本記事は、YouTube動画『【崩壊初期】AIは安売り競争に発展 半導体は限界か』の内容を基に構成しています。
生成AI市場では、これまで続いてきた「性能競争」に変化が見え始めています。AI開発企業が最新モデルの性能だけでなく、利用料金の安さや処理効率を強くアピールするようになり、競争の軸が価格へ移りつつあるためです。
価格競争が本格化すれば、企業にとってAIは導入しやすくなります。一方で、AIモデルを開発する企業にとっては、巨額の開発費やデータセンター投資を回収することが難しくなる可能性があります。
さらに、AIブームを支えてきた半導体市場でも、高価なGPUや高性能メモリーを大量に購入する従来の構造が変わり始めています。ハイパースケーラーと呼ばれる巨大IT企業は、コストを抑えるために独自半導体や用途特化型チップの開発を進めています。
動画では、こうした変化をAIバブル崩壊の初期段階として捉え、AIモデルのコモディティ化、半導体価格のピークアウト、設備投資の減速、株価暴落に備えた資産配分などについて詳しく解説しています。
AI開発競争の軸が性能から価格へ移り始めている
これまでの生成AI市場では、どの企業が最も高性能なAIモデルを開発できるかが競争の中心でした。
推論能力、文章生成能力、画像認識、プログラミング、数学、長文処理など、さまざまな分野でベンチマークの数字が比較され、わずかな性能差でも大きな注目を集めてきました。
しかし現在は、単純な性能競争だけではなく、利用料金の安さが重要な競争要素になり始めています。
動画によると、OpenAI、xAI、MetaなどのAI開発企業が相次いで最新モデルを発表していますが、各社は性能向上を訴えるだけでなく、利用コストの低さも強くアピールしています。
これは、AIを利用する企業が費用対効果を厳しく確認するようになったためです。
企業は当初、AIを積極的に使う従業員を評価し、できるだけ多くAIを利用させようとしていました。AI利用量を最大化することを重視する、いわゆる「トークンマキシング」のような動きも広がっていました。
AIを使うこと自体が先進的な取り組みと評価され、実際にどれだけ生産性や利益が改善したかについては、十分に検証されていないケースも少なくありませんでした。
ところが、企業全体のAI利用量が増えるにつれて、利用料金も膨らんでいきました。その結果、経営陣が従業員に対してAIの利用を制限するケースも出始めています。
企業にとって重要なのは、AIをどれだけ多く使ったかではありません。AIを使ったことで、売上や利益、生産性、顧客満足度などがどの程度改善したかです。
AI利用による効果が明確でないまま利用料金だけが増えれば、経営者がコスト削減を求めるのは自然な流れです。
AIモデルの性能差が縮小しコモディティ化が進む
AI開発企業が価格を重視するもう1つの理由は、モデル間の性能差が以前よりも縮小していることです。
最先端モデル同士の性能差が小さくなれば、企業は特定のAIモデルだけにこだわる必要がなくなります。複数のAIモデルを比較し、用途に応じて最も費用対効果の高いモデルへ乗り換えることが可能になります。
これはAIモデルのコモディティ化が進んでいることを示しています。
コモディティ化とは、商品やサービスの機能差が小さくなり、ブランドや性能よりも価格が重視されるようになる現象です。
例えば、文書作成、文章の要約、翻訳、社内検索、顧客対応といった日常的な業務であれば、必ずしも世界最高性能のAIモデルを使う必要はありません。
多少性能が劣っていたとしても、十分な精度があり、安く、速く、安全に利用できるのであれば、多くの企業にとってはそれで十分です。
そのため企業は、米国の大手AI企業が提供するモデルだけでなく、中国のDeepSeekなどが提供する低価格モデルも選択肢に入れ始めています。
AIモデルを選ぶ際の判断基準は、単純な性能ランキングから、価格、速度、セキュリティ、用途との相性などを総合的に比較する方向へ移っています。
用途ごとにAIを使い分けるモデルルーティングが普及
AIのコモディティ化を加速させる可能性があるのが、モデルルーティングです。
モデルルーティングとは、処理する内容に応じて複数のAIモデルを自動的に使い分ける仕組みです。
例えば、簡単な文章要約には低価格のAIモデルを使い、複雑な数学的推論や高度なプログラミングには高性能モデルを使うといった形です。
すべての処理を最高性能のモデルに任せるのではなく、業務の難易度や重要性に応じてモデルを切り替えることで、AIの利用コストを抑えられます。
今後モデルルーティングが普及すれば、企業は1社のAIモデルに依存する必要がなくなります。
高性能な米国製モデル、安価な中国製モデル、企業が独自に開発したモデルなどを組み合わせ、最も効率的な方法で業務を処理するようになると考えられます。
このような環境では、AI開発企業が顧客を自社サービスへ囲い込むことが難しくなります。
顧客が簡単に別のモデルへ切り替えられるようになれば、AI開発企業はシェアを維持するために利用料金を引き下げざるを得ません。
AI市場で航空運賃や通信料金と同じ価格競争が起きる可能性
動画では、AI業界で起きている変化を航空運賃や通信料金の競争になぞらえています。
サービスの差が小さくなるほど、顧客は価格を重視するようになります。
企業がシェアを獲得するために料金を引き下げれば、競合企業も値下げせざるを得ません。その結果、業界全体が激しい価格競争に陥ります。
価格競争が続けば、十分な資金力を持たない企業や、収益構造の弱い企業から淘汰されていきます。
最終的には、巨額の赤字や開発費に耐えられる一部の大手企業だけが生き残る可能性があります。
これは航空業界や通信業界でも見られた構造です。
市場そのものは成長しても、競争によって料金が下がり、利益を確保できない企業が撤退していきます。
AI市場でも利用者数や利用量は増えている一方で、AI開発企業が十分な利益を確保できるとは限りません。
AIへの巨額投資を正当化するには莫大なキャッシュフローが必要
AI開発には巨額の資金が必要です。
高性能なAIモデルを開発するためには、大量のGPU、データセンター、電力、ネットワーク設備、学習用データ、研究者やエンジニアなどを確保しなければなりません。
AI関連企業がこれまで行ってきた巨額投資を正当化するには、単にAIの利用量が増えるだけでは不十分です。
長期間にわたって莫大なキャッシュフローを生み出し続ける必要があります。
しかし、AIモデルの処理効率が改善すれば、同じ仕事を以前より少ないトークン数で処理できるようになります。
例えば、従来は100万トークンが必要だった仕事を50万トークンで処理できるようになれば、業務件数が2倍にならない限り、必要な計算量は増えません。
AIの普及によって利用場面が増えたとしても、モデルの効率化や料金の値下げが需要増加を相殺すれば、AI企業は設備投資に見合う売上や利益を得られない可能性があります。
AIの性能が向上するほど、少ない計算資源で同じ処理ができるようになるという矛盾もあります。
Metaのような企業はAI単体で利益を出す必要がない
AI市場の価格競争において、特に強力な立場にあるのがMetaのような巨大プラットフォーム企業です。
Metaは広告事業やSNS事業から莫大な利益を得ています。そのため、AIモデル単体で利益を出す必要はありません。
AIモデルを低価格または無料で提供し、Facebook、Instagram、WhatsAppなどのサービス全体の利用価値を高められれば十分です。
AIによって利用者の滞在時間が増えたり、広告の精度が高まったりすれば、結果として本業の広告収入を増やせます。
一方、OpenAIのようにAIモデルの販売や利用料金によって開発費を回収しなければならない企業は、値下げ競争の影響を受けやすくなります。
競合企業がAIモデルを戦略的に安く提供すれば、AIモデルそのものを主力商品とする企業は収益性を圧迫されます。
この違いは、今後のAI業界の勝者と敗者を分ける重要な要素になる可能性があります。
AIモデルが完全にコモディティ化するとは限らない
もっとも、すべてのAIモデルが完全にコモディティ化し、価格だけで選ばれるようになるとは限りません。
最高水準の推論能力、回答の信頼性、セキュリティ、企業データとの統合、開発者向けツールなどでは、依然として大きな差別化の余地があります。
企業がAIを選ぶ際には、料金だけでなく、誤った回答による損失、機密情報の漏洩、システム停止といったリスクも重視します。
特に金融、医療、法律、ソフトウェア開発などの分野では、AIの誤りが重大な損失や事故につながる可能性があります。
例えば、医療分野でAIが誤った診断情報を提示すれば、患者の健康や生命に影響しかねません。金融機関で誤ったリスク評価を行えば、巨額の損失が発生する可能性があります。
このような分野では、安さだけでなく、性能、信頼性、監査可能性、セキュリティなどが重視されます。
そのため、最高性能のAIモデルには今後も一定のプレミアム料金が維持される可能性があります。
AIの値下げは市場縮小ではなく需要拡大につながる可能性もある
AIモデルの利用料金が下がることは、必ずしもAI市場全体の縮小を意味しません。
価格が下がれば、これまで費用面からAIを導入できなかった企業や個人もAIを利用できるようになります。
文書作成、翻訳、広告制作、データ分析、プログラミング、顧客対応、教育など、あらゆる業務にAIが組み込まれる可能性があります。
利用料金の低下によってAIの利用量が爆発的に増えれば、半導体やクラウドの需要がさらに拡大することも考えられます。
これは、商品の価格が下がることで需要が増加する「価格弾力性」の問題です。
AIモデルの単価が半分になっても、利用量が3倍や4倍になれば、市場全体の売上は拡大します。
したがって、AIの価格競争が始まったからといって、すぐにAI市場そのものが衰退すると判断するのは早計です。
短期的には価格競争によって収益性が悪化し、財務体質の弱い企業が淘汰される可能性があります。しかし、その後AIが社会のさまざまな分野へ浸透すれば、生き残った少数の企業が大きな利益を得ることも考えられます。
ただし、動画ではこうした市場の成熟には10年以上かかる可能性があると指摘しています。
AIが世界を変えることと投資家が利益を得ることは別問題
AIが将来的に社会や産業を大きく変える可能性は十分にあります。
しかし、AIが世界を変えることと、AI関連株に投資した人が利益を得られることは同じではありません。
優れた技術が普及しても、企業同士の競争が激しすぎれば、株主に十分な利益が還元されない場合があります。
インターネットは世界を大きく変えましたが、ITバブル期に上場した企業の多くは倒産しました。鉄道も経済発展に大きく貢献しましたが、鉄道建設ブームの中で多くの企業や投資家が損失を出しています。
AIについても同様に、技術そのものが成功することと、現在高値で取引されているAI関連株が高い投資リターンを生み出すことは別の問題です。
投資家はAIモデルの性能だけを見るのではなく、顧客の継続率、売上高成長率、利益率、フリーキャッシュフローなどを確認する必要があります。
フリーキャッシュフローとは、企業が事業活動によって生み出した現金から、設備投資などに必要な支出を差し引いた後に残る資金です。
売上が増えていても、データセンターや半導体への投資負担が大きく、現金が残らない企業は、長期的に資金繰りが苦しくなる可能性があります。
AIバブルが崩壊した場合、財務体質の弱いAI開発企業だけでなく、AI関連株へレバレッジをかけて集中投資している投資家も大きな損失を被る可能性があります。
AI半導体価格は供給不足でもピークを迎える可能性
動画の後半では、AIバブルを支えてきた半導体株の先行きについて解説しています。
これまでAI向け半導体は、供給不足を背景に価格が上昇し続けると予想されてきました。
AI開発企業やハイパースケーラーがデータセンターを建設し、NVIDIA製GPUや高性能メモリーを大量に購入してきたためです。
しかし最近では、需要が強い状態が続いていても、半導体価格はピークに近づいているのではないかとの見方が出ています。
モルガン・スタンレーのリサ・シャレットCIOは、AIデータセンターのシステム構成が、より安価な独自半導体を採用する方向へ変化し始めていると指摘しています。
これまでのAIデータセンターでは、NVIDIA製の高価なAI半導体や高性能メモリーを大量に調達することで性能を高めてきました。
しかし、特定メーカーの部品価格や利益率が高くなりすぎれば、顧客企業は代替手段を探します。
より安価な独自半導体、用途を限定したASIC、旧世代の半導体などを組み合わせ、処理効率を高めようとします。
高価なGPUを使わない技術革新が進んでいる
半導体業界では、供給不足や価格高騰が長く続くほど、代替技術の開発が進みます。
顧客企業は高価格の半導体を受け入れ続けるのではなく、高価な半導体をできるだけ使わずに済む方法を考えます。
そして、巨大IT企業には独自の半導体を設計する資金力と技術力があります。
Google、Amazon、Microsoft、Metaなどは、自社のサービスやデータセンターに最適化した半導体の開発を進めています。
AIモデルの学習には非常に高い計算能力が必要ですが、完成したモデルを実際に動かす推論処理では、必ずしも最高性能のGPUが必要とは限りません。
そのため需要は、高価な学習用GPUから、安価で電力効率の高い独自推論用半導体へ移る可能性があります。
NVIDIA製GPUの需要が完全になくなるわけではありませんが、顧客が独自半導体を使う割合を増やせば、NVIDIAの価格決定力や利益率に影響が出る可能性があります。
HBMなどの高性能メモリーも価格決定力が続くとは限らない
AIサーバーにはGPUだけでなく、高性能メモリーも必要です。
特にHBMと呼ばれる広帯域メモリーは、AIサーバーのデータ処理速度を高める重要な部品です。
AIブームによってHBMの需要が急増し、Micron、SKハイニックス、Samsung Electronicsなどのメモリー企業に大きな利益をもたらしました。
しかし、高性能メモリーについても、短期的な供給不足が長期的な価格決定力につながるとは限りません。
顧客企業は、メモリー容量の最適化、データ圧縮技術、メモリー階層の見直し、調達先の分散などを進めています。
高価なHBMを大量に使う以外の方法が開発されれば、供給不足が解消する前に需要構造が変化する可能性もあります。
AI半導体やメモリーの需要が強いからといって、メーカーが現在の高い利益率を長期間維持できるとは限らない点には注意が必要です。
半導体株は業績が悪化する前に下落する
半導体株へ投資する際に注意しなければならないのは、企業業績に異変が現れるよりも先に株価が下落することです。
株価は現在の業績だけでなく、将来の成長期待を先取りして動きます。
現在の半導体株には、AI設備投資の継続、製品単価の上昇、高い工場稼働率、高い利益率など、複数の好材料が織り込まれています。
そのため企業の売上や利益が実際に減少しなくても、市場が期待していたほど成長しなかっただけで、株価が下落する可能性があります。
特に成長株は、PERなどの株価評価が高くなりやすいため、投資家の期待が低下した際の値下がり幅も大きくなります。
動画では、SOX指数のPERが2022年以降に約3倍へ拡大したとの指摘を紹介しています。
仮に企業業績が変わらなくても、PERが以前の水準へ戻るだけで、計算上は株価が大幅に下落する可能性があります。
例えば、PERが現在の3分の1まで低下すれば、利益が変わらない場合でも株価は約67%下落する計算になります。
受注が伸び悩んだり、利益率が頭打ちになったりすれば、投資家が一斉に将来予想を引き下げ、株価が急落するリスクがあります。
ハイパースケーラーの設備投資に減速の兆候
AI半導体株の将来を考えるうえで、特に重要なのがハイパースケーラーの設備投資です。
ハイパースケーラーとは、Microsoft、Amazon、Alphabet、Metaなど、巨大なクラウドサービスやデータセンターを運営する企業を指します。
これらの企業がAI向けデータセンターを建設し、GPU、メモリー、電力設備、冷却設備などを大量に購入することで、AI関連産業全体の需要が生まれています。
しかし、MetaがAIデータセンターの計算資源を外部企業へ貸し出す方針を示したことについて、動画では計算資源に余剰が生まれ始めている可能性を指摘しています。
データセンターを建設しすぎた結果、自社だけではすべての計算資源を使い切れず、外部へ貸し出す必要が生じている可能性があります。
これが事実であれば、AI設備投資サイクルが減速し始める初期段階と考えることもできます。
ただし、設備投資額がすぐに減少するとは限りません。
投資額そのものは増加していても、増加率が鈍化すれば、株価にとっては悪材料になります。
例えば、設備投資額が前年から50%増加していた企業が、翌年は20%増加にとどまれば、金額は増えていても成長ペースは減速しています。
高い成長率を前提に評価されているAI関連株では、このような成長率の低下だけでもPERが縮小する要因になります。
決算では業績より設備投資計画に注目
ハイパースケーラーの決算発表では、売上や1株利益だけでなく、経営陣が設備投資についてどのように説明するかが重要です。
市場予想を上回る良い決算を発表したとしても、経営陣が今後の設備投資の減速を示唆すれば、AI半導体株やデータセンター関連株が売られる可能性があります。
反対に、AI需要が引き続き強く、設備投資をさらに増やす方針が示されれば、関連株への期待が維持される可能性があります。
投資家は過去の業績だけを見るのではなく、カンファレンスコールで語られる将来の設備投資計画、GPUの調達量、データセンターの稼働率などに注目する必要があります。
暴落に備えて株をすべて売るべきなのか
動画では、将来の暴落に備えて保有株をすべて売るべきかという質問にも答えています。
結論として、暴落が予想されるからといって、株をすべて売却する必要はないとしています。
長期投資で重要なのは、暴落を正確に予想することではありません。暴落が起きたとしても市場から退場せず、資産形成を続けられる状態を作ることです。
現在の投資額が自分のリスク許容度を超えているのであれば、保有株の一部を売却し、現金比率を高めることには合理性があります。
しかし、すべての株を売却すると、暴落が起きなかった場合に値上がり益を取り逃す可能性があります。
その後、株価がさらに上昇すれば、焦って以前より高い価格で買い戻してしまうかもしれません。
また、高インフレが長期化した場合、現金の実質的な価値は低下します。
全売却は株価下落のリスクをなくす一方で、機会損失、買い戻し価格の上昇、インフレによる現金価値の低下といった別のリスクを高めます。
そのため、株をすべて売ることが必ずしも安全な選択とは限りません。
現金比率を高めること自体は合理的な戦略
すべての株を売る必要はありませんが、現金比率を高めることが悪い投資戦略というわけでもありません。
動画では、バークシャー・ハサウェイの手元資金が約4000億ドル、約64兆円に達し、保有する上場株式の時価総額約3500億ドルを上回っていると説明しています。
この数字を前提にすると、バークシャーの現金比率は約53%に達します。
これはバークシャーが必ずしも近い将来の暴落を予想しているからではなく、米国株の価格が高く、魅力的な投資先が少ないためだと考えられます。
割高な市場で無理に株を購入するのではなく、投資機会が訪れるまで現金を保有するという判断です。
現金を保有していれば、暴落時に優良資産を安く購入するための資金になります。また、景気後退や失業などが起きた場合には、生活を守る資金としても活用できます。
シラーPERから見る米国株の割高感
動画では、米国株の割高感を示す指標として、S&P500のシラーPERにも言及しています。
シラーPERとは、過去10年間のインフレ調整後利益を使って株価の割高・割安を判断する指標です。
通常のPERは直近1年間の利益を使いますが、シラーPERは10年間の平均利益を使うため、一時的な景気変動の影響を受けにくい特徴があります。
動画では、S&P500のシラーPERが42倍となり、ドットコムバブルのピークである44倍に接近していると説明しています。
PER42倍の逆数は約2.4%です。
これは現在の株価水準に対する利益利回りが約2.4%であることを意味し、歴史的に見て米国株の長期的な実質期待リターンが低くなっている可能性を示します。
ただし、シラーPERが高いからといって、すぐに株価が暴落するとは限りません。
割高な状態が数年間続くこともあります。重要なのは、現在の株価には高い成長期待が織り込まれており、期待が崩れた際の下落リスクが大きいという点です。
適切な現金比率は年齢や資産状況で異なる
現金比率を何%にすべきかについては、すべての投資家に共通する正解はありません。
年齢、資産額、収入、支出、投資経験、家族構成、リスク許容度などによって適切な配分は異なります。
動画では、20代や30代で資産額がまだ少ない場合、現金比率を0%から20%程度に抑え、残りを株式へ投資するなど、積極的にリスクを取る考え方を紹介しています。
若い世代は運用期間が長く、暴落後の回復を待つ時間があります。また、労働収入によって投資資金を追加できる可能性も高いためです。
一方で、60代以降で資産額が大きい場合は、現金比率を40%から60%、あるいはそれ以上に引き上げる選択肢もあります。
資産形成の目的が「大きく増やすこと」から「減らさずに守ること」へ変わるためです。
数億円以上の資産を持つ富裕層の場合、米国株だけに集中するリスクを避け、欧州株、新興国株、債券、金、不動産なども組み合わせることが一般的です。
AI相場崩壊の前に確認したい4つの指標
AI相場が崩れるとしたら、株価より先にどのような指標が悪化するのでしょうか。
動画では、AI相場の危険信号として、次の4つを挙げています。
- ハイパースケーラーの設備投資
- 半導体企業の受注とグロスマージン
- クレジット市場
- 株式市場の幅
ただし、これらは1つだけで判断するのではなく、複数の指標を組み合わせて確認する必要があります。
ハイパースケーラーの設備投資
最初に見るべき指標は、Microsoft、Amazon、Alphabet、Metaなどの設備投資計画です。
AI相場は、最終的なAIサービスの需要だけで成り立っているわけではありません。
データセンター建設、GPU購入、メモリー調達、冷却設備、電力設備など、設備投資の連鎖によって支えられています。
ハイパースケーラーがAI向け設備投資を減速させれば、GPU、半導体、データセンター、電力、建設など広い範囲に影響が及びます。
設備投資額だけでなく、前年同期比の成長率や、経営陣が示す将来計画にも注目する必要があります。
半導体企業の受注とグロスマージン
次に重要なのが、半導体企業の受注とグロスマージンです。
グロスマージンとは、売上高から製品の製造原価を差し引いた利益の割合で、日本語では売上総利益率と呼ばれます。
売上が増えていても、グロスマージンが低下し始めた場合は注意が必要です。
価格競争が激しくなっている、製品価格が下がっている、在庫調整が始まっている、製造コストが上昇しているといった可能性があるためです。
AI半導体企業は非常に高い成長期待を織り込まれているため、成長がわずかに鈍化しただけでも、株価が大きく反応する可能性があります。
クレジット市場と資金調達環境
3つ目はクレジット市場です。
AIデータセンターの建設には巨額の資金が必要であり、すべての企業が手元資金だけで投資できるわけではありません。
銀行融資、社債、プライベートクレジットなどを利用して資金を調達する企業もあります。
社債スプレッドが拡大したり、借入金利が上昇したりすると、成長企業やAIインフラ企業の資金調達コストが高くなります。
その結果、データセンターの建設計画が延期または中止される可能性があります。
株式市場が堅調に見えていても、クレジット市場で信用不安が広がっている場合は、景気や設備投資の先行きに注意が必要です。
株式市場の幅
4つ目は株式市場の幅です。
市場の幅とは、株価指数の上昇がどれだけ多くの銘柄によって支えられているかを示す考え方です。
S&P500やNASDAQ指数が上昇していても、実際に上昇している銘柄が一部の大型AI関連株だけであれば、市場全体の足腰は弱くなっています。
指数が上昇している一方で、上昇銘柄数が減少している場合、投資資金が少数の銘柄へ集中していることを示します。
ハイパースケーラーや半導体株など、一部のAI関連株だけが指数を押し上げている相場は、主力銘柄が売られ始めると指数全体が急落しやすくなります。
AI相場の危険信号は、設備投資が鈍化し、半導体企業のグロスマージンが低下し、資金調達環境が悪化し、上昇銘柄数が減少するときに表れやすいと考えられます。
AIバブルは2026年秋から2027年春に終わるのか
動画では最後に、今後の米国株とAI相場に関する見通しを示しています。
動画内の予想では、米国株はAnthropicのIPOが控えている秋頃までは相場を維持する可能性があるとしています。
ただし、AIバブルを支えてきた半導体株の勢いに限界が見え始めているため、秋に向けて大きく上昇するというよりも、何とか高値圏を維持する展開を想定しています。
また、過去のバブル相場はおおむね4年から4年半程度続くことが多いとの見方から、2022年10月のChatGPT公開を起点にすると、2026年秋から2027年春頃にAIバブルが終わる可能性があるとしています。
ただし、バブルの開始時点や終了時点を正確に特定することは困難です。
ChatGPTの公開をAIバブルの起点とする考え方も1つの見方にすぎず、実際の株価は金融政策、企業業績、景気、投資家心理など多数の要因によって変動します。
そのため、特定の時期に必ず暴落すると断定するのではなく、設備投資や利益率などの変化を継続的に確認する必要があります。
労働市場や個人消費、プライベートクレジットにも懸念
AI関連株以外にも、米国経済には注意すべき要素があります。
動画では、労働市場や個人消費の勢いに限界が見え始めていることや、プライベートクレジット市場で信用不安が広がっていることを指摘しています。
プライベートクレジットとは、銀行ではない投資ファンドなどが企業へ直接融資する市場です。
銀行融資より柔軟に資金を供給できる一方、情報開示が限定的で、貸出先の信用リスクが見えにくい場合があります。
景気が悪化し、借り手企業の返済能力が低下すると、プライベートクレジット市場で損失が拡大する可能性があります。
また、AIデータセンター建設を巡って、計画の遅延、延期、中止などが報告され始めれば、AI設備投資の持続性に対する懸念も強まります。
AIデータセンターは、半導体だけでなく、大量の電力、水、土地、送電設備などを必要とします。
資金調達だけでなく、電力不足、建設費の上昇、地域住民との調整、規制などが原因で計画が遅れる可能性もあります。
AIバブル崩壊時のS&P500下落予想
動画では、AIバブルが崩壊した場合、S&P500が最大50%下落する可能性を想定しています。
円建てでは最大60%下落し、底値に到達するまでの期間を1年から1年半程度と予想しています。
円建ての下落率がドル建てより大きくなると考えているのは、株価下落時に為替相場が円高方向へ動く可能性を想定しているためと考えられます。
例えば、米国株がドル建てで50%下落し、同時にドル安・円高が進めば、日本の投資家が保有する米国株の円換算価値はさらに大きく減少します。
ただし、50%や60%という下落率は動画内の予想であり、確定した未来ではありません。
暴落の規模や期間は、金融政策、景気後退の深さ、企業利益、政府の経済対策などによって大きく変わります。
投資家は特定の予想をそのまま信じて全売却するのではなく、そのような下落が起きても保有を続けられる資産配分になっているかを確認することが重要です。
次の10年は国際分散投資の時代になる可能性
動画では、AIバブル崩壊後の次の景気拡大局面について、S&P500の年間リターンが1桁台前半にとどまる一方で、欧州株や新興国株は2桁の比較的高いリターンを生み出す可能性があると予想しています。
これは、次の10年間が国際分散投資の時代になるという見方です。
米国株は過去長期間にわたって非常に高いリターンを記録してきました。その結果、米国株のバリュエーションは欧州株や新興国株より高くなっています。
一般に、株価が割安な市場ほど、将来の期待リターンが高くなる可能性があります。
ただし、欧州株や新興国株にも、景気低迷、政治リスク、通貨リスク、企業統治、地政学リスクなどがあります。
単に割安だからという理由だけで高いリターンが保証されるわけではありません。
それでも米国株だけに資産を集中させるのではなく、地域や資産クラスを分散することは、特定市場の低迷に備える方法の1つです。
まとめ
AI開発競争は、最高性能を争う段階から、価格や費用対効果を競う段階へ移り始めています。
企業はAI利用料金の増加を問題視し始めており、用途ごとに複数のAIモデルを使い分けるモデルルーティングも普及しつつあります。
AIモデル間の性能差が縮小し、顧客が簡単に別のサービスへ乗り換えられるようになれば、AI業界では激しい値下げ競争が起きる可能性があります。
AI利用量が増えても、利用料金の低下や処理効率の改善によって売上増加が相殺されれば、AI開発企業は巨額投資に見合う利益を得られません。
特にAIモデルそのものから収益を得る必要がある企業は、広告やSNSなど別の収益源を持つMetaのような企業との競争で不利になる可能性があります。
半導体市場でも、高価なGPUやHBMを大量に購入する構造が変化し始めています。
ハイパースケーラーは独自半導体、用途特化型ASIC、旧世代の半導体、データ圧縮技術などを活用し、高価な半導体への依存を減らそうとしています。
半導体企業の業績が悪化していなくても、設備投資の成長率、受注、利益率などが市場の期待を下回れば、株価評価が縮小して大幅に下落する可能性があります。
AI相場の先行きを判断するうえでは、ハイパースケーラーの設備投資、半導体企業の受注とグロスマージン、クレジット市場、市場の幅という4つの指標が重要です。
一方で、将来の暴落を警戒して株をすべて売却することが、必ずしも安全な選択とは限りません。
全売却には、値上がり益を逃す機会損失、高値で買い戻すリスク、インフレによる現金価値の低下といった問題があります。
重要なのは、暴落の時期を正確に当てることではなく、大幅な下落が起きても市場から退場せず、資産形成を続けられる現金比率とポートフォリオを作ることです。
AIが将来世界を変える可能性と、現在AI関連株へ投資した人が利益を得られるかどうかは別問題です。
投資家はAIモデルの性能や話題性だけではなく、企業の顧客継続率、売上成長率、利益率、フリーキャッシュフロー、設備投資負担を確認する必要があります。
AIの技術革新が続いたとしても、価格競争や過剰投資によって多くの企業が淘汰される可能性があります。
AIブームの成長性だけを見るのではなく、その成長が実際に株主利益へつながっているかを冷静に判断することが、これからのAI投資ではますます重要になるでしょう。


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