本記事は、YouTube動画『【敗者のゲーム著者最新刊】普通の収入でも資産8億円は可能だった。その秘密は「何もしない投資」』の内容を基に構成しています。
高収入でもなければ、金融業界で働いていたわけでもない。それでも、長い年月をかけて数億円規模の資産を築いた人物がいます。
その人物が実践していたのは、短期売買でも、将来有望な銘柄を次々と発掘する投資でもありませんでした。少ない収入から地道にお金を貯め、株式へ投資し、長期間にわたって保有し続けるという極めて単純な方法です。
こうした「何もしない投資」の合理性を説明しているのが、世界的な投資の名著『敗者のゲーム』で知られるチャールズ・エリス氏の著書『チャールズ・エリスの超長期投資入門 お金の不安を安心に変える法則』です。
本書では、現代の株式市場で個人投資家が取るべき行動が、約150ページという比較的短い分量に凝縮されています。その中心にあるのは、幅広く分散されたインデックスファンドを保有し、余計な判断や売買を減らしながら、長期で資産形成を続けるという考え方です。
普通の労働者が約6億円の資産を残した理由
2023年11月、米国の新聞で、ジェフリー・ホルトという男性の遺産に関する記事が掲載されました。
ホルト氏は、生前にトレーラーパークの管理人として働いていた人物です。決して高い給料を得ていたわけではなく、周囲から大富豪だと思われるような生活もしていませんでした。
ところが、亡くなった後に明らかになった遺産は約400万ドル、日本円に換算すると約6億円に達していました。その資産は、地域のコミュニティサービスのために寄付されたといいます。
町の人々が驚いたのは当然でしょう。高収入の経営者でも、著名な投資家でもない人物が、なぜこれほど大きな資産を築けたのかという疑問が残るからです。
しかし、その方法は意外なほど単純でした。
ホルト氏は、少ない収入からコツコツと貯蓄を続け、その資金を株式に投資していました。特別な情報を入手したわけでも、相場の底値と天井を正確に当て続けたわけでもありません。
長く働き、生活水準を抑え、株式を保有し続けた。それだけだったのです。
この事例は、資産形成において重要なのが、短期間で大きく儲ける才能ではなく、適切な行動を長く継続する力であることを示しています。
チャールズ・エリスが示すお金の3本柱
チャールズ・エリス氏は、ハーバード・ビジネス・スクールやイェール大学で資産運用について教え、世界最大級の運用会社であるバンガードの取締役も務めた人物です。
資産運用業界に大きな影響を与えてきたエリス氏は、人生におけるお金の設計を、次の3つの柱で考えています。
- 節約
- 貯蓄
- 投資
収入が多くても、支出が同じように膨らめば資産は残りません。支出を管理して貯蓄を生み出し、その貯蓄を投資へ回すことで、初めて長期的な資産形成が可能になります。
投資だけを始めても、継続的に入金する余力がなければ、大きな資産を築くのは簡単ではありません。反対に、節約と貯蓄だけでは、インフレによる現金価値の低下に対応しにくくなります。
そのため、節約、貯蓄、投資の3つを組み合わせる必要があるというのが、エリス氏の基本的な考え方です。
株式市場は50年前とはまったく異なる
エリス氏が本書で重視しているのは、毎日の株価変動やニュースよりも、株式市場の内部で起きた構造的な変化です。
過去50年間で、市場参加者の構成は大きく変わりました。
かつて市場の約90%は個人投資家だった
約50年前のニューヨーク証券取引所では、取引の約90%をアマチュアの個人投資家が占めていたとされます。
残りの約10%が機関投資家でしたが、その中心は地方銀行の信託部門でした。当時の米国では、銀行業務に関する規制の影響もあり、小規模な銀行が数多く存在していました。
地方銀行の運用担当者は、現在のヘッジファンドのように高度なデータ分析や高速取引を行っていたわけではありません。運用方法も比較的単純で、優良株を購入して長期間保有するスタイルが中心でした。
つまり当時は、高度な分析能力を持つ投資家にとって、情報量や専門知識の面で優位に立ちやすい市場だったと考えられます。
現在は市場の大部分をプロが占めている
現在では、市場取引の90%以上を機関投資家などの専門家が占めるようになったとエリス氏は説明しています。
市場の中心は、情報の少ない個人投資家から、高度な教育を受け、最新のコンピューターやデータを利用するプロの投資家へと入れ替わりました。
現在のアクティブファンドやヘッジファンドでは、優秀なアナリストやファンドマネージャーが企業を分析し、膨大な情報を基に投資判断を行っています。
そのため、現代の株式市場は、一部の優秀なプロが多数の素人を相手にする世界ではありません。優秀なプロ同士が、わずかな利益機会を奪い合う競争の場になっています。
情報格差を利用して勝つことも難しくなった
市場参加者の変化に加え、企業情報の開示ルールも大きく変わりました。
過去には、アクティブファンドのマネージャーが企業経営者と個別に面談し、一般投資家が知らない重要情報を得ることもありました。
企業幹部との人脈や特別な関係を持つ投資家は、情報面で優位に立ち、その情報を利用して高い運用成績を上げることが可能だったのです。
しかし現在では、公平な情報開示を求める規制が整備されています。
企業は、株価に影響する重要情報を一部の投資家だけに伝えるのではなく、原則としてすべての投資家に対して公平に開示しなければなりません。
これにより、特別な人脈を通じて重要情報を先に入手し、売買で利益を上げる方法は難しくなりました。
かつてアクティブ運用が得ていた超過リターンの一部は、運用能力だけではなく、情報への特別なアクセスによって生まれていた可能性があります。しかし、その優位性は制度の変化によって大幅に縮小しました。
全員が優秀になった結果、誰も簡単には勝てなくなった
運用会社同士の競争が激しくなると、成績の悪い運用会社は顧客を失い、市場から退出していきます。
一方で、生き残った会社には優秀な人材と資金が集まり、さらに高度な分析が行われるようになります。
この状態を、エリス氏はダーウィンの進化論になぞらえて説明しています。
厳しい競争の中で優れた運用会社だけが生き残った結果、市場参加者全体の平均的な能力は大きく向上しました。
優秀なアナリストを雇い、最新のテクノロジーを利用し、質の高い調査情報にアクセスすることは、現在では一部の会社だけの特権ではありません。
多くの運用会社が同程度の情報、技術、人材を持つようになっています。
その結果、「優秀であること」そのものが、他社に勝つための武器になりにくくなりました。
相手がアマチュアからプロへ変わり、情報面の優位性が規制によって小さくなり、さらにプロ同士の能力差も縮小したからです。
このような市場で、運用手数料や売買コスト、税金を差し引いた後も市場平均に勝ち続けることは、プロにとっても極めて難しくなっています。
アクティブ運用が優秀だからこそインデックスが有利になる
インデックス投資を勧める議論では、アクティブファンドの運用者が批判されることがあります。
しかしエリス氏の説明は、アクティブ運用者が無能だからインデックスファンドを選ぶべきだというものではありません。
むしろ反対です。
現代のアクティブ運用者は非常に優秀であり、その優秀なプロ同士が競争しているからこそ、誰かが継続的に市場平均を上回ることが難しくなっています。
市場全体で考えれば、投資家の運用成績の平均は、コストを差し引く前の市場平均と一致します。
しかしアクティブ運用には、調査費用、運用報酬、売買コストなどがかかります。そのため、投資家全体の平均成績は、コストを差し引いた分だけ市場平均を下回ります。
一方、インデックスファンドは、市場平均そのものに低コストで連動することを目指します。
市場に勝とうとせず、市場全体を保有することで、プロ同士の激しい競争に参加せずに、その競争の成果を受け取る仕組みです。
インデックス投資の普及に貢献した電話会社の技術者
インデックス投資が広がる過程には、興味深いエピソードがあります。
1960年代、米国の大手電話会社グループであるベル・システムでは、本社のエンジニアたちが企業年金の管理を担当していました。
グループ傘下の各地域会社にはそれぞれ年金制度があり、複数のアクティブファンドマネージャーが資産を運用していました。
エンジニアたちは、それらの運用データを確認できる立場にありました。
データを客観的に分析した結果、彼らは、自分たちが雇っているアクティブファンドマネージャーの多くが市場平均に負けていることに気づきます。
そこでベル・システムは、従来のアクティブ運用からインデックス運用へと方針を転換しました。
その結果、投資家の目的に合った運用を維持しながら、運用手数料などのコストを大幅に抑えることができました。
ベル・システムはインデックス運用を拡大し、その成果を公表するようになります。その後、ほかの年金基金も徐々に同じ方法を採用していきました。
インデックス投資の普及を実務面で後押ししたのが、金融理論の研究者ではなく、データを扱う電話会社のエンジニアだったという点は象徴的です。
先入観を持たずに数字を確認した結果、複雑な運用よりも、市場平均を低コストで保有する方が合理的だと判断したのです。
インデックス投資が増えると市場は壊れるのか
インデックス投資が普及すると、「インデックスファンドばかりになれば、株価が正しく形成されなくなるのではないか」という批判が出てきます。
市場全体の大部分がインデックス運用になれば、割高な株も割安な株も機械的に購入され、市場がゆがむのではないかという主張です。
これに対してエリス氏は、インデックスファンドの保有額ではなく、売買量を見る必要があると指摘しています。
価格を動かすのは保有量ではなく売買
インデックスファンドは、基本的に指数を構成する株式を購入し、長期間保有します。
頻繁に銘柄を入れ替えるアクティブファンドと比べると、売買回転率は非常に低くなります。
そのため、インデックスファンドの運用残高が大きくなったとしても、日々の市場取引に占める売買の割合は、それほど大きくならない可能性があります。
エリス氏によれば、仮にインデックス運用が市場の80%以上を占めるようになったとしても、個別株の価格形成に与える影響は限定的だと考えられます。
株価を実際に決めているのは、今この価格で買いたい人と売りたい人です。つまり、日々積極的に売買しているアクティブ投資家が、引き続き価格形成の中心を担います。
インデックスファンドは市場価格を利用して取引しますが、その価格を積極的に予測して決めようとはしません。
このため、インデックス投資への批判の一部は、運用残高と売買活動を混同しているとエリス氏は考えています。
市場平均は本当に「平均点」にすぎないのか
インデックス投資に対しては、「市場平均しか取れない投資だ」という批判もあります。
平均という言葉には、平凡で物足りないという印象があります。しかし長期運用では、市場平均を確実に得ること自体が非常に優れた結果になる可能性があります。
長期では上位4分の1に相当する
機関投資家は長い間、上位25%に入るファンドマネージャーを探し続けてきました。
しかしエリス氏によると、長期で見れば、幅広く分散されたインデックスファンドは、アクティブファンド全体の上位4分の1に相当する成績を残します。
さらに長期になると、上位8分の1、つまり上位12.5%に匹敵する可能性もあると説明されています。
なぜなら、運用期間が長くなるほど、高い成績を維持できないアクティブファンドが増えていくからです。
ある年に市場平均を上回るファンドがあっても、翌年以降も同じ成績を続けられるとは限りません。
運用成績が悪化して解散するファンドもあれば、担当者が交代するファンドもあります。高い手数料や頻繁な売買によるコストも、長期間にわたって運用成績を押し下げます。
一方、インデックスファンドは市場平均の位置に居続けます。
インデックスファンドの順位が積極的に上昇しているというより、周囲のアクティブファンドが長期的に脱落していくことで、相対的な順位が上がっていくのです。
長期投資ではコストと生存率が効いてくる
短期間だけを見れば、インデックスファンドより大きく上昇するアクティブファンドは存在します。
しかし投資期間が10年、20年、30年と長くなるほど、毎年発生するコストの差が複利で積み重なります。
わずか年1%のコスト差でも、数十年後には大きな資産差になる可能性があります。
また、現在好成績のファンドを選べたとしても、そのファンドが将来も存続し、同じ運用方針と成績を維持する保証はありません。
インデックス投資では、将来の勝者を事前に選ぶ必要がありません。市場全体を保有するため、現在は小さな企業であっても、将来大きく成長すれば指数内での比率が自然に高まります。
反対に、競争力を失った企業の比率は低下し、場合によっては指数から除外されます。
この仕組みにより、投資家自身が勝者と敗者を何度も判断しなくても、市場の変化をポートフォリオへ反映できます。
公的年金も総資産の一部として考える
本書では、株式や債券といった金融資産だけでなく、将来受け取る収入も含めて資産全体を考えるべきだと説明されています。
個人が持つ主な資産には、次のようなものがあります。
- 持ち家
- 公的年金を受給する権利
- 将来の労働収入から生まれる貯蓄
- 将来受け取る可能性のある遺産
- 預金や株式などの金融資産
エリス氏は、このうち公的年金や将来の安定した収入は、債券に近い性格を持つと考えています。
債券は、一定の利息や元本の返済を受ける権利を持つ資産です。同じように、公的年金も一定の条件を満たせば、老後に継続的な給付を受けられます。
つまり、証券口座で債券を購入していなくても、多くの人はすでに債券的な資産を保有していると考えられるのです。
年齢と同じ割合の債券を持つ必要はあるのか
資産配分の伝統的な考え方として、「年齢と同じ割合を債券にする」という方法があります。
例えば50歳なら資産の50%、60歳なら60%を債券で持つという考え方です。
しかしエリス氏は、金融資産だけを見て債券比率を決める方法に疑問を投げかけています。
例えば50歳の人が持ち家を所有し、退職後に公的年金を受け取る予定で、今後20年以上働いて貯蓄を続けられるとします。
この人は、すでに持ち家や年金受給権、将来の労働収入という比較的安定した資産を持っています。
それにもかかわらず、証券口座内の金融資産の半分をさらに債券へ配分すると、安全資産を過剰に持つことになる可能性があります。
総資産の中に債券的な資産が十分に含まれているのであれば、金融資産では株式の割合を高くする余地があるというのがエリス氏の主張です。
株式の比率を高め、長期間保有できれば、企業の成長と複利の効果によって、より高いリターンを期待できます。
ただし、これは誰もが債券をまったく持つ必要がないという意味ではありません。
生活費、投資期間、収入の安定性、暴落への耐性などは人によって異なります。重要なのは、証券口座だけを見るのではなく、年金や不動産、将来収入を含めた資産全体で判断することです。
年金受給権を現在価値で考える
多くの人は、自分が老後に毎月いくら年金を受け取れるかを気にします。
しかし、その年金を生涯にわたって受け取る権利が、現在の資産価値に換算するといくらになるのかまで考える人は多くありません。
本書では、米国の公的年金について、将来受け取る給付を現在価値に換算した例が紹介されています。
一定の前提を置いた場合、米国人が持つ公的年金受給権の中央値は約45万ドル、日本円では約7000万円弱に相当すると説明されています。
これは、老後に支払われる年金の合計額を単純に足した数字ではありません。
将来受け取るお金は、現在持っているお金より価値が低いと考える「現在価値」の計算を行い、さらに受給期間などを考慮した金額です。
言い換えれば、老後に継続して年金を受け取れる人は、数千万円分の債券をすでに持っているのと似た状態にあるということです。
日本の公的年金を債券的資産として試算
動画では、日本の公的年金についても、一定の仮定を置いた試算が紹介されています。
試算では、65歳から年金を受け取り、平均余命や実質割引率、マクロ経済スライドによる調整などを考慮しています。
その結果として、次のような概算が示されました。
- 国民年金を満額受給する場合:約1400万円
- 女性の平均的な厚生年金受給額の場合:約2600万円
- 男性の平均的な厚生年金受給額の場合:約3300万円
- 標準的な夫婦世帯の場合:約5600万円
これらは公的機関による正式な資産評価額ではなく、動画内で一定の条件を基に行われた簡易的な試算です。割引率、受給開始年齢、寿命、税金、社会保険料、将来の制度変更などによって結果は変化します。
それでも、公的年金を単なる毎月の収入ではなく、数千万円規模の債券的資産として捉える考え方は、資産配分を検討するうえで参考になります。
例えば、平均的な会社員が3300万円相当の年金受給権を持っていると仮定すれば、金融資産の全額を極端に安全資産へ振り向ける必要性は低くなるかもしれません。
夫婦で5600万円相当の年金受給権を持つと考えれば、老後資産全体に占める安全資産の割合は、証券口座の残高だけを見た場合よりも高くなります。
日本の公的年金はインフレ対応の要素も持つ
日本の公的年金は、一定額が永久に固定される仕組みではありません。
物価や現役世代の賃金の動きなどを基に年金額が改定されます。一方で、少子高齢化による給付と負担のバランスを調整するため、マクロ経済スライドも適用されます。
そのため、物価上昇分がそのまま完全に年金額へ反映されるとは限りません。
それでも、名目額が完全に固定された一般的な債券と比較すれば、物価や賃金の変化が一定程度反映される点で、インフレ連動債に近い性格を一部持っていると考えられます。
こうした年金受給権を総資産へ含めると、すでに数千万円規模の債券的資産を持っている人が、さらに大量の債券を購入することは、安全資産を二重に保有することになる可能性があります。
この考え方から、エリス氏は、長期運用が可能な人については、金融資産に占める株式の割合を比較的高くすることを勧めています。
成功する投資家に必要な3つの強さ
インデックス投資は、商品を購入するだけで成功できるわけではありません。
長期的な成果を得るには、暴落や過熱相場の中でも計画を守る必要があります。
エリス氏は、成功する投資家に必要な要素として、3つの強さを挙げています。
1.誘惑を前にしても長期的な視点を失わない
相場が大きく上昇すると、話題の銘柄や短期間で値上がりした資産を購入したくなります。
周囲の人が利益を上げているように見えると、自分だけが取り残されているという不安も生まれます。
しかし、そのたびに投資方針を変更していれば、割高な価格で購入し、値下がり後に売却する行動を繰り返しかねません。
長期投資家には、目の前の誘惑に反応せず、当初の目的と運用期間を思い出す強さが必要です。
2.市場の動きに一喜一憂して余計な行動をしない
株式市場では、毎日のように価格が変動します。
経済ニュースやSNSでは、「歴史的な上昇」「重大な危機」「今すぐ買うべき資産」など、投資家の感情を刺激する情報が流れます。
しかし、ニュースを見るたびに売買すると、取引コストが増えるだけでなく、感情に基づいた誤った判断をしやすくなります。
投資家が受け取る助言や、投資家自身が取る行動の多くは、利益よりも損失をもたらす場合があるとエリス氏は指摘しています。
何もしないことは、消極的な態度ではありません。
合理的な計画を立てた後、その計画を邪魔しないことも、重要な投資判断です。
3.上昇相場でも暴落相場でも計画を守る
株価が上昇しているときには、もっとリスクを取りたくなります。
反対に、暴落時には株式をすべて売却し、安全な現金へ逃げたくなります。
しかし、相場環境に合わせて感情的に資産配分を変えると、高値で買い、安値で売る結果になりかねません。
上昇相場でも暴落相場でも、事前に決めた資産配分や積立方針を守る規律が必要です。
インデックスファンドを選ぶこと自体よりも、長期間保有し続けることの方が難しいともいえます。
インデックス投資は判断の回数を減らせる
インデックス投資を選ぶ理由は、長期的な運用成績や低コストだけではありません。
投資家が判断する回数を大幅に減らせることも大きな利点です。
投資判断の回数が増えれば、その中に誤った判断が含まれる可能性も高くなります。
個別株投資では、どの企業を買うのか、いつ買うのか、いつ売るのか、決算後に保有を続けるのかなど、何度も判断する必要があります。
一方、幅広く分散されたインデックスファンドを長期保有する場合、主な判断は、資産配分、積立額、リスク許容度などに限られます。
エリス氏は、建築家ミース・ファン・デル・ローエの「少ないことは豊かなこと」という考え方が、投資にも当てはまるとしています。
余計な商品や戦略を追加せず、意思決定を少なくすることで、重大なミスを減らせます。
投資の見直しは3年に1回程度でもよい
エリス氏は、投資について頻繁に悩む必要はなく、生涯にわたって3年に1回程度見直せばよいという趣旨の考え方を示しています。
仮に60年間投資を続けるとしても、重要な見直しは約20回です。
もちろん、収入の急減、結婚、離婚、住宅購入、退職、相続など、人生に大きな変化があれば、その時点で資産配分を見直す必要があります。
しかし、毎日の株価変動や短期的な経済ニュースだけを理由に、投資計画を変更する必要はありません。
ウォーレン・バフェット氏も、人生で使える投資判断の回数が20回しかないパンチカードを持っていると考えれば、1回ごとの判断を慎重に行うようになるという趣旨の話をしています。
投資判断を20回程度に絞る意識を持てば、目先のニュースに振り回されにくくなります。
大切なのは、常に正しい判断をすることではありません。人生を左右するような重大な誤りを避け、合理的な判断を長期間守ることです。
「何もしない投資」は本当に何もしないわけではない
インデックス投資は、しばしば「何もしない投資」と表現されます。
ただし、実際には完全に何もしないわけではありません。
最初に幅広く分散された低コストの商品を選び、自分の生活に合った積立額を決め、株価下落時にも続けられる資産配分を設定する必要があります。
その後も、収入や家族構成、年齢、生活費などが大きく変わったときには、計画を見直さなければなりません。
それでも、日々のニュースに反応して銘柄を入れ替えたり、相場を予測して売買を繰り返したりする必要はありません。
「何もしない」とは、無関心でいることではなく、必要な判断をした後に、不必要な行動をしないという意味です。
幅広く分散されたインデックスを選ぶ重要性
近年は、インデックスという名前が付いていても、特定の業種、テーマ、地域、少数の銘柄に集中した商品が増えています。
AI、半導体、クリーンエネルギー、高配当株など、特定のテーマに連動する指数も存在します。
これらの商品はルールに基づいて運用されるため、形式上はインデックスファンドです。
しかし、チャールズ・エリス氏が推奨するのは、狭いテーマへ集中した指数ではなく、幅広く分散されたインデックスです。
特定分野へ集中すると、その分野が成長した場合には大きな利益を得られる可能性があります。一方で、予想が外れた場合や市場の人気が変化した場合には、大きく値下がりするリスクもあります。
市場全体へ広く分散する方法であれば、将来どの企業や業種が成長するかを事前に予測する必要がありません。
現在の人気企業に集中するのではなく、未来の勝者が市場の中から自然に成長してくるのを待てます。
資産形成を左右するのは才能より時間
冒頭で紹介したジェフリー・ホルト氏は、トレーラーパークの管理人として働きながら、約6億円規模の資産を残しました。
彼が特別な投資理論を開発したわけでも、金融市場の情報を誰よりも早く入手していたわけでもないでしょう。
持っていたのは、少ない収入から貯蓄を続ける習慣と、株式を長期間保有する忍耐力でした。
投資では、短期的に大きな利益を上げた人が注目されます。
しかし、本当に大きな資産を築くうえでは、年間の運用成績だけでなく、何年間投資を続けられるかが重要です。
資産が小さい初期段階では、運用益も小さく、資産形成が進んでいないように感じます。
しかし、積立と運用を長く続けると、それまでに得た利益が新たな利益を生む複利の効果が大きくなります。
この複利の効果を得るには、時間が必要です。そして長い時間を投資に使うためには、途中で資産を売却せず、市場に居続けなければなりません。
ホルト氏が持っていた最大の武器は、相場を読む能力ではなく、自分の投資を何十年間も邪魔しなかったことだったと考えられます。
まとめ
チャールズ・エリス氏の『超長期投資入門』が伝えているのは、複雑な投資戦略ではありません。
現代の株式市場では、優秀なプロが最新の情報と技術を使って競争しています。そのため、個人投資家が継続的に市場平均を上回ることは簡単ではありません。
だからこそ、幅広く分散された低コストのインデックスファンドを保有し、長期間にわたって市場全体の成長を受け取る方法が合理的になります。
市場平均は平凡な成績に見えますが、運用期間が長くなるほど、コストの低さとファンドの生存率が効いてきます。結果として、長期のインデックス投資はアクティブファンド全体の上位に位置する可能性があります。
また、資産配分を考える際には、証券口座の資産だけを見るのではなく、公的年金、持ち家、将来収入などを含めた総資産で考えることが重要です。
公的年金を債券的な資産として捉えれば、長期運用が可能な人は、金融資産の中で株式を比較的多く保有できる場合があります。
そして最も重要なのは、相場の上昇や暴落に一喜一憂せず、不要な判断を減らすことです。
投資の成功は、毎日正しい予測をすることで決まるわけではありません。
節約し、貯蓄し、幅広く分散された資産へ投資する。そして、数十年間その仕組みを壊さないことです。
普通の収入から大きな資産を築く秘密は、頻繁に何かをすることではなく、正しい仕組みをつくった後に、余計なことをしないことにあるのです。


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