インドは世界一の経済大国になるのか?ムンバイの行政問題から読み解くインド株の将来性

本記事は、YouTube動画『インドが世界一の経済大国になるかもしれない可能性』の内容を基に構成しています。

インドは、世界最大の人口を抱える国として長期的な経済成長が期待されています。数年前には「次の中国」と呼ばれ、新NISAの開始とともにインド株ファンドへ投資する人も増えました。

しかし、直近のインド株はS&P500などの先進国株に比べて振るわず、日本で販売されているインド株ファンドの中には基準価額が下落した商品もあります。そのため、「インド株ではなくS&P500を買っておけばよかった」「インド投資はもう終わったのではないか」と感じている投資家も少なくありません。

動画では、こうした短期的な値動きだけでインドの将来性を判断するのではなく、5年から20年という長期的な視点からインド経済を分析しています。

その中心となるのが、インド最大の経済都市ムンバイが抱える行政とガバナンスの問題です。

目次

インド株は本当に期待外れだったのか

インド株が注目された背景には、高い経済成長率があります。

世界経済の平均成長率が2%前後で推移するなか、インド経済は一時7%を超える成長率を記録しました。新NISAの買付ランキングでも、インドの代表的な株価指数であるNIFTY50やSENSEXに連動する商品が上位に入ることがありました。

しかし、その後の株価パフォーマンスではS&P500との差が広がりました。動画では、比較する期間によっては約40%の差がついたと説明されています。

短期的な成績だけを見れば、インド株に投資した人が失望するのも無理はありません。

一方で、投資対象を評価する際には、どの期間を基準にするかが重要です。

動画で紹介されたデータによると、2005年10月末から2025年10月末までの20年間で、インドの代表的な株価指数であるNIFTY50は、配当込みかつ円換算で約11倍になっています。

同じ期間で比較すると、S&P500や全世界株式指数を上回る結果になったとされています。

つまり、インド株は「直近2年間では負けているものの、20年間では高いリターンを残している」という、評価期間によって印象が大きく変わる投資対象なのです。

短期成績で長期投資を評価する危険性

インド株に投資した人の多くは、インドが今後10年、20年と成長することを期待して商品を購入したはずです。

それにもかかわらず、わずか2年程度の成績を見て「インド株は失敗だった」と判断してしまえば、投資を始めたときの時間軸と、評価に使う時間軸が一致していません。

動画では、この状態を「20年後に開ける約束の福袋を翌月に開けて、中身が少ないと文句を言うようなもの」と表現しています。

もちろん、長期投資だから無条件に持ち続ければよいという意味ではありません。

重要なのは、自分が何年間の投資をしているのかを最初に決め、その期間に合った材料で投資対象を評価することです。

20年間保有するつもりだったものの、実際にはそこまで待てないと気づいたのであれば、売却して別の投資先を探す選択肢もあります。

問題は、時間軸を決めないまま購入し、短期的なニュースや株価変動に振り回されることです。

インド経済を支える人口増加と製造業の移転

インドの長期的な成長が期待される大きな理由の1つが人口です。

インドの人口は中国を上回り、世界最大となりました。若い世代が多く、今後も労働人口と消費人口の拡大が期待されています。

また、世界の企業が製造拠点を中国からインドへ移す動きも進んでいます。

動画では、AppleがiPhoneの生産を中国からインドへ段階的に移しており、世界で生産されるiPhoneの約25%がインド製になっていると紹介されています。

世界的な企業が主力商品の製造をインドへ移していることは、単に人件費が安いだけではなく、インドの製造技術や供給網が一定の水準まで成長していることを示しています。

しかし、人口が増え、工場が建ち、GDPが伸びれば、必ず株価も上昇するとは限りません。

経済成長によって生まれた利益が、無駄なく企業や株主へ届く仕組みが必要だからです。

インドの将来を左右するムンバイ市役所

動画では、インドの本当の成長力を測る事例として、ムンバイの市役所が取り上げられています。

ムンバイの行政を担当するのは、通称BMCと呼ばれるブリハンムンバイ市行政機関です。

BMCは非常に豊かな地方自治体であり、使わずに積み上げられた準備金は日本円換算で約1.4兆円に達するとされています。定期預金の利息だけでも、毎年約370億円が入ってくる規模です。

日本の大都市の年間予算に匹敵するほどの資金を、通常の予算とは別に保有していることになります。

ところが、ムンバイの道路には多くの穴があり、雨季になると道路が冠水します。建物の崩壊事故も発生し、金融都市としての急速な発展にインフラ整備が追いついていません。

なぜ約1.4兆円もの資金を持つ自治体が、道路の穴や排水設備を十分に改善できないのでしょうか。

この問題は、単純に資金が横領されているという話だけでは説明できません。

動画では、原因を「漏れバケツ理論」で説明しています。

経済成長の果実を失わせる「漏れバケツ理論」

家の屋根を修理する場合、通常は複数の業者から見積もりを取り、契約書を交わし、工事が終わった後に第三者が品質を確認します。

行政の公共工事でも基本的な考え方は同じです。

必要となるのは、主に次の3つです。

  • 複数の業者を比較する入札
  • 工事内容や責任を明確にする契約書
  • 工事の品質と数量を確認する第三者監査

しかし、これらの仕組みが存在しなければ、業者は手抜き工事をしても責任を問われにくくなります。

契約書がなければ、自治体は工事が行われなかった場合でも法的責任を追及できません。第三者監査がなければ、支払われた資金が本当に道路や建物へ変わったのかも確認できません。

どれほど多くの資金を投入しても、それを守る仕組みがなければ、資金は途中で失われていきます。

これが「漏れバケツ」の状態です。

新興国投資は、今後大量の水、つまり資金や経済成長が流れ込む国へ投資する行為だといえます。

しかし、バケツの底に大きな穴が開いていれば、どれほど水を注いでも十分にはたまりません。人口やGDPの成長率だけでなく、その成長を受け止める制度が機能しているかを見る必要があります。

会計検査で判明したムンバイ行政の3つの穴

インドの会計検査機関であるCAGは、2019年11月から2022年10月までのBMCの公共事業について、約2000億円分を監査しました。

その結果、公共工事を適切に発注するための基本的な仕組みが機能していない事例が見つかりました。

入札を行わずに発注していた

BMCは20件、約36億円分の工事について、入札を行わずに発注していたとされています。

IT部門でも、約27億円分の発注を特定の業者へ繰り返し出していました。

入札がなければ、複数の業者の価格や提案内容を比較できません。結果として、工事費が適正なのか、最も能力のある業者が選ばれたのかを確認できなくなります。

正式な契約書が存在しなかった

監査対象となった64件、約810億円分の工事では、BMCと業者の間に正式な契約書が存在しなかったとされています。

契約書がなければ、工事が完成しなかった場合や、重大な手抜きが発覚した場合でも、自治体が業者の責任を法的に追及することが難しくなります。

巨額の資金を支払っていながら、相手に工事の履行を求めるための基本的な書類がなかったことになります。

第三者による監査が行われていなかった

13件、約570億円分の工事では、品質や工事数量を確認する第三者監査人が任命されていませんでした。

独立した立場の専門家が確認していなければ、書類に記載された材料が本当に使用されたのか、予定された工事が実施されたのかを判断できません。

動画では、道路を強化するための材料費として約4000万円が支払われたにもかかわらず、実際に材料が使用された形跡がなかった事例も紹介されています。

別の土地取得では、本来の評価額より716%高い価格で土地を購入したケースがあったとされています。

こうした事例は、ムンバイのインフラ問題が単なる資金不足ではなく、資金を適切に工事へ変える仕組みの不足から生じていることを示しています。

ムンバイの問題は汚職だけでは解決できない

問題のある担当者を逮捕したり、責任者を交代させたりすれば、行政は正常化するように思えるかもしれません。

しかし、動画が強調しているのは、個人ではなく組織構造の問題です。

同じ問題を生み出す仕組みが残っていれば、担当者を交代させても不正や非効率は繰り返されます。

ムンバイでは、都市計画に関係する公的機関が16存在するとされています。土地利用、道路、住宅、鉄道、空港などを、それぞれ異なる機関が担当しています。

その結果、問題が起きても全体に責任を持つ組織がありません。

地下鉄工事のがれきが排水設備をふさいだ場合、BMCは開発当局の責任だと主張し、開発当局は排水設備が小さすぎることが原因だと反論します。鉄道会社は、自社の線路とは関係がないと説明します。

それぞれの主張には一部正しい点があるものの、都市全体の問題を解決する責任者がいないのです。

権限と責任が一致しない行政構造

ロンドンやニューヨークなどの大都市では、市長が予算や人事に大きな権限を持っています。

行政運営に失敗すれば、選挙によって市民から責任を問われます。権限と責任が同じ人物に集中しているため、誰が都市運営を担っているのかが明確です。

一方、ムンバイでは行政上の実権が州政府から派遣されるコミッショナーに集中しており、市長は儀礼的な存在に近いと説明されています。

さらに、コミッショナーの平均在任期間は10カ月から16カ月程度と短く、長期的なインフラ整備を進めにくい構造となっています。

排水設備の全面改修には長い年月が必要です。しかし、1年程度で異動する官僚にとっては、完成まで何年もかかる地味な工事よりも、短期間で成果を示せる新規プロジェクトの方が評価につながりやすくなります。

このような人事制度も、必要なインフラ工事が進まない一因になっています。

約4年間にわたり市議会が不在だった

ムンバイでは、市議会議員227人の任期が2022年3月に終了した後、選挙区をめぐる訴訟などの影響で、長期間にわたり選挙が実施されませんでした。

動画によると、2026年1月までの約4年間、BMCは選挙で選ばれていない官僚を中心に運営されていました。

市長や市議会による市民のチェック機能が弱まり、行政へ不満を伝える政治的な窓口も十分に機能しない状態だったことになります。

約1.4兆円の準備金は、単純な豊かさの象徴ではありません。

予算を使うための意思決定が進まず、責任者が明確でなく、議会による監視も働かなかった結果として、資金が動かずに残っていた可能性があります。

ムンバイの問題は「お金がないこと」ではなく、「お金を動かす組織が壊れていること」なのです。

シンガポールが示した行政改革の成功例

ムンバイのような都市問題を改善した例として、動画ではシンガポールが紹介されています。

1970年代のシンガポールも、雨が降るたびに浸水する熱帯都市でした。当時、洪水リスクのある地域は約3200ヘクタールに達していたとされています。

シンガポールは2001年、排水、下水、水道など、別々に管理されていた水関連部門をPUBという1つの国家機関へ統合しました。

雨水が排水路を通り、貯水池へ流れ、生活用水として供給され、下水処理されるまでの全工程を1つの組織が管理する仕組みに変えたのです。

責任の押し付け合いを防ぎ、水に関する問題を一貫して管理できる体制を作りました。

その結果、約3200ヘクタールあった洪水リスク地域は30ヘクタール以下まで縮小し、約98%削減されたと説明されています。

重要なのは、特別な人物が登場して問題を解決したのではなく、組織の構造を変えたことです。

ムンバイでも、責任と権限を整理し、複数の組織を統合できれば、眠っている資金が道路、排水設備、住宅などの実際のインフラへ変わる可能性があります。

インド株に存在するガバナンス・ディスカウント

短期的な株価は、海外投資家の資金移動、為替、金利など、さまざまな要因によって変動します。

動画では、2025年に日本のインド株ファンドが下落した背景として、インド企業の業績だけでなく、ルピー安と円高の影響が大きかったと説明しています。

一方、10年、20年という長期的なリターンでは、経済成長によって生まれた利益がどれだけ株主へ届くかが重要になります。

GDPが毎年6%伸びても、成長の果実が不透明な契約や非効率な行政に吸収されれば、株価には十分反映されません。

このように、ガバナンスの質が低い国や企業が、本来の利益より低く評価されることを「ガバナンス・ディスカウント」と呼びます。

世界の機関投資家は、行政や企業統治に問題がある国に対し、将来の不確実性を考慮した低い価格しか支払おうとしません。

現在のインド株には、こうした値引きが含まれている可能性があります。

しかし、値引きされていることは、悪い面だけではありません。

制度改革によってガバナンス・ディスカウントが縮小すれば、企業の利益が大きく変わらなくても、株価に対する評価が切り上がる可能性があります。

すでに制度が完成している国には、制度改善による大幅な評価上昇の余地はあまり残っていません。

現在問題を抱えている国だからこそ、制度を改善することによる伸びしろが残されているとも考えられます。

インドは今すぐ急成長するわけではない

動画では、インドの長期的な可能性を評価しながらも、「今すぐインド株が大きく上昇するとは考えていない」と慎重な見方も示しています。

行政機関の統合やガバナンス改革には時間がかかります。市議会が復活しただけで、入札、契約、監査、行政権限の問題が直ちに解決するわけではありません。

そのため、インドだけに資金を集中させるのはリスクが高いとしています。

投資する場合は、新興国株ETFなどを利用して複数の国へ分散し、インドをポートフォリオの一部として保有する方法が現実的です。

インド経済の比重が世界の株式市場で高まれば、新興国株指数におけるインドの構成比率も自然に上昇します。

インド1国へ集中するのではなく、成長の可能性を残しながらリスクを薄める考え方です。

インドの成長で恩恵を受ける日本企業

インドの行政改革やインフラ投資が進んだ場合、恩恵を受けるのはインド企業だけではありません。

日本企業にも投資機会が生まれる可能性があります。

代表的な事例が、ムンバイと商業都市アーメダバードを結ぶ高速鉄道です。このプロジェクトでは日本の新幹線方式が採用され、円借款を利用して建設が進められています。

インドの都市インフラ需要と、日本のインフラ輸出はすでにつながっています。

インドで道路、鉄道、住宅などの工事が本格化すれば、建設機械、資材、物流などの需要が増加します。

また、シンガポール型の水管理を目指す場合には、水処理、下水処理、排水設備など、日本企業が長年技術を蓄積してきた分野にも商機が広がります。

インドの成長へ投資する方法は、インド株ファンドを購入することだけではありません。

インドのインフラ需要によって利益を得る日本企業や、多国籍企業を通じて間接的に投資する方法も考えられます。

インドの人材とスタートアップ市場にも注目

動画では、インド人の人材力についても触れています。

優秀なインド人が米国などへ移り、MicrosoftやGoogleをはじめとする世界的企業で技術や経営を学び、その後インドへ戻って起業する流れがあります。

インドでは比較的低い人件費を活用して事業を成長させ、数年後に大手企業へ売却するスタートアップも存在します。

上場株だけでなく、未上場企業やスタートアップ市場にも、インド特有の成長機会があるという見方です。

ただし、未上場企業への投資は情報が少なく、換金性も低いため、一般の個人投資家にとってはリスクの高い分野です。

インドの人材が世界のハイテク企業で活躍していることを考えれば、インド人経営者が率いる米国企業などを通じて成長の恩恵を受ける方法もあります。

インド投資で確認すべき3つのポイント

動画では、今後の投資判断に役立つポイントとして、3つの考え方を示しています。

投資期間と評価期間を一致させる

10年、20年の成長を期待して購入した資産を、1年や2年の成績だけで判断してはいけません。

反対に、短期間で利益を得たい投資家が、20年後の成長を理由に含み損を抱え続けることも適切とはいえません。

まず自分が何年間の投資をしているのかを決め、その時間軸に合った指標やニュースで評価する必要があります。

保有資金よりも資金を動かす仕組みを見る

約1.4兆円の準備金と、穴だらけの道路は同時に存在します。

国や自治体だけでなく、企業についても同じことがいえます。

現金を多く保有しているだけでは、株主価値が高まるとは限りません。その資金を設備投資、研究開発、株主還元などへ適切に振り向け、利益へ変える仕組みが必要です。

企業分析では現金の量だけでなく、経営陣がどのように資金を配分し、成果へ結び付けているかを確認することが重要です。

スキャンダルではなく制度の変化を見る

担当者の逮捕や辞任は大きく報道されますが、それだけでは同じ問題が再発する可能性があります。

投資判断で注目すべきなのは、入札制度が導入されたのか、第三者監査が強化されたのか、権限が統合されたのか、選挙や議会の監視機能が回復したのかという制度面の変化です。

シンガポールの洪水問題を改善したのも、英雄的な政治家の登場ではなく、水関連部門を統合した行政改革でした。

地味な制度変更こそ、長期投資における重要なシグナルになる可能性があります。

まとめ

インドは、世界最大の人口、高い経済成長率、製造業の移転、優秀なIT人材など、多くの成長要因を持っています。

一方で、ムンバイ市の事例からは、豊富な資金があっても、行政のガバナンスが機能しなければインフラ整備や経済成長へ結び付かない現実が見えてきます。

インド経済の将来を判断する際には、人口やGDP成長率だけを見るのでは不十分です。

入札、契約、監査が機能しているか、行政機関の権限と責任が明確になっているか、政治的な監視機能が働いているかを確認する必要があります。

直近のインド株が低迷していることは事実です。しかし、それがインド経済の成長力そのものが失われたことを意味するのか、成長を受け止める制度がまだ整っていないことを意味するのかでは、投資判断が大きく変わります。

インドが将来、世界一の経済大国になるかどうかは断定できません。少なくとも、現在の課題を解決し、成長によって生まれた資金を効率的にインフラや企業利益へ変えられるかが重要な条件となります。

インド株へ投資する場合は、短期的な値動きだけで判断せず、自分の投資期間を明確にしたうえで、ポートフォリオの一部として分散して保有する方法が現実的です。

国、自治体、企業を分析するときは、流れ込む資金の量だけでなく、その資金を受け止める「バケツの底」が壊れていないかを確認することが、長期投資における重要な視点になります。

なお、本記事は特定の金融商品や銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断は、自身の資産状況やリスク許容度を踏まえて行う必要があります。

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