ブラックマンデーから39年、株価暴落時に売った投資家はどうなった?1987年と2024年の暴落から学ぶ投資の教訓

本記事は、YouTube動画『ブラックマンデーから学ぶ株価暴落の真実と投資信託の売却リスク』の内容を基に構成しています。

1987年10月19日、アメリカの株式市場で歴史的な暴落が発生しました。「ブラックマンデー」と呼ばれるこの日、ダウ平均株価はわずか1日で22.6%も下落しました。

しかし、当時の個人投資家の行動を調査したところ、意外な事実が明らかになっています。暴落当日に株式を売却した個人投資家は、わずか2.3%だったのです。

さらに、大暴落の原因は単純なパニック売りやコンピューターの暴走だけでは説明できません。市場の流動性が失われ、売りたいときに売れなくなるという構造的な問題が存在していました。

こうした問題は過去の話ではありません。2024年8月5日に発生した日本株の歴史的暴落でも、よく似た現象が確認されています。

今回は、1987年のブラックマンデーと2024年の日本株暴落を比較しながら、株価急落時に投資家がどのように行動したのか、そしてNISAで投資信託を保有する現代の投資家が知っておくべき注意点を解説します。

目次

記事の要点

  • 1987年のブラックマンデーでは、個人投資家の94.8%が暴落当日に売買していませんでした。
  • 大暴落を引き起こした重要な要因の1つは、大量の売り注文によって市場の流動性が失われたことでした。
  • 投資信託は解約ボタンを押した瞬間の価格では売却できず、暴落時には想定外の価格で換金される可能性があります。

1987年10月19日、株式市場を襲ったブラックマンデー

1987年10月19日、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が前日比508ドル安、下落率22.6%という歴史的な暴落を記録しました。

S&P500指数も20.47%下落し、終値は224.84ポイントとなりました。

ただし、この暴落は10月19日に突然始まったわけではありません。

前週の10月14日にS&P500は2.95%下落し、15日には2.34%、16日には5.16%下落していました。

そして週末を挟んだ19日、大量の売り注文が市場に殺到したのです。

10月13日の終値314.52ポイントから19日の224.84ポイントまで、わずか数営業日で28.51%もの下落となりました。

米国市場で発生した混乱は世界各国へ波及しました。

翌20日の東京株式市場では、日経平均株価が3,836円48銭安、下落率14.90%を記録しました。

これは2024年8月5日の12.40%を上回る下落率です。

ロンドン市場でも大幅な下落が発生し、世界中の株式市場が連鎖的な混乱に巻き込まれました。

ブラックマンデーで個人投資家の94.8%は売買しなかった

株価が1日で20%以上も暴落すれば、多くの個人投資家がパニックになって株式を売却したと考えるのが自然でしょう。

ところが、経済学者ロバート・シラー教授が実施した調査では、予想とは異なる結果が報告されています。

ブラックマンデー当日の個人投資家の行動は、以下のとおりでした。

投資家の行動割合
主に買った2.9%
主に売った2.3%
売買しなかった94.8%

この調査では549人の個人投資家が回答しています。

つまり、株式市場が歴史的な暴落に見舞われた日でも、個人投資家の約95%は売買を行っていなかったことになります。

機関投資家についても、回答した277件のうち、当日に売却した割合は13.4%、売買を行わなかった割合は69.0%でした。

ただし、この調査の回答率は32.8%であり、回答者に偏りがある可能性には注意が必要です。

それでも、ブラックマンデーが個人投資家全員による一斉の投げ売りだったわけではないことが分かります。

大暴落の原因はニュースではなく、株価下落そのものへの恐怖だった?

ブラックマンデーについては、暴落を引き起こした明確なニュースがあったのかという疑問もあります。

当時のブレディ報告書では、暴落前の市場に影響した材料として、予想を上回る貿易赤字による金利上昇や、企業買収に関する税制改正案などが挙げられています。

しかし、それらのニュースだけで1日20%以上という歴史的な下落を説明することは困難です。

シラー教授の調査でも、暴落当日や直前の週末に投資家の行動を説明できる決定的なニュースは見つかりませんでした。

一方で、投資家の心理状態については興味深い結果が残されています。

調査によると、個人投資家が暴落を知った時刻は平均で午後1時56分でした。

その後、平均3.2回株価を確認し、平均7.4人と暴落について話していました。

さらに、個人投資家の20.3%が不安による身体的な症状を感じたと回答しています。

具体的には、集中力の低下、手汗、胸の圧迫感、脈拍の増加などです。

実際に売買した投資家は少数だったにもかかわらず、多くの人が心理的なストレスを感じていました。

また、当日に売却した個人投資家の53.9%が、周囲の恐怖が伝染するような感覚を経験したと答えています。

この結果は、株価が下がっているという事実そのものが投資家の恐怖を強め、さらに売り圧力を生み出す可能性を示しています。

大暴落を加速させたポートフォリオ・インシュアランスとは

ブラックマンデーの原因として頻繁に指摘されるのが、プログラム売買です。

特に問題となったのが「ポートフォリオ・インシュアランス」と呼ばれる運用手法でした。

これは、株価が下落するほど株式や株価指数先物の売りを増やし、資産全体の損失を一定範囲に抑えようとする仕組みです。

通常の保険とは異なり、実際に保険金が支払われるわけではありません。市場の動きに応じて保有資産のリスクを調整する運用戦略です。

しかし、多くの運用機関が同じ仕組みを採用していた場合、株価が下がるほど売り注文が増加することになります。

この結果、下落がさらなる下落を招く悪循環が発生します。

ブレディ報告書によると、ブラックマンデー当日の取引所における売り総額は210億ドル弱でした。

そのうち上位4者の売りだけで28億5,000万ドル、全体の約14%を占めていました。

上位15者まで広げると約41億ドルとなり、全体の約20%に達しています。

また、わずか3者のポートフォリオ・インシュアランス関連の売りだけで、現物株式が20億ドル弱売却されました。

先物市場でも同様の売りが集中し、株式換算で約40億ドル相当の売り注文が発生しました。

興味深いことに、これほど大量の売りが発生したにもかかわらず、実際に執行された数量はモデルが要求した売り数量の一部に過ぎなかったとされています。

つまり、コンピューターが計算を間違えて大量に売ったという単純な話ではありません。

株価が下落すれば売るという戦略を多くの投資家が採用し、同じタイミングで実行しようとしたこと自体が問題だったのです。

ブラックマンデー最大の問題は「流動性の幻想」

ブラックマンデーを分析したブレディ報告書では、市場の「流動性の幻想」という重要な問題が指摘されています。

流動性とは、株式などの金融商品を希望するタイミングで、価格に大きな影響を与えずに売買できる程度を指します。

普段の株式市場では、売り注文に対して買い注文が存在するため、多くの取引が円滑に成立します。

ところが、市場参加者が同時に売却しようとすると、買い注文が不足し、売買が成立しにくくなります。

ブラックマンデーでは、まさにこの現象が発生しました。

当時のニューヨーク証券取引所では、小口注文の自動処理システムであるDOTに約3億9,600万株の注文が殺到しました。

注文処理の遅延やシステムの混乱によって、投資家が注文した時点と実際に売買が成立した時点に大きな差が生じました。

成行注文では、注文時に想定していた価格よりも大幅に安い値段で売却されるケースが発生しました。

一方、指値注文では、指定価格に到達していたにもかかわらず、注文が処理される前に株価が動いてしまい、売買が成立しないケースもありました。

ナスダック市場でもシステムが停止し、上位50銘柄の小口自動取引が利用できなかった時間は、月曜日で平均43%、翌火曜日には約53%に達したとされています。

ブレディ報告書では、月曜日の終値で売却した投資家が、1時間前や翌朝に売却した投資家より10~12%不利な価格で取引した事例も報告されています。

100万円分の株式を売却すると仮定すれば、わずかなタイミングの違いで10万~12万円相当の差が生じる計算です。

これは投資家にとって非常に重要な問題です。

取引画面に売却ボタンが存在していても、希望した価格で必ず売れるわけではないのです。

2024年8月5日の日本株暴落でも流動性が急減

1987年のブラックマンデーから37年後の2024年8月5日、日本の株式市場でも歴史的な暴落が発生しました。

前営業日の8月2日、日経平均株価は2,216円63銭安、下落率5.81%を記録していました。

そして週明けの8月5日には、4,451円28銭安、下落率12.40%という大幅な下落となりました。

翌8月6日には一転して10.23%反発し、3,217円04銭の上昇を記録しています。

注目すべきなのは、この暴落時にも市場の流動性が大幅に低下していたことです。

金融庁による日経225先物の注文状況に関する分析では、通常時と暴落当日で注文板の厚みに大きな違いが確認されました。

注文板の厚み通常時の平均8月5日
買い注文322.20枚79.55枚
売り注文322.28枚71.80枚

買い注文も売り注文も、通常の約4分の1まで減少していました。

注文板が薄くなると、比較的小さな注文でも価格が大きく動きやすくなります。

この日、日経225先物では午後1時26分と午後2時27分から、それぞれ10分間のサーキットブレーカーが発動しました。

金融庁の分析では、注文板の厚みが急減し、流動性が低下したことで、売りが売りを呼ぶ相場変動が生じたとされています。

ただし、1987年のように特定の少数の大口投資家に取引が集中していたことは確認されていません。

暴落の背景は異なるものの、市場参加者が一斉に売却を急ぐと、買い注文が不足して株価が急落しやすくなるという構造は共通しています。

NISAの投資信託は暴落時に解約するといくらで売れるのか

ブラックマンデーの教訓は、現在NISAでS&P500やオールカントリーなどの投資信託を購入している人にも関係しています。

特に注意が必要なのが、投資信託の解約価格です。

一般的な投資信託は、株式やETFのように売却ボタンを押した瞬間の市場価格で売れるわけではありません。

売却価格は、その投資信託で定められた約定日の基準価額によって決まります。

例えば、米国株式を対象とする投資信託では、申込受付日の翌営業日の基準価額で約定する商品があります。

その場合、日本時間の月曜日の朝に解約注文を出しても、実際の売却価格には、その後の米国市場の値動きが反映される可能性があります。

動画では、この仕組みを1987年のブラックマンデーに当てはめた仮想シミュレーションを紹介しています。

100万円の投資信託をブラックマンデー前後に解約した場合

1987年10月16日の米国市場の終値時点で、S&P500連動型の投資信託を100万円分保有していたと仮定します。

また、日本で解約を申し込んだ日の米国市場の終値が売却価格に反映されるものとします。

動画で紹介された計算結果は次のとおりです。

解約申込日反映するS&P500終値売却額の試算
10月19日(月)224.84約79万5,331円
10月20日(火)236.83約83万7,743円
10月21日(水)前日比9.10%上昇約91万3,972円

※動画の仮想計算に基づく数値です。手数料、配当、為替変動などは考慮していません。

注目したいのは、10月19日の朝に解約を申し込んだケースです。

投資家は前週金曜日の株価下落を確認して、週明けの朝に売却を決断したことになります。

しかし、その日の米国市場でブラックマンデーが発生したため、売却価格には約20%の暴落が反映されます。

朝の時点ではまだ起きていなかった暴落によって、100万円だった資産が約79万5,000円まで減少してしまうのです。

一方、火曜日や水曜日に申し込んだ場合は、その後の反発によって売却価格が高くなる結果となりました。

もちろん、これは後から分かった結果です。

株価が翌日に反発するのか、さらに下落するのかを事前に確実に知ることはできません。

なお、実際の投資信託では、商品ごとに申込締切時刻、約定日、受渡日が異なります。さらに外国株式型投信では為替変動も基準価額に影響します。

そのため、このシミュレーションがすべての投資信託に当てはまるわけではありません。

それでも、投資信託を売却するときには、画面に表示されている評価額で換金できるとは限らないことを理解しておく必要があります。

ブラックマンデーで株を売らなかった投資家はどうなったのか

では、ブラックマンデーで株式を売却せず、そのまま保有し続けた投資家はどうなったのでしょうか。

1987年10月20日、FRBは金融システムを支えるため、必要な流動性を供給する用意があると表明しました。

市場ではその後、株価が大幅に反発しました。

S&P500指数は10月20日に5.33%、21日に9.10%上昇しました。

ただし、そのまま一直線に回復したわけではありません。

12月4日には223.92ポイントとなり、ブラックマンデー当日の終値224.84ポイントをわずかに下回る年内最安値を記録しています。

それでも1987年末のS&P500は247.08ポイントとなり、前年末の242.17ポイントを上回りました。

結果として、1987年の年間騰落率は配当を除いて約2.03%のプラスとなったのです。

また、ブラックマンデーの10月19日から1年後のS&P500の騰落率は約23.19%でした。

日本市場でも、日経平均株価は1988年3月17日にブラックマンデー前の10月19日の終値水準を回復し、1988年4月には10月14日の高値水準にも戻りました。

つまり、1987年の暴落は長期的に見ると回復する結果となりました。

ただし、これはすべての暴落に共通する現象ではありません。

大暴落の翌年に株価が上がるとは限らない

株価が大幅に下がった後には、短期間で強い反発が発生することがあります。

しかし、暴落後の値動きは必ずしも同じではありません。

動画では、1928年以降のS&P500指数について、1日の下落率が大きかったワースト15日を調査し、その1年後の騰落率を比較しています。

代表的な事例は次のとおりです。

暴落日当日の下落率1年後の騰落率
1987年10月19日-20.47%+23.2%
1929年10月28日-12.94%-25.5%
2020年3月16日大幅下落+66.1%
2008年9月29日大幅下落-4.1%

ブラックマンデーや2020年のコロナショックでは、その後の1年間で株価が大きく上昇しました。

一方、1929年の大暴落では、1年後にもさらに大幅な下落が続いていました。

動画によると、ワースト15日の当日の下落率と1年後の騰落率について計算した相関係数は-0.09でした。

相関係数は、2つの数値の関係の強さを示す指標です。-0.09という値は、今回のサンプルではほとんど相関が見られないことを意味します。

つまり、1日で何%下落したかという情報だけでは、その後の株価を予測することは難しいのです。

暴落は必ず買い場になるわけでも、必ずさらなる下落につながるわけでもありません。

ブラックマンデーをきっかけに導入されたサーキットブレーカー

1987年のブラックマンデーは、株式市場の取引制度にも大きな影響を与えました。

その代表例がサーキットブレーカー制度です。

これは株価が短時間で急激に下落した際、取引を一時的に停止し、投資家が冷静に判断する時間を確保する仕組みです。

現在のアメリカ市場では、S&P500指数の下落率に応じて市場全体の取引を停止する制度があります。

S&P500の下落率取引停止措置
7%原則15分間停止
13%原則15分間停止
20%その日の取引を終了

※7%と13%の停止には発動時刻による条件があります。

1987年10月19日のブラックマンデーに現在の制度を当てはめると、S&P500は20%の下落基準を超えていたため、途中で取引が停止していた計算になります。

1988年10月19日には、最初のサーキットブレーカー制度が承認されました。

当初はダウ平均株価が250ドル下落すると1時間、400ドル下落すると2時間取引を停止するという仕組みでした。

そして翌1988年10月20日、S&P500指数はブラックマンデー直前の1987年10月16日の終値282.70ポイントを、終値ベースで初めて回復しました。

暴落から市場制度が改善され、株価も元の水準へ戻ったという、象徴的な出来事だったといえます。

日本でも1994年から先物・オプション市場にサーキットブレーカー制度が導入されています。

一方、日本の現物株市場では、個別銘柄ごとに制限値幅を設定するストップ高・ストップ安制度が採用されています。

ただし、サーキットブレーカーによって暴落そのものを防げるわけではありません。

あくまでも、売り注文が殺到した際に市場参加者へ判断の時間を提供するための制度です。

まとめ:株価暴落時に重要なのは売却価格がいつ決まるかを知ること

1987年のブラックマンデーと2024年の日本株暴落から分かるのは、株式市場では想定外の価格変動が発生する可能性があるということです。

そして、株価が急落したときには、売却注文を出すことと、希望する価格で売却できることは必ずしも同じではありません。

投資信託であれば、解約注文を出した時点の価格ではなく、商品ごとに定められた約定日の基準価額で売却されます。

個別株やETFの場合も、市場の流動性が低下すれば、成行注文が想定外の価格で約定したり、指値注文が成立しなかったりする可能性があります。

特にNISAなどで長期投資を行っている場合、株価が暴落したという理由だけで慌てて売却することが適切なのか、慎重に判断する必要があります。

一方で、信用取引やレバレッジを利用している場合は、損失が拡大する前にリスクを管理する必要があるため、長期の現物投資とは事情が異なります。

重要なのは、自分が保有する金融商品の仕組みを理解し、売却価格が決定するタイミングと、実際に現金を受け取れる日を把握しておくことです。

暴落時に売却ボタンを押すという行為は、必ずしも今表示されている価格で市場から逃げることを意味しません。

ブラックマンデーが残した最大の教訓は、株価の急落そのものだけでなく、市場の流動性や取引制度を理解したうえで、冷静に投資判断を行うことの重要性にあるといえるでしょう。

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