本記事は、YouTube動画『9月23日アメリカの国債市場で金利が急上昇』の内容を基に構成しています。
9月23日の米国債市場では金利が大きく上昇し、10年国債利回りは一時5.11%まで上昇しました。直近の高値を更新し、2007年以来およそ19年ぶりの水準となっています。
今回の金利上昇には、燃料価格をめぐるインフレ懸念、予想を上回る米国の経済指標、FRB高官による追加利上げへの言及、さらに5年国債入札の弱さなど、複数の要因が重なりました。
特に重要なのは、単純に「米国の財政不安によって長期金利が上昇した」という動きではなく、FRBによる追加利上げへの警戒が強まり、中期ゾーンを中心に国債利回りが上昇したことです。
今回は、9月23日の米国債市場で何が起きていたのかを詳しく見ていきます。
9月中旬から米国10年債利回りは5%前後で推移
まず、9月23日までの米国債市場の流れを振り返ります。
米国10年国債利回りは9月14日に5%を超え、その後9月18日まで5%前後の高い水準で推移していました。
しかし、その後は流れが変わり、9月21日以降には4.9%台前半まで低下します。
背景の1つとなったのが原油価格の下落です。
WTI原油価格は9月15日に1バレル100ドルを超えて上昇していましたが、その後は下落し、9月22日には90ドルを下回る水準まで低下しました。
動画では、イエメンのフーシ派による攻撃で停止していたサウジアラビアの東西パイプラインが再開するとの報道や、イランと米国の交渉に対する期待などが、原油価格の下落につながったと説明されています。
原油価格が下がれば、ガソリンや輸送費、製造コストなどを通じたインフレ圧力が弱まる可能性があります。
そのため、原油価格の下落は米国債利回りを押し下げる方向に作用していました。
ところが9月23日、この流れが一気に反転します。
米国10年債利回りが5.11%まで急上昇
9月23日の米国債市場では国債が売られ、10年国債利回りは5.11%まで急上昇しました。
債券価格と利回りは逆方向に動くため、国債利回りが上昇するということは、それだけ国債が売られていることを意味します。
今回の上昇にはいくつかの要因が重なっていました。
ディーゼル燃料の輸出禁止検討でインフレ懸念
最初のきっかけの1つとして挙げられたのが、ホワイトハウスがディーゼル燃料の輸出禁止措置を検討しているとの報道です。
米国がディーゼル燃料の輸出を制限した場合、米国から燃料を輸入している国では供給が減少し、価格が上昇する可能性があります。
特に欧州、日本、その他のアジア諸国などで燃料価格が上昇すれば、それが物価上昇につながる可能性があります。
世界的なインフレ圧力が強くなれば、最終的には米国国内の物価にも影響が戻ってくる可能性があります。
こうした「再び世界的なインフレ圧力が強まるのではないか」という警戒感が、米国債利回りを押し上げた要因の1つと考えられています。
米国PMIが予想を大幅に上回る
今回の金利上昇で特に大きな影響を与えたとみられるのが、米国の経済指標です。
発表されたPMIが市場予想を大きく上回りました。
製造業PMIは予想53.7に対して57.0、サービス業PMIは予想55.8に対して58.7、総合PMIは予想55.3に対して58.4となりました。
いずれも市場予想を上回っただけでなく、前月からも大きく上昇しています。
PMIとは何か
PMIは「Purchasing Managers’ Index」の略で、日本語では購買担当者景気指数と呼ばれます。
企業で原材料や部品を仕入れたり、設備を購入したりする購買担当者などに対して、ビジネス環境が前月より改善したのか、変わらないのか、悪化したのかを尋ね、その回答を指数化したものです。
一般的に50が景気拡大と縮小の境目とされます。
50を上回れば「改善している」と答えた企業が多く、50を下回れば「悪化している」と答えた企業が多いことを示します。
企業担当者の実感を反映するため、PMIは実際の生産量や売上高などの「ハードデータ」に対して、「ソフトデータ」や「センチメント指標」と分類されることがあります。
今回のPMIは50を大きく上回っただけでなく、市場予想も大幅に上回りました。
つまり、米国企業の景況感が市場の想定以上に強いことが示されたわけです。
景気が強いとなぜ国債金利が上昇するのか
一見すると、「景気が良いのであれば良いニュースなのではないか」と思うかもしれません。
しかし、中央銀行の金融政策という視点では必ずしもそうではありません。
景気が強い状態が続けば、消費や雇用、賃金なども強くなりやすく、インフレ率が下がりにくくなる可能性があります。
インフレ率が高止まりすれば、FRBは政策金利を高く維持したり、追加利上げを行ったりする必要性が高まります。
そのため、
「景気が予想以上に強い」
↓
「インフレが下がりにくい」
↓
「FRBが追加利上げする可能性が高まる」
↓
「米国債利回りが上昇する」
という流れになります。
今回のPMI発表後に米国債利回りが大きく上昇した背景には、こうした金融政策への思惑がありました。
欧州PMIも予想を上回り世界的に金利上昇
この日は米国だけでなく、欧州でもPMIが発表されました。
ドイツ、フランス、ユーロ圏のPMIも市場予想を上回る結果となっています。
欧州の景気が市場予想よりも強ければ、欧州中央銀行による金融引き締めが長期化する可能性も意識されます。
その結果、ユーロ圏の国債利回りも上昇しました。
世界の国債市場は完全に独立しているわけではありません。
欧州で国債利回りが上昇すれば、投資家が米国債に求める利回りにも影響し、米国金利の上昇圧力になることがあります。
今回の米国債利回り上昇には、欧州の金利上昇も一定の影響を与えたと考えられます。
FRB高官が相次いで追加利上げの必要性に言及
さらに市場の利上げ観測を強めたのが、FRB高官の発言です。
動画では、FRB高官が「インフレ率を2%以下へ低下させるためには、追加利上げが必要になる可能性が高い」という見方を示したと説明されています。
また、ボストン連銀のコリンズ総裁やセントルイス連銀のムサレム総裁なども、追加利上げの必要性に言及していました。
こうした発言が相次いだことで、市場では「FRBはまだ利上げを終了していないのではないか」との見方が強まりました。
FRBの政策金利に敏感な国債ほど売られやすくなり、利回り上昇につながったと考えられます。
5年国債入札が予想以上に弱い結果に
そして、この日の金利上昇をさらに加速させたのが、米国5年国債の入札です。
米国政府は財政資金を調達するため、定期的に国債を発行しています。
その国債を市場参加者が入札によって購入します。
今回の5年国債入札は、事前に想定されていたよりも需要が弱い結果となりました。
国債入札の「テール」とは
国債入札の強弱を見る際に使われる指標の1つが「テール」です。
入札前には、新たに発行される国債について市場ですでに取引が行われており、おおよその利回りが形成されています。
そして実際の入札で決まった最高落札利回りが、入札直前の市場利回りを上回った場合、
「市場で想定されていた利回りでは十分な買い手が集まらなかった」
ということになります。
この差をテールと呼びます。
今回の入札ではテールが0.031%となり、2022年6月以来の大きさとなりました。
さらに、最高落札利回りは5.033%となり、入札前取引での5.002%を大きく上回りました。
つまり、実際に国債を販売してみると、投資家は事前に想定されていたよりも高い利回りを要求したということです。
これは国債に対する需要の弱さを示す材料になります。
プライマリーディーラー比率から国債需要を確認する
米国債の入札を見る際には、誰が国債を買ったのかも重要です。
米国にはプライマリーディーラー制度があります。
プライマリーディーラーに指定された金融機関は、米国債市場で重要な役割を持つ一方、国債入札への参加義務も負っています。
そのため、入札でプライマリーディーラーの落札比率が高くなっている場合、
「最終投資家の需要が弱く、義務を持つディーラーが多く引き受けた」
可能性があります。
逆に、プライマリーディーラーの比率が低ければ、投資家から一定の需要があったと判断できます。
今回の入札では、プライマリーディーラーの落札比率は15.8%と比較的低い水準でした。
一方、間接入札者の比率は54.3%と比較的高い水準でした。
間接入札者には、海外の中央銀行や機関投資家などが多く含まれます。
そのため、入札全体としては弱い結果だったものの、海外投資家からの需要そのものが完全に消えていたわけではないと考えられます。
入札後に10年債利回りは5.11%へ
5年国債入札が弱い結果となった後、米国債の売りはさらに強まりました。
その結果、10年国債利回りは5.11%まで上昇し、この日の取引を終えています。
ただし、今回の金利上昇を理解するうえでは、単純に10年債利回りだけを見るのではなく、年限別の動きを確認することが重要です。
5年債を中心に上昇しイールドカーブはフラット化
9月23日の国債利回り上昇を年限別に見ると、
5年国債利回りは約0.17%上昇、10年国債利回りは約0.15%上昇、30年国債利回りは約0.10%上昇しました。
つまり、超長期国債よりも5年債などの中期ゾーンの金利上昇が大きかったことが分かります。
この動きは非常に重要です。
イールドカーブとは
イールドカーブとは、満期までの期間が異なる国債の利回りを並べた曲線です。
通常は短期国債より長期国債のほうが利回りが高くなります。
ところが、短期や中期の金利が長期金利以上に上昇すると、利回り差が縮小します。
これを「イールドカーブのフラット化」と呼びます。
今回の米国債市場では、まさにこのフラット化が進みました。
今回の金利上昇は財政懸念より利上げ観測の影響が大きい
イールドカーブの形を見ることで、「なぜ金利が上昇したのか」をある程度推測することができます。
例えば、財政赤字の拡大などによって将来の国債供給が増えるとの懸念が強まった場合、影響を受けやすいのは長期国債です。
その場合、長期金利が短期金利以上に上昇し、イールドカーブは急になります。
これを「スティープ化」と呼びます。
ところが今回起きたのは逆でした。
5年債など中期ゾーンの金利が30年債以上に大きく上昇し、イールドカーブはフラット化しています。
このため、動画では今回の金利上昇について、財政悪化懸念よりも「FRBの追加利上げ観測の急速な高まり」が大きな要因だと分析しています。
ここ1カ月ほどでも米国のイールドカーブは急速にフラット化しており、市場が金融政策の引き締めを強く警戒していることが表れています。
市場はFRBの10月利上げを約7割織り込む
9月23日のニューヨーク市場終了時点では、短期金融市場がFRBによる10月の利上げを約7割程度織り込む動きとなっていました。
9月にすでに利上げが行われた直後であるため、10月にも利上げが行われれば連続利上げとなります。
動画では、この市場の織り込みについて「やや行き過ぎではないか」という見方も示されています。
ただ、市場がそれだけ強く追加利上げを意識し始めていること自体が重要です。
国債市場は将来の金融政策を先回りして動くため、FRBが実際に利上げするかどうかだけでなく、「利上げする可能性がどの程度あると市場が考えているか」が金利を大きく左右します。
AI関連投資による景気拡大もインフレ要因に
FRBや市場が利上げを急いで意識している背景には、中東情勢などによるエネルギー価格の問題だけではありません。
動画では、AI関連への巨額投資も景気拡大やインフレ圧力につながっている可能性が指摘されています。
AIデータセンターや半導体、生産設備、電力インフラなどへの投資が拡大すれば、企業の設備投資だけでなく、雇用や賃金、資材需要などにも波及します。
その結果、米国経済が予想以上に強い状態を維持し、インフレ率が下がりにくくなる可能性があります。
FRBにとって警戒されるのは、金融引き締めが遅れた結果、インフレが再加速することです。
動画では、2021年のインフレ局面のように対応が後手に回ることを避けたいという警戒感も、現在のFRBの姿勢に影響している可能性があると説明されています。
今後は経済指標とFRBの姿勢が米国金利を左右
9月23日の米国債市場では、10年国債利回りが5.11%まで急上昇しました。
しかし、今回の動きを単純に「米国の財政不安で国債が売られた」と考えるだけでは、実際の市場の動きを十分に説明できません。
年限別に見ると5年債を中心に金利が上昇し、イールドカーブはフラット化しています。
これは市場が財政問題以上に、FRBの追加利上げや政策金利の高止まりを警戒していることを示す動きです。
一方で、10月の利上げを市場が約7割織り込むほど期待が急速に高まっているため、今後発表される経済指標次第では、逆方向への大きな金利変動が起こる可能性もあります。
まとめ
9月23日の米国債市場では、複数の材料が重なり、10年国債利回りが5.11%まで急上昇しました。
背景には、ディーゼル燃料を巡るインフレ懸念、米国PMIの大幅な上振れ、欧州の景気指標改善、FRB高官による追加利上げへの言及、そして弱い5年国債入札がありました。
特に注目すべきなのは、5年債など中期国債の利回りが大きく上昇し、イールドカーブがフラット化していることです。
このことから、現在の米国金利上昇は財政悪化への警戒だけではなく、FRBによる追加利上げへの期待が大きく影響していると考えられます。
市場ではすでに次回利上げをかなり強く織り込む動きが出ています。
今後の米国債市場を見るうえでは、10年債利回りだけを確認するのではなく、5年債や2年債など中短期ゾーンの動き、イールドカーブの形、国債入札の結果、そしてFRB高官の発言を合わせて確認することが重要になりそうです。


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