イギリスの人口分布には極端な偏りがあります。ロンドンとその近郊には人口が集中している一方で、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドなどの地域では人口密度が非常に低いのです。なぜこのような人口集中が起こるのでしょうか?
本記事では、イギリスの人口分布の歴史的背景、経済的要因、都市政策などを詳しく解説します。
目次
1. イギリスの人口分布の現状
まず、イギリスの基本情報を確認しましょう。
- 総人口:約6600万人
- 国土面積:約24.3万平方km(日本の本州よりやや大きい)
- 主要構成国:イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド
人口の偏りを具体的に見てみると、
- イングランド(特に南東部)に約84.3%の人口が集中
- スコットランドの人口は約550万人(イギリス全土の約8.2%)
- ウェールズは約4.7%、北アイルランドは約2.8%
特にスコットランドは面積がイギリス全土の1/3を占めるにも関わらず、人口密度が極端に低いのが特徴です。
2. なぜイングランドに人口が集中するのか?
イギリスの人口集中の背景を知るには、産業革命からの歴史を振り返る必要があります。
産業革命と都市の発展
- 18世紀後半~19世紀初頭の産業革命で都市が急成長
- マンチェスター(繊維産業)、リバプール(貿易港)、バーミンガム(製造業)の発展
- ロンドンは商業・政治・金融の中心として常にトップ都市の地位を維持
この時代に発展した都市は今でも経済の中心ですが、ロンドンはそれ以前から都市としての地位を確立していました。
戦後の都市政策
- グリーンベルト政策(都市の無秩序な拡大を防ぐ)
- 住宅開発が制限され、結果的にロンドンの住宅価格が高騰
- 住宅不足により人口密集が加速
- マーガレット・サッチャー政権下(1979年~1990年)
- 炭鉱業・製造業の衰退 → 地方の雇用が減少
- 地方からロンドンやその周辺に移住する人が増える
- ロンドンの経済プロジェクト(オリンピック開催、カナリー・ワーフ開発)が都市集中を加速
経済的な要因
ロンドンには以下のような産業が集まり、経済の中心地となっています。
- 金融業(シティ・オブ・ロンドン):世界有数の金融拠点
- メディア(BBC、ガーディアンなど)
- テクノロジー(イギリス版シリコンバレー「テックシティ」)
こうした経済活動の中心地であるため、国内外から人が集まり、人口集中が進みました。
3. ロンドンの一極集中が生んだ問題
ロンドンとその周辺地域の過密状態は、さまざまな問題を引き起こしています。
住宅価格の高騰
- 2000年代以降、ロンドンの住宅価格は全国平均を大きく上回る速度で上昇
- 賃貸価格も高騰し、低所得層には手が届かない状況に
- 住宅価格の高騰により、周辺地域への人口移動が進む
インフラの負担増
- 公共交通機関の混雑
- 道路渋滞の悪化
- 教育・医療機関のキャパシティオーバー
地方との格差拡大
- 地方の雇用が減少し、若者が都市部へ移住
- 地方経済の衰退とインフラの老朽化
- 公共サービスの低下
4. 他国との比較:ニューヨーク、パリ、ソウル
イギリス以外にも、首都への人口集中が顕著な国は多数あります。
国 | 首都圏人口比率 | 特徴 |
---|---|---|
韓国 | 50%以上 | ソウルに経済・政治機能が集中 |
フランス | 約18% | パリへの人口集中が問題視される |
アメリカ | 約8% | ニューヨークは重要都市だが、連邦制により人口分散 |
韓国のソウルは国全体の人口の半分以上が集中しており、イギリス以上に偏っています。一方、アメリカは連邦制による分散政策が機能しています。
5. 解決策はあるのか?
イギリス政府も人口分散を目指し、いくつかの政策を試みています。
これまでの対策
- グリーンベルト政策(1930年代):都市拡大を抑制(→住宅不足を招く)
- 地方都市への投資(BBCマンチェスター移転など):部分的な成功
- ハイスピード2(高速鉄道計画):進捗遅れとコスト増で未完成
今後の可能性
- 地方経済の活性化:
- インフラ投資を拡大し、新たな産業を誘致
- ドイツのミュンヘン、フライブルクのような中規模都市の発展モデルを参考に
- 移民政策の地方分散化:
- カナダの地方移住プログラムを導入
- 住宅政策の見直し:
- オランダの「コンパクトシティ」開発を参考に都市高密度化を推進
- 地方自治体の強化:
- スウェーデンのように地方自治体の財政権限を強化
まとめ
イギリスの人口集中問題は、産業革命からの歴史的経緯、経済要因、都市政策の影響が絡み合って生じています。地方への投資を強化し、持続可能な社会を目指すことが重要です。
同様の問題は東京にも当てはまり、日本でも地方活性化の取り組みが求められています。
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