本記事は、YouTube動画『最近のNISAに関する話題』の内容を基に構成しています。
NISAをめぐる動きが再び活発になっています。
2027年1月からは、0歳から17歳までを対象とする「こどもNISA」が始まる予定で、年間60万円、非課税保有限度額600万円という枠組みが示されています。楽天証券などでは2026年10月から口座開設の受付を始める動きも出ています。
さらに、日本国債をNISAの対象に含めることについても議論されています。
こうした中で改めて考えておきたいのが、「なぜ政府はこれほど『貯蓄から投資へ』を進めているのか」という点です。
NISAは投資による利益が非課税になる制度であり、個人にとって資産形成の選択肢が広がるというメリットがあります。一方で、制度が拡充されてきた背景を理解するには、日本の金融システムがどのように変化してきたのかを見る必要があります。
NISAは「少額投資非課税制度」
NISAは、株式や投資信託などから得られる売却益や配当・分配金を一定の条件のもとで非課税にする制度です。
金融庁によれば、NISAは2014年1月にスタートした「少額投資非課税制度」で、英国のISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルとして作られました。
通常、株式や投資信託によって得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座で得られた対象商品の利益については非課税となります。
そのため、個人の資産形成という観点では非常に分かりやすいメリットがあります。
ただし動画では、NISAそのものの良し悪しだけではなく、その背景にある「貯蓄から投資へ」という政策について考えることが重要だと指摘しています。
「貯蓄から投資へ」は日本経済のためなのか
「貯蓄から投資へ」を説明するとき、しばしば次のような説明が行われます。
銀行預金としてお金を貯め込むのではなく、株式などへの投資に回すことで企業に資金が供給され、経済が活性化するという考え方です。
一見すると分かりやすい説明ですが、動画では、これだけでは金融の仕組みを正確に説明しているとは言えないとしています。
なぜなら、銀行に預金したお金も経済から消えるわけではないからです。
ここで理解しておきたいのが、「直接金融」と「間接金融」の違いです。
直接金融と間接金融の違い
直接金融とは
直接金融とは、資金を持っている個人などが、株式や債券などを通じて企業などに直接資金を提供する仕組みです。
例えば、企業が発行した株式を個人投資家が購入すれば、その企業は市場を通じて資金を調達できます。
投資家は株価下落や企業倒産などのリスクを負う代わりに、値上がり益や配当などを得られる可能性があります。
間接金融とは
一方の間接金融では、個人が銀行に預金し、銀行が集めた資金を企業などに融資します。
個人から企業へ直接お金が流れるのではなく、銀行という金融機関が間に入るため「間接金融」と呼ばれます。
つまり、
「預金=経済にお金が回らない」
というわけではありません。
預金された資金を銀行が企業に貸し出せば、その資金は設備投資や事業拡大などに使われます。
戦後の日本では「預金すること」が推奨されていた
現在は「貯蓄から投資へ」が盛んに呼びかけられていますが、戦後の日本ではむしろ逆でした。
動画では、戦後復興期には国民から預金を集め、銀行を通じて企業に資金を供給する仕組みが重視されていたと説明しています。
その象徴として紹介されているのが、学校などで行われた「子供銀行」です。
子供のうちから貯蓄の習慣を身につけさせるとともに、社会全体として預金を増やしていこうという考え方がありました。
集められた預金を背景として銀行が企業に融資し、製造業などの設備投資を支えるという金融システムが、日本の高度経済成長を支える仕組みの1つとなりました。
つまり当時は、
「預金することが日本経済の発展につながる」
という考え方が広く共有されていたわけです。
現在の「預金ではなく投資へ」という方向とは大きく異なります。
なぜ「貯蓄から投資へ」に変わったのか
動画では、大きな転換点の1つとして1990年代のバブル崩壊を挙げています。
バブル経済が崩壊すると、日本の銀行は大量の不良債権を抱えることになりました。
融資した企業や不動産関連事業者などが返済できなくなり、銀行自身が巨額の損失を抱えたためです。
それまでの日本では、銀行が預金を集め、その資金を企業へ積極的に融資する金融システムが機能していました。
しかし銀行が大量の不良債権を抱えるようになると、以前のように積極的な融資を行いにくくなります。
金融機関が過度なリスクを抱えれば、銀行そのものの経営が悪化し、場合によっては金融システム全体に問題が波及します。
1990年代後半には、日本でも金融機関の経営破綻が相次ぎ、金融システムの安定が大きな政策課題となりました。
個人投資家がリスクマネーの担い手になる
そこで徐々に重要性を増したのが、銀行だけに企業金融を依存するのではなく、株式市場や債券市場などを通じて資金を供給する直接金融です。
個人が株式や投資信託などを購入することで、資本市場に資金が流れる仕組みを拡大しようという考え方です。
動画では、この変化について「銀行に代わって個人にもリスクを取ってもらう方向へ金融政策が変化した」と説明しています。
ただし、これを単純に「銀行が個人へリスクを押し付けた」と断定するのは適切ではありません。
実際には、銀行中心だった日本の金融システムを多様化し、企業の資金調達手段を増やすことや、家計の資産形成を促すことなど、複数の政策目的が「貯蓄から投資へ」の背景にあります。
重要なのは、金融システムの変化によって、家計自身が市場リスクを負う場面が増えてきたという点です。
銀行が損失を抱える場合と個人が損失を抱える場合
動画で特に強調されているのが、金融機関と個人投資家では、損失が社会に与える影響が異なるという点です。
銀行が巨額の損失を抱えると、預金者や企業融資にも影響が広がり、金融システム全体の問題につながる可能性があります。
実際、金融危機では銀行の破綻を防ぐために公的資金が投入されるケースがあります。
一方、個人が株式投資で損失を出しても、通常はその投資家自身の損失として処理されます。
もちろん多くの家計が同時に巨額の損失を抱えれば消費などを通じて経済に影響する可能性はありますが、銀行破綻とは波及経路が異なります。
こうした金融システム上のリスク分散という観点からも、直接金融を拡大する意味があります。
「預金が善」「投資が善」と単純化しないことが重要
ここで動画が問題提起しているのが、その時代によって金融政策上推奨される行動が変化しているということです。
戦後には「貯蓄しましょう」と言われ、現在では「貯蓄から投資へ」と言われています。
しかし、これは預金そのものが悪くなったわけでも、投資そのものが絶対的に正しくなったわけでもありません。
経済環境や金融システム、政策上の課題が変化した結果、重視される金融行動も変化してきたと考える方が自然です。
個人にとって重要なのは、
「政府が推奨しているから投資する」
「みんながNISAをやっているから投資する」
という判断ではなく、自分の資産状況、年齢、収入、将来必要になる資金、そしてどの程度の損失まで許容できるのかを考えることです。
金融リテラシーは金融商品を知ることだけではない
動画では、「金融リテラシー」という言葉についても問題提起しています。
一般的な金融教育では、
株式とは何か
投資信託とは何か
NISAとは何か
長期・積立・分散とは何か
といった金融商品の知識が中心になりがちです。
もちろん、これらも重要です。
しかし動画では、それだけでは十分ではなく、直接金融と間接金融の違いや、なぜ国によって金融システムが異なるのか、なぜ日本が銀行中心の金融から資本市場を重視する方向へ変化してきたのかといった背景まで理解することが重要だとしています。
金融商品そのものだけでなく、「なぜその制度が存在するのか」という視点を持つことも金融リテラシーの一部だという考え方です。
国債をNISAの対象にする議論も浮上
現在、新たな動きとして注目されているのが、日本国債をNISAの対象に加える議論です。
2026年時点では、日本銀行による国債買い入れが以前より縮小する中、政府が家計資産を国債市場の新たな買い手として取り込むことを模索していると報じられています。個人向け国債をNISAの対象とする案も検討対象の1つとされています。
資産運用業界でも、債券をNISAの対象にすることについて議論が行われています。
国債は株式とは性格が大きく異なります。
国債にも金利変動などのリスクはありますが、日本国政府が発行する債券であり、一般的な株式と比較すれば値動きや信用リスクの性格は大きく異なります。
特に個人向け国債は、長期的な資産形成というより、安全性を重視した資金の置き場所として利用する人も多い金融商品です。
そのため、国債までNISAの対象とした場合、「預金から株式などのリスク資産へ」という従来の政策メッセージとは少し性格が変わる可能性があります。
なぜ国債を個人に買ってもらいたいのか
動画では、国債をNISAの対象にする議論の背景として、国債市場の構造変化を挙げています。
日本銀行は長年、大規模な金融緩和の一環として大量の国債を購入してきました。
しかし金融政策の正常化が進めば、日銀による国債買い入れへの依存度を下げていく必要があります。
その場合、金融機関、機関投資家、海外投資家、個人など、日銀以外の買い手がより重要になります。
Reutersも、日本政府が家計の巨額な金融資産を新たな国債需要につなげようとしていると報じています。
こうした状況を踏まえると、個人が国債を購入しやすい環境を整えることには、家計の資産形成だけでなく国債市場の安定という政策上の側面もあります。
英国ISAでは預金や国債も対象
日本のNISAを考えるうえで興味深いのが、モデルとなった英国のISAです。
ISAは「Individual Savings Account」、日本語では「個人貯蓄口座」という意味です。
英国政府によると、現在のISAにはCash ISA、Stocks and Shares ISA、Innovative Finance ISA、Lifetime ISAなどがあります。Cash ISAでは銀行などへの預金を非課税で保有でき、Stocks and Shares ISAでは株式や投資信託だけでなく、社債や国債も対象になっています。
つまり英国のISAは、必ずしも「株式投資を促進する制度」だけではありません。
預金、株式、投資信託、債券などを含め、幅広い方法で個人の資産形成を支援する制度になっています。
一方、日本のNISAの正式名称は「少額投資非課税制度」で、現在は投資商品を中心とした制度設計です。
この点では、日本と英国では制度の性格に違いがあります。
国債が加わればNISAの役割も変化する可能性
もし日本のNISAでも国債の対象範囲が広がれば、NISAの位置付けは少し変わる可能性があります。
これまでは株式や投資信託を中心として、
「預貯金から投資へ」
という政策との結びつきが強い制度でした。
そこに比較的値動きの小さい債券や国債が加われば、
「投資を促進する制度」
から、
「さまざまな金融商品を使って家計の資産形成を支える制度」
という性格が強くなることも考えられます。
英国ISAの考え方には、むしろこちらの方が近いとも言えます。
こどもNISAも2027年1月からスタート予定
NISAをめぐるもう1つの大きな変化が「こどもNISA」です。
2027年1月から0歳~17歳の未成年者を対象とした制度が始まる予定で、年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円とされています。
これは現在のNISAの「つみたて投資枠」を未成年にも広げる仕組みです。
教育費など将来必要になる資金を長期間かけて準備する選択肢の1つになる可能性があります。
一方で、投資信託には価格変動リスクがあります。
子どものための資金だからといって必ず投資を選ぶ必要があるわけではなく、預金、保険、国債、投資信託など、それぞれの性格を理解したうえで組み合わせることが重要です。
制度の背景を理解したうえで自分で判断する
NISAは、運用益が非課税になるという点では個人にとって利用価値のある制度です。
しかし動画が強調しているのは、「NISAが良いか悪いか」という二択ではありません。
重要なのは、なぜ日本でNISAが作られ、なぜ「貯蓄から投資へ」が進められ、そして現在なぜ国債までNISAの対象として議論されるようになっているのか、その背景まで理解することです。
かつて日本では、銀行預金を増やし、銀行から企業へ資金を供給する間接金融が経済成長を支えました。
その後、バブル崩壊や不良債権問題などを経験し、銀行だけに依存しない金融システムが求められるようになりました。
現在は直接金融を拡大し、家計の資産を資本市場へ振り向ける政策が続いています。
そして今後は、日銀による国債買い入れが縮小する中で、個人投資家が国債の買い手としてより重要になる可能性もあります。
まとめ
NISAを理解するとき、非課税枠や対象商品だけを見るのではなく、日本の金融政策や金融システムの歴史まで見ると制度の位置付けが分かりやすくなります。
戦後の日本では「預金を増やして銀行から企業へ資金を供給する」という考え方が重視されました。その後、バブル崩壊や不良債権問題などを経て、銀行中心の間接金融だけでなく、株式市場などを利用した直接金融の重要性が高まりました。
その流れの中に「貯蓄から投資へ」やNISAがあります。
一方、現在はこどもNISAの開始や、国債をNISAの対象に加える議論など、制度の役割そのものがさらに広がろうとしています。
政府や金融機関が投資を推奨しているからといって、すべての人が同じリスクを取る必要はありません。
自分の年齢、収入、生活防衛資金、将来必要になるお金、リスク許容度などを踏まえて、預金、国債、株式、投資信託などをどう組み合わせるのかを自分自身で判断することが重要です。
そして、その判断を行うためには金融商品の特徴だけでなく、「なぜ現在の金融制度がこの形になっているのか」という背景まで理解することが、本当の意味での金融リテラシーにつながると言えるでしょう。


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