本記事は、YouTube動画『銀行はもう耐えられなくなりました。』の内容を基に構成しています。
米国の商業用不動産市場、とりわけオフィス市場を巡る不安が強まっています。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにリモートワークが定着し、オフィス需要が低下しました。そこへ急激な金利上昇が重なったことで、不動産オーナーだけでなく、融資を行っている銀行や商業用不動産担保証券を保有する投資家にも影響が広がり始めています。
動画では、これまで帳簿上の問題として先送りされてきた商業用不動産の損失が、いよいよ「実際の損失」として表面化し始めた可能性を指摘しています。
さらに問題なのは、不動産価格の下落だけではありません。
商業用不動産ローンの延滞・デフォルト、銀行の損失、長期金利、雇用、GDP、さらには米国債市場までが相互につながっているとして、2008年の金融危機との共通点にも注目しています。
米国オフィスローンの延滞が急増
動画が最初に注目しているのが、オフィス向けローンの支払い状況です。
動画内で示されたデータによると、オフィスローンの延滞・支払い不能率は約12%に達しており、2008年の金融危機後に記録したピークを上回る水準になっているとされています。
2008年のリーマン・ブラザーズ破綻直後にすべての問題が表面化したわけではありません。
動画では、商業用不動産ローンの問題がピークに達したのは金融危機から数年後だったと説明しています。
つまり、不動産市場の問題は株式市場の暴落と同時に一気に終わるのではなく、その後も長期間にわたって金融機関のバランスシートを圧迫する可能性があるということです。
商業用不動産ローンはなぜ危険になったのか
今回の問題を理解するうえで重要なのが、新型コロナ以降のオフィス市場の変化です。
コロナ禍をきっかけにリモートワークが急速に普及し、企業が必要とするオフィス面積が減少しました。
空室率が上昇すれば、当然ながらビルから得られる賃料収入も減少します。
賃料収入が減れば不動産の収益力が低下するため、物件そのものの評価額も下がります。
本来であれば、収益が減ってローンを返済できなくなった不動産は売却されたり、銀行によって差し押さえられたりすることで損失が確定します。
しかし動画では、ここ数年間、その損失が先送りされてきたと説明しています。
銀行と不動産オーナーは「金利低下」を待っていた
損失を先送りできた大きな理由の1つが、将来的な金利低下への期待です。
銀行側としても、物件を差し押さえて巨額の損失を確定させるより、ローン条件を変更したり返済期限を延長したりした方が都合がよい場合があります。
不動産オーナー側も、
「あと少し待てば金利が下がる」
「低い金利で借り換えられる」
と考えることができます。
そのため、融資条件の変更や返済期限の延長によって、問題の表面化が先送りされてきたというのが動画の見方です。
ところが動画では、その前提だった「金利低下」が崩れつつあると指摘しています。
金利上昇と不動産価格下落が同時に進む
商業用不動産にとって非常に厳しいのが、
「不動産価格が下がっているのに、借入金利は高い」
という状態です。
低金利で借りたローンの満期が来た場合、通常は新しいローンへ借り換えます。
しかし金利が大幅に上昇していれば、新しいローンの利払い負担は以前より大きくなります。
さらに物件価格が下落していれば、銀行から見た担保価値も低下しています。
場合によっては、不動産の市場価値がローン残高を下回るケースも出てきます。
こうなると、不動産オーナーが追加資金を投入してまで物件を維持する合理性が薄れ、物件を手放す選択肢が現実味を帯びてきます。
7億1200万ドルの物件が1億9500万ドルに
動画では、具体的な不動産価格下落の事例も紹介しています。
あるオフィス物件は2015年に約7億1200万ドルと評価されていたものの、現在の評価額は約1億9500万ドルまで低下したとされています。
単純計算すると約73%の下落です。
商業用不動産では、株式のように毎秒価格が更新されるわけではありません。
取引が成立しなければ、実際の市場価格が分かりにくいという特徴があります。
そのため、帳簿上の評価額と実際に売却できる価格の間に大きな差が生じる可能性があります。
動画では、銀行にとって不動産評価額を大幅に引き下げること自体が難しい事情もあると指摘しています。
評価額を下げれば、融資に対する損失を計上しなければならず、銀行自身の自己資本を傷つけるからです。
米都市部のオフィス価値はピークから大幅下落
動画では、米国の都市部にあるオフィス不動産の価値が、2022年のピークと比較してすでに約50%下落しているとのデータも紹介しています。
2022年は米連邦準備制度理事会(FRB)が本格的な金融引き締めを始めた時期です。
その後の金利上昇によって、不動産投資の採算環境は大きく変化しました。
不動産投資では一般的に、金利が高くなるほど投資家が要求する収益率も高くなります。
同じ賃料収入しか得られないのであれば、投資家は以前より安い価格でなければ物件を購入しなくなります。
これが金利上昇時に不動産価格が下がりやすくなる大きな理由です。
問題は銀行だけではない
商業用不動産ローンは、銀行が直接保有しているものだけではありません。
多くのローンは証券化され、CMBSと呼ばれる商業用不動産担保証券として投資家に販売されています。
CMBSは複数の商業用不動産ローンをまとめ、それを証券として売買できるようにした金融商品です。
動画では、銀行や保険会社などの金融機関に加え、年金などさまざまな資金を通じて商業用不動産市場への投資が行われている点を問題視しています。
ただし、ここで注意したいのは、商業用不動産に投資しているからといって、その資産すべてが同じリスクを抱えているわけではないということです。
物件の種類、立地、借り手、ローン順位、証券のトランシェなどによって損失リスクは大きく異なります。
今後満期を迎えるオフィスローンも焦点
動画では、今年から来年にかけて約640億ドルの商業用オフィスローンが満期を迎えるとしています。
さらに、そのうち約400億ドルについて、すでに支払いが滞っている、あるいは不良債権に近い状態にあると説明しています。
重要なのは、ローンが満期を迎えること自体ではありません。
問題は「借り換え」です。
以前2~3%程度の金利で借りることができたローンを、高い金利で借り換えなければならなくなれば、年間の利払い額は大幅に増加します。
さらに物件価格が下がっている場合、以前と同じ金額を銀行が貸してくれるとは限りません。
そのため満期を迎えるローンが増えるほど、問題が表面化する可能性があります。
最高格付けの商品でも巨額損失
動画がもう1つ注目しているのが、信用格付けの高い商業用不動産関連証券です。
紹介されている事例では、あるオフィス複合施設を担保とする約3億6800万ドルの不動産ローン関連証券について、2019年には物件が約4億7100万ドルと評価されていたものの、その後約7000万ドルまで評価額が下落したとしています。
下落率は約85%です。
動画では、こうした商品について最高水準の信用格付けが付与されていた点を、2008年の金融危機と重ねています。
サブプライムローン問題との共通点
2008年の金融危機では、信用力の低い借り手向け住宅ローンであるサブプライムローンが大量に証券化されました。
複数の住宅ローンをまとめて証券化し、返済順位などによって複数の「トランシェ」に分割する仕組みです。
上位トランシェには高い信用格付けが付けられることもありました。
しかし住宅価格が広範囲に下落し、住宅ローンの延滞やデフォルトが増加すると、当初想定されていた以上の損失が発生しました。
動画では、現在の商業用不動産市場でも、ローンをまとめて証券化するという構造自体には共通点があると指摘しています。
ただし、現在のCMBS市場と当時のサブプライム住宅ローン市場は、融資構造や規制環境などが同一ではありません。
そのため「同じ仕組みだから同じ金融危機になる」と単純に考えるのではなく、共通点と相違点の両方を見る必要があります。
商業用不動産価格と失業率の関係
動画では、商業用不動産価格と失業率を比較したチャートも取り上げています。
2008年の金融危機では、不動産価格が下落していく一方で、失業率が上昇しました。
商業用不動産と雇用が無関係ではないことは確かです。
企業が従業員を減らせば、必要なオフィス面積も減少します。
オフィス需要が減れば空室率が上昇し、賃料収入が低下します。
その結果、不動産価格にも下落圧力がかかります。
一方で、不動産価格が低下して銀行に損失が発生すれば、銀行の融資姿勢が厳しくなる可能性があります。
企業が資金を借りにくくなれば、設備投資や採用が減り、景気にも悪影響が及ぶことがあります。
こうした経路を通じて、
企業業績の悪化
↓
雇用減少
↓
オフィス需要減少
↓
不動産価格下落
↓
銀行損失
↓
融資縮小
↓
企業活動悪化
という悪循環が生まれる可能性があります。
商業用不動産価格とGDP
動画では、商業用不動産価格とGDPの関係についても触れています。
2008年の金融危機前には、GDPがまだ比較的堅調に推移している段階から不動産市場に弱さが現れていたと説明しています。
その後、不動産市場の悪化が進行する中で経済活動も急速に悪化しました。
動画の主張は、不動産価格が景気悪化に先行して動く可能性があるため、GDPだけを見て「経済は好調」と判断するのは危険だというものです。
もっとも、不動産価格の下落だけでGDPの将来を決められるわけではありません。
GDPは個人消費、設備投資、政府支出、輸出入など多くの要因で構成されています。
したがって、不動産価格は景気を見るための1つの指標として捉えるのが適切です。
本当に重要なのは「債券市場」なのか
動画後半では、話の中心が商業用不動産から債券市場へ移っていきます。
動画では、
「労働市場は結果として表れる指標であり、その前に債券市場が動く」
という見方を示しています。
長期国債利回りが上昇すれば、住宅ローンや企業融資、不動産ローンなど幅広い金利に上昇圧力がかかります。
特に商業用不動産は多額の借金を利用する投資が一般的であるため、長期金利の変動による影響を強く受けます。
長期金利はどこまで上がるのか
動画では、30年国債利回りが5.5%を超える水準まで上昇した状況を取り上げています。
市場では、
「6%になる」
「7%になる」
「さらに8%まで上がる」
といった強気な金利上昇予想も出ているとしています。
金利が上昇すれば、既発債券の価格は下落します。
そのため、金利上昇を予想する投資家が債券を売れば、さらに利回りが上昇する動きが起こる場合があります。
しかし動画が注目しているのは、その先です。
金融不安が強まれば長期金利は逆に下がる可能性
景気や金融システムに重大な問題が発生すると、投資家はリスクの高い資産から比較的安全と考えられる資産へ資金を移す傾向があります。
代表的な避難先の1つが米国債です。
米国債が買われれば債券価格は上昇し、利回りは低下します。
そのため動画では、
「現在は長期金利が上昇しているが、商業用不動産や銀行問題が深刻化した場合、ある時点から長期金利が急低下する可能性がある」
というシナリオを示しています。
2008年の金融危機でも、金融不安が深刻化する過程で長期金利は大きく低下しました。
金利上昇が不動産デフォルトを増やす仕組み
動画では、長期金利と商業用不動産ローンのデフォルト率を比較しています。
金利が上昇すれば、不動産オーナーの借入コストは上がります。
とくにローンの借り換え時には、その影響が一気に表面化します。
例えば、金利3%で借りていたローンを6%で借り換えることになれば、単純化すれば利払い負担は大幅に増加します。
一方、オフィス賃料が同じように増えるとは限りません。
むしろ現在のようにオフィス需要そのものが弱ければ、収益が伸びないまま借入コストだけが増えるケースも考えられます。
この状態が長く続けば、ローンを返済できない物件が増える可能性があります。
過去にも金利上昇後に金融問題が表面化
動画では、2000年前後のITバブルや2008年の金融危機前にも、金利上昇の後にローンの延滞率が上昇したパターンがあったと説明しています。
重要なのは、
「金利が上昇している最中」
よりも、その高金利によって経済や金融市場のどこかに負担が蓄積し、問題が顕在化し始める局面です。
高い金利は徐々に企業や家計、不動産市場の資金繰りを圧迫します。
そして耐えられなくなる主体が増え始めると、金融市場の見方が突然変化することがあります。
「金利低下=株高」とは限らない
一般的には金利低下は株式市場にとってプラス材料と考えられます。
しかし、なぜ金利が低下したのかが重要です。
インフレが落ち着き、景気が安定したまま金利が低下するのであれば、株式市場には好材料になりやすいでしょう。
一方、
金融危機
景気後退
銀行不安
信用収縮
などを理由に投資家が国債へ殺到し、長期金利が急低下する場合は意味がまったく異なります。
動画が警戒しているのはこちらのケースです。
つまり、「金利が下がったから株価は上がる」と単純には判断できないということです。
イールドカーブの逆転にも注目
動画の最後では、イールドカーブについても取り上げています。
通常、長期間資金を貸すほど不確実性が高くなるため、長期金利は短期金利より高くなります。
ところが、
短期金利 > 長期金利
となることがあります。
これが一般に「逆イールド」と呼ばれる状態です。
逆イールドは過去の米国景気後退に先行して発生したケースが多いため、景気を見るうえで注目される指標の1つです。
動画では、FRBが短期金利を高い水準に維持する一方、金融不安などによって長期金利が急低下した場合、再びイールドカーブの逆転が強まる可能性を指摘しています。
逆イールドが起きれば必ずリセッションになるのか
ここは注意が必要です。
逆イールドは過去の景気後退前にたびたび観測されてきたため、重要な景気指標ではあります。
しかし、
「逆イールドが発生したから必ず株価が暴落する」
「逆イールドが発生したから必ず銀行危機になる」
というものではありません。
また、逆イールドが発生してから景気後退までには時間差があります。
そのため、逆イールドそのものを売買シグナルとして単独で使うのではなく、雇用、信用市場、企業業績、不動産、銀行融資などと組み合わせて見る必要があります。
中小銀行が商業用不動産問題の焦点になる理由
米国の商業用不動産問題で特に注目されるのが、中小銀行です。
大手銀行に比べ、中小銀行は特定地域の企業や不動産オーナーへの融資比率が高い場合があります。
そのため、特定地域のオフィス価格が大きく下落すると、銀行の融資ポートフォリオにも影響が集中しやすくなります。
銀行に損失が発生すると、新しい融資に慎重になります。
融資が減少すると企業の資金調達が難しくなり、それが景気をさらに悪化させる可能性があります。
このように、
商業用不動産問題
↓
銀行損失
↓
融資姿勢の厳格化
↓
企業活動の低下
↓
雇用・景気悪化
という経路が形成される可能性があります。
動画では、この連鎖が本格化するリスクを強く警戒しています。
2008年と同じなのか
今回の商業用不動産問題を見ると、どうしても2008年のリーマンショックを連想します。
動画でも繰り返し両者を比較しています。
確かに、
不動産価格の下落
ローンの延滞増加
証券化商品の損失
金融機関への波及
という点には共通部分があります。
一方で、2008年は住宅市場全体と巨大な住宅ローン市場が金融危機の中心でした。
現在問題となっているのは、商業用不動産の中でも、とりわけオフィス市場です。
また、2008年以降は銀行の資本規制や流動性規制も強化されています。
したがって、現在の問題がそのまま2008年と同じ規模・同じ形の金融危機になると決まったわけではありません。
重要なのは「リーマンショックの再来」という言葉だけに反応するのではなく、どの金融機関がどれだけ商業用不動産リスクを抱えているのか、実際の延滞率や損失額がどう変化しているのかを確認していくことです。
今後チェックしたいポイント
今回の動画で特に重要なのは、単に「オフィス価格が下がっている」という話ではありません。
オフィスローンの満期、借り換え金利、延滞率、銀行損失、長期金利が連動している点です。
今後の市場を見るうえでは、
商業用不動産ローンの延滞・デフォルト率
オフィス物件価格
銀行の商業用不動産向け融資残高
銀行の貸倒引当金
ローン満期と借り換え状況
米10年・30年国債利回り
銀行の融資基準
失業率
イールドカーブ
などの変化が重要になってきます。
特に注意したいのは、長期金利が上昇している現在だけではありません。
もし長期金利が突然大きく低下した場合、
「金利が下がったから安心」
と考えるのではなく、
「なぜ金利が急低下しているのか」
を見る必要があります。
金融不安による国債買いが原因であれば、市場環境が大きく変化したサインである可能性もあるからです。
まとめ
今回の動画では、米国の商業用不動産、特にオフィス市場で進んでいる価格下落とローンの延滞増加について詳しく解説しています。
コロナ禍によるリモートワークの普及でオフィス需要が低下し、その後の急激な金利上昇が不動産オーナーの資金繰りを圧迫しました。
これまではローン期限の延長や条件変更によって損失を先送りできましたが、高金利が長期化すれば借り換えが難しくなり、問題が表面化する物件が増える可能性があります。
その影響は不動産オーナーだけではありません。
商業用不動産向け融資を抱える銀行、CMBSを保有する投資家、さらに銀行融資を利用する企業へ波及する可能性があります。
また動画では、現在の長期金利上昇が永遠に続くとは限らず、金融システムへの不安が高まった場合には、国債買いによって長期金利が急低下するシナリオにも注意を促しています。
重要なのは、
「2008年より悪いから必ず金融危機になる」
と結論付けることではありません。
商業用不動産ローンの延滞率、借り換え状況、銀行の損失、長期金利、イールドカーブなどに異変が出ているのかを継続的に確認することです。
商業用不動産市場は株式市場ほど日々の変化が目立ちません。
だからこそ、問題が表面化した時にはすでに長期間にわたって内部でストレスが蓄積していた、ということもあります。
今後は株価だけでなく、不動産・銀行・債券という3つの市場がどのように連動していくのかが、米国経済を見るうえで重要なポイントになりそうです。


コメント