本記事は、YouTube動画『ビッグショート2.0 AIの物語は崩壊してしまった』の内容を基に構成しています。
AIブームによって、Google、Microsoft、Amazon、NVIDIAなどの巨大テクノロジー企業には世界中から巨額の投資資金が流れ込んできました。
一方で、AI市場の将来に強い警戒感を示している著名投資家もいます。
動画で取り上げられているのが、2008年の世界金融危機を前に住宅市場の問題を見抜き、「ビッグショート」で知られるようになった投資家スティーブ・アイスマンです。動画によれば、アイスマン氏はAI関連へのエクスポージャーを減らし、保有していたGoogle株の一部についても売却を進めているとされています。
ただし、アイスマン氏は「AIはすべて危険だ」と単純に主張しているわけではありません。
重要なのは、AI市場を構成する企業のビジネスモデルには大きな違いがあり、その中でも特にOpenAIやAnthropicのようなLLMプロバイダーには大きなリスクが存在するという点です。
動画では、AI市場に潜むリスクを「3つのカウントダウン」という形で整理しています。
AI市場を理解するために知っておきたい2種類の企業
まず理解しておきたいのが、「ハイパースケーラー」と「LLMプロバイダー」の違いです。
AI関連企業は一括りにされがちですが、実際にはビジネスモデルが大きく異なります。
ハイパースケーラーとは
ハイパースケーラーとは、大規模なクラウドインフラやデータセンターを構築する巨大テクノロジー企業です。
代表的な企業として動画では、
- Microsoft
- Amazon
- Oracle
などが挙げられています。
イメージとしては、AIを動かすための巨大な「工場」を作っている企業です。
AIモデルを稼働させるためには大量のGPU、サーバー、電力、ネットワーク設備などが必要になります。ハイパースケーラーは、こうしたAIインフラを提供する立場にあります。
LLMプロバイダーとは
一方、OpenAIやAnthropicなどはLLMプロバイダーに分類されます。
LLMとは「Large Language Model(大規模言語モデル)」のことで、ChatGPTやClaudeのような生成AIサービスの中核となる技術です。
つまり、ハイパースケーラーがAIを動かすための「工場」を提供する企業だとすれば、LLMプロバイダーは、その工場を使って実際のAIサービスを作る企業と考えると分かりやすいでしょう。
GoogleやMicrosoftのように、ハイパースケーラーでありながら自社でもAIモデルを開発する企業も存在します。
この違いこそが、今回のAIバブル問題を考えるうえで重要なポイントになります。
ゴールドラッシュで利益を得たのは「金を掘る人」ではなかった
動画では現在のAI市場を、かつてのゴールドラッシュになぞらえています。
ゴールドラッシュでは、多くの人が金鉱を探しました。
しかし、安定して利益を得たのは必ずしも金を掘り当てた人ではありませんでした。
金を掘るための「つるはし」や「シャベル」を販売した企業のほうが、安定した利益を得られたという有名な考え方があります。
現在のAI市場で考えると、最も分かりやすい「つるはしとシャベル」を提供している企業がNVIDIAです。
NVIDIAはAI計算に必要となるGPUを供給しています。
その次に位置するのが、巨大データセンターを構築するハイパースケーラーです。
一方、OpenAIやAnthropicなどのLLMプロバイダーは、いわば実際に「金を掘る側」に近い存在です。
大きな金脈を掘り当てる可能性がある反面、競争に敗れれば巨額の投資を回収できない可能性があります。
ここから、アイスマン氏が警戒する最初のカウントダウンが始まります。
第1のカウントダウン:LLM市場の価格競争
最初のリスクとして指摘されているのが、LLM市場の「参入障壁」と価格競争です。
AIモデルの開発には巨額の資金が必要だというイメージがあります。
ところが動画では、中国を中心に低価格なAIモデルが次々と登場していることで、米国の大手LLMプロバイダーが強力な価格競争に巻き込まれる可能性が指摘されています。
DeepSeekをはじめ、中国では複数のAIモデルが登場しています。
こうした企業が低価格なモデルを提供するようになれば、企業側も高価なAIモデルだけを使い続ける必要はありません。
性能が十分であれば、より低価格なAIモデルへ乗り換えるという判断が可能になります。
つまり、AIモデルそのものがコモディティ化していく可能性があるのです。
中国AIモデルによる価格破壊
動画では、2026年8月時点として複数のAIモデルの料金比較も紹介されています。
その例として、DeepSeekのモデルについて100万入力トークンあたり0.14ドル、100万出力トークンあたり0.28ドルという価格が紹介されています。
一方、Anthropicのモデルについては入力10ドル、出力50ドルという例が示され、中国系AIモデルが非常に安価であることが強調されています。
また、別のベンチマークによるAI処理コストの例として、動画では、
- DeepSeek系モデル:0.25ドル
- Moonshot系モデル:0.84ドル
- OpenAI GPT-5.6:1.23ドル
- Claude系モデル:3.14ドル
という数値も紹介されています。
動画の主張では、この価格差が今後LLM市場で激しい価格競争を引き起こす可能性があります。
OpenAIやAnthropicのような企業が巨額の設備投資や研究開発費を負担している一方で、競合企業がより安価なAIを提供するようになれば、利益率を確保することが難しくなる可能性があります。
これが第1のカウントダウンです。
ただし、利用者側から見ると事情は正反対です。
AIの利用料金が下がれば、個人や企業はより低コストで高度なAIを利用できます。
つまり「AI企業への投資」という視点では価格競争がリスクになる一方、「AIを利用する側」にとってはAIの低価格化は大きなメリットになるということです。
第2のカウントダウン:LLM企業とハイパースケーラーの巨大契約
第2の問題は、LLMプロバイダーとハイパースケーラーが非常に深く結び付いていることです。
Google、Microsoft、Amazon、Oracleなどの企業は、AIデータセンターを建設するために巨額の設備投資を進めています。
その背景には、OpenAIやAnthropicなどから今後も巨大な需要が生まれるという前提があります。
つまり、AIインフラ企業の将来の売上期待の一部は、LLM企業が今後も成長し、大量のコンピューティング資源を購入し続けることを前提に成り立っています。
しかし、第1のカウントダウンで説明したように、もしLLM市場で価格競争が激化すればどうなるでしょうか。
OpenAIやAnthropicの収益性が悪化し、予定していた投資やデータセンター利用契約を実行できなくなる可能性があります。
そうなれば、その影響はLLM企業だけにとどまりません。
データセンターを建設しているハイパースケーラーにも波及します。
巨額の受注残がAI企業に依存している可能性
動画ではその例としてOracleやMicrosoftが挙げられています。
Oracleについては、約6400億ドルの受注残のうち約3000億ドルがOpenAI関連だという説明があります。
またMicrosoftについても、動画では受注残の45%、約2800億ドルがOpenAI関連だという数字が紹介されています。
AmazonやGoogleについてもAnthropicとの巨額契約が存在するとされています。
ここで重要なのは金額そのものだけではありません。
AI市場では、1つの企業が別の企業に設備を提供し、その企業がさらに別のAI企業へ資金を提供するなど、複雑な資金の流れが形成されています。
そのため、LLMプロバイダーの成長が止まると、AIエコシステム全体に影響が広がる可能性があります。
動画では、OpenAIやAnthropicが将来予定されている巨額の支出を実行できなくなった場合、「AIエコシステム全体に大津波が起こる可能性がある」と警戒しています。
第3のカウントダウン:投資家が気づかない「AI一点集中」
3つ目のカウントダウンが、投資資金そのものの集中です。
多くの投資家は、複数の株式やETF、債券などに投資することで分散投資をしていると考えています。
しかしアイスマン氏が警戒しているのは、一見すると分散しているように見えるポートフォリオでも、実際にはAI関連企業への依存度が非常に高くなっている可能性です。
例えば、株式60%、債券40%という典型的なポートフォリオを持っていたとしても、株式部分の多くが巨大テクノロジー企業で構成され、さらに債券市場でもAI投資のために発行された社債が増えていれば、実質的にはAIという同じテーマに資金が集中している可能性があります。
これは非常に重要なポイントです。
資産クラスが違うからといって、必ずしも経済的なリスクまで分散されているとは限らないからです。
S&P500やオルカンもAI企業の影響を受ける
この問題は個別のAI株を買っている投資家だけの話ではありません。
動画では、S&P500などの株価指数についても、巨大テクノロジー企業の影響力が非常に大きくなっていると指摘しています。
時価総額加重型指数では、企業価値が大きい企業ほど指数に占める割合も大きくなります。
そのため、巨大テクノロジー企業の株価が上昇すれば上昇するほど、指数全体もそれらの企業に左右されやすくなります。
さらに、全世界株式型のインデックスファンド、いわゆる「オルカン」についても米国株の比率が高いため、米国の巨大テクノロジー企業の影響を受けます。
つまり、「個別AI株を買っていないから関係ない」とは言い切れないということです。
債券にもAIマネーが広がっている
さらに動画では、AI企業への投資が債券市場にも広がっていると説明されています。
紹介されているVanguardの見方では、米国の新規社債発行額の約10~15%がテクノロジー関連になる可能性があり、金額では約4000億ドルに相当するとされています。
株式と債券を組み合わせているから安全とは限らず、その両方が同じAI投資ブームを背景としている可能性があるわけです。
これが、アイスマン氏が警戒する3つ目のカウントダウンです。
2008年のリーマンショックとの共通点とは
アイスマン氏が注目される理由の1つが、2008年の世界金融危機を前に米国住宅市場の危険性を見抜いた人物として知られていることです。
当時の金融市場では、MBSやCDO、CDSなどさまざまな金融商品が複雑に絡み合っていました。
一見すると、それぞれ別の商品に投資しているように見えても、根底には米国住宅ローン市場という共通のリスクがありました。
住宅価格が下落し、住宅ローンの延滞が増えると、その影響が複雑な金融商品を通じて金融システム全体へ広がっていきました。
動画では、現在のAI市場にも似た構造が形成されている可能性を指摘しています。
もちろん、現在のAI市場と2008年の住宅金融市場がまったく同じというわけではありません。
ただ、「さまざまな投資に分散しているように見えて、実は同じリスク要因に依存している」という構造については注意する必要があるというのが、動画の重要なメッセージです。
AIバブル崩壊の兆候を知るために見るべきもの
では、投資家は何を見ればAI市場の異変に早く気づけるのでしょうか。
動画では、アイスマン氏が特に重要視しているポイントとしてOpenAIとAnthropicの財務状況を挙げています。
現在、この2社について外部の投資家が詳細な財務情報を把握することは容易ではありません。
しかし、将来的にIPOを行い上場企業となれば、財務状況を記載した書類が公開されることになります。
売上高だけでなく、
収益性はどうなっているのか。
AIモデルを運用するためにどれほどのコストが発生しているのか。
データセンターやクラウドサービスへの支払いを続けられるのか。
将来の巨額契約を本当に履行できるのか。
こうした数字を見ることが重要になります。
動画では、OpenAIやAnthropicが上場し、SECへの提出書類が公開された場合、その内容を詳しく確認することが重要だとしています。
同時に、Microsoft、Google、Amazon、Oracleといったハイパースケーラーの決算にも注目する必要があります。
特に重要なのが決算説明会です。
AI関連の設備投資額だけではなく、AI需要について経営陣がどのように説明しているのか、受注が予定通り進んでいるのかといった点が、AI市場の変化を判断する材料になる可能性があります。
アイスマン氏はAI株をすべて否定しているわけではない
ここまで読むと、「アイスマン氏はAI関連株をすべて売却すべきだと考えているのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、動画で紹介されている考え方はもう少し複雑です。
アイスマン氏自身、AIの未来がどうなるのかを100%予想できる人はいないという立場を取っています。
AI業界は変化のスピードが非常に速く、数週間単位でも状況が変わるためです。
そして、AI市場に警戒しながらも、ハイパースケーラーには一定の強みがあると評価しています。
ハイパースケーラーがLLM企業より強い3つの理由
動画では、ハイパースケーラーがLLM専業企業よりも強固だと考えられる理由が3つ紹介されています。
1つ目は競争優位性です
AIモデルを大規模に運用するには巨額の設備と資金が必要です。
Google、Microsoft、Amazon、Oracleなどは巨大なデータセンター、クラウド基盤、顧客ネットワークをすでに持っています。
新規企業がこれと同じ規模のインフラを構築するのは簡単ではありません。
この資金力とインフラこそが、ハイパースケーラーにとって大きな参入障壁になります。
2つ目は収益源が多角化されていることです
Googleには検索広告があります。
MicrosoftにはOfficeやWindows、法人向けソフトウェアがあります。
AmazonにはECやAWSがあります。
つまりAI投資が期待どおりの利益を生まなかったとしても、ほかの事業から利益を生み出すことができます。
一方、OpenAIやAnthropicのようにAIモデルそのものが事業の中心となっている企業では、AI価格競争が直接経営に大きな影響を与える可能性があります。
3つ目はAI投資を減らすこともできる点です
もし将来、AI投資の採算性が低いと判断されれば、ハイパースケーラーは設備投資を縮小できます。
その場合、AI関連の成長期待は後退するでしょう。
しかし同時に、巨額の設備投資が減ることでキャッシュフローや利益率が改善する可能性もあります。
動画ではこの点も、ハイパースケーラーがLLM専業企業よりも守られている理由として紹介しています。
特に警戒されているのはOpenAIやAnthropicのようなLLM専業企業
アイスマン氏が特にリスクを感じていると動画で説明されているのが、OpenAIやAnthropicのようなLLMプロバイダーです。
GoogleやMicrosoftには複数の収益源があります。
しかし、LLM専業企業の場合、AIモデル市場で激しい価格競争が起きれば、その影響を直接受けます。
しかもLLMを開発・運用するには巨額の計算資源が必要です。
売上が伸び続けたとしても、それ以上にインフラコストや研究開発費が膨らめば、利益を出すことは難しくなります。
そのためAI市場を見る際には、「AI企業」という1つのカテゴリーで判断するのではなく、それぞれの企業がどのようなビジネスモデルを持っているのかを確認することが重要になります。
AIバブルで投資家が確認したい3つのポイント
動画全体の内容を整理すると、今後のAI市場を見るうえでは大きく3つのポイントが重要になります。
第1は、LLMの価格競争です。
中国をはじめ低価格なAIモデルが増えれば、OpenAIやAnthropicなどが現在の価格や利益率を維持できるのかが重要になります。
第2は、LLM企業の財務状況です。
巨額のデータセンター利用契約や設備投資を将来的に履行できるだけのキャッシュフローがあるのかを確認する必要があります。
第3は、投資家自身のポートフォリオです。
S&P500や全世界株式ETF、さらには債券まで保有していたとしても、実質的にはAI関連企業への依存度が高くなっていないかを確認する必要があります。
まとめ
今回の動画で最も重要なのは、「AIそのものが終わる」という単純な話ではありません。
AI技術が社会に普及し続けることと、現在のAI関連企業の株価や企業価値が正当化されることは別の問題です。
アイスマン氏が警戒している3つのカウントダウンを整理すると、
1つ目は、低価格AIモデルの登場によるLLM市場の価格競争。
2つ目は、OpenAIやAnthropicなどのLLM企業と、Microsoft、Google、Amazon、Oracleなどのハイパースケーラーが巨額契約によって強く結び付いていること。
3つ目は、株式や債券、インデックス投資まで含めて世界中の資金が実質的にAIという1つのテーマへ集中している可能性です。
という構造になります。
一方で、ハイパースケーラーには本業による利益、巨大なインフラ、資金力という強みがあります。
そのため、AI市場が調整したとしても、すべての企業が同じような影響を受けるとは限りません。
投資家に求められるのは、「AIは成長するから買う」「AIバブルだから全部売る」という二者択一ではなく、それぞれの企業がどこで利益を生み、誰から売上を得て、どれほどの投資を必要としているのかを見ることです。
特に今後OpenAIやAnthropicなどの財務情報が詳しく公開されるようになれば、AIブームを支えている資金循環が本当に持続可能なのかを判断する重要な材料になるでしょう。
AI革命そのものが続くとしても、その過程ですべてのAI企業が勝者になるとは限りません。
「AIの未来」と「AI関連株の未来」を分けて考えることが、これからのAI投資を考えるうえで重要な視点になりそうです


コメント