本記事は、YouTube動画『8月ファンドマネージャー調査の解説』の内容を基に構成しています。
世界の大手ファンドは、現在の株式市場をどのように見ているのでしょうか。
8月のバンク・オブ・アメリカ(BofA)によるファンドマネージャー調査では、投資家心理が2022年以降で3番目に強気な水準まで上昇しました。
世界株への配分は2021年11月以来の高水準となり、現金比率はわずか3.5%まで低下しています。
さらに興味深いのが、「最も混み合っているトレード」の上位に、世界の半導体株買いだけでなく「日本円売り」が急浮上したことです。
日本では円安を抑えるための政策対応や為替介入が意識されていますが、それでも一部の世界的なファンドは「円高には向かない」と判断していることになります。
今回は、8月のBofAファンドマネージャー調査から、世界の機関投資家が株式、米国市場、半導体、日本円、債券、AI、ゴールドなどをどのように見ているのかを詳しく整理します。
BofAファンドマネージャー調査とは
今回取り上げられているのは、米大手金融機関バンク・オブ・アメリカがまとめている「ファンドマネージャー調査」です。
世界の機関投資家やファンドマネージャーに対して、景気見通しや株式市場への姿勢、資産配分、リスク要因などを尋ねるもので、市場参加者の心理を把握するうえで重要な指標の1つです。
個人投資家にとっても、この調査を見ることで「世界の大口投資家が今どこに資金を置いているのか」を知ることができます。
特に注目したいのは、単に「株が上がると思うか」というアンケートではなく、実際の株式や債券、現金、コモディティなどへの配分状況まで確認できる点です。
今回の8月調査では、そのファンドマネージャーたちが明確に強気へ傾いていることが確認されました。
ファンド心理は2022年以降で3番目に強気
8月の調査でまず目立つのが、ファンドマネージャーのセンチメントです。
投資家心理は2022年以降で3番目に強気な水準まで上昇しました。
さらに、ファンドが保有する現金比率は3.5%まで低下しています。
これはかなり低い水準です。
現金を減らしているということは、その分だけ株式などのリスク資産へ資金を投入している可能性が高くなります。
実際、世界株式への配分は2021年11月以来の高水準となりました。
世界株に対するポジションはネットで56%のオーバーウェイトです。
オーバーウェイトとは、基準となる資産配分よりも多くその資産を保有している状態を指します。
たとえば、ある株式の基準比率が10%であるところを15%保有していれば、その株式をオーバーウェイトしていることになります。
つまり現在のファンドマネージャーは、かなり積極的に株式を保有しているということです。
なぜファンドはここまで株式に強気なのか
背景にあるのが、世界経済と企業業績に対する楽観的な見方です。
今回の調査では、56%の投資家が世界経済について「ノーランディング」を予想しています。
ノーランディングとは、中央銀行による金融引き締めなどが行われても景気後退に陥らず、経済成長が続く状態を指します。
一般的には、景気が緩やかに減速する「ソフトランディング」や、景気後退に陥る「ハードランディング」がよく使われます。
しかし現在のファンドマネージャーの多くは、それよりさらに強気で、「景気は大きく減速しない」と考えていることになります。
前月の54%から今回56%へと上昇しました。
一方、ハードランディングを予想する割合はわずか4%です。
ほとんどのファンドマネージャーが、少なくとも現時点では深刻な景気後退を想定していません。
「経済ブーム」を予想する投資家も増加
さらに強気な数字もあります。
今後の経済について「ブームになる」と予想する投資家の割合は43%となり、2022年2月以来の高水準となりました。
企業業績についても楽観論が広がっています。
今後、EPSが2桁成長すると予想する投資家は37%です。
EPSとは「1株当たり利益」のことで、企業の利益成長を見る代表的な指標です。
この数値が2021年8月以来の高水準となっていることから、機関投資家は単に景気が悪化しないと考えているだけでなく、企業利益そのものも大きく伸びると期待していることが分かります。
経済が強く、企業業績も伸びる。
この前提に立てば、株式を多く保有するというファンドの行動にも一定の合理性があります。
一方で「強気すぎる」こと自体がリスクになる
ただし、今回の調査には注意すべきポイントもあります。
多くの投資家が同じ方向を向いていることです。
投資の世界では、市場参加者の大半がすでに強気になっている場合、それ以上買う人が減ってしまうことがあります。
今回、現金比率は3.5%まで低下しています。
つまりファンドはすでにかなり多くの資金を市場へ投入しています。
株価が下落した場合、「安くなったから買おう」と思っても、手元に現金が少なければ追加投資できません。
動画でも、この点について「歴史的に見てもかなり現金比率が低く、下落したときに買う余力が少ない」と指摘されています。
ファンドの強気姿勢は株価を支える材料である一方、強気になりすぎていること自体が市場の弱点にもなり得るのです。
FRBは中間選挙前に利上げしないとの見方が多数
金融政策についても興味深い結果が出ています。
72%のファンドマネージャーが、中間選挙前にFRBが利上げすることはないと予想しています。
米国では金融政策と政治は制度上独立していますが、選挙前の大幅な金融引き締めは市場や景気に影響を与えるため、投資家も政治日程を意識しています。
動画では、仮に利上げが行われるとしても早くて12月ではないかとの見方が示されています。
また、ジャクソンホール会議におけるFRB議長の姿勢については、53%が中立、31%がタカ派、7%がハト派になると予想しています。
つまり、積極的な金融緩和を期待している投資家はそれほど多くありません。
金利上昇で株価下落を予想する人も多い
少し矛盾して見えるのが、金利と株価に対する見方です。
調査では37%が「金利上昇・株価下落」を予想しています。
一方で、ファンド自身は株式をかなりオーバーウェイトしています。
つまり「金利上昇は株式市場にとってリスク」と理解しながら、それでも株式を多く保有していることになります。
背景には、金利上昇によるマイナスよりも、景気や企業業績の強さの方が勝るという判断がある可能性があります。
このあたりは今回の調査の中でも、やや矛盾した部分と言えるでしょう。
最も混み合った取引は依然として「半導体株買い」
市場で最も注目されているのが「最も混み合っているトレード」です。
これは、多くのファンドが同じ投資を行っている状態を示しています。
トップとなったのは「世界の半導体株を買う」という取引で、53%でした。
前月は82%だったため、かなり減少しています。
それでも半数以上のファンドが半導体株を有望視していることになり、依然として非常に人気の高い投資テーマです。
AIブームによってGPUやデータセンターへの投資が拡大しており、その恩恵を受ける半導体企業への期待が続いていることが背景にあります。
「日本円売り」が2位に急浮上
今回、特に注目されているのが日本円です。
「日本円をショートする」という取引が、最も混み合ったトレードの2位に急浮上しました。
割合そのものは12%ですが、順位が急上昇した点が重要です。
円をショートするとは、円安方向にポジションを取ることです。
日本では急激な円安を抑えるため、政府や当局による為替介入が意識される局面があります。
それにもかかわらず、世界のファンドの一部は「円高には向かわない」と判断し、円売りポジションを増やしていることになります。
動画ではこの状況について、「円高に持っていこうとしている政策を逆手に取り、ファンドは円を売っている」と指摘しています。
つまり大口投資家は、日本の政策対応があっても円安の基調そのものを変えるのは難しいと考えている可能性があります。
マグニフィセント7や銀行株も人気
3番目に挙げられたのが、マグニフィセント7の買いです。
マグニフィセント7とは、米国株式市場を代表する巨大テクノロジー企業群を指す言葉です。
大型テクノロジー株への強気姿勢は依然として続いています。
そのほか、世界の銀行株を買う取引も人気となっています。
一方、米国債についてはショートが目立っています。
債券をショートするということは、債券価格の下落、つまり金利上昇を予想していることになります。
テクノロジー株や銀行株を買いながら、債券を売る。
今回のファンドのポジションには、かなり明確な方向性があります。
最大のテールリスクは依然としてAIバブル
では、ファンドマネージャーが最も警戒しているリスクは何でしょうか。
今回も最大のテールリスクとして挙げられたのが「AIバブル」です。
テールリスクとは、発生確率はそれほど高くなくても、実際に起きれば市場へ非常に大きな影響を与えるリスクのことです。
AIバブルを最大のリスクと考える割合は37%程度となっています。
前月より低下しているものの、依然としてトップです。
興味深いのは、ファンドがAI関連株や半導体株を積極的に買いながら、同時に「最大のリスクはAIバブル」と考えていることです。
つまりAI相場の上昇余地を期待しながらも、過熱している可能性を十分認識しているということになります。
AI企業の借り入れ拡大も警戒材料
AIを巡っては、もう1つ重要なリスクがあります。
AI関連企業やハイパースケーラーによる巨額の設備投資です。
データセンターやGPUへの投資には非常に大きな資金が必要です。
当初は企業が自社のキャッシュフローから設備投資を行っていても、投資額が拡大すると社債発行や借り入れによる資金調達が増えていきます。
今回の調査では、企業のバランスシートについて「レバレッジが高くなりすぎている」と見る投資家が増えていることも示されました。
企業が借金を増やしながら設備投資を続け、その投資が期待通りの利益を生まなければ、信用市場に問題が波及する可能性があります。
動画では、こうしたAIハイパースケーラーの設備投資によってクレジットイベントが発生するリスクについても言及されています。
それでもAI設備投資はまだ減らないとの見方
ただし、多くのファンドマネージャーは、すぐにAI投資が失速するとは考えていません。
71%が「2026年中にAI関連の設備投資が削減されることはない」と回答しています。
また、58%はAIが労働市場に本格的な混乱をもたらすのは早くても2028年ごろになると見ています。
つまり現時点では、AI投資拡大による成長の恩恵が続くという見方が主流です。
AIバブルを警戒しながらも、「まだバブル崩壊を心配する段階ではない」というのが現在のファンドの基本姿勢と言えそうです。
債券利回りの異常な上昇とインフレ第2波にも警戒
AIバブル以外にもリスクがあります。
2番目に多かったのが、債券利回りが通常とは異なる形で急上昇するリスクです。
割合は27%となっています。
債券利回りが急激に上昇すると、企業の資金調達コストが上昇するだけでなく、株式のバリュエーションにも大きな影響を与えます。
特にPERの高い成長株にとっては逆風となりやすい要因です。
さらに25%、つまり約4人に1人が「インフレの第2波」を警戒しています。
現在のファンドが意識している大きなリスクは、
AIバブル、金利の急上昇、インフレ再燃
という3つに集約できそうです。
ファンドは米国株と新興国株をオーバーウェイト
地域別の資産配分を見ると、ファンドは新興国市場と米国株を積極的に保有しています。
特に米国株へのオーバーウェイトはかなり高い水準です。
世界最大の株式市場である米国にはAIや半導体、大手テクノロジー企業が集中しているため、現在の成長テーマに投資しようとすると自然に米国株の比率が高くなります。
ただし、多くのファンドがすでに米国株へ投資しているということは、逆に言えばポジションが偏っているということでもあります。
何らかの悪材料が発生した場合、一斉にポジション解消が起こる可能性には注意が必要です。
8月にファンドが買ったのはエネルギー、株、コモディティ
前月との比較で見ると、8月にファンドが最も買い増したのはエネルギーでした。
続いて株式全体、コモディティとなっています。
さらに、それまで売られていた生活必需品株などにはショートカバーによる買い戻しが入りました。
テクノロジーも買い増し対象となっています。
反対にポジションを減らしたのは、工業株、ユーロ圏の債券、公益株などです。
資金の流れを見ると、株式や実物資産への強気姿勢が比較的明確に表れています。
生活必需品と一般消費財にはまだ慎重
生活必需品セクターと一般消費財セクターについては、これまでファンドがかなりアンダーウェイトしていました。
8月には一部で買い戻しが入っていますが、依然として保有比率は低い状態です。
生活必需品は一般的にディフェンシブセクターと呼ばれます。
景気が悪化しても食品や日用品などへの需要は大きく減りにくいためです。
現在、こうしたディフェンシブ株の保有比率が低いということは、ファンドが景気悪化に備えるよりも、景気拡大を前提に成長株などへ資金を振り向けていることを示しています。
ゴールドは「割安」と判断しているのに買っていない
今回の調査で興味深い資産の1つがゴールドです。
ファンドマネージャーはゴールドについて、2023年3月以来で最も割安だと判断しています。
ところが、実際にはゴールドを大きく買い増していません。
動画でも、「割安だと思っているならなぜ買わないのか」という疑問が示されています。
過去にゴールドを高値で大量に買い、その後売却したファンドが多かった可能性もあります。
現在、ゴールド価格が再び上昇しているとすれば、今後ファンドの新規資金が流入するかどうかが注目されます。
次回の調査で「最も混み合ったトレード」の上位にゴールド買いが入ってくるようであれば、新たな資金流入が始まっている可能性があります。
ファンドのポジションを逆張りする戦略も紹介
今回の調査では、現在のファンドポジションを逆手に取った「逆張り」のアイデアも紹介されています。
たとえばファンドが債券をショートしているのであれば債券を買う、コモディティをロングしているのであれば売る、テクノロジー株を買っているのであれば売る、といった考え方です。
また、米国株を売って英国株を買うなど、現在の人気ポジションと正反対の取引を行うという発想もあります。
ただし、動画でも指摘されている通り、単純にファンドと反対のポジションを取れば利益が出るというものではありません。
人気のあるトレードが長期間続くこともあります。
逆張りする場合には、「ポジションが混み合っている」という情報だけでなく、価格のトレンドや企業業績、金利なども確認する必要があります。
株に強気なのにスタグフレーションを心配する矛盾
世界経済については、ブームを予想するファンドマネージャーが増えています。
その一方で、スタグフレーションを懸念する投資家はそれほど減っていません。
スタグフレーションとは、景気停滞とインフレが同時に起こる状態です。
通常、景気が悪化すれば物価上昇は落ち着く傾向があります。
しかし物価が高止まりしたまま景気が悪化すると、中央銀行は利下げしにくくなります。
そのため株式市場にとって非常に難しい環境になります。
ファンドはスタグフレーションの可能性を警戒しながら、それでも株式を積極的に買っているわけです。
今回の調査には、このような「リスクは分かっているが、それでも株を買う」という姿勢が随所に表れています。
現在のファンドは普段よりやや多くリスクを取っている
ファンドマネージャーに対して「通常よりどの程度リスクを取っているか」と尋ねた調査では、普段よりやや積極的にリスクを取っている状態となっています。
極端なリスクテイクではないものの、明らかに守りより攻めに傾いています。
世界のセクター配分を見ると、特にオーバーウェイトされているのはテクノロジー、銀行、医薬品、コミュニケーションサービスなどです。
素材やコモディティ関連も比較的強いポジションとなっています。
一方、生活必需品、一般消費財、保険、公益株などについては保有比率を抑えています。
現在のファンドマネージャーは、景気後退に備えるディフェンシブ型のポートフォリオではなく、景気や企業利益の成長を取りに行くポートフォリオを組んでいることが分かります。
現金が少ない今、市場調整には注意が必要
今回の調査で最も重要なポイントの1つは、現金比率3.5%という数字です。
株式への配分が高いこと自体は、株価上昇局面では追い風になります。
しかし投資家がすでに十分に買っている場合、その後の買い手が不足する可能性があります。
また、8月後半から9月にかけて市場が調整しやすい局面に入った場合、ファンドがどのようにポジションを変更するかも重要です。
株式を減らして債券へ移るのか、半導体から別のセクターへ資金を移すのか、それとも引き続き株式比率を維持するのか。
現在は現金が少ないため、新しい資産を買うには既存の何かを売る必要があります。
そのため今後は、株式市場全体に新しい資金が流れ込むというより、「市場内部でのローテーション」が重要になってくる可能性があります。
半導体から次に資金が向かう先にも注目
現在、最も混み合ったトレードは依然として世界の半導体株買いです。
ただし、その割合は前月の82%から53%まで低下しました。
半導体人気そのものは続いているものの、ピーク時と比較するとポジションは減っています。
今後の注目点は、この資金がどこへ向かうのかです。
ファンドの現金比率が低い以上、新たな投資先を増やす場合には、既存のポジションを減らす必要があります。
半導体から銀行、エネルギー、コモディティへ移るのか。
あるいは再びディフェンシブ株へ戻るのか。
こうした資金移動を見ることで、市場の次のテーマが見えてくる可能性があります。
日本円ショートは今後のドル円を見る重要な材料
日本の投資家にとって特に重要なのは、今回「円ショート」が混み合った取引の2位に急浮上したことです。
これは必ずしも「今後必ず円安になる」という意味ではありません。
むしろ、多くのファンドが同じ方向へポジションを取るほど、何らかの材料をきっかけに一斉に買い戻しが起こるリスクも高まります。
円売りポジションを保有している投資家が損失回避のため円を買い戻せば、短期間で円高が進む可能性があります。
したがって、今回の調査は「ファンドが円安を予想している」という情報であると同時に、「円売りポジションが積み上がり始めている」という警戒材料として見ることもできます。
まとめ
8月のBofAファンドマネージャー調査では、世界の機関投資家がかなり強気になっていることが明らかになりました。
投資家心理は2022年以降で3番目に強気な水準となり、現金比率は3.5%まで低下しています。世界株への配分も2021年11月以来の高水準です。
背景には、56%が世界経済のノーランディングを予想し、企業利益についても2桁成長を期待する投資家が増えていることがあります。
現在のファンドは米国株、新興国株、テクノロジー、銀行、コモディティなどを積極的に保有しています。
特に「世界の半導体株買い」は依然として最も混み合ったトレードで、53%のファンドが注目しています。
そして今回、日本の投資家にとって注目すべき変化が「日本円ショート」です。
円売りが最も混み合った取引の2位に急浮上しており、世界の一部ファンドが円高よりも円安継続を見込んでいることが分かります。
一方、リスクがなくなったわけではありません。
ファンドが最も警戒しているのはAIバブルであり、そのほか債券利回りの急上昇やインフレ第2波、AI企業の借り入れ拡大なども警戒されています。
さらに現金比率が歴史的な低水準にあるため、市場が下落した際の買い余力が限られていることも注意点です。
ファンドは強気ですが、だからこそポジションの偏りには警戒する必要があります。
今後は株式市場全体の上げ下げだけを見るのではなく、半導体、銀行、エネルギー、コモディティ、ゴールド、そして日本円の間でどのような資金移動が起きるのかを見ることが重要になりそうです。
特に次回のファンドマネージャー調査で、現在の強気姿勢が維持されているのか、それとも8月後半から9月の相場変動を受けてポジションが変化しているのかが大きな注目点となります。


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