本記事は、YouTube動画『三菱重工の株価はなぜ下がる? それでも買いなのか徹底分析』の内容を基に構成しています。
三菱重工業は、防衛関連株の代表的な銘柄として大きく注目されてきました。しかし、足元では株価が下落し、同じ防衛関連銘柄であるIHIや川崎重工業も調整局面に入っています。
防衛費の増額を背景に上昇してきた防衛株のブームは、すでに終わってしまったのでしょうか。それとも、株価が下がった現在は長期投資の買い場と考えられるのでしょうか。
動画では、三菱重工の株価下落の背景を、防衛事業だけでなく、ガスタービン、データセンター、原子力、受注残といった複数の視点から分析しています。
三菱重工の株価が下落している理由
三菱重工の株価は、一時期大きく上昇していました。しかし、動画内で示された時点では、2月から3月ごろに5000円を超えていた株価が、7月24日には3958円まで下落しています。
高値からの下落率は、およそ2割です。
同様に、防衛関連銘柄として注目されてきたIHIや川崎重工業も、年初から大きく上昇した後、ピークをつけて下落しています。
この値動きからは、三菱重工だけに固有の問題が起きたというよりも、防衛関連株全体で利益確定や期待の剥落が進んでいると考えられます。
動画では、株価下落の理由として、次の2つが指摘されています。
1つは、防衛関連株に対する期待が株価に織り込まれすぎていたことです。
もう1つは、防衛事業の成長ペースそのものが、今後いったん落ち着く可能性があることです。
業績が突然悪化したわけではありません。しかし、株価が短期間で上昇しすぎたことに加え、防衛予算の伸びが永遠に続くわけではないという現実が、株価に意識され始めたと考えられます。
防衛費43兆円が防衛株上昇のきっかけになった
三菱重工、IHI、川崎重工業の株価が大きく上昇した背景には、日本政府による防衛費の増額があります。
日本政府は、2023年度から2027年度までの5年間で、約43兆円を防衛力強化に投じる方針を掲げました。
従来、日本の防衛費はGDPの1%程度に抑えられ、年間5兆円前後で推移していました。しかし、2023年度以降は急激に増加し、年間9兆円に近い規模まで拡大しています。
わずか数年で、防衛予算が約2倍に増えたことになります。
この政策が、ミサイルや戦闘機などを手掛ける三菱重工をはじめとした防衛関連企業の業績拡大期待につながり、株価上昇の大きな材料となりました。
ロシアによるウクライナ侵攻が転機に
日本が防衛力強化を進めた背景の1つには、ロシアによるウクライナ侵攻があります。
日本もロシアに近い位置にあり、安全保障環境の悪化に対する危機感が高まりました。
また、アメリカから日本に対して、防衛負担を増やすよう求める声が以前からあったことも影響しています。
日本国内でも防衛力強化を求める政治的な動きがあり、海外情勢、アメリカからの要請、国内政治の方向性が結びついた結果、防衛費の大幅な増額が実現しました。
防衛予算は今後も増え続けるとは限らない
防衛予算のグラフだけを見ると、今後も右肩上がりで増え続けるように見えるかもしれません。
しかし、動画では、2023年度から2027年度までの5年間は「集中的な整備期間」である点が重要だと説明されています。
この期間には、これまで不足していた部品や装備品を集中的に取得し、自衛隊の装備や稼働率を改善する目的があります。
ミサイルや航空機、大型設備などを一気に調達するため、当初は関連企業の受注が急増します。
一方で、必要な装備をある程度そろえた後は、それらを維持・運用する段階に入ります。
新しい装備品を毎年大量に購入し続けるのではなく、保守、修繕、人件費、運用費などに予算が振り向けられる可能性が高くなります。
そのため、防衛予算自体が減らなかったとしても、三菱重工などが受注する大型装備品の伸びは、いったん落ち着く可能性があります。
防衛事業の受注高は減少傾向
動画では、三菱重工の防衛・宇宙事業における受注高が、右肩下がりになっている点も指摘されています。
受注高とは、その年度に新たに契約を獲得した金額です。
売上高が過去の受注を納入した結果であるのに対し、受注高は将来の売上につながる先行指標として見られます。
受注高が減少しているということは、直ちに売上が落ちるという意味ではありません。しかし、将来の成長ペースが鈍化する可能性を示す材料になります。
防衛費増額による最初の大型発注が一巡しつつあることが、防衛関連株全体の株価調整につながっていると考えられます。
設備投資型の事業には業績の波がある
三菱重工が扱う防衛装備や発電設備は、消耗品ではなく、大型の設備投資に近い商品です。
設備投資型の商品は、1度購入すると、すぐに同じものを買い直す必要がありません。
自動車や住宅と同じように、購入後は長期間使用されます。
そのため、設備投資型の企業には、受注が急増する時期と、いったん落ち着く時期があります。
常に商品を買い替える消耗品型のビジネスとは、業績の動き方が異なります。
三菱重工の防衛事業がいずれピークを迎えることは、ある程度必然だったとも考えられます。
ただし、防衛需要が消滅するわけではありません。地政学的な緊張や政府の政策によって、再び大型発注が増える可能性はあります。
重要なのは、防衛事業が常に同じペースで成長し続けるとは限らないことを理解したうえで投資することです。
三菱重工は防衛だけの会社ではない
三菱重工は、防衛関連銘柄として取り上げられることが多い企業です。
しかし、実際には、防衛以外にも世界的な競争力を持つ事業を展開しています。
特に注目されているのが、発電所向けのガスタービン事業です。
ガスタービンは、天然ガスなどを燃焼させ、その力でタービンを回転させて電気を作る大型設備です。
三菱重工は、高効率な大型ガスタービンを製造できる数少ない企業の1社です。
動画では、大型ガスタービンを製造できる主な企業として、三菱重工、GE、シーメンスの3社が挙げられています。
参入できる企業が限られているため、競争力の高い事業といえます。
AIとデータセンターがガスタービン需要を押し上げる
ガスタービン需要が伸びている大きな理由は、世界各地でデータセンターの建設が進んでいることです。
生成AIやクラウドサービスを動かすためには、大量のサーバーが必要になります。
サーバーを動かすデータセンターは、24時間365日稼働するため、安定した電力供給が欠かせません。
太陽光発電や風力発電は、環境負荷が小さい一方で、天候によって発電量が変動します。
データセンターには、時間帯や天候に左右されにくい安定電源が必要です。
そのため、短期間で発電能力を増やせるガス火力発電やガスタービンに対する需要が高まっています。
三菱重工は、このデータセンター向け電力需要の拡大から恩恵を受ける可能性があります。
つまり、三菱重工は防衛銘柄であると同時に、AIやデータセンター関連銘柄としての側面も持っています。
エナジー事業の利益は防衛事業を上回る
三菱重工というと、防衛事業の印象が強いかもしれません。
しかし、動画では、前期の事業利益について、防衛事業が1515億円であったのに対し、ガスタービンを含むエナジー事業は2600億円だったと説明されています。
利益額だけを見ると、エナジー事業のほうが防衛事業よりも大きいことになります。
そのため、三菱重工を分析する際には、防衛費だけを見て判断するのは不十分です。
ガスタービンの受注状況、データセンターの建設動向、世界の電力需要なども確認する必要があります。
防衛事業の成長が一服しても、エナジー事業が成長を続ければ、会社全体の業績を支えることができます。
ガスタービンには脱炭素という課題もある
ガスタービン事業には追い風がある一方で、長期的な課題もあります。
ガスタービンは天然ガスを燃焼させるため、二酸化炭素を排出します。
世界的に脱炭素化が求められているなかで、ガス火力発電をいつまで増やし続けられるのかという問題があります。
データセンターには大量の電力が必要ですが、環境負荷の高い電源を増やし続けることには限界があります。
そのため、ガスタービンは、再生可能エネルギーや原子力発電が十分に整備されるまでの移行期の電源として利用される可能性があります。
短期から中期では需要拡大が期待できても、長期的には脱炭素政策の影響を受ける可能性があります。
原子力事業も三菱重工の成長材料
安定した電力を供給しながら、二酸化炭素の排出量を抑える電源として注目されているのが原子力発電です。
太陽光や風力は発電量が変動しますが、原子力発電は天候に左右されにくく、安定的に発電できます。
三菱重工は、原子力発電関連の技術も保有しています。
世界的には、大型原子力発電所だけでなく、小型モジュール炉などの新しい原子力技術に対する関心も高まっています。
原子力設備は、非常に高度な技術と長い開発期間が必要です。
新規参入が難しいため、技術を持つ企業の競争力は高くなります。
三菱重工は、ガスタービンと原子力の両方を手掛けていることから、世界的な電力需要増加の恩恵を受ける可能性があります。
原子力事業は政策に左右される
原子力事業の大きなリスクは、政府の政策や世論に左右されることです。
原子力発電への支持が高まれば、関連設備の受注増加が期待できます。
一方で、原子力発電に対する反対が強まり、建設や再稼働が進まなければ、事業機会は減少します。
日本だけでなく、海外でも原子力政策は政権や世論によって変化します。
したがって、三菱重工の原子力事業を評価する際には、技術力だけでなく、各国のエネルギー政策も確認する必要があります。
AIブームの失速もリスクになる
ガスタービン需要は、データセンター建設の拡大に支えられています。
そのため、AI投資やデータセンター建設の勢いが鈍化した場合、三菱重工の受注にも影響が出る可能性があります。
現在は世界中の企業がAI開発やデータセンターに巨額の投資を行っています。
しかし、AIサービスが期待どおりの利益を生まなかった場合、投資計画が見直される可能性もあります。
AIブームが長期的に続けば、三菱重工には追い風です。
一方で、データセンター投資が過熱している場合には、どこかで建設需要が落ち着く可能性も考えておく必要があります。
13.2兆円の受注残は強みでありリスクでもある
三菱重工の大きな特徴として、受注残の多さがあります。
動画によると、前期の売上収益は約4.9兆円でした。
一方、受注高は約7.6兆円で、売上収益を約2.7兆円上回っています。
さらに、過去から積み上がっている受注残は約13.2兆円に達しています。
受注残とは、すでに契約を獲得しているものの、まだ納入や売上計上が完了していない案件の合計です。
受注残が多いということは、将来の売上がある程度確保されていることを意味します。
契約が解除されない限り、受注残は将来的に売上に変わるため、業績の見通しを立てやすくなります。
その意味では、13.2兆円の受注残は大きな強みです。
長期プロジェクトではコストが変動する
受注残が多いことは、必ずしもメリットだけではありません。
三菱重工が手掛ける製品は、大型で製造期間の長いものが多くあります。
受注から完成までに数年かかる場合、その間に原材料価格、人件費、エネルギー価格、為替レートなどが変動します。
契約時に売上金額が決まっていても、製造コストが上昇すれば、最終的な利益は減少します。
特にインフレが進む環境では、材料費や人件費の上昇が利益率を圧迫する可能性があります。
受注が多くても、計画どおりに生産できなかったり、コスト管理に失敗したりすれば、期待したほど利益が残らないことがあります。
今後の三菱重工を評価するうえでは、受注残の金額だけでなく、それをどの程度の利益率で売上に変えられるかが重要です。
MRJの失敗が示す大型プロジェクトのリスク
三菱重工は過去に、国産ジェット旅客機の開発計画であるMRJ、後の三菱スペースジェットで大きな損失を出しました。
同事業では、開発の遅延や認証取得の難航が続き、最終的に事業から撤退しました。
大型プロジェクトは、途中で問題が発生しても、簡単に中止できません。
すでに多額の資金や人材を投入しているため、損失が拡大しても開発を続けざるを得ない状況に陥ることがあります。
三菱重工は、ミサイル、航空機、発電設備、原子力関連設備など、長期間にわたる大型案件を多く抱えています。
そのため、納期の遅延、コスト超過、技術的な問題といったリスクは、今後も避けられません。
受注残が多いから安心と考えるのではなく、受注案件を問題なく完了できるかを確認する必要があります。
第1四半期決算では事業利益が65%増加
動画では、8月4日に発表された第1四半期決算についても触れています。
決算では、事業利益が前年同期比で65%増加し、非常に好調な内容だったと説明されています。
防衛事業については、前年同期比では減少しているものの、通期の受注見通しが上方修正されました。
今後の受注獲得が期待されることから、防衛事業の減速懸念がやや後退する可能性があります。
また、好調だったエナジー事業でも受注見通しが上方修正されており、ガスタービン関連の需要が引き続き強いことが示されています。
プラント・インフラ事業やインダストリアルソリューション事業も好調とされ、決算発表後には株価が上昇しました。
これまで株価は下落基調にありましたが、業績が引き続き好調であることが確認されたことで、反転の兆しが出る可能性もあります。
PER34倍は割安なのか
動画では、三菱重工のPERが、一時は50倍程度まで上昇していたものの、株価下落によって34倍程度まで下がったと説明されています。
PER:株価収益率。株価が企業の1株当たり利益の何倍まで買われているかを示す指標です。
一般的には、PERが高いほど、将来の成長期待が株価に織り込まれていると考えられます。
PER34倍は、単純に見れば依然として低い水準ではありません。
しかし、三菱重工はすでに多額の受注残を抱えているため、今後売上が増加する可能性は高いと考えられます。
受注残を適切な利益率で消化できれば、将来の利益が増え、結果的に現在のPERが低下する可能性があります。
一方で、コスト増加や納期遅延によって利益率が悪化すれば、PERの高さが意識される可能性もあります。
重要なのは、受注残が売上に変わるかどうかだけではなく、利益を伴って売上に変わるかどうかです。
ROE改善と経営改革への期待
三菱重工は、MRJの失敗などを受けて、経営方針を変化させてきたとされています。
利益の出る事業に集中し、リスクの高い事業を抑え、利益率、ROE、キャッシュフローを重視する経営を進めています。
ROE:自己資本利益率。株主が出資した資本を使って、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。
足元ではROEも改善しており、過去と比べて収益性が高まっています。
三菱重工には、他社が簡単に参入できない技術や事業が数多くあります。
大型ガスタービン、原子力設備、防衛装備などは、高度な技術、長期間の実績、政府や企業との信頼関係が必要です。
この強みを利益につなげられれば、長期的な企業価値の向上が期待できます。
ただし、業績改善が経営改革だけによるものか、それとも防衛費増額やAI投資など外部環境の追い風によるものかは、慎重に見極める必要があります。
株価が上がった後でも投資できるのか
三菱重工の株価は、以前と比べて大きく上昇しています。
そのため、現在から投資するのは遅いのではないかと感じる投資家もいるでしょう。
しかし、動画では、過去の株価水準だけを基準に判断するべきではないと説明されています。
企業の事業内容や収益力が改善している場合、企業価値そのものが過去よりも高くなっている可能性があります。
昔の株価と比べて高いからといって、現在の株価が必ずしも割高とは限りません。
重要なのは、現在の企業価値と今後の成長性に対して、株価が高いのか安いのかを判断することです。
成長企業の株価は、長期的には上昇していく傾向があります。
過去の安値に戻ることだけを待っていると、投資機会を逃すこともあります。
三菱重工は今も買いなのか
動画の内容を整理すると、三菱重工には強い成長材料がある一方で、株価や業績に影響する複数のリスクもあります。
防衛事業については、2023年度から始まった集中投資による大型発注が一巡し、受注の伸びが落ち着く可能性があります。
そのため、防衛関連株としてだけ見れば、以前ほど急激な成長を期待するのは難しいかもしれません。
一方で、ガスタービン、データセンター、原子力といったエナジー事業には、長期的な成長余地があります。
さらに、約13.2兆円の受注残があるため、将来の売上は比較的見通しやすい状況です。
ただし、受注を予定どおり消化できるか、インフレによるコスト上昇を吸収できるか、大型プロジェクトで損失を出さないかが重要になります。
株価が下落したから自動的に買い場になるわけではありません。
今後の決算では、売上高だけでなく、利益率、受注高、受注残、キャッシュフロー、各事業の採算性を確認する必要があります。
まとめ
三菱重工の株価が下落している背景には、防衛関連株への期待が先行しすぎたことと、防衛事業の受注拡大がいったん落ち着く可能性があります。
日本の防衛費は大幅に増えましたが、2023年度から2027年度までの期間は集中的な装備取得の段階です。
必要な装備がそろえば、今後は維持費や運用費に予算が移り、大型設備の受注増加ペースが鈍化する可能性があります。
一方で、三菱重工は防衛だけの企業ではありません。
AIやデータセンターの拡大に伴うガスタービン需要、世界的な電力不足、原子力発電への再評価など、エナジー事業には複数の成長材料があります。
また、約13.2兆円の受注残は、将来の売上を支える大きな強みです。
ただし、インフレ、原材料費上昇、納期遅延、大型プロジェクトの失敗などにより、利益が圧迫される可能性もあります。
今後の投資判断では、防衛銘柄としてだけではなく、エナジー銘柄、データセンター関連銘柄、原子力関連銘柄という複数の側面から三菱重工を分析することが重要です。
株価が下落した現在は、以前よりも投資しやすい水準に近づいている可能性があります。
ただし、PERや将来利益、受注残の採算性を確認しながら、株価が企業の成長力に対して十分に割安かどうかを慎重に判断する必要があります。


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