本記事は、YouTube動画『金価格25%急落後の見通し!In Gold We Trust最新レポートから読み解く金・銀・金鉱株の将来性』の内容を基に構成しています。
2026年1月に史上最高値を記録した金(ゴールド)価格が、大幅な調整局面を迎えています。1トロイオンス当たり約5,399ドルまで上昇した金価格は、10月28日時点で4,067ドルとなり、最高値から約24.7%下落しました。
一般的に金は「安全資産」「守りの資産」と呼ばれます。しかし、過去の歴史を振り返ると、20~30%程度の下落は決して珍しい現象ではありません。1970年代には50%近い調整も発生しています。
では、今回の下落は長期的な上昇トレンドの途中にある一時的な調整なのでしょうか。それとも、金相場の強気局面が終わりを迎えた兆候なのでしょうか。
注目したいのが、金市場の長期分析で知られる「In Gold We Trust Report(IGWT)」です。
2026年10月に公開された最新のチャートブックは全53ページにわたり、金価格の動向だけでなく、中央銀行の金購入、金ETFの資金フロー、銀や金鉱株のパフォーマンス、株式市場との比較、2030年までの価格シナリオなどを分析しています。
本記事では、このレポートと動画で紹介されたデータを基に、金市場で何が起きているのか、そして今後の金価格を考えるうえで何が重要になるのかを詳しく解説します。
なお、価格や騰落率は原則として動画で使用された2026年10月28日時点のデータです。最高値などは採用する価格指標によって多少異なります。
金価格は史上最高値から約25%下落
5,399ドルから4,067ドルへ急落
金価格は2026年1月に史上最高値となる約5,399ドルを記録しました。
しかし、その後は調整が進み、10月28日時点では4,067ドルまで下落しています。
下落率は約24.7%に達しました。
レポートのチャートでは、最高値から25%下落した水準が4,049ドル付近に位置しています。金価格は2026年夏と10月の2回、この水準を試す展開となりました。
また、過去1年間の安値は3,529ドルとされており、金価格が大きく変動していることが分かります。
金はインフレや金融危機に強い資産として認識されていますが、短期間で大幅に値下がりすることもあります。
重要なのは、金が安全資産と呼ばれる理由が、価格が常に安定しているからではないという点です。
金は特定の企業や政府の信用力だけに依存しない資産ですが、金融市場全体で資金が不足する局面では、ほかの資産と同様に売却されることがあります。
過去にも20~50%の下落は発生していた
金の歴史を振り返ると、大幅な下落を経験した後に最高値を更新した例が複数あります。
1974年12月から1976年8月にかけて、金価格は約47%下落しました。しかし、その後は上昇に転じ、1978年7月には以前の最高値を回復しています。
2006年5月から6月にかけては、わずか約1か月で26%下落しました。それでも約1年4か月後には最高値を更新しています。
2008年の世界金融危機では約30%下落しましたが、2009年秋には以前の高値を回復しました。
さらに、2020年8月から2022年秋にかけても約22%の調整が発生しています。その後、2023年末から2024年にかけて最高値を更新しました。
これらの事例を見ると、金価格が20~40%以上下落しても、長期的な上昇トレンドが継続する可能性は十分にあります。
下落後の回復に10年以上かかったケースもある
一方で、大幅な調整が長期的な低迷につながったケースも存在します。
代表的なのが1980年の金相場です。
1980年1月の高値から金価格は約65%下落し、次に最高値を更新したのは2008年でした。
つまり、名目ドル建て価格で以前の高値を回復するまで、約28年を要したことになります。
2011年9月から2015年にかけても約45%の下落が発生し、最高値の更新まで約9年かかりました。
このように、金価格が大きく下落したからといって、その後必ず短期間で回復するわけではありません。
今回の約25%の調整も、過去の事例だけでは一時的な下落なのか、長期的な低迷の始まりなのかを判断することは困難です。
金の強気相場はすでに終わったのか
最高値の更新回数から見た現在の相場
IGWTの最新レポートでは、1970年以降の金価格について、史上最高値を更新した回数を比較しています。
今回の上昇局面で最高値を更新した回数は115回でした。
これに対して、2000年代の強気相場では106回、1970年代の強気相場では209回となっています。
この数字には2つの見方があります。
1970年代の209回と比較すると、現在の115回はまだ少なく、上昇余地が残っている可能性があります。
一方、2000年代の106回はすでに上回っているため、現在の強気相場も相応に成熟していると考えられます。
ただし、最高値の更新回数だけで相場の転換点を予測することはできません。
金融政策やインフレ率、投資家の行動など、金価格に影響する環境は時代によって異なるからです。
レポートは長期的な強気姿勢を維持していますが、それが今回の下落の終了を保証するものではありません。
円建て金価格は2024年から大幅上昇
日本の投資家にとっては、ドル建てだけでなく円建て金価格も重要です。
動画で紹介された円建て金の年間リターンは、2024年がプラス41.7%、2025年がプラス63.9%でした。
2026年は10月28日時点でマイナス5%となっています。
また、2000年以降の円建て金の年間リターンは平均12.2%とされています。
2026年の調整は大きいものの、2024年と2025年の上昇幅を考慮すると、長期保有者には依然として大きな含み益が残っている可能性があります。
一方、直近の上昇局面で購入した投資家にとっては、厳しい展開となっているでしょう。
円建て金価格は、ドル建ての金価格だけでなく為替相場にも左右されます。
そのため、今後の金投資ではドル建て金価格の方向性に加え、ドル円相場の変動も考慮する必要があります。
金価格を動かしているのは中央銀行とETF投資家
中央銀行は長期的な需要を支える存在
IGWTでは、金市場の主要な買い手として中央銀行とETF投資家を取り上げています。
中央銀行は長期的な需要を支える存在として位置付けられています。
各国の中央銀行が金を保有する主な目的は、外貨準備の分散や通貨への信認確保、地政学的リスクへの備えなどです。
特に、特定の国の通貨や国債に依存しない資産として、金を保有する意義が注目されています。
中央銀行の金購入は短期的な値上がりを狙う取引とは性質が異なり、比較的長期的な視点で行われます。
そのため、中央銀行による継続的な購入は、金市場の構造的な需要を支える要因となります。
ETF投資家は価格変動を大きくする
これに対して、ETF投資家の売買は比較的短期的な市場環境の影響を受けやすいとされています。
金ETFは、証券取引所を通じて金価格に連動する投資を行える金融商品です。
投資家が金ETFを購入すると、商品によっては運用会社による現物金の保有が増加します。
反対に、ETFから資金が流出すれば、金市場に売り圧力がかかることがあります。
IGWTの分析では、中央銀行が長期的な需要の土台を形成し、ETF投資家が相場の勢いを左右するという関係が示されています。
中央銀行とETFが同時に買うと金価格は大きく上昇
過去のデータを見ると、この関係が比較的明確に表れています。
2018年から2020年にかけては中央銀行とETFの両方が金を購入し、金価格は57%上昇しました。
2022年から2024年第1四半期にかけては、中央銀行が購入を続けた一方でETFからは資金が流出し、金価格の上昇率は約1%にとどまりました。
そして2024年後半から2025年末にかけては、中央銀行とETFの両方が買い手となり、金価格は約95%上昇しています。
つまり、中央銀行が金を購入していても、ETF投資家が売却している局面では価格が伸び悩む場合があります。
反対に、両者が同時に購入する局面では、金価格が大きく上昇する傾向が見られました。
もちろん、これだけで相場の方向が決まるわけではありませんが、今後の金市場を分析するうえで重要な指標といえます。
2026年の金融・地政学的危機で金を売った中央銀行
トルコやロシアなどが金を売却
2026年2月28日に始まったイランをめぐる戦争は、世界の金融市場にも影響を与えました。
そのような状況のなか、2026年第1四半期には一部の中央銀行が金を売却しています。
動画で紹介された売却量は、トルコが79トン、ロシアが22トン、アゼルバイジャンが22トンでした。
ただし、各国が金を売却した具体的な理由について、レポートでは明確に説明されていません。
したがって、戦争や金融市場の混乱が直接の原因だったと断定することはできません。
安全資産の金が危機の際に売られる理由
金が安全資産であるにもかかわらず、金融危機の初期に売却されることには理由があります。
それは、金が世界中で取引され、比較的容易に現金化できる資産だからです。
金融市場で急激な価格変動が起きると、投資家は追加証拠金の支払いや損失補填のために現金を必要とすることがあります。
この際、利益が出ている金を売却して現金を確保する行動が発生します。
金が売られるのは、必ずしも金そのものへの信頼が失われたからではありません。
むしろ、換金性の高さによって売却対象となる場合があるのです。
実際、2026年3月には金ETFから84.8トンという大規模な資金流出が発生したことも紹介されています。
第2四半期には中央銀行の金購入が回復
重要なのは、その後の動きです。
2026年4~6月期には中央銀行による金購入が再び大きく増加しました。
一方、ETFは小幅な売り越しとなっています。
この期間の金価格は軟調でしたが、中央銀行の金需要は回復していました。
これは、金価格が下落している局面でも、長期的な目的で金を購入する主体が存在していることを示しています。
IGWTが長期的な金の強気見通しを維持する理由の1つが、この中央銀行による継続的な需要です。
もっとも、中央銀行の購入が続いたとしても、短期的に金価格が上昇するとは限らない点には注意が必要です。
銀と金鉱株は金以上に大幅下落
金投資には「守り」と「攻め」の2種類がある
IGWTでは、金関連投資を大きく2つのカテゴリーに分けています。
1つは「Safe Haven Gold(セーフヘイブン・ゴールド)」です。
これは、資産保全やリスク分散を目的として保有する金を指します。金貨や金地金、現物の裏付けがあるETF、純金積立などが該当します。
もう1つは「Performance Gold(パフォーマンス・ゴールド)」です。
こちらは、より高い投資リターンを狙う金関連資産を意味し、金鉱株や金鉱株ETF、銀などが含まれます。
これらは金価格の上昇局面で大きな利益が期待できる一方、下落局面では金そのものよりも大きな損失が発生する可能性があります。
銀価格は最高値から50%以上下落
2026年10月28日時点の比較では、金価格が最高値から24.7%下落したのに対し、銀価格は50%以上下落していました。
銀の年初来リターンも約マイナス24.3%となっています。
また、金鉱株ETFのGDXは最高値から約27.5%下落し、中小型金鉱株ETFのGDXJも約30%を超える下落となりました。
金鉱株や銀は、金価格の上昇に対して大きなリターンが期待される資産ですが、今回の調整局面ではそのリスクが改めて浮き彫りになりました。
銀は金の約1.9倍動く
銀の値動きを理解するうえで重要なのが「ベータ(β)」という指標です。
ベータは、ある資産が比較対象となる資産に対して、どの程度大きく変動する傾向があるのかを示します。
動画で紹介された銀の対金ベータは、過去1年間で約1.9でした。
これは、金価格が1%変動したとき、銀価格が平均的に約1.9%変動する関係にあったことを意味します。
ただし、常に金の1.9倍動くという保証ではありません。
銀は上昇時に大きな利益を狙える半面、下落時の損失も拡大しやすい資産です。
そのため、金と銀を同じ感覚で保有することには注意が必要です。
銀は50%以上下落しても供給不足が続いている
金銀比率は46倍から75倍へ上昇
IGWTは、銀価格の大幅な下落にもかかわらず、長期的な強気見通しを維持しています。
その根拠の1つが金銀比率です。
金銀比率とは、金価格を銀価格で割った数字であり、金1オンスで銀を何オンス購入できるかを示しています。
2026年1月には約46倍だった金銀比率が、10月には約75倍まで上昇しました。
この比率が上昇するということは、金に対して銀が相対的に安くなったことを意味します。
したがって、IGWTは銀の相対的な割安感が再び強まっていると評価しています。
ただし、金銀比率には必ず戻るべき一定の水準があるわけではありません。比率の上昇だけで銀の反発を予測することはできません。
銀は2021年以降の構造的な供給不足が問題
銀に強気なもう1つの理由が、供給不足です。
銀は宝飾品や投資商品に使用されるだけでなく、太陽光発電設備や電子部品などの産業用途でも幅広く利用されています。
そのため、工業需要の変化が価格に大きな影響を与える特徴があります。
IGWTは、2021年以降の構造的な供給不足を重要な投資材料として挙げています。
動画で紹介されたレポートの集計では、2025年の供給不足は3億1,840万オンスに達しました。
また、シルバー・インスティチュートの2026年予測でも供給不足が続く見通しで、不足量は4,630万オンスとされています。
両者の数字には大きな違いがありますが、これは集計対象やETFなどの投資需要の扱いが異なるためです。
いずれにしても、銀市場の需給が引き締まった状態にあるという見方は共通しています。
銀は価格が上昇してもすぐに増産できない
銀の供給には独特の特徴があります。
世界の銀生産の約74%は、銅や亜鉛、金などの鉱山から副産物として産出されるとされています。
つまり、銀価格が上昇したからといって、銀だけを目的として簡単に生産量を増やせるわけではありません。
銀以外の金属の需要や鉱山開発計画によって、生産量が左右されるためです。
その結果、需要が増加しても供給が追いつかない状態が続く可能性があります。
IGWTは、今回の銀価格の急落を需要と供給の構造が改善した結果ではなく、主として価格面の調整と捉えています。
ただし、供給不足が続いても、投資家の売却や景気減速による産業需要の変化によって、銀価格が低迷することはあります。
金鉱株は株価が下落する一方で業績が大幅改善
金鉱株ETFの利益は約5倍に増加
金鉱株についても、株価と企業業績の間に大きな違いが見られます。
代表的な金鉱株ETFであるGDXについて、2023年4~6月期と2026年4~6月期を比較したデータでは、1株当たり利益の指標が0.95ドルから5.43ドルへ増加しています。
約5.7倍の水準です。
一方、PERは31.7倍から13.9倍まで低下しました。
PERは株価収益率のことで、株価が企業の利益に対して何倍まで買われているかを示す指標です。
一般的には、同じ条件であればPERが低いほど株価の割高感が小さいと判断されます。
今回の金鉱株では、利益が大幅に改善する一方で株価が下落したため、PERが低下しています。
金鉱株は以前よりも財務基盤が強化された
かつて金鉱株は、資源価格が上昇しても十分な利益を生み出せない企業が多いことから、投資対象としての評価が低い時期もありました。
しかし、近年はコスト管理や財務改善が進み、利益を生み出す能力が向上しているとされています。
IGWTも、金鉱株は以前と比べて財務面で優良な企業が増えていると評価しています。
今回のGDXの利益改善は、その見方を裏付ける材料といえるでしょう。
ただし、企業業績が改善していても、株価が必ず上昇するとは限りません。
将来の金価格に対する期待や投資家のリスク許容度、資金流出入などによって、株価は大きく変動します。
IGWT自身も3月から守りの姿勢に転換
注目したいのは、強気のレポートを公表している運用会社Incrementum自身も、短期的には慎重な姿勢を取っていることです。
同社の売買シグナルは2026年3月から「ディフェンシブ」、つまり守りを重視する判断に転換しています。
その状態が10月時点でも続いていました。
レポートでは、金鉱株が期待されたようなパフォーマンスを示しておらず、金価格の上昇を増幅する資産として十分に機能していないことも指摘しています。
ただし、これは長期的な強気見通しを撤回したことを意味しません。
レポートでは、現在の状況を長期的な判断の変更ではなく、戦術的な一時停止と位置付けています。
長期的な成長余地を評価しながらも、短期的な相場環境ではリスクを抑えるという判断です。
金はまだ割高ではない?ダウ金レシオから分析
ダウ金レシオとは
IGWTが金の長期的な割高・割安を判断するために利用している指標の1つが「ダウ金レシオ」です。
これは、ダウ工業株30種平均を金価格で割った数字です。
ダウ金レシオが高いほど、金に対して株式が相対的に高いことを意味します。
反対に、ダウ金レシオが低いほど、株式に対して金が相対的に高いことを示します。
1900年以降のデータでは、ダウ金レシオの中央値は7.24とされています。
過去の金の強気相場では、この中央値を大きく下回る水準まで低下してから相場が終了したケースがありました。
今回もダウ金レシオは低下しているものの、まだ中央値を上回っています。
このため、IGWTは株式市場との比較では金が極端に割高になっているとはいえないと分析しています。
もっとも、過去の相場と同じ水準まで低下しなければ強気相場が終わらないというわけではありません。
米国株のシラーPERは40.7倍
金の割安感を考えるうえで、レポートは米国株式市場の割高感にも注目しています。
S&P500のシラーPERは40.7倍に達しているとされています。
シラーPERとは、過去10年間の企業利益をインフレ調整したうえで株価と比較する指標です。
通常のPERよりも長期的な利益水準を反映するため、株式市場全体の割高・割安を分析する際に利用されます。
レポートによると、1900年以降の約98.6%の期間では、現在よりも低いシラーPERとなっていました。
つまり、長期的な歴史と比較すると、現在の米国株は非常に高い評価を受けていることになります。
また、S&P500に占めるIT関連株の比率は約40%に達し、2000年前後のドットコムバブル期の約33%を上回っていると指摘されています。
ただし、シラーPERの高さだけで株式市場の暴落を予測することはできません。
企業の収益力や成長率、金利水準なども株価評価に影響します。
それでも、株式市場への資金集中が進んでいることは、投資家が金への分散投資を検討する理由の1つになるでしょう。
シャドウ・ゴールド価格では金はまだ安い?
マネタリーベースと金価格の関係
IGWTが紹介している興味深い指標に「シャドウ・ゴールド価格」があります。
これは、中央銀行が供給するお金であるマネタリーベースを一定割合で金によって裏付けると仮定した場合、金価格がいくらになるかを計算するものです。
マネタリーベースとは、中央銀行が供給する現金や金融機関の中央銀行預け金などから構成される指標です。
現代の通貨制度では金との交換が保証されているわけではありませんが、過去の金本位制の考え方を応用し、金と通貨供給量の関係を比較しています。
この指標は将来の金価格を直接予測するものではなく、通貨供給量を物差しにして金の相対的な価値を考えるためのものです。
100%の金裏付けなら2万1,143ドル
動画で紹介された試算では、マネタリーベースを金で裏付ける割合によって、次のような価格になります。
| 金による裏付け割合 | 理論上の金価格 |
|---|---|
| 25% | 5,156ドル |
| 40% | 8,457ドル |
| 100% | 21,143ドル |
これに対して、2026年10月28日時点の実際の金価格は約4,067ドルでした。
つまり、マネタリーベースとの比較では、金価格が過去の貨幣的な価値基準よりも低い位置にあるという見方ができます。
さらに、金による裏付け率は2026年3月時点の22.4%から、10月には20%弱まで低下したとされています。
歴史的な平均値は45.5%とされているため、現在の裏付け率はその半分程度です。
ただし、この数値が低いからといって、実際の金価格が2万ドルまで上昇するという意味ではありません。
各国が現在の通貨制度を変更し、金による裏付けを導入することが決まっているわけでもありません。
あくまで、現代の通貨供給量に対する金の相対的な価値を考えるための参考指標です。
米国の政府債務から計算すると金価格は3万ドル以上?
米国の金準備と公的債務を比較
IGWTは、もう1つの物差しとして米国の公的債務と金準備の関係も取り上げています。
米国政府が保有する金の価値を、公的債務の総額と比較する考え方です。
仮に、過去と同じ割合の公的債務を金で裏付けるとした場合、現在の金価格はいくらになるのかを計算しています。
1980年当時の約20%という裏付け率を再現する場合、必要な金価格は3万1,312ドルとされています。
現在の約4,000ドルと比較すると、約7.7倍です。
さらに、1917年当時の比率を適用すると6万2,569ドル、1940年代の水準では7万4,295ドルという試算になります。
この数字は金価格の予測ではない
数万ドルという数字は非常に大きく感じられますが、これらは金価格が実際にその水準まで上昇するという予測ではありません。
政府債務が増加する一方、金準備の価値が過去の基準と比べて相対的に小さくなっていることを示したものです。
レポートは、政府債務の増加が長期的な通貨価値への懸念を高める可能性に注目しています。
通貨への信認が低下すれば、特定の発行体の信用に依存しない金への需要が増える可能性があります。
ただし、政府債務が増加したからといって、必ず金価格が同じ割合で上昇するわけではありません。
この分析は、金価格の目標値というより、通貨制度や財政政策に対する長期的な問題提起として理解することが適切でしょう。
民間投資家はまだ十分に金を保有していない
世界の金融資産312兆ドルに対して金は8.6兆ドル
IGWTは、民間投資家の金保有比率が依然として低いことも強調しています。
世界の金融資産は約312兆ドルとされていますが、民間が保有する金の価値は約8.6兆ドルにとどまります。
金融資産全体に占める割合は約2.8%です。
1980年のピーク時には、この比率が8.25%に達していました。
つまり、現在の金保有比率は1980年当時の約3分の1にとどまっていることになります。
金市場は株式市場や債券市場と比較すると規模が小さいため、投資家が資産配分をわずかに変更するだけでも、価格に大きな影響を与える可能性があります。
年金や富裕層の金配分も低い
レポートでは、投資家の種類ごとに金の推奨配分と実際の配分を比較しています。
例えば、スイスの年金基金については推奨比率が5%であるのに対し、実際の配分は約1%とされています。
富裕層についても、理論上の推奨比率12%に対して実際の配分は約2%にとどまっています。
そのほか、欧州の機関投資家については16%、米国の投資アドバイザーについては14%、ファミリーオフィスについては20%といった推奨配分が紹介されています。
ただし、これらの推奨比率をそのまま客観的な基準と捉えることには注意が必要です。
推奨配分には金関連業界の意見も含まれる
レポートで紹介されている推奨配分には、金業界や資産運用会社による研究結果が含まれています。
例えば、スイスの年金基金に対する5%という配分は、金業界の団体であるワールド・ゴールド・カウンシルの研究に基づいています。
富裕層向けの12%は大学の理論モデルによるものです。
また、欧州の機関投資家向けの16%は金ETFなどを扱うWisdomTree、米国の投資アドバイザー向けの14%はIGWT自身が示した推奨値です。
したがって、現状の金保有比率が推奨値を下回っているからといって、将来必ずそこまで金への配分が増えるとは限りません。
一方、世界の金融資産全体に占める金の割合が現在も比較的小さいという事実は、今後の資金流入余地を考えるうえで重要な材料です。
2030年の金価格は4,822ドルか8,926ドルか
IGWTが示す2つの長期シナリオ
IGWTは2020年代を「黄金の10年」と位置付け、2030年までの金価格について2つの主要なシナリオを提示しています。
1つは基本シナリオ、もう1つはインフレシナリオです。
2030年末・基本シナリオ
4,822ドル
緩やかな価格上昇を想定
2030年末・インフレシナリオ
8,926ドル
強いインフレ圧力などを想定
出典:In Gold We Trust Reportの2030年価格モデル。実現を保証する予測ではありません。
基本シナリオでは、2030年末の金価格を4,822ドルと想定しています。
一方、インフレシナリオでは8,926ドルとなっています。
後者は、インフレ圧力や通貨価値の低下などが金需要を大きく押し上げる場合を想定したものです。
これらの価格目標は2026年のレポートでも維持されています。Gold As An Investment+1
基本シナリオの価格目標はすでに1度到達
興味深いのは、基本シナリオの2030年目標である4,822ドルに、金価格が2026年の段階で1度到達していたことです。
当初の想定より約4年前倒しで達成したことになります。
しかし、その後の金価格は約4,000ドルまで下落しました。
現在は基本シナリオの長期的な推移とインフレシナリオの推移の間に位置しています。
このことから、2026年の急落によって、金価格は長期モデルから大きく上方に乖離した状態から、再び想定される範囲内へ戻ってきたとも解釈できます。
インフレシナリオでは現在価格から約119%上昇
10月28日時点の4,067ドルを基準にすると、基本シナリオの4,822ドルまでは約18.6%の上昇余地があります。
一方、インフレシナリオの8,926ドルまでは約119.5%の上昇が必要です。
つまり、インフレシナリオが実現すれば、2026年10月時点から金価格が約2.2倍になる計算です。
ただし、2030年までの期間は約4年しかありません。
金価格が再び大幅に上昇するためには、中央銀行の需要だけでなく、ETF投資家による購入やインフレ見通し、金融政策の変化などが重要になるでしょう。
金価格の今後を左右する重要なポイント
中央銀行の買いが継続するか
金価格の長期的な動向を考えるうえで、中央銀行の金購入は重要な要素です。
2026年第1四半期には一部の中央銀行が金を売却しましたが、第2四半期には購入が回復しました。
今後も中央銀行が金を積み増すのであれば、長期的な需要を支える要因となります。
反対に、中央銀行による購入が大きく減少した場合は、これまでの上昇を支えてきた構造に変化が生じる可能性があります。
ETFへの資金流入が再開するか
過去のデータでは、中央銀行とETF投資家が同時に購入していた局面で、金価格が大きく上昇していました。
2026年はETFから資金が流出する時期もあり、金価格の調整に影響したと考えられます。
今後ETFへの資金流入が再開すれば、金価格の回復を支える可能性があります。
ただし、ETFへの資金流入だけで相場の方向性が決まるわけではありません。
インフレと金利の動向
金はインフレへの備えとして保有されることがありますが、価格は金利の影響も受けます。
金自体は債券のように利息を生む資産ではありません。
そのため、実質金利が上昇すると、金を保有する機会費用が高まり、価格の下押し要因になる場合があります。
反対に、実質金利が低下する局面では、金の相対的な魅力が高まる可能性があります。
IGWTのインフレシナリオを考える際にも、インフレ率だけでなく金融政策や実質金利の変化を確認することが重要です。
金投資で最も重要なのは保有比率の管理
今回のIGWTレポートは、金の長期的な強気見通しを維持しています。
その背景には、中央銀行の継続的な金購入、民間投資家の低い保有比率、政府債務の増加、株式市場の高い評価水準などがあります。
一方で、金価格は2026年に約25%下落しました。
さらに過去を振り返ると、40~60%を超える下落も経験しています。
つまり、金は長期的な資産保全の手段として評価されていても、短期的な価格変動が小さい資産ではありません。
資産の大部分を金に集中させてしまうと、価格が大きく下落した際に保有を継続できなくなる可能性があります。
そのため、金投資では価格上昇を予測すること以上に、下落しても保有し続けられる資産配分を考えることが重要です。
特に銀や金鉱株については、金以上に大きな価格変動が発生する可能性があります。
これらは資産保全だけでなく、高いリターンを狙う投資という性質が強いため、通常の金投資とは分けて考える必要があります。
また、IGWTのレポートには金鉱山会社などのスポンサーも存在します。
レポートの分析には参考になるデータが豊富に含まれているものの、金関連産業に関係する企業や組織の視点が反映されている可能性も考慮すべきでしょう。
強気の価格目標だけを受け入れるのではなく、それを支える前提条件や反対のシナリオも確認することが大切です。
まとめ:金価格25%急落でも長期的な強気材料は残る
2026年の金市場では、1月の史上最高値から約25%という大幅な調整が発生しました。
金は安全資産と呼ばれますが、過去にも20~50%以上の下落が繰り返されており、今回の下落だけで長期的な強気相場が終了したと判断することはできません。
実際、2026年4~6月期には中央銀行の金購入が回復しており、長期的な需要は依然として存在しています。
また、銀や金鉱株についても、価格は大幅に下落した一方で、銀の構造的な供給不足や金鉱株の業績改善といったファンダメンタルズ面の強気材料は残っています。
ただし、これらの資産は金以上に値動きが大きく、短期的な価格下落が続く可能性もあります。
IGWTは2030年末の金価格について、基本シナリオで4,822ドル、インフレシナリオで8,926ドルという見通しを維持しています。
現時点でどちらのシナリオに近づくかは不透明ですが、中央銀行の金購入、ETFへの資金流入、米国の金融政策、インフレ動向などが今後の重要な判断材料になるでしょう。
金は必ず値上がりする資産ではなく、資産全体のリスクを分散するために保有するという考え方が重要です。
今回の約25%の下落は、金投資においても十分なリスク管理が必要であることを改めて示しました。
長期的な強気見通しを参考にしながらも、価格がさらに下落する可能性を想定し、無理のない保有比率で投資を続けることが求められます。


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