本記事は、YouTube動画『アメリカは弾薬不足に陥ったのか』の内容を基に構成しています。
アメリカ軍は、本当に「弾切れ」に近づいているのでしょうか。
動画では、イラン戦争で大量のミサイルや弾薬を消費した結果、アメリカ軍が一部の兵器について深刻な在庫不足に直面している可能性が解説されています。
重要なのは、アメリカ軍全体の弾薬がなくなったという話ではありません。パトリオットやTHAADといった迎撃ミサイル、トマホークやJASSMなどの長射程攻撃兵器の一部で在庫が大きく減少し、しかも短期間では補充できないことが問題になっています。
この問題は単なる米軍内部の在庫問題にとどまりません。台湾有事への抑止力、日本が購入するトマホークの納入、さらには今後数年間の国際情勢にも影響する可能性があります。
イラン戦争で大量のミサイルを消費したアメリカ
動画によると、今回の弾薬不足を考えるうえで大きな要因となっているのがイラン戦争です。
戦闘は2月28日に始まり、AIシステムなども活用した集中的な攻撃が実施されたと説明されています。4月7日の時点で一度戦闘は落ち着いたものの、その後も断続的な戦闘が続き、ミサイルや弾薬の消費が続いているとされています。
動画内で紹介された米政府機関の報告では、イラン戦争にかかった総費用は約334億ドル、日本円換算で約5兆2800億円とされています。
そのうち弾薬関連の費用は約223億ドル、約3兆5200億円に達すると説明されています。
つまり、戦費のかなり大きな部分がミサイルなどの弾薬に費やされたことになります。
そして動画では、米政府機関の報告などを根拠として、アメリカ軍がすでに「戦略的な弾薬不足」に陥っているとの指摘が紹介されています。
正確なミサイル在庫数は分からない
ただし、ここで注意が必要です。
アメリカ軍が保有しているミサイルの正確な在庫数は軍事機密です。そのため、動画で紹介される数字の多くは、CSISなどのシンクタンクが国防予算や過去の調達数などから推計したものです。
推計では、過去の調達数を積み上げたうえで、訓練や試験で使用した分、過去の作戦で消費した分、ウクライナへの供与や外国向けに生産された分などを調整して在庫を推定しています。
そのため、以下で紹介する数字は「米軍が正式に公表した現在の在庫数」ではなく、あくまで各種資料から算出された推計値として見る必要があります。
パトリオットは戦争前から約65%減少との推計
特に深刻とされているのが、敵のミサイルを撃ち落とすための迎撃ミサイルです。
代表的なのがパトリオットです。
動画で紹介された推計では、イラン戦争前には約2300発あったとされるパトリオット迎撃ミサイルが、現在は約700~800発まで減少している可能性があるとされています。
戦争前と比較すると、およそ65%減った計算になります。
イラン側から発射された多数のミサイルを迎撃するため、大量のパトリオットが使用されたことが背景にあると説明されています。
パトリオットは日本を含む多くの同盟国でも重要な防空システムとして使われています。そのため、アメリカ国内だけの問題ではありません。
THAADも大幅に減少
もう1つ重要な迎撃システムがTHAADです。
THAADは「Terminal High Altitude Area Defense」の略で、弾道ミサイルを高高度で迎撃するためのシステムです。
動画で紹介された推計では、戦争前に約452発あったTHAADの迎撃ミサイルが、7月末時点で約234~278発まで減少したとされています。
つまり、こちらもかなりの数が消費された可能性があります。
問題は、THAADやパトリオットに代わる有力な迎撃手段が簡単には見つからないことです。
そのため、さらに大規模なミサイル攻撃が発生した場合には、すべての標的を迎撃するのではなく、守る対象を選択する必要が出てくる可能性も指摘されています。
トマホークも1000発超を使用したとの推計
攻撃用ミサイルでも大量消費が起きています。
代表例がトマホーク巡航ミサイルです。
トマホークは艦艇や潜水艦から発射できる長射程巡航ミサイルで、動画では射程がおよそ1600kmと説明されています。
戦争前には米軍が約3000発を保有していたとする推計がある一方、イラン戦争で1000発を超えるトマホークが使用された可能性があるとされています。
単純計算では在庫の約3分の1です。
4000発程度あったのではないかという別の推計も紹介されていますが、いずれにしても1000発を超える規模で消費した可能性があるという点が重要です。
JASSMも大量消費
航空機から発射する長射程巡航ミサイル「JASSM」も取り上げられています。
JASSMは「Joint Air-to-Surface Standoff Missile」の略で、敵の防空圏から離れた場所から攻撃できるステルス性を持った巡航ミサイルです。
動画では射程が約400~1000kmとされています。
戦争前には約4000発が存在したとされる一方、イラン戦争で1000発を超える規模が使用された可能性があると説明されています。
JASSMの重要な特徴は、戦闘機が敵の防空システムに近づかなくても攻撃できることです。
高価ではありますが、パイロットや航空機を危険にさらさずに攻撃できるため、現代戦では非常に重要な兵器となっています。
最新型PrSMも大量に使われた可能性
さらに動画では、比較的新しい「PrSM」についても紹介されています。
PrSMはPrecision Strike Missileの略で、米陸軍が導入を進めている地上発射型の長射程ミサイルです。
2023年から納入が始まった新しい兵器であり、動画では戦争前の在庫が約90発だったとされています。
しかし、イラン戦争では40~70発程度が使用された可能性があり、一部ではほぼすべてを使ったのではないかという見方も紹介されています。
また、PrSMの前世代にあたるATACMSについても、イラン戦争でかなり使用され、在庫が大きく減っている可能性があるとされています。
海軍のSM-3やSM-6も消費
艦艇から発射する迎撃ミサイルも使用されています。
動画ではSM-3について、戦争前に約410発存在したとみられるなかで、約100~250発程度が使われた可能性があると紹介されています。
また別の艦対空ミサイルについても、約1160発のうち190~370発程度が使用された可能性が示されています。
ただし、米海軍の艦艇はイランから比較的離れた海域で活動していたことから、陸上配備のパトリオットなどと比べると使用量は限定的だった可能性も指摘されています。
問題は「お金」ではなく「生産速度」
ここからが今回の問題の核心です。
ミサイルを大量に使ったのであれば、また作ればよいと思うかもしれません。
しかし、現代の高性能ミサイルは簡単には増産できません。
動画では、THAADの年間生産実績が約96発程度とされており、追加分の本格的な納入も2029年以降になる可能性があると説明されています。
パトリオットについても、生産実績は年間約650発程度とされます。
今後は年間2000発規模まで生産能力を拡大する構想があるものの、生産した分のかなりの割合は日本や欧州などの同盟国にも割り当てられます。
さらにトマホークでは、生産のリードタイムが約34か月に達するとされています。
米海軍が約785発を要求しているものの、本格的な納入開始は2030年ごろになる可能性があると動画では説明されています。
ミサイルは発注してもすぐには届かない
なぜこれほど時間がかかるのでしょうか。
理由の1つは、ミサイルが極めて複雑な工業製品だからです。
動画では、トマホーク1発だけでも数千に近い精密部品や電子部品が使用されていると説明されています。
ロケットモーター、誘導装置、電子機器など、多数の部品をそれぞれ異なる企業が生産しています。
そのため、最終組立メーカーだけが生産量を増やそうとしても、下請け企業や部品メーカーの生産能力が追いつかなければ増産できません。
つまり、国防予算を増やせばすぐ解決する問題ではありません。
ミサイルの生産能力は、生産ライン、設備、熟練労働者、部品供給網などによって制約されます。
動画では「資金より時間の問題」という点が強調されています。
在庫回復は2029~2031年になる可能性
こうした生産能力を前提にすると、戦争前の在庫水準へ戻るまでには数年かかる可能性があります。
動画内で紹介された分析では、パトリオットやTHAADなどの迎撃ミサイルについては2029年ごろまで、トマホークについては2030~2031年ごろまで在庫回復に時間がかかる可能性があるとされています。
もちろん、今後さらに生産能力が拡大すれば期間は変わります。
それでも、短期間で元の在庫水準へ戻すことが難しいという点は、今後の米国の安全保障政策を考えるうえで重要なポイントになります。
「脆弱性の窓」が生まれる可能性
動画で特に重要なキーワードとして登場するのが「脆弱性の窓」です。
これは、一時的に軍事力が低下し、相手国から見て行動を起こしやすくなる期間を意味します。
アメリカが大量のミサイルを消費し、在庫が回復するまで数年かかるとすれば、その期間は米国や同盟国の軍事的な抑止力が通常より弱く見える可能性があります。
そうなれば、対立する国が「今なら有利なのではないか」と判断するリスクが生まれます。
実際に戦争が起きるという意味ではありません。
しかし、相手側の意思決定に影響を与える可能性があるという点が、安全保障上の問題になります。
最大の懸念は台湾有事
この「脆弱性の窓」と関連して動画が取り上げているのが、中国と台湾です。
中国軍については、2027年までに台湾に対する軍事作戦を遂行できる能力を整えることを目標にしているとの見方が以前から存在します。
一方、アメリカの一部ミサイル在庫が回復するとされる時期も2029~2031年ごろです。
つまり、中国軍の能力向上が進む時期と、アメリカ軍のミサイル在庫が低下している時期が重なる可能性があります。
動画では、これが「脆弱性の窓」として懸念されていると説明されています。
台湾有事では1週間で長射程ミサイルが枯渇する?
さらに動画では、台湾有事を想定した机上演習についても紹介されています。
2023年に実施されたシミュレーションでは、主要な長射程ミサイルがわずか1週間ほどで枯渇したケースがあったとされています。
約3週間の戦闘を想定したケースでは、JASSMを約4000発、トマホークを約400発使用したとの数字も紹介されています。
400発という数字は、日本が導入を進めているトマホークの規模とも近い数字です。
つまり、大国間の本格的な戦争では、平時には大量に見える数百発のミサイルであっても、短期間で消費される可能性があります。
ウクライナ戦争でも明らかになったように、現代の大規模戦争では想定以上の速度で弾薬が消費されます。
「2027年に台湾侵攻」が決まったわけではない
ただし、動画でもこの点には明確な留保があります。
2027年に中国が台湾へ侵攻することが決まっているわけではありません。
動画では、外交・安全保障の専門家の間では、現時点で2027年の台湾侵攻を確実視する見方が優勢というわけではないと説明されています。
一方で、米軍のミサイル在庫減少という新しい要素が加わったことで、これまで考えられていたリスク評価に多少の変化が生じる可能性があるという問題提起です。
また動画では、軍事AIの専門家の見方として、中国側が米軍の在庫状況などを計算した場合、2027年前後を有利な時期と判断する可能性があるという意見も紹介されています。
ただし、これはあくまで将来予測であり、実際にそのような判断が行われることを意味するものではありません。
安価なJDAMで代替できるのか
大量の高価な巡航ミサイルが不足するのであれば、より安価な兵器を使えばよいという考え方もあります。
その代表例として動画で紹介されているのがJDAMです。
JDAMは、通常の無誘導爆弾に誘導キットを取り付け、精密誘導爆弾として使用できるようにする仕組みです。
動画では誘導キットが1個約6万6000ドル、日本円で約1000万円強とされています。
爆弾本体を含めても、1発あたり10万ドル未満程度で運用できる可能性があり、数百万ドル級になることもある長射程ミサイルに比べれば大幅に安価です。
在庫も比較的豊富なため、高価なミサイルの代替手段として活用できるのではないかという議論があります。
JDAMでは長射程ミサイルを完全には代替できない
しかし、大きな問題があります。
射程です。
JDAMは基本的に航空機から投下され、滑空しながら目標へ向かう兵器であるため、動画では実用的な射程が数十km程度にとどまる場合があると説明されています。
一方、JASSMは400~1000km程度離れた場所から発射できます。
この差は極めて重要です。
数十kmまで接近する必要がある場合、戦闘機は敵の防空圏内に入らなければならず、撃墜される危険が大幅に高まります。
長射程ミサイルが高価でも大量に使用される理由の1つは、パイロットや航空機を敵の防空網から遠ざけたまま攻撃できることにあります。
イランでは防空網を破壊してからJDAMを使用
動画では、イラン戦争でも開戦直後にアメリカ軍がイラン側の防空システムを徹底的に攻撃したと説明されています。
敵の防空能力を弱体化させた後であれば、航空機が目標に接近し、JDAMのような比較的射程の短い兵器を使いやすくなります。
つまり、JDAMが利用できた背景には、その前段階として長射程兵器などを使って敵の防空能力を低下させていたことがあります。
そのため、JDAMを増やせば長射程ミサイル不足がすべて解決するわけではありません。
中国相手では同じ戦い方が難しい可能性
中国との戦闘を想定した場合、さらに問題は複雑になります。
動画では、中国は大量の防空システムを保有しており、その能力には不確実な部分があるものの、物理的な規模は非常に大きいと指摘されています。
イランのように短期間で防空網を大幅に破壊できるとは限りません。
もし十分に防空網を破壊できない状態でJDAMなどの短射程兵器に依存すれば、戦闘機が敵の防空圏へ接近する必要があり、航空機やパイロットの損失が増える可能性があります。
そのため、JASSMやトマホークのような長射程兵器の在庫が安全保障上非常に重要になります。
弾薬不足はイラン戦争だけが原因ではない
さらに重要なのは、米軍の弾薬問題がイラン戦争によって突然発生したわけではないという点です。
動画では、戦争以前から米軍の一部弾薬について十分な数量を確保できていないとの指摘があったと説明されています。
そこへイラン戦争による大量消費が重なりました。
つまり、もともと余裕が大きくなかった兵器について、短期間で大量に使用したことで問題がより深刻になったという構図です。
日本にとっても他人事ではない
この問題は日本にも関係します。
日本は反撃能力の整備の一環としてトマホークを導入する計画を進めています。
しかし、アメリカ自身が大量のトマホークを必要とし、生産に約3年近いリードタイムが必要になるのであれば、今後の生産能力や優先順位によっては同盟国への供給にも影響が及ぶ可能性があります。
また、台湾有事を想定した机上演習で数百発規模のトマホークが短期間に消費されるという結果が出ているのであれば、日本が保有する長射程ミサイルについても「何発持っているか」だけではなく、「どれだけの速度で消費され、どれだけの速度で補充できるのか」という視点が重要になります。
まとめ
今回の動画で示されているのは、「アメリカ軍の弾薬がすべてなくなった」という単純な話ではありません。
問題は、パトリオット、THAAD、トマホーク、JASSM、PrSMなど、現代戦で特に重要な一部の高性能ミサイルを大量に消費し、その補充に長い時間が必要になる可能性があることです。
高性能ミサイルは、お金を用意すればすぐに生産できるものではありません。複雑な部品、サプライチェーン、生産設備、熟練労働者などが必要であり、生産能力そのものを増やすには数年単位の時間がかかります。
その結果、2029~2031年ごろまで一部兵器の在庫回復が続く可能性があり、その期間が「脆弱性の窓」になるのではないかという懸念が出ています。
特に注目されているのが台湾情勢です。
ただし、米軍の弾薬不足があるからといって、中国による台湾侵攻が近いと断定することはできません。動画でも、2027年の台湾侵攻はあくまで将来予測の領域であり、現時点で確実視されているわけではないことが強調されています。
重要なのは、現代戦では想定以上の速度で高性能兵器が消費される一方、生産には数年を要するという現実です。
今後の安全保障を考えるうえでは、単純な国防費や兵器の保有数だけではなく、「どれだけ生産できるのか」「どれだけ早く補充できるのか」という生産能力そのものが、これまで以上に重要になっていると言えそうです。


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