日経平均7万円はバブルだったのか?100年の相場史から読み解く「大天井の3つのサイン」

本記事は、YouTube動画『日経平均7万円はバブルだったのか?100年の相場史から読み解く大天井の3つのサイン』の内容を基に構成しています。

日経平均株価は先月末、終値で7万2800円台という史上最高値を記録しました。日本株がついに「7万円時代」に入ったとして、市場では強気な見方が広がりました。

しかし、その後の日経平均株価は6万7000円台まで下落しています。最高値からの下落率は約7%に達しており、急速な株価上昇に乗り遅れまいとしていた投資家の間にも警戒感が広がっています。

果たして、日経平均7万円という水準はバブルだったのでしょうか。それとも、現在の下落は長期的な上昇相場の途中で起きる、ごく一般的な調整にすぎないのでしょうか。

この問題を考えるうえでは、目先の株価だけを見るのではなく、日本株が過去にどのような経緯で大天井をつけ、その後どのように下落してきたのかを確認する必要があります。

動画では、約100年分の株式市場の記録を参考にしながら、過去の大天井に共通して見られた次の3つのサインを取り上げています。

1つ目は「政策の追い風」、2つ目は「株価を評価する物差しの差し替え」、3つ目は「外国人投資家の売り抜け」です。

結論からいえば、現在の日本株市場で明確に点灯しているように見えるのは、現時点では3つのうち1つだけです。

そのため、少なくとも現在の状況を、1989年末のバブル相場最終局面と同じだと断定することはできません。

ただし、一部のAI・半導体関連株に集中していた資金が、銀行株や証券株などの出遅れ銘柄へ広がり始めている点には注意が必要です。今後の資金移動が健全なセクターローテーションで終わるのか、それとも市場全体を巻き込んだバブル的な膨張へ発展するのかが重要な分岐点になります。

目次

日経平均7万円の株高は日本株全体の上昇ではなかった

まず確認しておきたいのが、日経平均株価が6万円台から7万円台へ上昇したとき、その株高がどのような銘柄によって生み出されていたのかという点です。

日経平均が6万円から7万円へ上昇した期間では、上昇幅の約9割を、わずか10銘柄が生み出していました。

一方で、同じ期間に東証全体を幅広く反映するTOPIXの構成銘柄を見ると、半分近くの銘柄はむしろ下落していました。

つまり、日経平均が7万円を超えたからといって、日本企業全体の株価が一斉に上昇していたわけではありません。

実態としては、一部の値がさ株、とりわけAIや半導体に関連する大型株の上昇によって、日経平均という指数が大きく押し上げられていたのです。

日経平均株価は、構成銘柄の時価総額を基準に算出する指数ではありません。株価の高い銘柄ほど指数に与える影響が大きくなる「株価平均型」の指数です。

そのため、株価水準の高い一部の銘柄が急騰すると、市場全体では多くの銘柄が下落していたとしても、日経平均だけが大きく上昇することがあります。

このような日経平均と日本株全体の温度差を確認する際に使われる指標が「NT倍率」です。

NT倍率が示す日本株の極端な偏り

NT倍率とは、日経平均株価をTOPIXで割って算出する指標です。

「N」は日経平均、「T」はTOPIXを意味しています。

日経平均は一部の値がさ株の影響を強く受ける一方、TOPIXは東証に上場する企業を時価総額ベースで幅広く反映します。

そのため、半導体株やハイテク株など、日経平均への寄与度が大きい銘柄だけが上昇するとNT倍率は高くなります。反対に、株高が幅広い業種や銘柄へ広がると、TOPIXも上昇するためNT倍率は低下しやすくなります。

言い換えれば、NT倍率は、現在の株高が一握りの大型株によって作られているのか、それとも市場全体に広がっているのかを測る体温計のようなものです。

動画で紹介された時点では、NT倍率は17倍前後で推移していました。

しかし、1970年代以降の長期平均は12倍台です。過去1年間の平均と比較しても、統計的な変動幅を大きく超える水準まで上昇していました。

4月にNT倍率が16倍を超えた時点でも、すでに歴史的に見てかなり高いと指摘されていました。それにもかかわらず、6月にはさらに上昇し、最高値を更新しています。

このNT倍率の上昇は、日経平均7万円という数字が、日本企業全体の成長をそのまま表したものではないことを示しています。

日本株全体が力強く上昇しているのではなく、AIや半導体など一部の銘柄に投資資金が極端に集中し、その結果として日経平均が押し上げられていた可能性が高いのです。

ただし、株価上昇が一部の銘柄に集中しているという事実だけで、直ちにバブルと判断することはできません。

むしろ1989年のバブル相場と比較すると、熱狂が市場全体へ広がっていないことは、現時点では全面的なバブルに至っていない証拠とも考えられます。

100年の株式市場から現在地を考える

動画で日本株の長期的な歴史を考える材料として紹介されているのが、『伝説のファンドマネージャーが見た日本株式投資100年史』です。

著者は、長年にわたり証券業界と資産運用の世界で経験を積み、フィデリティでファンドマネージャーを務めた人物です。

本書には、著者自身の経験だけでなく、証券市場を知る多くの年長者から聞き取った話をもとに、日本の株式市場で約100年間に何が起きてきたのかが記録されています。

株式市場では、短期的な値動きだけを追っていると、現在起きていることが特別な現象に見えます。

しかし、100年単位で市場を振り返ると、上昇相場の熱狂、株価の正当化、政策による後押し、投資家の入れ替わり、そして暴落という現象が繰り返されてきたことが分かります。

古くから相場の世界では、「山高ければ谷深し」という言葉が使われてきました。

株価が大きく上昇し、高い山を築いた相場ほど、その後に訪れる下落の谷も深くなるという意味です。

ただし、すべての上昇相場が80%の暴落に直結するわけではありません。

相場には比較的短い周期で起きる調整と、数十年規模の大きな上昇と下落を伴う「スーパーサイクル」があります。

現在の日経平均の下落が、通常の調整なのか、それとも大きなサイクルの終わりなのかを判断するには、この違いを理解する必要があります。

日経平均6万円から7万円までの上昇を支えたAI・半導体株

日経平均株価は、約2か月弱という短期間で6万円台から7万円台へ上昇しました。

これほど急激な上昇を見ると、実体経済を無視した投機的なバブルではないかと疑うのも自然です。

しかし、現在のAI・半導体関連株の上昇には、一定の業績的な裏付けがあります。

動画では、AI・半導体関連分野の経常利益予想が、年間約6兆円から約13兆円へ膨らみ、わずか1年で2倍以上になっていると説明されています。

企業利益が増加し、その将来性に投資家が期待して株価が上昇しているのであれば、すべてが根拠のない熱狂というわけではありません。

また、日経平均株価のPERも22倍前後とされており、1989年のバブル最終局面と比べれば、極端な割高水準とはいえません。

PERとは、株価が企業の1株当たり利益の何倍まで買われているかを示す指標です。

一般的には、PERが高いほど投資家が将来の利益成長を期待していることを意味します。ただし、利益の成長以上に株価が上昇すると、PERは過度に高くなり、割高感が強まります。

現在の日経平均のPERが22倍前後であるなら、歴史的に見て安いとはいえないものの、従来の株価評価指標で説明できないほど異常な水準ではありません。

海外投資家の一部からは、日本株が世界の金融市場における「安全な避難先」と評価されているともいわれています。

日本企業の利益成長、企業統治改革、自社株買い、デフレ脱却への期待、円安による輸出企業の業績押し上げなど、複数の要因が日本株への資金流入を支えているからです。

したがって、日経平均7万円を単純に「根拠のないバブル」と決めつけることはできません。

問題は、業績の成長をどこまで株価が先取りしているのか、そして現在の期待がAI・半導体関連企業の実際の利益成長を上回っていないかという点です。

株式市場には浅い谷と深い谷がある

動画では、株式市場の歴史において、日本とアメリカで過去に3つの大きなスーパーサイクルがあったと説明されています。

1つ目は、戦前の日本株です。1920年の天井から底値まで、日本株は約80%下落しました。

2つ目は、戦後の日本株です。1989年末の日経平均最高値から、2003年の底までに約80%下落しました。

3つ目は、1929年に始まったアメリカ株の大暴落です。世界恐慌の過程で、アメリカ株は高値から約90%下落しました。

これらのスーパーサイクルでは、長期間にわたる大きな株価上昇の後、約80%から90%という極めて深い下落が起きています。

これこそが「山高ければ谷深し」を象徴する事例です。

一方で、株式市場には、より短い周期で起きる調整もあります。

おおむね10年程度の周期で起きる下落では、30%前後の下落が目安になると説明されています。

もちろん、相場は時計のように正確な10年周期で動くわけではありません。経済環境や金融政策、技術革新、世界情勢によってサイクルの長さは変わります。

特に日本株は、2013年以降、本格的な長期下落を挟まずに10年以上の上昇相場を続けています。

そのため、従来の10年周期とは異なる動きをしている可能性があります。

あるいは、現在の日本株は、2003年の底から始まった戦後2回目のスーパーサイクルの途中にあるとも考えられます。

仮に現在が長期的なスーパーサイクルの上昇局面であるなら、日経平均7万円は最終的な天井ではなく、さらに長い上昇過程の一地点にすぎないかもしれません。

反対に、すでに長期サイクルの終盤へ入っているのであれば、今後は過去の大天井と似たサインが増えていく可能性があります。

そこで重要になるのが、過去の相場の最終局面に共通していた3つのサインです。

過去の大天井に共通していた3つのサイン

100年の相場史から見えてくる大天井のサインは、次の3つです。

第1のサインは、財政政策や金融政策による強力な追い風です。

第2のサインは、従来の指標では高すぎる株価を説明できなくなり、新しい評価基準が持ち出される「物差しの差し替え」です。

第3のサインは、市場が熱狂している間に外国人投資家が保有株を減らしていく「外国人の売り抜け」です。

現在の日本株をこの3つのサインに照らしてみると、政策の追い風は確認できる一方、残る2つはまだ明確には点灯していないと考えられます。

大天井のサイン1:政策の追い風

1989年バブルを生み出した政策環境

1989年のバブル相場を振り返ると、株価上昇の起点の1つとなったのが、1985年のプラザ合意でした。

プラザ合意では、当時の過度なドル高を是正するため、主要国が協調して為替市場へ介入する方針を示しました。

その結果、急速に円高が進み、日本の輸出企業には強い逆風が吹きました。

政府と日本銀行は、円高による景気悪化を防ぐため、積極的な財政政策と金融緩和を実施しました。金利が引き下げられ、市場へ大量の資金が供給されたことで、その資金が不動産や株式へ向かいました。

低金利で資金を借りやすくなり、地価が上昇し、土地を担保にさらに借り入れを増やすという循環が生まれました。

株価と地価が互いを押し上げる形で資産価格が膨張し、日本はバブル相場の最終局面へ進んでいきました。

東証1部の時価総額は、1980年時点では約73兆円でした。

それが1985年には約182兆円、1989年には約590兆円まで膨張しました。

わずか10年足らずで、株式市場の時価総額が約8倍になった計算です。

企業業績の成長だけでは説明しにくいほど株価が上昇した背景には、財政政策と金融緩和による強力な追い風がありました。

現在も積極財政と緩和的な金融環境が続く

現在の日本でも、政策面から株式市場を支える動きが確認できます。

政府は「責任ある積極財政」を掲げ、成長が期待される戦略分野へ大規模な投資を行う方針を示しています。

動画では、戦略分野への投資規模として約370兆円、次年度予算として過去最大規模の約120兆円という数字が紹介されています。

こうした財政政策への期待から、市場では政権名を冠した「○○相場」といった言葉も使われ、財政支出が株価上昇を支えるとの見方が広がっています。

金融政策については、日本銀行が利上げを進めているものの、そのペースは緩やかです。

ここで重要なのは、名目金利だけでなく、インフレ率を差し引いた実質金利を見ることです。

実質金利は、一般的に名目金利から物価上昇率を差し引いて計算します。

仮に預金金利が1%でも、物価が3%上昇していれば、現金の実質的な購買力は年間で約2%低下します。

現在の日本では、名目金利が上昇しても、それ以上に物価が上昇しているため、実質金利は依然としてマイナス圏にあると考えられます。

現金を保有しているだけでは購買力が低下するため、投資家は株式や不動産などの資産へ資金を移しやすくなります。

つまり、日本銀行が利上げを行っていたとしても、実質的には金融環境が緩和的な状態にあるのです。

この点では、現在も政策が株価を押し上げる追い風になっているといえます。

したがって、過去の大天井に見られた第1のサインは、現在も点灯しているように見えます。

ただし、積極財政や緩和的な金融環境が存在するだけで、株式市場が直ちにバブルの天井を迎えるわけではありません。

財政支出が企業の設備投資や技術開発、生産性向上につながり、実際の利益成長を生み出すのであれば、株価上昇には合理的な根拠があります。

政策の追い風が危険な燃料へ変わるのは、企業の利益成長とは無関係に株価が上昇し、残る2つのサインも同時に現れ始めたときです。

大天井のサイン2:株価を正当化する物差しの差し替え

PERが日本市場へ導入された歴史

第2のサインは、株価を評価する「物差し」が差し替えられることです。

現在ではPERやPBRは一般的な投資指標ですが、かつての日本市場では、これらの指標が広く使われていたわけではありません。

1960年代から1970年代に外国人投資家による日本株投資が増える以前は、配当利回りなどが株価評価の中心でした。

その後、外国人投資家が日本株市場へPERという考え方を持ち込み、日本でも企業利益を基準に株価を評価する方法が普及しました。

PERは、株価を1株当たり利益で割って算出します。

例えば、1株当たり利益が100円の企業の株価が1000円なら、PERは10倍です。株価が2000円なら20倍になります。

利益が変わらないまま株価だけが上昇すれば、PERは高くなります。

動画によると、日本株市場のPERは1970年代には約10倍でした。

それが1980年には約22倍、1985年には約33倍まで上昇しました。

そしてバブル最終局面では、東証1部全体のPERが60倍から70倍に達していました。

特定の成長企業や一部の業種だけではなく、市場全体がPER60倍から70倍まで買われていたのです。

これほど高いPERになると、企業利益を基準にした従来の評価方法では株価を説明できなくなります。

そこで市場参加者は、「従来のPERでは日本企業の本当の価値を測れない」と考え、新しい指標を使って高すぎる株価を正当化し始めました。

1989年に登場したQレシオ

バブル期に注目された新しい評価指標の1つが、Qレシオです。

Qレシオは、企業の時価総額と、企業が保有する資産の価値などを比較して株価を評価する考え方です。

当時の日本では地価が急騰しており、「土地の価格は下がらない」という土地神話が広く信じられていました。

企業が保有する土地には、帳簿上の価格を大きく上回る含み益が発生していました。

そこで、企業が持つ土地の含み益を自己資本の価値に加えて考えれば、表面的には高く見える株価も実は割高ではないという説明が使われるようになりました。

従来のPERでは説明できないほど株価が上昇したため、土地価格が永遠に上がり続けることを前提に、新しい物差しで株価を正当化したのです。

しかし、土地神話が崩れ、地価が下落へ転じると、その前提も崩壊しました。

高い株価を支えていた論理が失われ、株価と地価は長期間にわたって下落しました。

このように、従来の指標では説明できない株価を正当化するため、「今回は従来の尺度が通用しない」と新しい評価方法が持ち出されることは、バブル末期に見られやすい現象です。

現在の日経平均は従来のPERで説明できる

この観点から現在の日本株を見ると、日経平均のPERは22倍前後です。

決して割安とはいえませんが、企業利益を基準とする従来の評価方法で説明できない水準ではありません。

1989年当時のように、東証全体のPERが60倍から70倍まで上昇しているわけでもありません。

また、現在のところ、「PERでは日本株の価値を測れないため、まったく別の指標で評価すべきだ」という主張が市場全体を支配しているようには見えません。

AI関連企業については、将来の市場規模やデータ量、計算需要などを使って高い株価を説明する議論もあります。

しかし、少なくとも日本株市場全体では、企業利益やキャッシュフローから完全に切り離された評価方法へ一斉に移行している状況ではありません。

そのため、第2のサインである「物差しの差し替え」は、現時点では本格的に点灯していないと判断できます。

今後、PERが大幅に上昇し始め、「利益では説明できないが、別の基準で見れば日本株は割安だ」という説明が頻繁に使われるようになった場合には、警戒が必要です。

特に、新しい技術や政策、土地、データ、利用者数などを理由に、企業利益を無視して高い株価を正当化する動きが市場全体へ広がれば、過去のバブル末期に近づいている可能性があります。

大天井のサイン3:外国人投資家の売り抜け

1989年の主役は国内企業と金融機関だった

第3のサインは、外国人投資家の売り抜けです。

1989年のバブル相場で、日本株を買い支えていた主役は、事業法人と金融機関でした。

当時は企業同士や銀行との株式持ち合いが一般的で、事業法人と金融機関を合わせると、日本株の約7割を保有していました。

個人投資家の保有比率は約2割で、外国人投資家はわずか4.2%程度でした。

この数字だけを見ると、外国人投資家はバブル相場にほとんど参加していなかったように見えます。

しかし、外国人の保有比率は以前から低かったわけではありません。

1983年には、外国人投資家の日本株保有比率は8.8%まで上昇していました。

ところが、バブルのピークとなった1989年末には、その比率がほぼ半分まで低下していました。

つまり、外国人投資家は、日本国内で株価上昇への熱狂が続いている間に、何年もかけて保有株を減らしていたことになります。

国内の企業や金融機関、個人投資家が高値を買い上げる一方、外国人投資家は静かに利益を確定していたと見ることができます。

この動きは、短期間の売買ではありません。

1983年から1989年までの数年間にわたり、外国人の保有比率が8.8%から4.2%まで低下した構造的な撤退でした。

現在の外国人投資家は一進一退

現在の外国人投資家の売買動向を見ると、1989年のような明確な売り抜けはまだ確認できません。

日経平均が最高値をつけた時期には、外国人投資家は現物株を約1兆円以上買い越していました。

ところが翌週には、一転して約1兆2000億円の売り越しとなりました。

その後、動画公開時点で最新となる7月第1週には、小幅な買い越しへ戻っています。

買い越しと売り越しを短期間で繰り返しており、現段階では方向感が定まっていない状態です。

もちろん、1週間で約1兆円規模の売買が動くこと自体は、市場にとって無視できる変化ではありません。

しかし、1989年のように、何年もかけて外国人投資家が持ち株比率を半減させるような構造的撤退とは次元が異なります。

したがって、第3のサインである「外国人投資家の売り抜け」も、現時点では本格的に点灯していないと考えられます。

ただし、直近の大幅な売り越しが、長期的な資金流出の始まりである可能性は否定できません。

今後、外国人投資家の売り越しが数週間、数か月と継続し、その売りを国内の個人投資家が買い支える構図が鮮明になった場合には注意が必要です。

特に、株価が高値を維持しているにもかかわらず外国人の保有比率が低下し続けるのであれば、過去のバブル末期と似た構造へ近づいている可能性があります。

現在点灯しているのは3つのうち1つ

ここまで、過去の大天井に共通していた3つのサインを現在の日本株へ当てはめてきました。

まず、政策の追い風については、積極財政と実質マイナス金利という緩和的な環境が続いているため、点灯していると考えられます。

一方、物差しの差し替えについては、現在の日経平均のPERは22倍前後であり、従来の利益指標で説明できる範囲です。

1989年のように、市場全体のPERが60倍から70倍へ上昇し、別の指標を使わなければ株価を正当化できない状態ではありません。

外国人投資家の売り抜けについても、直近では大幅な買い越しと売り越しが交互に見られ、方向感が定まっていません。

1980年代に見られたような、数年間にわたる構造的な持ち株削減は確認されていません。

以上から、3つのサインのうち、現在明確に点灯しているように見えるのは「政策の追い風」だけです。

そのため、日経平均7万円を1989年型バブルの最終局面と同一視するのは、現時点では適切ではないと考えられます。

1989年と現在では株高の広がり方が違う

現在の日経平均の大きな特徴は、株価上昇が一部のAI・半導体関連株へ集中していることです。

NT倍率が17倍前後まで上昇し、日経平均が大きく上昇する一方、TOPIX構成銘柄の約半数が下落していたことは、極端な偏りを示しています。

この偏りだけを見ると、現在の市場は不健全で危険だと感じるかもしれません。

しかし、1989年のバブル相場では、一部の成長株だけが買われていたのではありません。

市場全体のPERが60倍から70倍まで上昇し、業種や企業内容に関係なく、あらゆる銘柄が買われました。

企業の利益成長だけでは説明できない株価に対して、土地の含み益などの後付けの理由が使われ、ほぼ市場全体が無差別に上昇していたのです。

現在は、高い評価を受けているのが主にAI・半導体関連の一部銘柄に限られています。

一部の銘柄が極端に高いことはリスクですが、反対にいえば、熱狂がまだ市場全体の末端まで広がっていない証拠でもあります。

現在の日本株全体の株価評価は、1989年のバブル末期ほど異常な状態ではありません。

また、AI・半導体関連企業の利益予想が実際に2倍以上へ増加しているのであれば、株価上昇には一定の数字的な裏付けもあります。

したがって、現在の相場は「一部銘柄への集中が強すぎる相場」ではあっても、「日本株全体が根拠なく買われる全面バブル」とまではいえないでしょう。

「今回は違う」という言葉には注意が必要

現在の日本株を1989年型のバブル末期と断定できない一方で、投資家が油断してはいけない言葉があります。

それが「今回は違う」です。

「今回は企業業績が伴っているから、本物の上昇相場だ」

「AIは世界を根本的に変えるため、過去の技術バブルとは違う」

「日本企業は改革によって生まれ変わったため、従来のPERでは評価できない」

「外国人投資家が日本株を見直しているので、株価は長期的に上がり続ける」

このような主張の一部には、正しい内容も含まれています。

実際にAIは企業の業務や産業構造を変える可能性があり、日本企業の利益や資本効率も過去と比べて改善しているかもしれません。

しかし、「今回は違う」という言葉は、歴史上、相場の天井付近で繰り返し語られてきました。

技術や経済環境は毎回異なります。それでも、人々が将来への期待を膨らませ、株価の上昇を正当化し、リスクを軽視する心理は繰り返されます。

現在の日本株がバブルだと断定できなくても、これから過去の大天井と同じサインが増えていかないかを継続して確認する必要があります。

「今はバブルではない」という判断と、「今後も絶対にバブルにならない」という判断はまったく異なります。

セクターローテーションは健全な資金移動か

一部のAI・半導体関連株へ集中していた資金に、変化の兆しが見え始めています。

それがセクターローテーションです。

セクターローテーションとは、投資資金が、これまで上昇していた業種から、出遅れている別の業種へ移動することです。

AI・半導体関連株が下落する一方で、それまで割安に放置されていた銀行、証券、鉱業、海運などへ資金が向かい始めています。

動画では、直近1か月の業種別騰落率で、銀行、証券、鉱業、海運などが上位に入っていると説明されています。

銀行株は前月末比で10%を超えて上昇し、三菱UFJフィナンシャル・グループが時価総額上位へ復帰したことも話題となりました。

この資金移動には、2つの解釈があります。

1つ目は、健全なセクターローテーションです。

AI・半導体関連株の株価が先行して上昇した後、投資家が利益を確定し、業績改善が期待できる割安な銘柄へ資金を移しているのであれば、市場全体の上昇を持続させる動きになります。

銀行株であれば金利上昇による利ざや改善、証券株であれば株式市場の活況、海運株であれば運賃や物流需要など、業績面での根拠があります。

利益成長を伴いながら資金が幅広い業種へ広がるのであれば、相場は一部銘柄への集中から脱し、比較的健全にソフトランディングする可能性があります。

2つ目は、バブル的な全面膨張の始まりです。

業績や企業価値を十分に確認せず、「半導体株が上がりすぎたから次は銀行株」「銀行株が上がったから次は不動産株」と、理由を後付けしながらあらゆる銘柄が買われ始める場合です。

利益成長の裏付けがない企業まで無差別に上昇するようになれば、1989年型の市場全体の膨張に近づきます。

今後の日本株を見るうえでは、単に株価が上がっているか下がっているかではなく、どの業種に、どのような理由で資金が移動しているのかを確認する必要があります。

業績を伴った循環的なセクターローテーションなのか、根拠のない熱狂が広がるバブル的膨張なのか。その分岐点を見極めることが重要です。

日経平均が7%下落しても暴落とは限らない

日経平均株価が7万2800円台から6万7000円台まで下落すると、投資家は暴落の始まりではないかと不安になります。

しかし、高値から約7%の下落は、長期的な上昇相場の中では珍しいものではありません。

株式市場は一直線に上昇し続けるわけではなく、利益確定売りや投資家のポジション調整、金利変動、経済指標、海外市場の動きなどによって、定期的に5%から10%程度の下落を経験します。

特に、約2か月弱で6万円から7万円まで急上昇したのであれば、その反動として一定の調整が起きるのは自然です。

問題は、下落率そのものよりも、下落の中身です。

AI・半導体関連株だけが高い評価を修正され、出遅れ株へ資金が移っているのであれば、指数全体の調整を通じて市場の偏りが改善する可能性があります。

一方、企業業績の悪化、外国人投資家の継続的な資金流出、信用取引の投げ売り、金融政策の急激な引き締めなどが重なる場合には、通常の調整を超える下落へ発展する可能性があります。

現在の約7%下落だけで、スーパーサイクルの終わりや80%級の暴落を予測することはできません。

むしろ重要なのは、過去の大天井に共通していた3つのサインが、今後どのように変化するかを冷静に観察することです。

暴落を予測して売ることが危険な理由

株価が大きく上昇した後に下落すると、「これからさらに暴落するのではないか」と考え、保有株をすべて売りたくなる人もいるでしょう。

しかし、暴落を予測して売り向かうことには大きな危険があります。

動画では、その象徴的な事例として、岩本栄之助のエピソードが紹介されています。

岩本栄之助は、大阪市中央公会堂の建設に私財を寄付した人物として知られています。

彼は相場の下落を予測し、売り向かいました。最終的に相場が下落したという意味では、彼の方向性の判断は正しかったとされます。

しかし、下落が始まる時期を正確に当てることができませんでした。

あと2か月弱耐えることができれば、大きな利益を得られた可能性がありましたが、その前に資金が尽きてしまったのです。

この事例は、相場の方向を当てることと、投資で利益を得ることが別であると示しています。

「株価はいずれ下がる」という予想が正しくても、実際に下落が始まるまで株価がさらに上昇すれば、空売りを続けることはできません。

高値から10%上昇した後に暴落するのか、30%上昇した後に暴落するのかは、事前には分かりません。

投資家の予想より2か月遅れるだけでも、レバレッジを使っていれば資金が尽きる可能性があります。

暴落の予測は、方向だけでなく、時期、下落幅、下落速度のすべてを正確に当てる必要があります。

これはプロの投資家にとっても極めて難しい行為です。

日本株の暴落は海外から突然やってくる

日本株の歴史には、海外で発生した出来事が引き金となった暴落が数多くあります。

動画では、スターリン暴落、ケネディショック、ニクソンショック、オイルショック、リーマンショックなどが紹介されています。

これらに共通しているのは、日本国内の企業業績や株価指標だけを見ていても、発生時期を正確に予測することが難しかった点です。

海外の政治、戦争、金融危機、為替政策、資源価格の急変などがきっかけとなり、日本株が突然大きく下落してきました。

日本市場は海外投資家の売買比率が高く、世界的なリスク回避が起きると売られやすい特徴があります。

海外で金融不安が発生すれば、外国人投資家は損失を補うため、利益の出ている日本株を売却することがあります。

また、世界的な景気後退への懸念が強まれば、輸出企業の多い日本株は将来の利益減少を織り込み、急落する可能性があります。

次の暴落が何をきっかけに起きるかは分かりません。

それが金融危機なのか、地政学的な衝突なのか、AI関連企業の業績悪化なのか、政策変更なのか、事前に特定することは困難です。

しかも、原因を予測できたとしても、いつ市場が反応するかまでは分かりません。

だからこそ、個人投資家にとって重要なのは、暴落のタイミングを当てることではなく、暴落が起きても投資を続けられる状態を作っておくことです。

個人投資家はタイミングを当てにいかない

株価が史上最高値を更新すると、「今から買うのは遅い」と感じます。

反対に、株価が下落すると、「さらに下がってから買おう」と考えます。

しかし、株価がどこまで上昇し、どこから下落し、どこで底を打つのかを正確に当て続けることはできません。

高値だと思って売却した後、株価がさらに50%上昇することもあります。

暴落を待って現金を保有していても、実際に30%下落すると恐怖で買えず、株価が回復してから高値で買い戻すこともあります。

動画では、こうした市場のタイミングを当てにいかず、淡々とインデックス投資を積み立て続ける方針が示されています。

インデックス投資では、特定の企業の将来を予測するのではなく、市場全体へ分散して投資します。

定期的に一定額を積み立てれば、株価が高いときには少ない口数を、株価が安いときには多くの口数を購入できます。

これにより、感情に左右されて高値で一括購入したり、暴落時にすべて売却したりするリスクを抑えやすくなります。

ただし、インデックス投資を続ければ絶対に損をしないわけではありません。

過去の相場史を見れば、10年に1度程度は30%前後の下落が起きる可能性があります。

状況によっては40%から50%下落することもあります。

さらに、人生の中で1度は80%級の歴史的暴落を経験する可能性も完全には否定できません。

重要なのは、その可能性を事前に知り、暴落が起きても生活に支障が出ない資金で投資することです。

株価が50%下落したときに生活費が不足するような投資額では、安値で売却せざるを得なくなります。

一方、生活防衛資金を確保し、長期間使う予定のない資金で投資していれば、暴落時にも冷静さを保ちやすくなります。

暴落の存在を知ることは、悲観的になるためではありません。

実際に暴落が起きたとき、「想定外の出来事」として狼狽売りするのではなく、「長期投資では起こり得ること」と受け止めるための準備です。

今後確認したい日本株バブルのチェックリスト

現在の日本株が1989年型のバブル末期ではないとしても、今後の変化を確認する必要があります。

特に注目したいのが、過去の大天井に共通していたサインです。

まず、株価上昇を支える政策が、企業の利益成長を促す健全な政策として機能しているのか、それとも投機資金を増やすだけになっていないかを確認します。

次に、PERやPBRなどの従来の指標では株価を説明できなくなり、新しい評価方法で高値を正当化する動きが出ていないかを見ます。

「利益は少ないが、利用者数が多いから問題ない」「土地やデータを時価評価すれば割安だ」「AI時代にはPERを見る意味がない」といった議論が、市場全体へ広がる場合には警戒が必要です。

外国人投資家の売買動向も重要です。

短期的な売り越しだけで判断するのではなく、数か月から数年単位で外国人の保有比率が低下していないかを確認する必要があります。

外国人投資家が継続的に売却し、その売りを投資経験の浅い個人が買い支える状況になれば、過去のバブル末期に似た構造になります。

さらに、現在はAI・半導体関連株に集中している熱狂が、業績の裏付けを持たない出遅れ銘柄へ広がるかどうかも重要です。

市場全体のPERが急上昇し、赤字企業や成長性の低い企業まで理由なく買われ始めれば、全面的なバブルへ近づいている可能性があります。

これらは、将来の株価を断定する予言ではありません。

相場の状態を確認するためのチェックリストです。

すべての項目が同時に点灯したからといって、翌日に暴落するとは限りません。しかし、過去と似た危険な構造が形成されていることを知る材料にはなります。

「往来相場には手を出すな」が伝える意味

動画の最後では、江戸時代の相場師として知られる本間宗久の言葉が紹介されています。

それが「往来相場には手を出すな」という考え方です。

ここでいう往来相場とは、明確な方向性がなく、価格が一定の範囲を行き来する相場を指します。

目先の小さな値動きに一喜一憂して売買を繰り返すのではなく、相場全体の大きな流れ、つまり大勢を見極めることが重要だという教えです。

日経平均が今日は1000円下がった、翌日は500円上がったというニュースだけを追っていると、投資判断が感情に左右されます。

上昇した日に慌てて買い、下落した日に怖くなって売るという行動を繰り返せば、高値で買って安値で売る結果になりかねません。

重要なのは、1日や1週間の値動きではなく、企業利益、金融政策、財政政策、投資家の資金動向、市場全体の株価評価がどの方向へ進んでいるかを見ることです。

日経平均が7万円を超えたという事実も、6万7000円台まで下落したという事実も、それだけで長期相場の転換を意味するわけではありません。

短期的な価格変動よりも、100年の相場史から見える大きな構造の変化に注意を向ける必要があります。

まとめ

日経平均株価は終値で7万2800円台の史上最高値を記録した後、6万7000円台まで下落しました。

高値から約7%下落したことで、7万円台への上昇はバブルだったのではないかという不安が広がっています。

しかし、100年の株式市場の歴史を参考にすると、現在の日本株が1989年型のバブル最終局面にあるとは、現時点では断定できません。

過去の大天井には、「政策の追い風」「物差しの差し替え」「外国人投資家の売り抜け」という3つの共通したサインがありました。

現在の日本では、積極財政や実質マイナス金利という政策の追い風は確認できます。

一方で、日経平均のPERは22倍前後であり、1989年のように市場全体のPERが60倍から70倍まで上昇しているわけではありません。

高すぎる株価を正当化するため、従来とは異なる新しい物差しが市場全体で使われている状況でもありません。

外国人投資家についても、直近では買い越しと売り越しを繰り返しており、1980年代のような長期的かつ構造的な売り抜けは確認されていません。

また、日経平均7万円への上昇は、一部のAI・半導体関連株に集中していました。

これは極端な偏りとして注意すべきですが、1989年のように市場全体が無差別に買われていた状態とは異なります。

AI・半導体関連企業の利益予想も実際に増加しており、株価上昇には一定の業績的な裏付けがあります。

今後の焦点は、AI・半導体関連株から銀行、証券、鉱業、海運などへ広がっている資金移動が、健全なセクターローテーションになるかどうかです。

業績の成長を伴いながら割安株へ資金が移るのであれば、日本株市場の偏りは改善する可能性があります。

反対に、業績と無関係に出遅れ銘柄が無差別に買われ、従来の株価指標では説明できない高値を新しい理屈で正当化し始めるなら、1989年型の全面的なバブルへ近づくサインとなります。

ただし、暴落の時期を正確に予測して売買することは困難です。

相場の下落方向を正しく予測できても、時期が数か月ずれるだけで資金が尽きる可能性があります。また、日本株の大きな暴落は、海外の金融危機や政治的事件など、予測困難な外部要因によって突然起きてきました。

個人投資家に必要なのは、天井や底を当て続けることではありません。

30%、50%、場合によっては80%級の下落も起こり得ると理解したうえで、生活防衛資金を確保し、無理のない金額で分散投資を継続することです。

現在の日本株は、過去のバブル末期と同じ状態ではありません。しかし、「今回は違うから絶対に大丈夫」と油断することも危険です。

政策の追い風が過度な投機を生み出していないか、従来の指標を捨てて高値を正当化する議論が増えていないか、外国人投資家が長期的な売りへ転じていないか、市場全体へ無差別な株高が広がっていないかを継続して確認する必要があります。

目先の日経平均の上下に一喜一憂するのではなく、相場の大きな流れと市場構造の変化を見ることが重要です。

100年の相場史は、暴落の日時を教えてくれるものではありません。しかし、相場が危険な状態へ近づいたときに現れやすい兆候を知り、投資家が冷静さを保つための有力な判断材料になります。

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