確保する仕組みです。
ただし、当然ながら備蓄は無限ではありません。
長期間にわたって世界の供給網そのものが寸断されれば、備蓄だけですべてを解決することはできません。
石油以上に難しいLNGの備蓄
動画がさらに大きな問題として挙げているのがLNG、液化天然ガスです。
日本の2024年度のエネルギー自給率は確報値ベースで16.3%にとどまっており、依然として多くのエネルギーを海外からの輸入に頼っています。
そのなかでもLNGは、日本の発電や都市ガスなどを支える重要なエネルギーです。
しかしLNGには石油とは異なる弱点があります。
天然ガスは約マイナス162℃まで冷却して液体にすることで輸送・保管します。
ところが、タンクに保管していても外部から熱が入ることで少しずつ気化します。
そのため、原油のように長期間、大量に備蓄しておくことが簡単ではありません。
日本が導入した「戦略的余剰LNG」とは
こうしたLNG特有の問題に対応するため、日本では「戦略的余剰LNG」、通称SBLという制度が導入されています。
SBLはStrategic Buffer LNGの略称です。
経済産業省によると、石油のような長期備蓄が難しいLNGについて、民間企業の調達力を活用して平常時から余剰分を確保し、供給危機が発生した場合に国内の電力・ガス会社などへ供給できるようにする仕組みです。
2023年12月から運用が始まりました。
これは巨大な備蓄基地に何年分ものLNGを貯め込むという制度ではありません。
供給途絶が発生したときに、代替調達などを行うまでの「時間を稼ぐ」仕組みに近いものです。
経済産業省も、SBLについて供給途絶への対応に必要な時間的余裕を確保することを目的としています。
日本のエネルギー政策は短期・中期・長期で考える必要がある
動画では、日本が現在のエネルギー危機に対応するためには、政策を短期、中期、長期に分けて考える必要があると主張しています。
短期は備蓄と供給ルートの確保
短期的には、現在持っている石油備蓄を維持し、LNGについても戦略的な調達を続けることが重要になります。
急激な価格上昇が発生した場合には、補助金などによって家計や企業へのショックを和らげる政策も選択肢になります。
さらに重要なのが、輸入先の分散です。
最も安い国だけに依存すると、その国からの供給が止まった場合に大きな問題になります。
多少価格が高くても、非常時にも供給できる複数の国やルートと契約を維持しておくことが、エネルギー安全保障では重要になります。
投資でいう「分散投資」に近い考え方です。
中期は石油を使わなくてもよい分野を減らす
中期的には、石油を使わなくてもよい分野から電化を進めるという考え方が紹介されています。
すべての石油利用をなくすという意味ではありません。
航空機、大型船舶、化学産業など、短期間では電化が難しい分野もあります。
だからこそ、電気で代替できる分野から石油消費を減らせば、本当に石油が必要な分野へ供給を回しやすくなります。
これは脱炭素だけではなく、エネルギー安全保障という観点でも意味があります。
長期は国内で作れるエネルギーを増やす
長期的には、日本国内で生産できるエネルギーを増やすことが課題になります。
動画では、
太陽光発電
風力発電
地熱発電
原子力発電
核融合
蓄電技術
などについて触れています。
もちろん、どの電源にも長所と短所があります。
原子力には安全性や高レベル放射性廃棄物の処分という課題があります。
太陽光発電では天候による発電量の変動やパネル廃棄、土地利用などが問題になります。
風力発電でも建設費や保守費、立地条件などを考える必要があります。
地熱についても国立公園や温泉地との調整などが必要です。
そのため、特定の電源だけですべてを解決するのではなく、複数のエネルギー源を組み合わせる議論が重要になります。
「エネルギーを作る」だけでなく「使う量を減らす」ことも重要
動画の最後では、エネルギー安全保障についてもう1つ重要な視点が示されています。
それが省エネルギーです。
供給量を増やすことばかりがエネルギー安全保障ではありません。
必要なエネルギーそのものを減らすことができれば、海外から輸入しなければならないエネルギー量も減らせます。
例えば住宅の断熱性能を高めれば、冷暖房に必要な電力を減らせます。
工場設備の効率を改善すれば、生産量を維持しながらエネルギー消費を減らすことができます。
自動車の燃費改善や電動化も、石油への依存を減らす手段の1つです。
つまり、
「どこからエネルギーを調達するか」
だけではなく、
「そもそもどれだけエネルギーを使うのか」
まで含めて考える必要があります。
普通に生活できているから危機がないわけではない
今回の動画で繰り返し強調されているのが、この点です。
現在の日本ではガソリンや軽油を購入できます。
電気も使えます。
物流も動いています。
そのため、世界で起きているエネルギー供給の問題を日常生活では感じにくいかもしれません。
しかし実際には、世界のディーゼル市場はかなり逼迫しています。
EIAは米国の留出油在庫について、2026年末から2027年の大半まで過去5年間の低水準を下回る状況が続くと予測しています。
さらにロシアからのディーゼル供給減少、中東情勢、ホルムズ海峡などの海上輸送リスクが同時に存在しています。
日本のエネルギー自給率も16.3%程度であり、国際情勢の影響を受けやすい構造そのものは変わっていません。
まとめ
世界のディーゼル市場では、複数の地政学リスクが同時に発生しています。
ロシアではウクライナによる製油所攻撃などを背景にディーゼル輸出が制限され、中東では石油輸送ルートをめぐる不安定な状況が続いています。
米国でも国内のディーゼル価格上昇を受けて輸出制限を求める声が出ていますが、世界市場への影響を考えれば簡単な政策ではありません。
そして日本も無関係ではありません。
日本では補助金、石油備蓄、LNG調達、複数の輸入ルートなどによって、現在のエネルギー供給が維持されています。
重要なのは、目の前の価格上昇だけを見るのではなく、
短期的には備蓄と供給網を守る。
中期的には石油への依存を減らす。
長期的には国内エネルギーと省エネを強化する。
という複数の時間軸で考えることです。
現在普通に燃料を購入でき、電気を使えているからといって、世界のエネルギー供給リスクがなくなったわけではありません。
むしろ現在の状況は、日本のエネルギー安全保障を改めて考えるきっかけになっているといえるでしょう。


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